副作用モニター情報〈542〉 バロキサビル(ゾフルーザ錠)服用後の肝障害と横紋筋融解
これまで抗インフルエンザ薬バロキサビルによる出血の副作用をとりあげました。今回は、バロキサビルによる肝障害とそれに起因した併用薬の副作用増強による横紋筋融解症が疑われる症例です。
症例) 60代後半女性。基礎疾患は汎下垂体機能低下症、MMP-3上昇。併用薬はチラーヂンS、プレドニン、リピトール、ノイロビタン、ムコスタ、アレジオン。
インフルエンザに罹患(りかん)した孫の世話をし、吐き気、おう吐、下痢を発症。2日後の日中に受診し、インフルエンザAの診断。輸液の点滴は血管確保ができず断念。ゾフルーザ、ミヤBM、カロナール、ナウゼリンを処方され帰宅、内服を済ませた。しかし、トイレに行くときに転倒し動けなくなり22時に救急搬送された。
搬送時、体温36.2℃。血圧86/50mmHg、脈拍82bpm。血液ガス分析pH=7.159、PCO222.1mmHg、PO282.7mmHg、BE-18でアシドーシスを確認、末梢チアノーゼあり。血液検査データは、トロポニンT陽性、AST757、ALT469、CPK2000、CK-MB141、BUN48.5、Cr6.3、Na133、K5.3、WBC10500、Plt26.3。心電図上V3-V4にST低下あり。
搬送4時間後、酸素3L/分開始。黒色吐物少量、黒色水様便多量。オメプラゾール注開始。
搬送7.5時間後、尿量低下、フロセミド投与、ドパミン持続点滴開始。
搬送9時間後、体温39.4℃。血液ガス分析pH7.34、PCO233.6mmHg、PO2476.4mmHg、BE-5.7、AST1000、ALT1000、CPK2000、BUN57.9、Cr7.2、Na148、K3.7、CRP21、WBC7700、Plt26.3。
搬送15.5時間後、永眠。
黒色水様便はバロキサビルによる消化管出血の可能性があります。アシドーシスは、心電図から心筋梗塞の診断ではないのですが、血液検査の結果は心筋梗塞と心原性ショックで説明可能です。CPK上昇については、転倒による筋挫滅で説明できますが、2000という高値になるには、転倒後の時間経過だけでなく、服用していたリピトールの作用がバロキサビルによる肝障害によって強力になったことも一因として考えられます。
インフルエンザによる死亡か薬剤によるものか、判断できませんでしたが、このような経過をたどることがあるかもしれず、併用薬にも注意しバロキサビルの投与を考慮するのが無難と思われます。
(民医連新聞 第1723号 2020年10月5日)
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