くすりの話
乳酸菌と感染症予防
執筆/藤竿 伊知郎(外苑企画商事・薬剤師)
監修/金田 早苗(全日本民医連薬剤委員会・薬剤師)
読者のみなさんから寄せられた薬の質問に薬剤師がお答えします。
今回は乳酸菌についてです。
3シーズンぶりのインフルエンザ流行予想など、感染症への警戒感が高まるなか、注目を集めている商品が「乳酸菌」です。大手飲料メーカーが競って機能性表示食品を販売し、「腸内環境を整えて免疫機能を維持する」と宣伝しています。ここ2年は前年比5割の売上増となっています。
これらの宣伝の根拠になっているのは、乳酸菌がインフルエンザや風邪症状の改善に役立つとした実証研究です。消費者庁長官へ提出された機能性表示食品の届出資料で、その内容を見てみましょう。根拠とした6つの論文は、乳酸菌を摂取した人と、しない人(対照群)を比較して、免疫機能の維持効果を調べたものです。
届出資料によると、6つの論文のうち4つで、全身の自覚症状(倦怠感、寒気、熱っぽさ、疲労など)が「対照群と比較してより軽度に維持されていた」と主張します。また、特定の部位の自覚症状(せきや鼻づまり、頭痛や関節痛)について調べた5つの論文すべてで、同様の結果を得たと述べます。
上記を総合的に判断して、乳酸菌の免疫機能の維持効果について「示唆的な根拠があると判断した」と結論。調査対象の論文が十分に多いとは言えず、「更なる臨床研究が望まれる」と付け加えます。消費者庁長官への届出資料は、かなり抑えた表現になっていることが分かります。
宣伝はイメージ先行
その一方で、機能性表示食品として売り出す際の手法は巧妙です。特定の菌株が免疫細胞を活性化させるという情報を、製品説明とは別のサイトで紹介するなど、法律違反にならないように工夫しています。これをネット記事が引用して、乳酸菌でウイルス感染を防げるかのようなイメージが作られます。
しかし、感染予防にあたって免疫細胞が果たす役割とその仕組みはもっと複雑です。体内に侵入した病原体を食べる免疫細胞「マクロファージ」の働きは、私たちが生まれ持った自然免疫。それに対し、後天的に「免疫グロブリン」(抗体)を作ることで得られる獲得免疫があります。一部の細胞の活性化だけを見て防御能力全体を評価することは、適切ではないのです。
また、医薬品に最適な投与量があるように、免疫力を高めると言われる物質をたくさん摂取すれば感染を防げるものではありません。免疫能力をコントロールするのは難しく、間違って免疫反応が暴走するアレルギーを起こすなど、免疫力は「強さ」だけでは評価できません。
乳酸菌製品のパッケージにも「食生活は、主食、主菜、副菜を基本に、食事のバランスを」などと書かれています。適切な食事と、疲れをためない生活に勝る健康法はないですね。
いつでも元気 2023.1 No.374