民医連新聞

2003年8月18日

じん肺患者さんの職場訪ねて 環境改善提案

 長期不況の下、労働者の健康と生活が脅かされています。民医連の「疾病を労働と生活の現場からとらえていこう」の方針のもと、中小零細企業に働く 人たちに心を寄せた活動が大切なとき。宮城民医連・労働者健康問題委員会と古川民主病院から、「じん肺外来」患者さんの職場を訪問し、職場改善と労災申請 につなげた経験が寄せられました。 

shinbun_1314_02硯(すずり)職人の仕事場見て、「じん肺」労災申請

 【宮城発】硯職人Aさんが働く雄勝(おがち)町の硯工場を訪問したのは昨年一一月です。県連の労働者健康問題委員会の広瀬俊雄医師(主治医)、多田由美子看護師、それに「じん肺」の患者会の仲間が同行しました。

 Aさんと社長だけでやっている零細な工場の門前で皆が出迎えてくれました。一歩入ると、中は真っ白、粉塵で口の 中があっという間にジャリジャリになり、咳もでてきました。床は一面に白い粉を撒いたようでした。「集塵機は?」とみると、目の前の枠に普通の換気扇が 回っているだけです。

 県の特産「雄勝硯」を作る工場は町内に一一ヵ所ありますが、いずれも零細で環境は劣悪。集塵機がついているのは 三カ所と聞いて驚きました。原石を削って磨き、仕上げの工程ではコールタールや漆を塗ります。有機溶剤も使用されていて、これらの健康への影響も気になり ました。

 Aさんは今年の六月、「じん肺に伴う続発性気管支炎」の診断で労災認定になりました。Aさんが「病気の療養に専 念したい」と告げると、社長は「治療には協力するから辞めないでくれ」と。腕の良い職人のAさんを失えば工場は閉鎖することになります。社長との話し合い の結果、(1)環境改善に心がけ、できるだけ粉塵を防止する、(2)通院日を業務内でも保障する、(3)治療を優先し無理させない、ことを確認。「健康も 職場も守っていこう」と一致したのです。

出稼ぎ労働者のまちで

 Aさんは町の健診で「じん肺の疑い」と指摘され、当院を受診。当院がじん肺にとりくんでいることを、出稼ぎの人から聞いて知っていました。

 Aさんが住む雄勝町には、出稼ぎで道路・トンネル工事などに従事し、体を悪くして町に戻ってきた人たちがたくさんいるのです。

 出稼ぎ労働者は、危険な工事現場で働き、多くが「じん肺」になります。その発症時期が早く、重症化しているのが特徴です。

 私たちが調べた結果では、細倉鉱山の労働者は一五~二〇年かかって管理2程度(軽症)のじん肺を発症。道路・トンネル工事に従事する出稼ぎ労働者は約一〇年で管理3・4(重症)を発症しています。

 当院のじん肺外来は週に一日。じん肺の合併症を見のがさず、労災認定によって患者さんが治療に専念できる条件づ くりにとりくんできました。「じん肺」の診断だけでは労災補償の対象になりません。労災補償を受けるには厚労省が決めた六つの合併症の病名が必要です。当 院に来る前に、他院で「じん肺」と診断されながらも、合併症の診断がされないため、そのまま働き続け悪化してしまいます。苦しい呼吸に耐えて働き続けてき た患者さんも多くいます。

県連がよびかけ「現場をみよう」

 当県連の労働者健康問題委員会は、患者さんが携わっている労働現場を見て、問題の発掘を方針に掲げています。

 Aさんの工場ばかりでなく、他工場の見学もたいていはOK。これまでに登米(とよま)町のスレート工場で石を切 り出す現場、鳴子町の農薬工場で硫黄を含む砂を乾燥させる現場、三本木町の亜鉛の発掘場跡などを見に行きました。集塵機の設置やマスク着用など改善もすす めました。

 町の人たちが友の会や「じん肺」患者会として視察に同行し、終了後に学習会を持つとりくみもしています。(金野由紀枝・SW、古川民主病院)


 

【宮城民医連・労働者健康問題委会のとりくみ】
 一九八六年に閉山になった三菱細倉鉱山の離職者数百人の健診に携わり、振動病を合併した「じん肺」の治療と労災申請にあたった。その経験から出稼ぎ労働 者の「トンネルじん肺」問題、じん肺訴訟の支援、過労死一一〇番などで活動。また「職業性呼吸器疾患研究会」を毎隔月開催。民医連以外の医師にも呼びか け、症例検討や行政情報通達の学習などをし、交流も深めている。じん肺についての問題意識の醸成、研修医の教育の場、相談の場となっている。

(民医連新聞 第1314号 2003年8月18日)

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