民医連新聞

2014年1月6日

国内初の移動式FTF走る 避難者と市民の健康守って 福島・浜通り医療生協

 福島県いわき市は、福島第一原発事故と津波の被災地であるとともに、県内最多2万4000人の避難者が住む町です。同市の浜通り 医療生協は、国内初の移動式の放射線測定器「FTF」(ファースト・トラック・ファイバー)を導入。まちを走り市民や避難者の被曝状況を測っています。 「このまちで生きていく」という決意をささえるとりくみです。(新井健治記者)

 昨年一二月二日、原発立地の大熊町避難者が住む上神白(かみかじろ)仮設住宅でFTF測定会を行いました。二六人が測定し、高い値が出た人はなくほっとひと安心。今後も三カ月ごとに測定会を続けます。
 FTFは全身のガンマ線を検出する機器。日本生協連からの募金で購入しました。昨年八月に稼働して各支部や仮設に出かけ、これまで七〇九人が測定しました。
 浜通り医療生協上神白支部は毎月仮設で班会「大熊元気会」を開き、健康チェックや体操、お茶会を実施。左近司愛子支部長は、避難者のさまざまな悩みの相 談にも乗ります。「避難者だと特別扱いはしていません。健康という目的に向かってすすむ仲間です」。

「難民になる」と避難者

 政府は昨年末、除染で発生した汚染土の中間貯蔵施設建設のため、原発周辺の土地の国有化を決めました。「私たちは“避難民”から“難民”になる」と話すのは原発から一・四kmに自宅のある大熊町の女性(59)です。
 女性は原発事故後、体育館や親戚宅を転々とし、上神白仮設で七カ所目。先日、防護服を着て久しぶりに戻った自宅はネズミの糞だらけで、雑草が温室の天井を突き破っていました。
 「江戸時代以前から続く家系です。本音は大熊町に戻りたいが、孫にとってはいわき市が故郷。東京電力には土地と家屋を補償してもらいたい」と言います。 女性は「自分の健康は自分で守る」と、家族四人で組合員になりました。

支部が仮設で健康チェック

 同医療生協は食品の放射線測定器も四台導入し、組合員が持参した野菜や魚を測定。支部ごとに放射能学習会を開き、仮設で健康チェックなどを行っています。
 原発から一〇kmの富岡町の避難者が住む泉玉露(いずみたまつゆ)仮設住宅では、二〇一一年一一月から泉支部が健康チェックを続けています。小名浜生協 病院から叶多(かのうだ)則之院長と精神保健福祉士が参加します。
 仮設自治会の川上延男会長(69)は、体操やグラウンドゴルフなどで積極的に体を動かすことを呼びかけています。他の仮設に比べ、健康チェックに男性の 参加者が多いのが特徴です。自治会主催でお茶会も開き、住民同士のつながりもつくっていますが、昨年一〇月には孤独死がありました。川上さんは富岡町と協 議し見守り体制の構築も検討しています。

避難者と市民つなぐ

 浜通り医療生協には毎週、全国から視察団が来ます。いわき市を出発点に広野町、楢葉町、富岡町と北上。津波の被害がそのまま残る沿岸部や、帰還困難区域と居住制限区域にゲートで分断された街、汚染土を詰めた大量の黒い袋などを見て回ります。
 同医療生協は「忙しくても断らない」を原則に、伊東達也理事長を中心に組織部五人でガイドを担当。國井勝義さん(小名浜生協病院事務長)は「被災地の実 態を各県に持ち帰り伝えてほしい。それが回り回って福島への支援につながります」と言います。
 震災と原発事故から二年九カ月が経ち、被災地の実態を伝える報道は減少。一方、仮設に住む避難者といわき市民との間で軋轢(あつれき)が起きています。 「被災者帰れ」など落書き事件もあり、大きく報道されました。國井さんは「軋轢を強調すると被災者同士が分断されてしまう」と懸念します。
 「人びとが分断させられるのは水俣病など他の公害と同じ構図。こうした対立は東電の責任逃れの口実にもなりかねない。被災者同士をつなぐのが私たちの役 割」と國井さん。小名浜生協病院は福島県民医連発祥の地。常磐炭鉱のじん肺訴訟を支援し、今もじん肺同盟の事務所があります。
 法人は避難者と地元住民の“架け橋”になろうと、昨年一〇月の健康まつりで被災六町の自治体や仮設を回り参加を呼びかけ。富岡町の仮設サークルが発表し、大熊元気会は模擬店も出店しました。
 國井さんは「元の暮らしを取り戻す運動は長期戦。組合員、被災者で健康づくりをすすめ、地域の実態を発信したい」と語ります。

(民医連新聞 第1563号 2014年1月6日)

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