民医連新聞

2014年1月6日

低所得者の軽減制度つくらせた 「いつも利用者さんの側で」 福井・小規模多機能型介護施設しんじょういこい

 「利用料が払えない」―。ひとりの利用者の相談から、自治体に負担軽減制度をつくらせた介護事業所があります。福井県坂井市の小 規模多機能型介護施設「しんじょういこい」の経験です。「どんな時でも、利用者さんの立場で」。たたかうケアマネジャーの視点が多くの人を助けました。 (木下直子記者)

「利用料が2倍になる」

 「坂井市では、サービス利用料がこれまでの二倍になる…」。隣接する福井市から引っ越してくる予定だったYさんが、しんじょういこいのケアマネジャー藤岡ひとみさんにこんな相談を寄せたのは、二〇〇九年の夏でした。
 福井市には、低所得高齢者向けに介護保険利用料を減額する独自の制度(居宅サービス利用者負担軽減事業)がありました。収入、資産、世帯の状況など基準 を満たせば、訪問や通所サービスなどの利用料が半減されます。妻と二人、借家で暮らすYさんは、この制度を使い介護を受けていました。
 藤岡さんはこの時初めて、福井市の軽減制度を知りました。すぐに坂井市の介護保険課へ。Yさんの負担を減らせる手立てがないか制度の資料も見せながら交 渉。しかし担当課は「当市には制度がないので無理」の一点張りでした。

 「小規模多機能型介護施設」は、訪問、通所、泊まりのサービスを総合的に行う介護施設で す。在宅、通所などと、サービスごとに事業所やスタッフが変わることがないため、環境の変化が苦手な高齢者、とりわけ認知症を抱えた人には安心です。た だ、介護報酬がまるめ(包括)で、単独サービスを組み合わせて使うより、利用料が高くなりがちなことが難点です。
 結局Yさんは、しんじょういこいの利用を諦め、他の事業所で最低限のサービスを受けることを選びました。「やっぱり、引っ越しただけで負担が倍になるの はおかしい」。藤岡さんは諦めきれませんでした。Yさんの引っ越しを手伝い、苦しい暮らしぶりも見ていました。

「制度作って」と言ってみた

 藤岡さんは坂井市の畑野麻美子市会議員(共産党)にYさんの問題を伝えました。脱原発や社会保障改善運動など、さまざまな場で顔を合わせる畑野市議は、介護保険広域連合議会(坂井市、あわら市で構成)のメンバーです。
 藤岡さんたちの要請を受けYさん宅も訪問した畑野市議は、〇九年一一月の広域連合議会で、軽減制度の必要性を提起。一〇年七月から新規事業として、坂井 市とあわら市でも居宅サービス利用者負担軽減事業が始まりました。
 「嬉しくて、Yさんのもとに飛んでいきました。『使えるようになるよ!』と。本当に実現したんだ、と内心驚きも。畑野さんが議会で取り上げてもあかん かったら、皆で署名活動をやろうと考えていた」と藤岡さん。しかも、坂井市にできた軽減制度は、福井市より適用範囲の広いものでした(資料)。いま、市内の二九人が制度を利用中です。
 「介護保険制度は創設以来、改悪続きです。利用者・家族の人権を守るためには、やはり制度改善が必要。民医連らしい良い介護をしたいし、経営も守らねば ならない。苦労もありますが『利用者さんのためなら、すぐ動くぞ!』と思っています。いつでも利用者さんの側にいたいんです」。


居宅サービス利用者負担軽減事業

対象者(以下の条件をすべて満たす人)
世帯全員が市民税非課税
単身世帯年収が150万円未満
(世帯員が1人増えるごとに50万円上乗せ)
※福井市は130万円未満
世帯で保有する預貯金額が350万円以下
(世帯員が1人増えるごとに100万円上乗せ)
※福井市は300万円以下
日常生活に供する資産以外に活用できる資産がない
負担能力のある親族に扶養されていない
本人が介護保険料を滞納していない

対象サービス
(いずれも介護予防を含む)
訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護
訪問リハビリテーション、通所介護
通所リハビリテーション
認知症対応型通所介護
小規模多機能型介護施設

(赤字は坂井地区独自の基準)

(民医連新聞 第1563号 2014年1月6日)

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