副作用モニター情報〈580〉 セマグルチドによる虚血性腸炎
リベルサス錠®は、GLP-1受容体作動薬セマグルチド(商品名:オゼンピック皮下注®)の経口薬として開発されました。GLP-1受容体作動薬はグルコース濃度依存的にインスリンを分泌させるほか、食欲を抑え、体重増加を抑制して、糖尿病治療に用いられます。分子量が大きいことから吸収されず、また胃で分解されてしまうため、経口投与に適さないのですが、吸収促進剤を添加することにより経口投与を可能としました。胃の内容物が吸収に影響をおよぼすため、空腹状態で服用し、服用後30分以上の絶食が必要です。
発売から1年が経過し、経口薬という利便性から多く処方されるようになり、当モニターにも悪心、胃部不快感、下痢、虚血性腸炎、逆流性食道炎が各1件ずつ報告されています。
胃腸障害は、 GLP-1受容体作動薬に共通して認められる有害事象であり、用量依存的に発現するため低用量の3mgから開始することとなっていますが、報告の5件のうち3件は開始用量の3mgで発症しています。今回、リベルサス錠服用による虚血性腸炎の副作用を疑った症例について紹介します。
症例)80代男性
1日目:リベルサス3mgで開始、インスリン併用。
9日目:夕食後、胃痛、嘔気(おうき)あり。
10日目:朝方下血あり。下腹部痛、嘔気もあり。補液開始。
11日目:腹部CT検査を実施し、下行結腸浮腫強く、虚血性腸炎の疑い。
リベルサス錠が原因である可能性を疑い、翌日から中止。
中止1日目:鮮血+黒色便あり。
中止4日目:黒色便継続。
中止8日目:血便なし。
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GLP-1受容体作動薬は、血管内皮細胞に直接作用するという実験結果が報告されていること、げっ歯類においては、GLP-1受容体作動薬は血管平滑筋の増殖を抑制する作用を有するので、ヒトにおいて虚血性腸炎が起きる可能性を否定できません。65歳以上の患者では有害事象の発現が高い傾向が認められており、報告の5例すべて70歳以上でした。また75歳以上での投与経験が限られていることから、高齢者への投与は慎重に行う必要があります。
(全日本民医連医薬品評価作業委員会)
(民医連新聞 第1767号 2022年9月5日)
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