副作用モニター情報〈586〉 アセナピンによる薬剤性ジスキネジア
抗精神病剤アセナピンマレイン酸塩(シクレスト舌下錠®:以下ASE)による薬剤性ジスキネジアが報告されたので、紹介します。ASEは2016年に販売が開始され、既存の非定型抗精神病薬とは異なる特有の受容体結合プロファイルを持っています。添付文書では、セロトニン、ドパミン、アドレナリンの各受容体の幅ひろいサブタイプ、ヒスタミン受容体に拮抗作用があるとしています。
症例)30代男性
不眠がありシクレスト舌下錠®開始。
服用1日目:1錠(5mg)服用し、特に問題なし。
服用2日目:1錠服用、2時間後に1錠追加服用。その約10時間経過した頃に、頸部、舌の不随意運動が出現。
救急車で来院し、ソルラクト輸液投与。心電図は洞性徐脈。来院後、舌の動きは徐々に改善が見られてきた。
搬送時、医師から薬剤師にASEの拮抗薬について問い合わせがあり、特異的解毒剤はないと回答していたが、医師は薬剤性ジスキネジアと考え、アキネトン注射液を1アンプル筋注。速やかに改善し、帰宅した。
* * *
ASEの副作用は、口の感覚鈍麻、アカシジア、傾眠が10%以上であるとされています。アカシジアは、静座不能(座ったままでいられない、じっとしていられない、下肢のむずむず感)と言われる副作用で、錐体外路障害の1つです。
ジスキネジアは、自分の意思とは関係なく、体の一部が勝手に不規則で異様な動きをする現象(不随意運動の一種)で、踊るような動作、くり返し口をすぼめる、舌を左右に動かす、口をもぐもぐさせる、口や舌を突き出す、歯を食いしばる、などが代表的な症状です。アカシジアと同様に錐体外路への影響で発生する副作用で、ドパミン過剰によって起こるとされていますが、この症例のように、急激なドパミン遮断で代償的にドパミン過剰となり起きるとも考えられます。洞性徐脈もASEによる副作用だったと考えられます。
(全日本民医連医薬品評価作業委員会)
(民医連新聞 第1773号 2022年12月5日・19日合併号)
- 記事関連ワード
- 副作用副作用モニター情報(薬・医薬品の情報)症状