民医連新聞

2022年11月8日

人生を傾聴し絵に表現 空間にひろがる心のケア 群馬・利根中央病院で似顔絵セラピー

 今の顔を描くのではなく、患者の若かりしころ、現役で働いていた日々、家族との思い出、趣味に打ち込んでいた時などの話を傾聴し、デザインする似顔絵セラピー。群馬・利根中央病院では、心のケア、病気で落ち込んでいる人に喜びを提供したいと、似顔絵セラピーにとりくんでいます。10月20日に開催した第3回似顔絵セラピーを取材しました。(長野典右記者)

対話しながらデッサン

 「おしゃれな服ですね」「お生まれはどちらですか」とモデルの一人、入院中のAさんに話しかけるのは、イラストレーターで似顔絵セラピー代表の村岡ケンイチさん。97歳のAさんは「東京の浅草で育って、父親は新聞をつくっていたのよ」と。石倉恵さん(看護師)もAさんのそばで会話をサポートします。村岡さんはAさんの話を参考に色紙にデッサンをはじめ、似顔絵のデザインを決めていきます。
 村岡さんは、日米韓の三カ国で開催した似顔絵国際大会の白黒部門で5年連続優勝。テレビやメディアでその活動が紹介されています。「似顔絵は人の心を癒やし、楽しい空間が提供できる」と、2006年から150を超える医療機関で3000人以上の似顔絵を描いています。またホスピタルアートにも活動をひろげています。

絵の癒しはすごい

 似顔絵セラピーのきっかけを語るのは、同院医師の鈴木諭さん。「共通の知人を介して村岡さんの紹介があった」といいます。村岡さんの話を聞いた際、「あ、これ僕がやりたかったこと」と。日常の医療や生活のなかにアートが混じり合う状況をつくりたいと、似顔絵セラピーを提案。企画は病院の方針とし、看護部が中心に運営することになりました。
 今年3月に似顔絵セラピープロジェクトが立ち上がり、現在メンバーは14人。チームリーダーは、絵が好きな笛木佳津江さん(看護師)。「胃カメラ検査の直前に絵を描いてもらった患者さんが、できあがった絵に感動し、『胃カメラがんばってくるね』と表情が変わった」と。「絵の癒やしはすごい」と語ります。画材は病院が提供し、医療活動の一つとしてとりくんでいます。これからはプロジェクトのメンバーが似顔絵を描けるように、現在、絵描きの修行中。この日も絵のできあがりに村岡さんから、「プロ級の絵」「利根中のクリエイター」との評価を受けていました。

地域とのコラボ模索

 いよいよAさんに似顔絵のお披露目。村岡さんが手渡すと、「あら~っ、美しすぎる」とできあがった似顔絵に大喜び。父親がつくっていた新聞や、浅草駅、奥には凌雲閣が再現されていました。
 Aさんの笑顔で、プロジェクトのメンバーの表情も変わりました。人生をデザインした1枚の絵で、空間に癒やしの相乗効果がひろがっていく瞬間でした。
 鈴木さんは「種をまいたのは私かもしれませんが、プロジェクトのメンバーや、受け止めてくれる土壌が地域や病院にあった。院内の活動を地域にひろげるために、例えば地域の美術部の中高校生とのコラボレーションを検討など、医療とアートの融合をめざしていけたら」と、今後の抱負を語ります。

(民医連新聞 第1771号 2022年11月7日)

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