いつでも元気

2022年11月30日

全日本民医連が旧優生保護法で見解

聞き手・武田 力(編集部)

加賀美副会長

加賀美副会長

 2018年、知的障害を理由に過去に不妊手術を強制された女性(60代)が国に賠償を求める訴訟を提起。不妊手術の根拠とされたのは、旧優生保護法(1948~96年)という法律でした。
 「なぜこの問題に組織として気づけなかったのか」―。訴訟をきっかけに全日本民医連は検討プロジェクトを設置。今年2月に「旧優生保護法下における強制不妊手術問題に対する見解」を発表しました。プロジェクト委員を務めた加賀美理帆副会長(茨城・城南病院、医師)に聞きました。

 旧優生保護法は1948年、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」(第1条)ことを目的に制定されました。96年に母体保護法に改正されるまで、法律に基づき約2万5000人に対して不妊手術が行われたことが分かっています。
 知的障害を理由に不妊手術を強制された女性(60代)が2018年、国に賠償を求めて提訴。メディアも大きく取り上げ、約半世紀にわたる過酷な人権侵害の実態が広く知られるようになりました。
 民医連は18年10月に検討プロジェクトを設置。人権擁護を掲げてきた組織としてこの問題を深刻に受け止め、過ちを繰り返さないために未来への教訓を引き出そうと議論してきました。今回の見解では、「社会問題として取り組めなかったことに対して重い責任を自覚するとともに、被害当事者、関係者の皆さんに深く謝罪する」と冒頭に表明しました。

障害者の存在を否定

 旧優生保護法の最大の問題は障害者の存在を否定し、差別を助長したことです。法律制定の背景には終戦直後の人口増加や食糧難・住宅難、国民資質の向上を志向する流れがありました。精神障害や身体障害などを不妊手術適用の対象とし、その後の改定で「遺伝性のもの以外」に対象を広げました。
 70年代から80年代にかけて、この法律を改定する動きが起こりました。胎児に病気や障害がある場合に人工妊娠中絶を認める「胎児条項」の新設と、経済的理由による中絶を認めた「経済条項」を削除する改定案です。障害者団体や女性団体などが強く反対して、これらの改定は阻止されました。
 民医連は74年と83年に改定案の撤回を政府に求めています。しかし「経済条項」への言及はあっても、「胎児条項」や既に行われていた不妊手術への言及はありませんでした。
 その後も旧法の母体保護法への改正(96年)やハンセン病違憲国賠訴訟の判決(2001年)など、半世紀に及ぶ人権侵害に気づく機会はありました。個人的に問題意識を持つ民医連職員はいたでしょうが、組織として受け止めることができませんでした。

当事者から学ぶ

 なぜ気づけなかったのか―。この点について見解では、私たちの人権意識・倫理観の不十分さを挙げ、当事者との結びつきの弱さを指摘しました。
 私は国際障害者年(81年)を印象深く覚えていますが、今から振り返ると障害観を大きく転換する考え方が打ち出された時代でした。障害の原因を心身の機能障害だけに求めるのではなく、障害を作り出す社会的障壁にも焦点を当てる捉え方です。さらに国際的な障害観は発展を続け、障害者権利条約(2014年)は「心身がそのままの状態で尊重される権利」を謳いました。
 このような国際的到達に、私たちの人権意識が追い付けなかったのではないか。見解ではその背景として、障害を「存在しないほうが良いもの」として予防・治療しようとする“医療者の視線”や、障害者を一方的な保護の対象として見る意識などを指摘しました。
 人権意識・倫理観は時代とともに変化します。私たちが抱いている人権意識はまだまだ未成熟なもので、謙虚に学び更新し続ける必要があります。とりわけ当事者から学ぶことが重要で、それは民医連の「共同のいとなみ」を貫く上でも不可欠です。今回の見解を出して終わりにするのではなく、常に立ち返ってみんなで議論しながら育てていく教訓にしたいと思います。

“いのちの平等”のために

 旧優生保護法の本質は「公益」の名のもとに、国家がいのちの価値を序列化し選別したことにあります。明白な憲法違反であり、国が責任を認めて謝罪・検証することが必要です。
 旧法は改正されましたが、「公益」(国益)で人権が抑圧されたり、いのちが選別されるような事態はなくなったと言えるでしょうか。“生産性”でいのちの価値を序列化する動きに、無関係でいられる人はいるでしょうか。
 私は平和があやしくなってきた今の情勢に危機感を持っています。“いのちの平等”を実現するために何が必要なのか、一緒に学びながら実践していきましょう。


旧優生保護法

 「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする」(第1条)と称して1948年に成立。遺伝性精神変質症や遺伝性身体疾患などを挙げて、障害者やハンセン病患者に対する不妊手術と人工妊娠中絶を合法化した(第3条)。また精神分裂病や躁鬱病などの病名を列記して、「公益上必要であると認めるとき」の強制不妊手術を規定(第4条)。翌年の改定で「経済的理由による中絶」(経済条項)を認めるとともに、医師による強制不妊手術の申請を義務化した。96年、「らい予防法」廃止に伴って「らい疾患」に関する条文を削除。同年、「優生条項」を削除して母体保護法に改正された。

 「旧優生保護法下における強制不妊手術問題に対する見解」は、全日本民医連のホームページで読むことができます(トップページにバナーがあります)。「見解」のパンフレットについては、お近くの民医連事業所へお問い合わせください。

いつでも元気 2022.12 No.373

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ