民医連新聞

2022年2月22日

フォーカス 私たちの実践 多職種協働で新たな視点 外気浴による転倒転落予防 岐阜・みどり病院

 入院患者の高齢化にともない、病棟での転倒・転落予防は現場の大きな課題のひとつです。岐阜・みどり病院の回復期リハビリ病棟では、多職種が参加する対策チームをつくり、予防をすすめています。第15回学術・運動交流集会での大橋幸治さん(理学療法士)の報告です。

■チームで対策

 当院では、「転倒・転落チーム」「おいしく食べるぞチーム」「排尿・排泄(はいせつ)チーム」「レクリエーションチーム」に分かれ、看護師、介護士、薬剤師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がかかわり、患者の快適な入院生活のために、日々活動しています。
 転倒・転落チームは毎月1回、第2火曜日に会議を開催しており、活動内容は大きく分けて3つあります。1つ目は月ごとに転倒・転落の報告を吟味し、今後の対策を議論すること。2つ目は不眠傾向の患者をピックアップし、回復期リハビリ病棟の朝会で報告、周知すること。3つ目が病棟でのADLや転倒リスクを、スタッフ全員に周知するための方法を提案・実施することです。病棟では、日常的にホワイトボードに気になる患者の情報を記載し、随時共有できるようにしています。
 当院の転倒・転落の多くが、人手の少ない夜間や早朝の時間帯に発生する傾向にあります。そこで入院時から転倒を頻繁にくり返す患者に対し、サーカディアンリズム(概日リズム)に焦点をあて、外気浴を実施しました。結果、夜間良眠となり、転倒・転落の頻度が減少したため報告します。

■体内時計に注目

 サーカディアンリズムとは、動物が持つ内在的な時計機構(体内時計)のことで、人の体内時計の周期は約25時間と言われています。地球の1日の周期は24時間のため、外界のさまざまな刺激(同調因子)を手がかりとして体内時計の微調整をしており、これがうまくいかないと睡眠障害や身体的な不調を引き起こします。
 関係する外界からの刺激はさまざまですが、「光による明暗」がもっとも強力な同調因子で、外気浴を行うと効率的に体内時計が整うと言われています。日光を浴びることで、脳の松果体からメラトニンというホルモンが分泌され、眠りの準備を始めます。仮に朝6時に日光を浴びると、20時前後には眠気が訪れ、規則正しい生活に近づくと言われています。

 【事例】患者は100歳女性、左大腿骨転子部骨折の術後10日目にリハビリ目的で当院に転院しました。長谷川式認知症スケール10点と中等度の認知症、高血圧症、難聴があり、睡眠導入剤を服用するも夜間の覚醒がみられ、入院時にはすでに昼夜逆転傾向でした。
 同患者は、入院してからのわずか32日間に6回の転倒歴がありました。入院時からL字柵やセンサーマット・センサーベッドの環境設定や、看護師の定期巡回で対応しましたが、同患者においては転倒・転落を予防するにはいたりませんでした。

 【対策】転倒・転落チームからの対策として、午前のリハビリ時間帯において15~20分程度外気浴の時間を設け、天候の良い日は退院まで毎日継続して行いました。さらに効率良く日光を浴びられるよう、東側の病室へ移動を実施しました。

 【結果】外気浴開始以降は退院までの45日間で転倒回数が1回に減少し、夜間の覚醒や、日中傾眠になる頻度も減少しました。また覚醒が向上したことで、病棟のアクティビティーにも参加ができ、離床時間が拡大しました。これは外気浴によってサーカディアンリズムが整い、規則正しい睡眠の獲得につながった結果と考えられます。また積極的なリハビリ介入が可能となり、適度な身体的疲労感を獲得することで、入眠につながったことも考えられます。

* * *

 今回の結果を受け、今後もチームで外気浴をすすめる患者のピックアップを継続していくとともに、外気浴実施患者数と転倒・転落件数を比較し、外気浴の効果との関係について、ひきつづき追求していきたいと考えています。

(民医連新聞 第1754号 2022年2月21日)

お役立コンテンツ

▲ページTOPへ