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民医連新聞

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「夜のパン屋さん」始めました キッチンの窓を開けて社会とつながりたい 料理研究家/ビッグイシュー基金共同代表 枝元なほみさん

文・丸山聡子

 売れ残って廃棄されそうなパンを定価より安く引き取り、ほぼ定価で売る。その差額が販売者の収入となる―。「今は小さなとりくみが、必ずメインストリームになる」と、都心の一角で「夜のパン屋さん」が始まりました。料理研究家でビッグイシュー基金の共同代表も務める枝元なほみさんに聞きました。

 きっかけは、「循環するような使い方を」と託されたビッグイシューへの寄付でした。北海道のパン屋さんがやっている「夜のパン屋」の話を聞き、これならできる! と、2020年初頭から相談を始めました。

食品廃棄をなくしたい

 ビッグイシューでは、ホームレス状態の人が路上で雑誌を販売し、売り上げの一部を販売者の収入とすることで、販売者の生活再建・自立をめざしています。コロナ禍で路上での雑誌販売も難しくなりました。こうした販売者がパン屋からパンをピックアップし、「夜のパン屋さん」で販売しています。
 コロナ禍で苦しむ人が増えている今こそ、なんとしてもオープンしたかった。食品ロスや飢餓について考える国連WFP(世界食糧計画)の「ゼロハンガーチャレンジ」に参加し、10月16日の「世界食料デー」に合わせてオープンしました。新宿区神楽坂の「かもめブックス」という書店が軒先を販売場所として貸してくださっています。
 協力してくれるパン屋さんを探して営業に回りました。断られることの方が多くて、初めて「いいよ!」と言ってくれたパン屋さんでは、泣き出したいくらいうれしかったです。
 今は個人営業のパン屋さんが中心。材料にこだわり、生産者とつながっているからこそ、ロスは出したくないという思いも強いのだと思います。チェーン展開のお店は廃棄の量も多く、ぜひ参加してほしいのですが、なかなか難しいですね。

このサイクル変えよう

 フードロスをなくしたい…。「ロス」ってなんでしょう? 店頭に並ぶのも廃棄されるのも同じ「パン」。廃棄されずに誰かの手に届けば、「ロス」ではなく、大事な「食べ物」です。
 私たちが暮らす社会と似ていませんか? 「使い勝手のいい安い労働力」として企業のもうけを上げるために働かされ、いらなくなったら簡単に切りすてられる。派遣労働者をどんどん増やし、「派遣切り」が横行する…、日本社会そのものです。
 使いすての商品を大量に生産し、大量に消費し、大量に廃棄する。これを続ける限り、人間も大量消費されてしまうのではないでしょうか。まっとうな食べ物、商品をつくり、まっとうな値段で売り、労働者はまっとうな賃金を受け取る。そういう仕組みをつくりたいのです。
 それで「夜のパン屋」を始めました。今は小さな挑戦でも、必ずこの道がメインストリームになるという気持ちです。

小さな力集めて

 私が変わったのは、2011年3月11日の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故からです。今では政治的な発言もします。原発事故で、多くの人が「変わらなきゃ」と思ったはずですが、変わらないまま宿題として残っていることもたくさんあります。10年でわかったことは「つながること」「つなげていくこと」の大切さです。
 原発は、電力をつくるために処理ができない有害な廃棄物を大量に出します。動くのはせいぜい40年程度なのに、事故を起こせば何万年も放射能汚染の被害が残ります。それを経験したのに、いまだに原発を廃炉にできず、さらに再稼働するなんて、なんなのでしょう。
 世界では、地域の小さな単位で電力をつくり、その地域で消費する流れが始まっています。こうしたとりくみは電力に限らず、世界中に広がっています。大きな何かに無力な小さい人たちがぶらさがり、大きなところが崩れたら終わり、という社会ではなく、小さいけれど確実な力が集まり、力を出し合う。そんな経済、社会に変えていきたいと思いませんか?

誰かを踏み台にしない

 料理を仕事にする者のひとりとして、「お腹を空かせている人をなくす」という役割があると思っています。でも、生産者がいなかったら、料理をつくれません。米をつくっていた人がやめてしまったら私たちの食卓はどうなる? グローバル企業だけが食物の種を支配するようになったら? 台所だけで完結するのではなく、キッチンの窓を開けて社会とつながっていきたいのです。
 有害であることがわかっている料理を、「食べて」と相手に差し出すなんて、できません。「政治の都合」を、もうスルーしたくないのです。企業による種子の支配を強める種苗法の改正に反対の意思表示をしているのも、そういう理由からです。
 曲がったことはやりたくありません。誰かを踏み台にしてもうけるような社会とはおさらばだ! という気持ち。

*  *  *

 多くの人が、資本主義が行き過ぎ、社会がダメになってきていると気づき始めています。利便性だけにしがみつくのは終わりにしましょう。
 コロナ禍の長期化で、追い詰められる人たちが増えています。パンを売るかたわら、ちょっとお話を聞いたり、おしゃべりをしたり、そういう場にもしていきたいと思っています。


「夜のパン屋さん」は…

 毎週木、金、土曜日の午後7時30分から、東京メトロ「神楽坂駅」すぐの書店「かもめブックス」の軒先で開店。その日のパン屋のラインナップなどSNSで発信中。
※詳しくはビッグイシューのホームページに掲載。

(民医連新聞 第1728号 2021年1月4日)

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