フォーカス 私たちの実践 介護医療院での生活リハビリ 入居者に参加促し心身機能を活性化 北海道・ぽぽらす
医療と介護の両面から入居者をささえる介護医療院。北海道・介護医療院「ぽぽらす」では、神経難病を抱えながらも、「毎日歩きたい」という要求などに応え、日常リハビリ支援にとりくみました。第15回学術・運動交流集会での登坂温子(言語聴覚士)さんの報告です。
■ 「歩きたい」 に応える
「ぽぽらす」は、北海道・勤医協札幌西区病院の中に、2020年10月に開設。介護医療院のリハビリの視点は、リハビリ室で機能訓練を行うことだけではありません。睡眠、排泄、食事など、生きる上で必要な活動すべてを対象とし、生活リハビリとして、スタッフ全員で入居者の生活を支援していきます。
Aさん(70代女性)は5年前に多系統萎縮症と診断。歩行は腋窩(えきか)介助で可能でしたが、疲れやすく、転びやすい状態。Aさんは「毎日歩きたい」と望んでいました。
ケアプランやリハビリ方針では、転倒なく日常生活動作を維持していくことなどを挙げていました。ここで、Aさんのdemand (要求)との乖離(かいり)がおきました。リハビリでの歩行訓練では疲れやすく、すくみ足などもあり、日によってはパーキンソニズムにより動作パフォーマンスにムラが生じ、日常的な歩行は困難でした。毎日のリハビリ実施はサービス体制上困難。歩行は転倒リスクが高く、介助者が必要な状況で、歩行訓練を行う目的は何か、スタッフ間でジレンマが生じました。本人の意欲にもムラがあり、本人に合わせた介入が困難と思われました。
その結果、トイレ、食事などの生活動作以外は臥床傾向となり、介助量増加、認知機能低下など、入居時よりも機能低下がみられました。
■ 「ちょっとした時間」 利用
介護医療院では、生活する場としての役割があります。その人らしい生活に重点を起き、支援していくことが求められます。
Aさんの課題からとりくみの一例を紹介します。数回の多職種会議で、いかに安全を確保して生活のなかに歩行をくみこむか、どうしたら希望どおりに寄り添い毎日の生きがいになるか話し合いました。機能や自立度向上の目標だけでなく、生活の一部として考えることで、毎日の時間を確保した歩行訓練ではなく、食事前や言語聴覚療法の帰室時などの「ちょっとした時間」に、起立訓練のみ体調に合わせて行うことで、入居者自身の目標に近づくのではないかと考えました。約2週間後、ADLは横ばいでしたが、消極的発話や疲労感の訴えが減少し、運動への意欲向上、生活面での歩行機会の増加がみられました。
■興味や関心を聞く
Aさんの人生観から、demand(要求)に少しでも近づけるような、生きる意欲を引き出すかかわりや視点が重要です。施設で長期療養し生活する上で、一人ひとりの生活背景や人生観がとても大切です。Aさんの場合も、興味や関心を聞き、どのような生活を望んでいるのか把握しました。親和性の高い話題を提供し、どのような内容や方法ならば反応がよいか、日々の活動や参加につなげたいと考えました。その結果、好きな歌手の歌を聴くことが一番反応がよく、生活場面での意欲向上へとつながる様子がみられました。
人間の生活機能と障害についての分類法として、ICF(国際機能分類)があります。介護医療院では生活の場のため、心身機能、活動、参加にバランスよくとりくむ生活期リハビリテーションが重要です(図)。
■意味ある活動の積み重ね
私たちは、入居者の「参加」を促すことで、意味のある「活動」となり、それを積み重ねることで、結果的に「心身機能の活性化」がはかれると考えています。
Aさんに当てはめてみると、「参加」のところでは、朝の体操や誕生日会などの行事への参加があります。それらの参加を促すことで、毎日の歩行訓練や好きな音楽鑑賞のためにリハビリ室に行く、などが意味のある「活動」となってきます。そして、それらの活動を積み重ねることで、意欲向上や上下肢機能向上など「機能面」の活性化がはかれると思われます。
介護医療院では、介護サービスとして求められているのは、利用者の意思を尊重し、自立支援へ向けた療養と生活の視点です。入居者の毎日の生活の「活動」や「参加」を軸として、今できることを多職種間で共有し、見極めていくことで、目標である「能力の維持向上」へとつながると考えています。
一人ひとりの個別性や生きがいとは何か、日々チームで悩みながら、より良いサービスを提供していきたいと考えています。
(民医連新聞 第1758号 2022年4月18日)
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