民医連新聞

2014年1月20日

無低診は受療権を守る入り口 すべての事業所で挑戦しよう 全日本民医連 第2回無料低額診療事業交流集会

 全日本民医連は昨年一二月二一~二二日、第二回無料低額診療事業交流集会を東京で開き、四四県連から一八〇人が参加しました。無 低診を実施する民医連事業所は現在三三六施設です。集会は事業の課題を明確にするとともに、受療権を守る入口としての無低診の役割を確認し、社会保障制度 拡充のたたかいをすすめる機会とするのが目的です。(丸山聡子記者)

 冒頭、藤末衛会長は「無低診を実施する全国の事業所の六割を民医連が占めている。社会保障 が削られ国民の痛みが増大する中、無低診の専門家で満足せず、健康権、生存権侵害の実態を発信しよう」と呼びかけました。都留文科大学名誉教授の後藤道夫 さんが「医療保障からの低所得層の排除―四四条減免拡大による皆保険再建と無料低額診療」と題して記念講演しました(下項)。
 全日本民医連の岸本啓介事務局次長が基調報告。二〇一一年の第一回交流集会以降、無低診実施事業所は一・三倍に増え(資料1)、二〇一二年度はのべ二三万六三五三人が利用しました。一方、全事業所の六割近くが未実施。岸本次長は「全事業所で無低診に挑戦する方針に立ち返り、できない要因を明確にし、打開しよう」と強調しました。
 また、運用の中で制度の限界も明らかになり、改善運動が呼びかけられてきました。その結果、(1)保険薬局の窓口負担金への自治体助成は高知市に続き拡 大(旭川市、青森市)、(2)一〇%条項を申請の要件とせず受理する自治体の拡大(山口、佐賀など)、(3)他医療機関へ制度を知らせ民医連以外の事業所 での促進、他施設、自治体と連携したとりくみ(千葉、長崎など)がすすんでいます。
 受療権を守り権利としての社会保障の充実をめざすため、無低診の具体的課題として五つの行動(別表)を呼びかけました。

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5つの行動提起

●無料低額診療事業の広報を強め、自治体とも連携し、地域から手遅れを生まない運動を
●国保法44条、77条、生活保護法の拡充など、社会資源の活用を強め、受療権を守る運動と一体に
●保険薬局と訪問看護ステーションの一部負担金への助成事業を自治体に求めるとりくみと国への働きかけ
●地域で民医連以外の医療機関への実施を働きかけるとりくみ、公的医療機関での実施を求める運動
●あらためて、すべての事業所が無料低額診療事業の取得を

事例の蓄積と発信を

 四テーマで指定報告。山口民医連事務局長の菖蒲順一郎さんは、生活保護の患者が一〇%以下 でも無低診を始めた経験を報告しました。県内の一病院、一クリニックで二〇一〇年に開始。「全ての事業所で実施」と県連方針に掲げ、理事会で必ず議題にす るなど位置づけました。薬局も含めて自治体に要請し、二施設での実績を示して申請、四事業所が無低診を開始しました。
 国保法四四条の活用と改善を実現した事例を紹介したのは北九州市・大手町リハビリテーション病院SWの毛利愛さん。同市では四四条の適用要件に「保険料 完納か完納の確約」があり、保険料滞納を理由に却下される申請が半数にのぼり、適用は年にひと桁でした。
 同院SWが市議会で陳述し、国の基準では保険料滞納は問われないこと、四四条を利用し治療できた事例と、保険料滞納を理由に利用できなかった事例を報 告。対市交渉も重ね、今年度から保険料完納の要件を撤廃させました。
 昨年一〇月時点で申請は三八件(うち承認二二件)に増加。毛利さんは、「四四条の改善運動とあわせ、雇用、生活保護、介護制度などの改善も必要で、そのためにも無低診の事例の蓄積と発信が重要」とまとめました。

新患申込書を工夫

 無低患者の薬代を助成する制度を実現した青森と北海道からも報告が。北海道・一条通病院の米谷丈志さん(事務)は、共同組織の「たすけあい基金」の実績が市を動かした経験を紹介しました。
 同院は薬代が払えず薬を間引きしたり、治療を中断する患者の増加を機に二〇〇九年、友の会の会員であることを唯一の条件に助成を開始(薬局の指定なし、 全額助成)。財源は募金です。開始二年で年間利用がのべ三〇〇件を超え、助成額も約一五〇〇万円に。「助け合いには限界がある。行政に働きかけよう」と署 名五〇〇〇人分超を旭川市に提出。共産党の市議が議会で取り上げ、翌年度予算に計上されました。「助成期間延長や市立旭川病院での無低診実施など、引き続 き共同組織と共に市に要求していく」と米谷さん。
 無低診を軸に、いのちを守る地域づくりにとりくんでいるのは、長崎・大浦診療所です。報告した岡田孝裕さん(事務)は、無低診を開始した初年度の利用が 一二件のみだったことから、ハローワーク門前健康相談会や福祉保健部・国保課懇談、教育委員会・小中学校訪問など、地域に無低診を知らせる努力を重ねまし た。
 就学援助世帯全員を無低診適用とするよう行政に認めさせ、教育委員会が小中学校に周知。労働局主催のワンストップサービスに医療機関として初めて参加し ました。また、市内の実施医療機関合同会議も開催。無低診の対象となる患者にいち早く気づけるよう、新患申込書も工夫しました(資料2)。岡田さんは、「無低診を通じて行政との連携もすすんでいる。これは、民医連綱領の“権利としての社会保障の実現”の運動だ」と話しました。
 二日目の分散会では、運用面での悩みや困難についての経験を交流。「全職員で事例検討会を開き、無低診を全職員の課題にしている」「無低診を地域に知ら せることで地域の課題が見えてくる」など、議論を交わしました。

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制度の“谷間”に人口の1割

記念講演

医療保障からの低所得層の排除

後藤道夫名誉教授

 日本には、生活保護以外の諸制度に最低生活保障基準がありません。最低賃金は生活保護による単身最低生活費を下回り、賃金の三分の二が基準の傷病手当は生活保護基準よりはるかに低く、若くて働いている人でも病気やけがになれば無低診の対象になります。
 居住権保障の制度もなく、居住への社会支出は対GDP比で〇・一六%。諸外国の〇・四~〇・六%と比べて著しく低い。老齢年金をみると、年額五〇万円未 満は男性が八・二%、女性は二四・五%と四人に一人です。受給していない人も四・一%います。雇用保険の受給者は、失業者のわずか二割で崩壊状態。非正規 労働が拡大し「どんな仕事でもやる」立場に置かれ雇用主はやりたい放題です。
 児童手当は子ども一人分の基礎的養育費をはるかに下回り、教育費をねん出すると生活保護基準以下になる世帯が多数存在します。公教育以外に「塾が必須」 となっていますが、医療で言う「混合診療」ならぬ、「混合教育」です。
 利用できる制度はもはや生活保護しかないわけですが、必要な人が受給できていません。私の試算では、生活保護が必要なのに受けていない人は受給者の五・ 五倍、児童のいる世帯では一二・八倍です。社会保障の諸制度と生活保護の双方を利用できない「谷間」にいる人は一二〇〇万~一五〇〇万人。日本の人口の一 割が、何の保障もない状態に置かれています。
 無低診は、この谷間にいる膨大な人たちに医療の分野で挑む事業です。「当面の受療権を守るたたかい」であると同時に、「医療の分野から、日本の社会保障 制度を変える運動」です。一部ですすむ「就学援助利用者は無低診対象」は、子どもの貧困問題とも絡み、教育保障と医療保障の運動をつなぐ回路にもなりえま す。無低診を実施する事業所への自治体の補助も課題です。自治体には住民の命と健康を守る義務があるわけですから、それを独自にやる民間医療機関への補助 は当然だと思います。
 無低診事業と同時に、国保法四四条の運動を大きくし、地域の圧倒的な声にするための方針も必要です。無低診には限界もあります。この事業で受療権を守り つつ、そこから出てきた矛盾は運動に結びつけていく。民医連は、その運動の先頭に立っています。

(民医連新聞 第1564号 2014年1月20日)

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