民医連新聞

2022年4月19日

相談室日誌 連載516 居住を決める自由はあるのか 市町村で入所条件に相違(岡山)

 Aさんは60代の女性。精神障害で長期間入院していましたが、少しずつ状態が落ち着き、地域での生活場所を探していく状態に回復しました。Aさんは老齢基礎年金の月約6万5000円で生活していました。岡山市内にていねいに利用者とかかわる養護老人ホームがあり、Aさんの希望もあって、入所に向けて調整をしました。
 そこで私は、養護老人ホームへの入所に向けて、担当福祉事務所とやりとりを開始しました。すると、「まずは、養護老人ホーム以外の施設に断られた実績を出してください」と、20件近くの施設の一覧に〇、×をつけるよう指示されました。
 養護老人ホームは、数少ない措置入所ができる施設です。入所対象者は「65歳以上の者であって、環境上の理由および経済的理由により居宅において養護を受けることが難しい者」となっています。介護保険施設ができてからは、「介護保険法に規定する地域密着型介護老人福祉施設などに入所することが著しく困難であること」が追加。Aさんの経済状況では、本人の年金や預金が底をつけば、生活保護に切り替えて入所できる施設も入所の候補に挙がってきますが、同市内でその条件で入れる施設は数少なく、入所の待機が3年以上になっている人もいます。入所できても生活保護だけでは費用がまかなえず、皆が食べられる食事1食をパンと牛乳にすることで入所している人もいます。養護老人ホームに入所すれば、手元にお小遣いも残り、皆といっしょの食事をとることができます。
 条件に照らし合わせると、養護老人ホーム以外の施設に断られた実績の提出を、入所判定の必須条件にすることは法律の趣旨から外れているように思います。他の自治体であれば、その人の背景や本人の思いなどを共有しながら、他の施設に断られた実績を求められることなく養護老人ホームに入所できるケースもあります。市町村によって、対応が異なることも、住む場所によって入りやすさ、入りにくさがあることも事実です。憲法第22条には、居住移転の自由があり、自己の欲する居所を定める自由が保障されています。Aさんが入りたいと言った養護老人ホームに入所できないことは、憲法に反してはいないでしょうか。

(民医連新聞 第1758号 2022年4月18日)

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