民医連新聞

2021年8月17日

診察室から 保険で良い歯科医療を!

 「これって保険での金額ですか?」「ここの治療は来年1割負担になってからにします」
 最近、患者から時々聞かれる言葉です。しっかり通院していた人が被せ物を入れる時になるとキャンセルし、給料日後に来院する人も増えています。これらは無職や派遣などではなく、正社員として毎日働く人たちの事例で、今まであまり経験しなかったことです。
 なるほど、当院が開設した10年前と比較し、被せ物にかかる自己負担は当時と比べ約1・5倍(!)に増えています。一般の賃金がほとんど増えないなかでのこの増加は、かなり厳しいものがあります。今では奥歯に2本金属の被せ物を入れると、約1万円の自己負担がかかります。保険での金額か? と聞いてみたくなる患者の気持ちも理解できます。前歯になるとさらに負担は増えるので、当方も今まで以上に問診(金額の説明中心)に時間をかけています。その結果、「この部位は痛くないので来年で…」となるのです。
 負担増加の主な原因は、歯科で使う主要金属の金銀パラジウム合金の暴騰にあり、今では投機の対象にすらなっています。さらにこの金属は、歯科医療機関での購入価格が保険償還価格を大幅に上回る(逆ザヤ)問題も発生しており、患者、医療機関ともに負担を抱えています。これを抜本的に解決しないと、これからも患者の負担は増える一方だと思われます。そもそも、なんら特別でない一般の歯科治療を受けるのに、患者も医療従事者側も、治療費を気にしながら、さらには処置を後回しにするなどという事態が、国民皆保険から大きく逸脱しています。
 患者の生活背景を踏まえた民医連らしい医療を! などという大仰(おおぎょう)な矜持(きょうじ)を、普段から持ちながら診療しているわけではありません。しかし現在、民医連歯科を中心に行っている「保険でより良い歯科医療を」の署名一筆一筆に、以前の署名時以上の重みを感じながら書いてもらっています。こんな署名を書かなくて済む日を願いながら。(谷口昭浩、福井・さかい生協歯科診療所、歯科医師)

(民医連新聞 第1743号 2021年8月16日)

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