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民医連新聞

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T(トイレ)K(キッチン)B(ベッド)48(48時間以内)で人権守る避難所を 避難所・避難生活学会理事 榛沢和彦さんに聞く

 日本では毎年のように自然災害が発生しています。新型コロナウイルス感染症が収束しない今、避難所のあり方や災害対策はどうあるべきか。新潟大学医歯学部総合研究科特任教授で、避難所・避難生活学会理事の榛沢和彦さんに聞きました。(丸山聡子記者)

 欧米では、コロナ禍でも避難所運営を見直していません。もともと1人当たり約4平米の避難所(日本は2平米)、トイレは20人に1基以上、テントや簡易ベッド、シャワーを備蓄し、すぐに温かい食事を提供できるよう準備しているためです。避難者が密集し、トイレは少なく、感染対策が難しいのは日本だけです。

■床からディスタンスを

 日本の避難所の多くは、床に寝る「雑魚寝」です。なぜ雑魚寝が悪いのか。まず、床に近いほど細菌やウイルスに感染しやすくなります。細菌やウイルスの多くはホコリや飛沫(ひまつ)に付着して床付近を漂い、床に寝ると吸い込みやすくなります。簡易ベッドなどで床から垂直に30cm離れると粒子の濃度は半分になります。
 次に、雑魚寝はエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症=VTE)の原因になります。さまざまな災害の避難所で深部静脈血栓症(DVT)検診をしたところ、DVT陽性が多く見つかり、陽性率が30%の避難所もありました。
 簡易ベッドの使用率が高い避難所ほどDVT陽性率は低くなります()。簡易ベッドで立ち上がりやすくなると活動量が増え、トイレにも行きやすくなり、「トイレの回数を減らすために水分摂取を控える」ことがなくなるためと考えられます。
 最後に足腰が悪くなること。東日本大震災の際、大規模避難所での1カ月の避難生活で、1000人のうち30人が寝たきりになりました。「歩いて避難、車椅子で退所」は避けなくてはなりません。すべての避難所、すべての避難者に簡易ベッドの導入が必要です。

■備蓄を法令で義務づけ

 トイレ(T)、キッチン(K=食事)、ベッド(B)を48時間以内に整える「TKB48」が目標です。イタリアでは、発災48時間以内は地元の小さなボランティア団体などが小規模避難場所を運営し、それ以降は被災地外の州や国が大規模避難所を設営・運営します。平時からの簡易ベッド、トイレ、キッチンの設備、テントなどの備蓄を法令で義務づけています。
 ささえているのが職能ボランティア。物資の輸送、食事、医療などを職能団体の専門職が担います。交通費や宿泊費、食費などは国が負担。被災地の自治体職員の人権を守る観点から、避難所の運営を被災した自治体職員が担うことはありません。このとりくみの中心が市民保護庁です。

■市民社会保護を理念に

 イタリアには、「災害時であっても、市民が普段営んでいる生活を保障する」という市民社会保護の考え方があります。日本との決定的な違いです。この理念のもと、人権を守り、人間らしい生活を守る避難所運営をしています。日本も「市民社会保護」の理念に立ち、災害専門省庁の設立、国レベルでの備蓄、災害時の職能ボランティア団体の育成が必要です。
 自治体は動き始めています。胆振(いぶり)東部地震を経験した北海道では、1万5000台超の段ボールベッドを道内14カ所に分散備蓄し、すぐに輸送できる仕組みをつくっています。熊本地震、豪雨災害を経験した熊本・益城町では、自治体としてTKB48をかかげてとりくんでいます。

(民医連新聞 第1732号 2021年3月1日)