民医連新聞

2021年11月16日

第15回全日本民医連 学術・運動交流集会 オンライン開催 テーマ別セッション デジタル化、貧困・格差、まちづくりなど3つのテーマで学び交流

セッションⅠ
デジタル化に立ち向かう
民医連の医療・介護
デジタル化の中での
民医連の医療・介護

 医療・介護のデジタル化の動きを理解、整理し、課題を明らかにすることなどを目標に開催し、240のアクセスがありました。

DXに民主的コントロールを

 「政府が進めるDXとは何か―デジタル社会と自治・民主主義」と題し、内田聖子さん(NPO法人アジア太平洋資料センター)が講演しました。内田さんは、デジタルツールを活用して業務を効率化するデジタル化と、政府がすすめるDX(デジタルトランスフォーメーション)の違いを説明。「DXはデジタル化によって産業構造を大きく変え、経済成長、国際競争力の強化をめざす。デジタル化による個人への恩恵も否定はしないが、DXは企業の利益を追求するもの」と話し始めました。
 日常でデジタル化がすすむ一方、プライバシー保護の観点や、適切な運用ができているか、情報流出の際の被害の大きさ、その責任を誰が負うかなど、「懸念すべき点が多いにもかかわらず、日本ではあまりにも楽観論が強く課題が議論されていない」と指摘。
 世界的には、巨大IT企業への規制や課税の強化、プライバシー保護の法制化がすすんでいることも紹介。「私たちには今後、デジタル化をどうやって人びとのためのものにするか、政府の言う『DXでバラ色!』に乗せられることなく、ルールづくりをすすめることが求められる」と訴えました。
 質疑に応え「患者・利用者の健康情報は健康管理産業にとっては宝の山。医療従事者の使命と企業の利益は違うことを自覚し、情報の利用と管理を分けて対応を」と民医連への期待を語りました。

民医連の医療・介護の現場で

 全日本民医連理事の松原為人さん(京都民医連中央病院、医師)が「民医連医療・介護はデジタル化をどうとらえ対応していくのか」と題して、基調報告(問題提起)をしました。医療・介護現場ですすむデジタル化を、運用課題とともに解説。「技術進歩を積極的に評価しつつ、技術の評価、公正性の確保を政府に強く要求し、導入後の状況を可視化し、社会全体の恩恵につなげなければならない」とまとめました(下図)。
 続いて、各地から3つの実践を報告しました。青森・健生クリニックの木村美香さん(看護師)は「AI問診導入による業務改善報告と今後の課題」を報告。民医連らしい医療提供を続けるための新たな課題に向き合っています。
 岡山・水島協同病院の山本明広さん(医師)は、「医療現場でのIT活用Digtal Xformation医療現場の変革を目指して」を報告。「業務のデジタル化とともに業務の見える化を実現したい」と結びました。山形・介護老人保健施設かけはしの齋藤雄一さん(事務)は、「2021年度介護報酬改定によるLIFE導入に向けた学習と課題」を報告。LIFE(科学的介護情報システム)と、その導入による業務の変化、今後について解説しました。(丸山いぶき記者)

セッションⅡ
貧困、自己責任と向き合い、コロナ後にどんな社会をめざすか

 コロナ後にどんな社会をめざし、私たちにできることについて考えることを目標に開催され、220のアクセスがありました。

女性や若年層にダメージ

 NPO法人自立生活サポートセンターもやい理事長の大西連さんが「コロナ禍での貧困 もやいの活動」について講演。大西さんは、リーマンショックの影響による年越し派遣村を契機に生活困窮者への支援活動に参加。相談支援、ホームレス状態の人のアパート入居時の連帯保証人の引き受け、居場所、コミュニティーづくり、生活保護や社会保障制度の提言などの活動を紹介しました。
 新型コロナウイルス感染症の感染が拡大するなか、2020年2月下旬から相談が急増。小中高の学校が一斉休校になると、シングルマザーからの相談が増えました。東京都庁前での食料配布を行っていますが、来訪者は2020年は100人程度。その後緊急事態宣言をくり返すたびに増え、今年の9月末には350人に。
 大西さんは「派遣、日雇いなどの非正規労働、低収入、ネットカフェ生活など、もともと脆弱(ぜいじゃく)な生活基盤の人が新型コロナウイルス感染症の拡大で、これまで景気にささえられて表出していなかった部分が露呈した」と指摘。生活の厳しかった女性や若年層が大きなダメージを受けました。
 緊急小口資金・総合支援資金の特例貸付は最大200万円無利子で借りることができます。昨年の3月下旬から今年8月下旬まで、支給は267万件を超えました。「借入金は10年で返済しなければなりません。貸し付けにより債務がかさみ、生活再建できない人が増えてくる」と語りました。

権利としての社会保障

 コロナが収束し、景気が回復すると、元のワーキングプアにもどり、自分たちだけでがんばる社会にもどりかねかせん。自己責任は、社会がいらなくなっていくマジックワード。セーフティーネットで必要なことは、声をあげることで問題を可視化し、社会的なとりくみにつなげ、支援の実践、スティグマの軽減、権利としての社会保障を訴えることです。
 大西さんは「民医連のみなさんは地域で、医療や福祉にかかわる問題を社会に発信してほしい。自分でできること、必要なとりくみの支援を」と呼びかけました。

3つの実践報告

 続いて3人の青年職員から実践報告。東京保健生活協同組合の井上智史さん(事務)は、「自らかかわったくらしの困りごとの対応」について、大阪・のざと診療所の多富裕子さん(看護師)は、「フードバンク」について、熊本・菊陽病院の猪本麻里恵さん(精神保健福祉士)は、「くまもと学生食料支援プロジェクト」について報告しました。(長野典右記者)

セッションⅢ
住み続けたいまち、住民主体となるまちづくりのヒント・実践を交流しよう

 まちづくりの実践交流を主とした当セッションは、200のアクセスがありました。

求められるアウトリーチ

 全日本民医連副会長でまちづくり委員会の委員長の根岸京田さんが問題提起。民医連も長くまちづくりにとりくみ、「実践は発展を続けている」と報告。あわせてコロナ禍で「集まって語り合う」活動スタイル・内容が変更を迫られており、「デジタル化」に取り残された人びとの困難・孤立がすすむ可能性にふれ、「地域に出てニーズを掘り起こすアウトリーチ活動」の重要性を強調しました。

ひろがるまちづくりの挑戦

 続いて、まちづくりの実践が報告されました。島根・松江生協病院の岩成浩昭さん(事務)は、安心して受診できるまちになっているのかつかむため、医学生や大学教授と協力して行ったアンケート調査を紹介。救急搬送後入院した患者にアンケートを行い、53人が回答。20・8%が「体が不自由」「交通手段がない」などの理由で受診を我慢していました。
 岡山ひだまりの里病院の黒瀬健弘さん(事務)は、高齢化がすすむ地域で町内会の地域住民より寄贈を受けた空き家を改修し、「コミュニティスペース阿津ひだまりの里」を開所したことを報告しました。町内会の活動拠点となっているほか、月1回朝カフェを開くなど、認知症にやさしいまちづくりの企画を模索していることも紹介しました。
 福岡医療団の池田浩子さん(事務)は、千鳥橋病院のHPH(健康増進活動拠点病院)の実践を紹介。またコロナ禍でもできるとりくみとしてSDH(疾病の社会的決定要因)の学習資材(動画や事例集)を作成したほか、中学校での講義や公民館の市民講座を行い、友の会の班会をウオーキングとして実施していることなども報告しました。
 北海道・勤医協浦河診療所の澁谷譲さん(医師)は、無料低額診療事業(以下、無低診)を知らせる活動を報告。小中学校、企業、民生委員会議などを訪問。友の会員、地域住民、町役場の職員などの参加で学習会も行い、浦河町の制度として無低診患者の薬代助成(院外処方)が実現しました。
 大阪・うえに生協診療所の三宅憲子さん(事務)は、観光・技能実習・留学・就労などで日本を訪れた後に自国の戦争・内政不安定や貧困などのため帰国できず、日本での在留資格を失った外国人によりそい、無低診を活用して対応しているとりくみを話しました。
 福島・会津医療生活協同組合の常務理事・辺見律子さんは、同生協の山都支部で一ノ木地区に誕生したしゃくなげ班の活動を紹介。認知症サポーター養成講座やグラウンドゴルフ、将棋や卓球など、活発な実践を報告しました。
 埼玉・熊谷生協病院の曾田恭基さん(事務)は同院の「地域総合サポートセンター」の実践を報告。食料支援にとりくんだところコロナ禍で就職採用を取り消された女性が訪れ、「明日死んでもおかしくない。本当に助かった」との声が聞かれ、組合員と見守りを続けていることなどを話しました。(多田重正記者)

(民医連新聞 第1749号 2021年11月15日)

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