全日本民医連第44回定期総会 運動方針
第44回総会スローガン
○綱領改定10年のあゆみを確信に、「医療・介護活動の2つの柱」を深化させ、医師確保と経営改善で必ず前進を
○共同組織とともに地域の福祉力を育み、人権としての社保運動を旺盛にすすめ、健康格差にタックルしよう
○共同の力で、安倍政権による9条改憲ストップ!核兵器廃絶、地球環境保全運動の飛躍を
【 目 次 】
第1章 民医連綱領改定10年の歩みと2020年代の課題
第1節 綱領改定の呼びかけと改定の中心点
第2節 綱領改定10年の歩み
第3節 平和と個人の尊厳が大切にされる2020年代へ
第2章 情勢の特徴
第1節 市民社会が平和と人権を実現する時代への胎動
第2節 格差と貧困の広がりと超高齢社会・人口減少
第3節 医療・介護・社会保障を巡る情勢
第4節 憲法、戦争する国づくり、辺野古新基地建設、原発を巡って
第3章 43期の概要
第1節 運動方針に照らしての43期の到達点~2年間の前進への確信を深め、克服すべき課題を鮮明に
第2節 いのちと人権を守り抜く運動、憲法、平和、原発ゼロへ向けて
第3節 2年間の医療・介護活動の特徴点
第4節 共同組織の活動の広がりと組織的到達点
第5節 経営困難を突破し、民医連の経営基盤を強化するために
第6節 医師を巡る情勢と民医連のとりくみ
第7節 民医連運動を担う職員育成
第8節 拡大する災害被害と民医連の災害支援
第9節 全日本民医連のとりくみ
第4章 44期の方針
第1節 憲法を生かし人権としての社会保障と平和を守り抜こう
第2節 医療・介護活動の重点
第3節 安心して住み続けられるまちづくり
第4節 地域での健康権の担い手・共同組織、全てのとりくみを共同組織とともに
第5節 民医連経営の維持・発展をめざして
第6節 「大切文書」を力に、民医連の医師と医師集団づくりの議論と実践をさらに前進させ、医師政策に結実させよう
第7節 民医連綱領を担う職員育成の強化
第8節 自然災害への対策ととりくみの強化
第9節 全日本民医連のとりくみ、地協・県連機能の強化
はじめに
広島で開催された第43回総会から2年、私たちは共同組織の仲間と力を合わせ、全国でいのちの平等をめざし、総会方針を実践してきました。憲法9条の改憲を許さないことを43期最大の運動課題としてとりくみ、発議させることなく第44回総会を迎えました。
2010年に開催された第39回総会で、61年の綱領改定後の民医連の全国の実践から引き出された英知と教訓を踏まえ、時代にふさわしい民医連運動の発展を展望し、民医連綱領を改定しました。今回の総会では、改定の経過について記念講演で学びました。
この10年は社会保障を解体し、国民の苦難を拡大させ、執拗に憲法を変えようとしてきた勢力と、憲法を生かし、平和と人権といのちが何より大切にされる社会をめざす共同の運動とのぶつかり合いが、激しさを増した時代でした。その中で、私たちは民医連綱領を力に、共同組織の仲間と力を合わせ、無差別・平等の医療と福祉の実践を旺盛に展開してきました。
今総会では、この10年の歩みを概括し、今後10年の民医連運動の大局的な方向を議論し、無差別・平等の医療と福祉の実現へ向けて、全国の団結を強めていくステップとしましょう。
第44回総会は、①情勢の特徴を民医連綱領の立場から明らかにし、綱領改定からの約10年を踏まえ43期の総括を行い、2020年代の課題と44期の方針を決定し、②44期の実践に責任を持つ役員を選出、③43期の決算を承認し44期の予算を決定しました。
全ての県連、法人、事務所で総会方針を学び具体化し、実践していきましょう。
第1章 民医連綱領改定10年の歩みと2020年代の課題
第1節 綱領改定の呼びかけと改定の中心点
1997年2月、32期第2回評議員会において、これまでの到達点を確認し、未来に向けて「民医連の医療・福祉宣言をつくる」と呼びかけが行われました。多くの職場で宣言づくりがとりくまれ、全事業所の7割がそれぞれの宣言をつくり、2002年、第35回総会の「全日本民医連の医療・福祉宣言」(以下、「宣言」)に結実しました。その後数年間「宣言」の視点でのとりくみがすすむ中、2006年の第37回総会において「綱領改定の呼びかけ」がされました。この背景には、医療技術や患者の人権という点での大きな前進の反面で、社会保障費削減政策の実行という情勢、主体的な問題では、介護分野を含め規模を拡大した民医連内部の諸矛盾の今日的な打開の必要性がありました。
新たな綱領では、まず、新自由主義的「構造改革」に対抗する中で発展させた人権尊重と「共同のいとなみ」の理念、社会保障の担い手としての自らの主体的な役割を明記すること、そして、日本国憲法に依拠し、世界平和の実現と健康権・生存権保障の展望を明示すること、また、歴史と教訓を次世代に引き継ぎ、人間性豊かな専門職を育て、共同組織とともに民医連の継続・発展を期すこと、以上を簡潔に表現できるものをめざすこととしました。
第2節 綱領改定10年の歩み
(1)綱領改定からの約10年間、日本の社会と政治は激しく変化しました。超高齢社会の進行、少子化にも影響するほどの貧困と格差の広がり、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故、気候変動によると思われる自然災害の多発など、国民生活に深刻な影響を与えてきました。貧困と格差を拡大した「構造改革」路線などへの不満の増大をきっかけに政権交代が実現しましたが、わずか3年3カ月で民主党政権は退きました。政権に復帰した第2次安倍内閣は、新自由主義的な成長戦略、軍事力の強化、ならびに社会保障理念の変質と費用削減を消費税増税とセットで強行し、国家主義的な主張を強めながら9条改憲をめざし突きすすんできました。
民医連は、国民生活の困難と戦後の平和憲法体制の危機に対し、原発再稼働反対、戦争法反対、9条改憲許さない総がかり運動、辺野古米軍新基地建設反対の沖縄県政実現、市民と野党の共同による国政選挙まで、市民社会(※注)の一員として共同の輪に加わり、広げる役割を担ってきました。特に、民医連の活動の根拠ともなっている憲法を変える動きには、組織をあげて対峙してきました。2017年7月の国連総会での核兵器禁止条約の採択は、長年にわたり被爆者をささえ、原水爆禁止を求める日本の声を発信し続けてきた民医連として歴史的で感無量の出来事でした。社会保障制度を守り充実させる運動では、常に各地の現場における患者、利用者、医療・介護労働者の実態を告発し、運動を広げ、2013年には「人権としての医療・介護保障めざす民医連の提言」(※注)を発表しました。
2011年3月の東日本大震災・東京電力福島第一原発事故では、過去の災害支援と被爆者医療の経験を生かし、多くの団体・ボランティアと協力、連携した活動をすすめ、MMATの創設とその後の災害支援活動強化につなげてきました。また、無差別・平等の医療と福祉の実現を使命とする組織として、医療・介護複合体としての展開、地域ネットワークへの積極的参加と強化、共同組織とともに地域の福祉力を高めるまちづくりの活動などをすすめてきました。2010年、綱領を改定した第39回総会で、健康権(Right to Health)の位置づけを明確に打ち出し、健康の社会的決定要因(SDH=※注)の探求と克服の実践をすすめ、2016年の第42回総会にて、健康権保障の視点を明確にした「民医連の医療・介護活動の2つの柱」(※注=以下、「2つの柱」)を具体的に提起しました。各県連で積極的に受け止められ、豊かな実践がすすめられています。
以上、10年間の主なとりくみを列挙してみると、国民主権と平和的生存権をうたい、全ての人が個人として尊重される社会をめざすという日本国憲法に依拠し、「共同のいとなみ」を基本理念に人権を守る医療・介護活動をすすめ、多くの人びとや団体と協力して行動していくという、総じて改定した民医連綱領の生きた実践として特徴づけられます。
(2)しかし、まだ社会保障の後退を食い止めることはできていません。たび重なる制度改悪と国民負担増により、もはや「世界に冠たる国民皆保険制度」とはほど遠く、お金のあるなしで提供される医療・介護のアクセスに少なからず格差を生みだしています。2012年の社会保障制度改革推進法は、基本的考え方に自助、共助、公助論を据え、国の役割を家族・国民相互の助け合いの仕組みを通じてその実現を支援するもの(推進法第2条)と変質させました。極端に増加した不安定就労者層が20年後には高齢期を迎えようとする中、人びとの生きる希望にかげりを生みだすことは確実です。あらためて、社会保障は人権であり、社会の生みだした富の再分配であること、そして権利を抑圧されている人びとの声と運動がなければ前進しないことを認識し、政治を変え、制度を改善する運動をすすめなければなりません。
綱領を実践する民医連組織として打開が急がれる課題は、医師をはじめとするスタッフ不足と経営的な困難です。この間、世論を動かす運動の中で1学年1600人以上の医学部定員増を勝ち取りました。しかし、中途退職、定年医師の増加などにより民医連全体の医師の不足と高齢化を招き、存続が危ぶまれる民医連の病院、診療所が少なからず存在します。また、看護師、介護職員の確保も厳しく、事業展開に支障をきたしています。民医連で学び、働き、ともに発展させる意義を実感できる学生対策や研修の充実、私たちの実践に共感してもらえる既卒スタッフの獲得に、いっそうの努力と新たな仕組みも必要です。
また、制度改悪による受診・利用抑制、診療・介護報酬の抑制により、経営環境は大変厳しくなっています。病床機能や介護施設体系と変化する地域ニーズとのミスマッチがあったり、経営管理が未熟なために問題発見と対策が遅れ、急速に経営悪化するケースが増えています。病気や障がいを持っていても住み慣れた地域で暮らし続けられるように、生活と人生に寄り添った医療と介護を提供する事業所、施設群を構築すること、アウトリーチを含め地域で患者、利用者確保に努めること、制度改善の運動でかかりやすくすることによって経営改善をはからなければなりません。それぞれの個別の法人の努力では困難を乗り切る展望が見えないところも出てきており、県連、地協としての協力や展望づくりが求められています。
第3節 平和と個人の尊厳が大切にされる2020年代へ
(1)平和、地球環境、人権を守る運動を現場から地域へ、そして世界に
平和であること、地球環境を保全することは、人類の生存と健康にとって前提となるものです。まず、第2次世界大戦の惨禍と犠牲のもとに獲得した憲法9条を守ることは、保健医療分野で活動する私たちの責務であり、ひきつづき、安倍9条改憲を阻止する運動をすすめます。核兵器廃絶を求める運動は、2020年4月のNPT再検討会議(※注)を皮切りに、時間の問題となっている核兵器禁止条約(※注)の発効など、大きな山場を迎えます。「生きているうちに、核兵器廃絶を」という被爆者の悲願を実現する時代としなければなりません。また、普天間基地撤去と辺野古米軍新基地建設反対の運動は沖縄県民の総意であるとともに、東アジア地域の新たな軍事的緊張を避ける平和のための象徴的なたたかいであり、政府が建設を諦めるまで続けます。
国連のSDGs(※注)でも13番目の目標に挙げられている地球環境を保全する運動では、いよいよ気候危機(※注)という認識が広がり、世界の青年が行動に立ち上がっています。地球環境にかかわる国際的規範は、1992年の環境と開発に関する国連会議で合意された「リオ宣言」とそれに続く気候変動枠組条約、生物多様性条約です。リオ宣言の第1原則は、「人は自然と調和しつつ健康で生産的な生活を営む権利を有する」と明記しており、各国に環境権を人権として確立することを求めています。歴史的に公害問題に深くとりくんできた民医連として、原発ゼロを実現する課題を含め、ギアを入れ替えてとりくみを強化します。
民医連は、患者、利用者の人権保障のとりくみを歴史的にも重視してきました。世界的には、誰もが尊厳を持って生きられる社会に向かって、女性、子ども、障がい者、移住労働者、差別的な待遇に置かれた人びとの尊厳を保障する国際的な規範(※注)が着実に確立してきました。今後民医連は、日本と世界の人権保障の現状と課題をあらためて学び、多様性を認め合い、個人の尊厳を第一とした国内外の共同した運動にとりくみます。
(2)健康格差の克服に挑む医療・介護の創造と社会保障制度の改善
人の健康の阻害要因は、大きく分ければ個々人の生物学的な要因、社会的な要因(SDH)、環境を含む外的要因があり、それぞれ関連し合っています。民医連は、貧困や公害、災害など、社会的、外的要因による健康問題へのとりくみを重視してきた先駆的な歴史があり、今後もいっそう発展させます。最近では、SDHや地球環境の変化に伴って起こる健康問題に対する関心が医学界でも、社会的にも高まってきており、今後の発展が期待されます。また、遺伝子、分子生物学的なレベルでの病因の解明や治療法の開発に代表される医療技術の発展があり、超高齢社会、貧困と格差拡大によるストレス社会を迎える中で、心身の多疾患併存状態や治療内容の複雑化、治療とケアの場の類型化に対応できる地域医療・介護の構築が求められています。
民医連の医療と介護は、地域、現場での患者・利用者の声と困りごとから始まって、具体的な健康問題を「共同のいとなみ」として解決していくことをモットーとしてきました。健康格差克服を人権保障の視点ですすめるためには、まず、主体者、主権者である患者や住民の自己決定と参加が十分確保される必要があります。そして、ヘルスケア提供者は「共同のいとなみ」の視点での患者、住民に寄り添った多職種協働を強化し、行政には財政的・法的責任を果たすよう求めなければなりません。
今後の医療と介護活動においては、「2つの柱」をいっそう深化させ、個人のアドボカシー(※注)からまちづくりまで視野に入れたヘルスプロモーションをすすめていきましょう。また、総合的な医療・介護の質向上のために、日々進歩する技術や理論を学びましょう。特に、貧困と格差が広がる社会でSDHを重視すれば、その治療や克服にはソーシャルワーク(※注)機能の強化が重要です。そして、個々の事例の問題解決と制度改善のアクションを同時に全職員でめざしましょう。社会保障制度の改善では、特にこの間の国民健康保険、介護保険、生活保護制度の劣化、改悪は人権じゅうりんと言わなければならず、怒りをもって改善のための行動を強化しましょう。
(3)生活と人生に寄り添う切れ目のない医療・介護の体系と方略づくり
地域医療構想(※注)などによって、地域の医療供給体制は様変わりしつつあります。統合により急性期病床が削減された公的病院に地域包括ケア病棟が導入されつつあり、結果として近隣の病院に患者が転院せず、民間病院のベッド削減や閉鎖につながるような状況がすすんでいます。このような中で、無差別・平等の地域包括ケアづくりに主体的に参加し、経営的にも前進できる展望をつくりだす必要があります。
民医連の病院、診療所は、病院機能が類型化され、医療職種の専門分化がすすむ中、医療・介護施設の連携と多職種協働の地域におけるハブ機能を担い、介護事業所や施設は、認知症や障がいがあっても住み慣れた地域での尊厳ある生活をささえる力量と体制を構築することが大切です。そのためには、県連・法人では患者、利用者の人生の最後まで寄り添える統合的な事業所体系づくりをすすめ、地域での連携をより深く、広くすることが重要です。個々の法人の独自努力だけでは突破できない状況も広がってきており、経営協力や法人統合も視野に入れて、県連的な討議と計画づくりにとりくみましょう。
(4)高い倫理観と変革の視点を養う職員育成の前進
「全ての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利について平等である」(世界人権宣言第1条前段=※注)、これが今日の人間の尊厳と権利における世界的規範の原点です。そして今日では、多様性の尊重が全ての個人の尊厳を確固としたものにする上で重要という認識が広がっています。日本国憲法には、平和主義と基本的人権が明記されており、個人の尊厳を守ることを国の義務としました。そして、民医連綱領は、私たちのめざす医療・介護の根本に「無差別・平等」を、日々の行動理念に「共同のいとなみ」を掲げています。
日々の医療・介護現場では倫理的なジレンマが増え、競争主義と自己責任論がはびこる現代社会の矛盾も激しく、対応を迫られる問題が山積しています。これらに立ち向かうためには、人びとが権利として健康と幸福に向かって歩むこと、支援する立場にある職員が民医連に確信を持って生き生きと活動することが肝心であり、憲法と民医連綱領を羅針盤にした高い倫理観と変革の視点を養う職員育成の前進が不可欠です。
43期に「民医連の綱領と歴史を学ぶ大運動」にとりくみ、職員の中に誇りと確信が広がりました。まず、民医連綱領に掲げる使命を果たすためには、民医連に参加する学生、青年職員の感性と知性を信頼することが大切です。今後、世界的な人権保障の到達点に学び、綱領改定10年の中で発展させてきた民医連運動の理念や理論を踏まえ、人権と「共同のいとなみ」を価値とする組織文化が各世代、各職種部門全体に広がり、定着するよう努力しなければなりません。これらを促進するために、「民医連の教育指針」を改定していきます。
第2章 情勢の特徴
第1節 市民社会が平和と人権を実現する時代への胎動
(1)核兵器廃絶、地球環境の保全、格差と貧困の是正、人権保障の動き
第43回総会は、核兵器禁止条約、経済グローバリズム(※注)と新自由主義(※注)がもたらした貧困と格差に立ち向かう世界各地の市民運動の高揚、日本での戦争法廃止、立憲主義(※注)の回復を旗頭にした市民と野党による選挙共闘の成立など、平和と人権を願う運動が、紆余曲折を経ながらも着実に世界と日本を変えていると提起しました。この2年間、この流れはより大きくなり、当事者が声をあげ、市民社会が平和と人権、すべての個人が尊厳を持ち生きられる社会を実現する時代が芽生えています。
人類の死活問題となっている核兵器禁止へ向け、2017年7月、国連で圧倒的多数の国々の賛成で採択された「核兵器禁止条約」は、すでに80カ国が署名し、34カ国が批准を済ませました。50カ国目の批准書が預託されれば90日で発効します。120カ国以上が条約の採択を支持してきた経緯から、発効は時間の問題です。国内の世論でも、6割以上の国民が核兵器禁止条約の批准を望んでいます(NHK調査)。この流れを推進しているのは、1000万を超える「ヒロシマ・ナガサキの被爆者が訴える核兵器廃絶国際署名」(ヒバクシャ国際署名)を国連に提出するなど、核兵器廃絶を願う被爆者と市民社会の共同の歩みであり、核兵器のない世界へむけ、アジア・ラテンアメリカなどで広がる紛争の平和的解決、非核地帯条約の締結などをすすめる「平和の地域協力」の運動です。
また、人類が直面している最大の課題である気候危機に対し、未来を奪われまいとする人びとが、世界中で声をあげています。2019年9月に開催された「国連気候行動サミット」を前に、160カ国以上で数百万人が参加する国際同時行動が行われました。「気候のための学校ストライキ」で始まった若者たちの運動「未来のための金曜日」は世界と日本に広がっています。こうした世論の高まりの中、多くの国で、再生エネルギーがもっとも安価なエネルギーとなり、金融機関の中では、資源循環型のビジネスを支援し、二酸化炭素を排出する石炭火力への融資をしないところも生まれています。気候変動に対して「非常事態宣言」を出す自治体も急増し、自治体ぐるみで地球温暖化対策が始まっています。
広がる格差と貧困の中、高すぎる学費と家庭の経済力により教育を受ける権利を奪われてはならないと高校生、大学生が立ち上がっています。国立・私立大学の学費の値上げと、修学支援制度に伴う各大学独自の授業料免除制度廃止の中止を求める運動もすすんでいます。
いま、世界でも日本でも、ジェンダー(社会的・文化的性差)平等(※注)を求める運動、「#MeToo」「#With You」(※注)などを共通の合い言葉として性暴力をなくし、性の多様性を認め合い、性的指向と性自認を理由とした差別をなくし、誰もが尊厳を持って生きる社会をめざす運動が広がっています。また、格差と貧困の世界的規模での広がり、気候危機など利潤が第一の社会の矛盾が広がり、資本主義社会の本質を解明したカール・マルクス(※注)が話題となっています。
(2)2019年参議院選挙の結果と、もうひとつの社会をつくる展望
43期第2回評議員会は、2019年7月の参議院選挙をいまの異常な政治を変えていくチャンスとして、憲法、平和、人権を守り抜こうと提起しました。とりわけ、43期の最大の運動課題として位置づけた「憲法を守り抜く」ために、市民と野党の共同をさらにすすめ、自民党、公明党、日本維新の会など改憲をすすめようとしている政党の議席を、改憲発議が不可能となる3分の2を下回るものにしようと呼びかけてきました。
参議院選挙では、市民と野党の共闘が前進し、32ある全ての1人区で野党が統一候補を擁立、10の1人区や複数区でも勝利した結果、自民党は単独過半数の議席を確保できず、改憲勢力は改憲に必要な3分の2の議席を割りました。「2020年の施行に向け、9条に自衛隊を明記した憲法の改正を行う」とした安倍首相に対して、同意しないという民意が示される結果となりました。また、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(以下「市民連合」=※注)と立憲民主党、日本共産党などの野党は、「だれもが自分らしく暮らせる明日へ」のスローガンで作成された13項目の政策合意を結び、大きな運動に発展しています。
この政策合意では、安保法制(=戦争法)の廃止と立憲主義の回復、憲法9条改憲発議そのものについても反対、辺野古新基地建設中止、普天間基地の撤去、日米地位協定の見直し、消費税10%への引き上げ中止にとどまらず、格差と貧困の解消に向けて最低賃金1500円をめざすことや、国民の暮らしを応援する社会保障をすすめるため、財源として所得税や法人税、資産に対する課税などを見直していくこと、LGBT(※注)の差別解消、ジェンダー平等・女性差別撤廃、選択的夫婦別姓などが明記されました。これらの政策は、安倍政権がすすめてきた軍事大国化や格差と貧困のいっそうの拡大、社会保障解体など新自由主義的「改革」に代わるもうひとつの国の姿、希望を示しています。そして、いのち、憲法、民医連綱領の視点から民医連が政治に求めてきた要求と一致します。
参議院選挙が切り開いた展望をステップに、衆議院選挙も含めて、民医連として安倍9条改憲の阻止、政策合意実現の運動を力強くすすめていきます。
(3)平和・環境擁護・人権の実現などを求める声に逆行する日本政府
日本政府は、核兵器禁止条約を巡り、NPTの根幹である6条(※注)を削除した決議案を国連に提案するなど、核保有国といっしょになり妨害者とも言える行動をとっています。フランス、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツなど主要な先進国が石炭火力から撤退する中、先のCOP25において日本政府の代表は2018年8月に改定したエネルギー基本計画(2030年度のエネルギー構成として原子力20~22%、石炭火力26%、再生可能エネルギー22~24%など)に固執し、「石炭など化石燃料を使う発電所は選択肢として残しておきたい」と発言するなど、世界に大きな失望と不信を与え、世界的な温暖化対策強化の流れから大きく取り残される恥ずべき姿を示しました。
国内でも、9条改憲に固執し、憲法と立憲主義を破壊、何度も示された民意を完全に無視し「辺野古が唯一の解決策」と暴力的に県民を排除しすすめる辺野古新基地建設、消費税増税の強行、雇用ルールの破壊、侵略戦争の肯定・美化、アジアの国々との緊張を高める行為、個人の尊厳を踏みにじる行為、遅すぎる災害対策、森友・加計問題、「桜を見る会」での政治の私物化、隠ぺい、改ざんなど、民主主義の根幹を破壊する行為を続けてきたのが安倍政権です。
こうした中で政府が出した2020年度予算案は、社会保障費を抑制し、消費税を増税する一方で防衛費を過去最高額とするなど、国民に4兆円を超える消費税増税を押し付けながら、国民生活を犠牲にし、戦争する国づくりへすすむ政府の姿勢を端的に表しています。
税収では、消費税が21兆7190億円、法人税は大企業への減税をさらにすすめたため、12兆650億円、所得税19兆5290億円となり、消費税が最多の税目となりました。消費税が導入された1989年は、消費税約3兆円、法人税約19兆円、所得税が約21兆円でした。税制度がもっとも不公平な消費税で税収がささえられるというゆがみきった姿になりました。(表A)
支出では、4回連続の診療報酬マイナス改定などで、社会保障の自然増分5300億円を1200億円削減、年金の実質的減額など、必要な社会保障費用を大幅に抑制しようとしています。一方で、防衛費を過去最大の5兆3133億円とし、6年連続で膨張させ続けています。
また、防衛費と並行して編成された2019年度補正予算案に4287億円を計上し、当初の防衛費予算案を小さく見せるやり方が、安倍政権下で恒常化しています。それは、トランプ大統領からの圧力で、アメリカ政府から武器を購入する「有償軍事援助(FMS)」契約(※注)を安倍政権が急増させたためです。補正予算にFMSだけでも1773億円が計上されています。その結果、2019年度の防衛費の合計は5兆7000億円となり、国内総生産(GDP)比は1%を超過しました。
第2節 格差と貧困の広がりと超高齢社会・人口減少
(1)アベノミクスから8年~より広がった格差と貧困
アベノミクスによる経済政策のもとで、大企業と富裕層の利潤は膨大となり、多くの国民の生活実態との格差は大きく広がっています。経済格差の広がりは、「健康格差の広がり」となり、国民の受療権を奪っています。
子どもの7人に1人が相対的貧困状態にあり、年収200万円未満の労働者は2018年には1098万人、労働者の21.8%に上り、13年連続で1000万人を超えています。非正規労働者数も2018年には過去最高の2120万人で正規雇用労働者の伸びを上回り、全労働者の中で37.8%に達しています。リーマンショック前と比較すると、年収300万円以下の労働者が増加し、500万円以上の中間層が減少しています。企業の経常利益、配当金と人件費の伸びを2012年度と2017年度で比較すると、経常利益1.7倍、配当金1.6倍に対して人件費は1.05倍にとどまっています。国際的にも、先進国の中で日本だけが賃金が上がらない異常な国となっています。(表B)
さらに、消費税の10%への引き上げは、軽減税率(※注)を含めても国民ひとり当たり年間4.5万円もの負担を増やす見込みです。消費者物価を加味した実質可処分所得(※注)の低下に加え、税・社会保険料の負担増は、安倍政権下で年間12万円におよび、家計への負担をさらに大きくしています。就学援助の利用は145万人、生活保護受給者は163万世帯、208万人と高水準のままです。貯蓄なし世帯は、単身世帯で39%、2人以上世帯でも23%となっています。
生活苦、貧困層が拡大する中、国内で1億1000万円以上の金融資産保有者は281万人に増加し、アメリカと中国に続く、世界第3位となりました。上位10人が持つ金融資産額の合計は、国民ひとり当たり貯蓄額の83万3000人分に相当します。また、非正規雇用の拡大や不公平な税制により、大企業(資本金10億円以上)の内部留保(※注)は、2018年度に史上最高の449兆円(前年から24兆円増)、日本の国家予算を大きく上回る規模です。全企業合計では771兆円(前年から27兆円増)となりました。巨額な内部留保を日本経済と国民生活の再生に還元させていくことが必要です。
(2)人口減少・超高齢化の進行と特徴
2008年をピークに日本の人口は本格的に減少し始めました。近年は、1年間で中核市(※注)1市分に相当する40万人程度減少し、2019年は50万人以上の減少となりました。親となる世代が減っているため、50年は、減少が続く見通しです。
結婚・出産は本来、個々人の自由な意思によって決定されることは当然です。同時に、さまざまな社会的要因、経済的要因が大きな影響を与えています。現在、30代半ばから40代後半は、90年代半ばの就職氷河期世代と呼ばれ、非正規雇用が多く、賃金水準もほかの年代より低くなっています。雇用形態による結婚割合の調査では、20代後半で正規雇用32%、非正規雇用13%、30代前半でそれぞれ58%、23%と2倍の格差が生まれています(2014年労働政策研究・研修機構「若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状②」)。労働分野の規制緩和が拡大され正規雇用の削減、非正規雇用の拡大がすすめられる中で、低賃金・不安定雇用が、子どもを産み育てる環境を奪っています。雇用を安定させ、賃金を保障すること、少子化対策の基本とされている就労と育児の両立のための環境整備、ほかの先進国と比べて高すぎる個人負担の改善などに抜本的に転換する必要があります。
高齢化率(総人口に占める65歳以上の割合)は、2017年に過去最高の27.7%、2025年には3割、2050年には4割弱にまで達すると推計されています。75歳以上は、2025年の段階で人口の2割を占め、これまでにない超高齢社会を迎えると推計されています。また単独世帯は、高齢単身者・ひとり親世帯・壮年未婚者の増加により、2035年には37.2%となると見込まれています(国立社会保障・人口問題研究所2013年1月)。
人口減少・超高齢化に本格的に突入した社会で、貧困層が増え、所得・仕事、住居の不安、ささえ合いの困難が拡大しています。社会保障による生活保障なしには、孤独死など孤立はいっそうすすみ、社会の解体にも結びついていきます。非正規雇用、単身高齢者、ひとり親世帯など世代や職業を問わず、公的な支援制度を拡充し、権利としての社会保障を全世代へ向けて底上げすることなしには解決しません。
第3節 医療・介護・社会保障を巡る情勢
2012年12月に発足した第2次安倍政権は、当時の民主党と自民党、公明党の3党の合意で成立した社会保障制度改革推進法(社会保障と税の一体改革)をすすめ、社会保障を解体してきました。この改革は、1950年の社会保障審議会勧告が示し、「国民には生存権があり、国家には生活保障の義務がある」と憲法25条にもとづいてきた社会保障の理念を、「政府は、住民相互の助け合いの重要性を認識し、自立・自助のための環境整備等の推進を図る」と社会保障における国家責任を変質させました。また、社会保障の主たる財源を消費税に求め、企業負担を限りなく軽減する方向をめざしてきました。変質させられた社会保障理念の上に立って、「国家財政危機は社会保障に対する過重な税金投入が原因」という虚構を喧伝し、社会保障の自然増を認めないとし、過去のどの内閣も手をつけなかった生活保護法を大幅改悪し、2013年から2018年までに年金、医療、介護の改悪で、社会保障の費用を4兆3000億円も削減、診療報酬、介護報酬は減らされ続けています。利用者の自己負担を増やし、他方で社会保障サービスを削減してきたのが、安倍政権の言う「持続可能な社会保障制度」の姿です。(表C)
(1)全世代型社会保障改革は人権を蹂躙し生活を破壊するもの。断固撤回を求める
今後の安倍政権が描く「社会保障の未来」はどうなっているでしょうか。
2012年から続いた社会保障制度改革推進法による社会保障解体は、2019年10月の消費税10%への引き上げをもって、いったんの区切りとなりました。しかし、社会保障制度改革推進法の基本は、骨太方針2019や2019年9月から検討が開始された安倍政権の「全世代型社会保障改革」に引き継がれ、さらなる給付削減と全世代への負担増を強いる内容が検討されています。これからの給付削減と負担増の根本には、必要な社会保障の財源を主に消費税でまかなうという制度の誤りがあります。消費税の10%への引き上げを強行した際、安倍首相は、国民の反発に対して「10%以上は引き上げない」と発言しました。主に消費税に頼る制度では、社会保障の充実のための財源は、今後増やせないということを認めたものであり、この政策の破たんが明確となりました。
2019年12月19日、全世代型社会保障検討会議は中間報告を出しました(以下、「中間報告」)。「中間報告」は世代間の対立をあおりながら、社会保障費用を負担する現役世代が減少することに対し、国と企業の負担を増やさず、高齢者を負担の担い手とするとして、そのために、年金受給開始年齢の70歳もしくは75歳への引き上げを前提に、事業主に対し①定年の廃止、②70歳までの定年延長、③定年後または65歳までの継続雇用の終了後も70歳まで雇用継続、などを制度化するという努力義務を課すことで、実質的に70歳まで働き続けるよう促しています。雇用年齢の延長を社会保障に組み入れることで社会保障全体を新たに再編・削減をはかるものです。
年金制度で深刻な問題は、この改革では2046~47年まで、「マクロ経済スライド」(※注)により基礎年金の給付額7兆円を削減することが前提となっていることです。現在、満額でも月額6万5000円に過ぎない基礎年金が月額4万円台の水準となり、国民年金のみの受給者や、2000万人を超える非正規雇用労働者など厚生年金の低額受給者は深刻な被害を受けます。
医療保険制度の改革で具体的に示された改悪は、第1に医療提供体制の縮小をめざして、①地域医療構想による病院と病床の削減強行(2025年に完成をめざす)、②医師の養成数を減らし、現行の長時間労働を前提に都道府県内で相対的に多いとされる区域から、少ないとされる区域へ医師を移すことを内容とした医師偏在対策をすすめる(2036年までに全ての地域での偏在の解消)、③地域医療にかかわる医師・研修医について、過労死ライン(残業月80時間=※注)の2倍にあたる年間1860時間の残業を認める医師、歯科医師などの働き方改革、看護師による医行為の実施など医療職種の役割分担の見直しにより、今後の高齢化による需要増大と医療従事者の減少に対応する、としました。厚生労働省(以下「厚労省」)はこの3点を「三位一体」にすすめるとしていますが、医療費削減の実現のために、地域医療を壊し、医師の増員をせず、長時間過密労働の改善に背を向けた政策であることは明確です。
第2に負担増では、①75歳以上の後期高齢者の窓口負担割合を一定所得以上の場合は2割に、②現在の紹介状のない患者の大病院への外来受診の定額負担の仕組み(※注)を200床以上の一般病院に拡大する、という見直しを行うことをまとめました。患者になれない病人をさらに増加させ、地域医療をささえている中小病院の役割を否定し地域医療を破壊するものであり、決して認めることはできません。
また、高すぎる健康保険料(税)値上げを迫り市町村国保の法定外繰り入れ(※注)の解消へ向けた計画策定、都道府県内の国保料水準の統一も迫っています。
第3に予防・介護では、厚生労働省が、介護保険の次期見直しとして、「中間報告」と並行して検討がすすめられてきました。撤回を求める当事者団体や事業所の運動により、最大の焦点になっていた「ケアプランの有料化」「要介護1、2の生活援助等の見直し」などの制度の改悪は次期改定には盛り込めませんでしたが、補足給付(低所得者を対象とする施設などでの居住費・食費負担の軽減制度)の縮小や高額介護サービス費の負担上限額の引き上げなどの新たな負担増案が盛り込まれています。補足給付の改悪によって施設からの退所を余儀なくされたり、入所の申し込みすらできない事態が広がることになります。さらに75歳以上の医療費窓口負担金の見直しに連動させる形で「現役並み所得」基準の見直しについて、2020年の骨太方針に向けて結論を出すとしています。今回見送られた「ケアプランの有料化」「要介護1、2の生活援助等の見直し」については、ひきつづき検討課題として挙げている点も重大です。調整交付金(※注)を流用して自治体に給付削減を競わせる仕組みの強化なども盛り込まれています。利用者に新たな困難を押しつける改悪を許すことはできません。
「中間報告」では介護インセンティブ交付金の抜本的強化、持続可能性の高い介護提供体制の構築として、介護現場への介護ロボット・ICTの導入の加速化による生産性の向上、自立支援への介護事業者へのインセンティブの強化、混合介護の推進、介護報酬・人員基準の見直しなどによる、介護の効率化と介護の産業化=営利化などを盛り込みました。
こうした社会保障制度の改悪の動きとともに、2019年12月4日、日米貿易協定(※注)の承認案が強行採択されました。今後、日米FTA(自由貿易協定)の交渉入りを宣言し、医薬品および医療機器も含め22項目にもおよぶ交渉目的が列記され、TPP(※注)以上の包括的な自由貿易協定となっています。日米FTAが、食の安全、医薬品や医療機器、公共調達など、食や医療、暮らし全般に影響をおよぼすことは明白です。アメリカからの圧力の中で、健康といのちをもうけの対象にする政治をさせてはなりません。
(2)地域、医療・介護関係者、自治体から広がる全世代型社会保障改革反対の声
「中間報告」は、改革の推進力は国民の幅広い理解であるとしていますが、これらの制度改革はすでに多くの国民から批判が噴出しており、到底理解できるものではありません。
2019年6月、全国後期高齢者医療広域連合協議会(※注)から窓口負担増の中止、国庫負担の増額を求めるなどの要望書が厚労省宛に提出されました。9月、厚労省が地域医療構想を巡り、再編統合が必要と一方的に判断した424病院の公立・公的医療機関リストを公表すると、自治体関係者、医療関係者、地域住民から不安と憤りが広がっています。(表D)
中央社会保障推進協議会(中央社保協)など6団体が「公立公的病院等統廃合・再編阻止共同行動」をスタートさせました。
日本医師会は高齢者の負担増に対して「財政的にささえられないからといって患者に負担を求めるのは、国民皆保険の理念に反する」と反対を表明しました。また、「中間報告」についての世論調査では、75歳以上の医療機関での医療費窓口負担金は「原則1割を維持するべき」が55%、「原則2割に引き上げるべき」は39.4%となっています。60代以上とともに、20代、30代でも「原則1割」が上回っており、現在の負担増、給付削減がすでに限界であることを示しています。
日本の医療費窓口負担金は世界的に見てすでに高額であり、医療へのアクセスの大きな障害となっています。財源の不足を窓口負担増で補うことは、国民皆保険制度の空洞化でしかありません。ヨーロッパ諸国やカナダでは、公的医療制度の窓口負担はゼロか、あっても少額の定額制です。先進国では当たり前の「窓口無料」をめざすことこそ、いま必要な改革です。(表E)
今後、国は2020年夏に最終報告をとりまとめ、2021年の法案提出をめざすとしています。44期、地域の中で医療・介護の仲間、自治体関係者、共同組織とともに、健康権を壊す「全世代型社会保障改革」とのたたかいをすすめ、総力をあげてかならず阻止しましょう。
(3)「認知症施策推進大綱」を巡って
2019年6月、政府は「新オレンジプラン」に続く新たな認知症施策として「認知症施策推進大綱」(以下、「認知症大綱」)を発表しました。「共生」と「予防」を柱に掲げ、「啓発普及・本人発信支援」「予防」「医療・ケア・介護サービス・介護者への支援」「認知症バリアフリーの推進・若年性認知症への支援・社会参加支援」「研究開発・産業促進・国際展開」の5つを柱としています。策定の経過で、認知症予防の数値目標(70代での発症を10年で1割、2024年までの6年間で6%低下させる)が示されたことに対して、「認知症になったのは自助努力が足りなかったという風潮が広まらないか」など当事者・支援者から不安の声、批判が殺到し、数値目標は撤回されました。しかし、この目標設定の背景に「認知症の社会的コストの増大」という政府の認識があったことは見逃せません。
「認知症大綱」について各地でとりくみを推進するとともに、政府や自治体でのとりくみの内容、遂行状況をチェックし、施策の改善、財政的な保障を求めていくことが必要です。現在国会で検討されている「認知症基本法」に対して、認知症の人と家族の尊厳を真に守るものになるよう運動の視点からも働きかけます。
(4)「自治体戦略2040構想」と安心して住み続けられるまちづくり
社会保障の解体がすすめられる中で、誰もが安心して住み続けられるまちづくりへ向けた私たちのとりくみは大切な対抗軸です。
国は、2017年の社会福祉法一部改正法改正(※注)で、「地域住民等」に対し、「福祉・介護・介護予防・保健医療・住まい・就労及び教育に関する課題」や社会的孤立といったさまざまな生活問題について、支援関係機関と連携し解決をはかるよう義務づけました。また、新たに社会福祉法人やボランティアなどに、地域福祉の推進にかかるとりくみを行うほかの地域住民などとの連携をはかる努力義務を課し、福祉サービスの提供を「地域」に担わせるアウトソーシング化、ネットワーク化をすすめてきました。また、水道事業など自治体業務の民営化、企業参入もすすんでいます。
こうした中で2018年に出された「自治体戦略2040構想研究会第一次、第二次報告」は、2040年ごろの日本の姿を、人口減少が深刻化し高齢人口がピークを迎えるため、公共部門が維持できるサービスや公共施設が減少する、若年者の減少が労働力不足につながるため、現状の半分の公務員でまかなえる地方行政体制の確立をすすめる必要があるとしました。この方向のもと、憲法にある自治体の責務(※注)を放棄し、「自治体は、福祉などの公共のサービスを提供する地域づくりを誘導、推進する役割のみを負う(プラットフォーム・ビルダー)」としました。そして責任を地域に押しつけ、国がやるべきことを住民が代わりに担う仕組みとし、原則として公的負担ではなく、企業の寄付やボランティア、投資などにより「地域」が「自主的に」まかなうとしています。このもとでは、営利主義に耐えうる法人経営が求められ、その行きつく先は「採算のとれない地域ではサービスが提供されない」という事態が生まれることにもつながり、安心して住み続けられるまちづくり、国民生活にとって大きな困難をもたらすことになります。
第4節 憲法、戦争する国づくり、辺野古新基地建設、原発を巡って
(1)日本を戦争する国に変える自民党4項目の改憲案
各種の世論調査で「安倍首相のもとでの憲法改正」は、反対が6割前後と多数を占め、国がやるべきことの調査でも憲法改正は5%程度しかありません。しかし、安倍首相と自民党はこの民意を無視し、「自民党一丸となった改憲を」と各地で改憲発議へ向け自民党改憲案の説明会などをくり返し開催、草の根から改憲発議への異様な執念を示し、国会での憲法審査会開催を執拗に求めています。
自民党改憲案は、①9条1項、2項を残し、「9条の2」をつくり、自衛隊を明記する、②緊急事態条項、③合区の解消、④教育の充実の4項目です(※注)。最大の目的は、①の「自衛隊の9条への明記」です。自民党改憲推進本部の有力案は以下です。「9条の2『前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。②自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する』」。ここには、日本を戦争する国として完成させる3つの危険な内容があります。第1に、1項、2項を明確に否定し、「必要な自衛の措置」をとるためには、「戦争の放棄」や「戦力を持たない」、「交戦権の否認」は無視しても構わないとしていることです。第2に、安保法制(=戦争法)の成立により海外で武力行使も可能となった自衛隊の軍事行動が憲法上認められ、アメリカとともに世界中で戦争することになります。9条2項にある「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」という自衛隊の活動に対するしばりはなくなり、自衛隊が文字通り「戦争する軍隊」に変えられます。また「実力組織」としての自衛隊の規模について制限がなく、どれだけ大きくても構わないとなっています。第3に、戦争する国となることで、何よりも軍隊と戦争が優先するため、社会保障は軍事費の調達のため削減の対象となり、人権は制限してもよいという国に変えられます。日本社会の自由と人権の状況は大きく変えられます。
(2)進行する安保法制=戦争法の具体化、日米地位協定、辺野古新基地建設を巡って
9条改憲策動と一体に、2015年に安倍政権が強行した安保法制(=戦争法)下で、米軍とともに海外に侵攻する自衛隊に向けた大軍拡と日米軍事一体化がすすんでいます。
千葉県木更津市への陸上自衛隊オスプレイ「暫定配備」や、東京、埼玉、神奈川など首都圏はもとより、全国各地で日常的にオスプレイが飛行し、アメリカの対中国包囲戦略(※注)にしたがって、沖縄県宮古島市と石垣市への自衛隊ミサイル基地の建設がすすめられています。2019年12月27日、安保法制(=戦争法)下で3度目となる自衛隊の海外派兵実績をつくるため、国会審議抜きに「調査・研究」目的でなし崩し的に中東地域に派兵する閣議決定を行いました。しかし、その後の米国トランプ政権は国連憲章を無視した先制攻撃を行い、アメリカとイランの緊張関係は激化しています。自衛隊の中東沖への派兵は、よりいっそう危険きわまりないものとなりました。しかし、安倍政権は自衛隊派兵の閣議決定を撤回せず、派遣を強行しました。安保法制(=戦争法)が、戦地であれいつでも自衛隊を派遣できる危険性が明らかになりました。
いま、日本が戦争に巻き込まれていないのは、憲法9条が、歯止めとなっているからです。
在日米軍による事件、事故、騒音などの被害は戦後75年、絶えず起こり、沖縄をはじめ全国で国民のいのちと生活を脅かしています。2018年に死去した翁長雄志前沖縄県知事を先頭に、現玉城デニー知事や沖縄県民の努力により、これらの根本的原因として、日本の主権と国民の人権をじゅうりんする日米地位協定の問題点があらためて浮かび上がり、全国知事会の提言を受けた抜本的改定を求める世論と、日米地位協定(※注)の改定への機運が大きく広がりを見せています。
辺野古新基地建設が明らかになって、私たちが沖縄県民とともにたたかいをはじめて20年以上が経ちました。日本政府による辺野古の海への土砂投入の暴挙から2019年12月14日で1年が経過しました。沖縄県知事選挙、県民投票、参議院選挙など沖縄県民の「基地建設ノー」の圧倒的民意にしたがわず、違法・無法な行為に1日1357万円の税金が警備費として使われています。多数の貴重な生物やサンゴへの影響などとり返しのつかない環境破壊につながり、いのちの海を破壊する行為を許すことはできません。強行されている工事は「諦めない」「屈しない」と毎日、毎日行われている沖縄県民や全国から駆けつけている仲間の非暴力の抵抗で大きく遅れ、沖縄県の試算でも進捗率はわずか1%程度です。1年間で1%であれば、単純計算で埋め立て完了は100年かかるという声もあがっています。
こうした中、昨年12月末に防衛省沖縄防衛局は、当初の計画では5年間で終了する埋め立て期間は12年かかり、総工費も約9300億円に増えるとの試算を公表しました。新基地建設の上で重要な場所となる大浦湾側は軟弱地盤の存在が明らかになり、大規模な地盤改良が必要となったためです。沖縄防衛局は、地盤改良工事のための設計変更申請が必要となり、沖縄県による新たな許可が必要となります。このような新基地建設を玉城デニー知事、沖縄県民は認めることはありません。
安倍政権が「辺野古が唯一の解決策」と唱え続けることは、危険な普天間基地を固定化させ、空から軍用機やその部品が学校、保育園に降ってくる状況を固定化し続けることです。日米両政府が、誠実に沖縄県と話し合いをすすめ、普天間基地の即時・無条件の閉鎖撤去と、完全に行き詰まった新基地建設を断念することが唯一の解決策であることは明らかです。
(3)東京電力福島第一原発事故から10年目の現実、原発ゼロ基本法案を巡る状況
今年の3月11日で、東京電力福島第一原発事故から10年目に入ります。事故被害は、収束どころか困難を拡大しています。誰も帰還できない帰還困難区域は7市町村あり、事故前の家に戻ることができない県民は、約8万5000人です。震災関連死は直接死1605人を大きく超え2275人、孤独死約70人、自死103人となっています。県内の生業は2010年と比較して、農業で88.8%、林業80.6%、漁業は43.6%とその基盤は回復にはほど遠い状況にあります。こうした現実に、国と東京電力の被害者切りすてが、さらに追い打ちをかけています。
国と東京電力の責任と賠償を巡る集団訴訟は13件で判決が出され、全て東京電力の責任を認める内容、国の責任を求めた10件では、6件が認めました。
事故収束作業は、メルトダウンした核燃料の取り出しのめどはなく、汚染水を貯めるタンクが満杯となる時期が近づいているものの、原子炉建屋内への地下水流入を防ぐ手立ては見いだせていません。廃炉作業に従事する労働者の身分保障と安全の確保、健康管理はいまだ不十分なまま推移しています。
こうした深刻な原発事故を受け、野党の共同提案として2019年に「原発ゼロ基本法案」が国会に提出されました。
この法案は、原発をゼロにできる現実的なプロセスを明確にしています。深刻な地球温暖化対策においても、気温上昇を抑えるために石炭、石油、天然ガスでエネルギーをつくっているものを、基本的に太陽、風力、水力、地熱やバイオマスなど再生可能エネルギーに全て置き換えていく内容です。
1月17日、広島高裁は伊方原発3号機の運転禁止を求める仮処分の即時抗告審で、四国電力の地震や火山リスクに対する評価、調査が不十分であるとし、安全性に問題がないとした原子力規制委員会の判断は誤っていると指摘しました。伊方原発3号機の運転再開は再び認められませんでした。判決の中で、原発の危険性の検証について「福島原発事故のような事故を絶対起こさないという理念にのっとった解釈が必要なことは否定できない」とし、原子力規制委員会の判断について「不合理」と疑問視しました。阿蘇山から同一範囲には玄海原発3、4号機、川内原発1、2号機があり、同様の危険性があります。
安倍政権は原発輸出を「成長戦略」の柱に位置づけ、首相自身がトップセールスで推進してきましたが、イギリスで原発事業をめざしてきた日立製作所が計画の凍結を発表、三菱重工によるトルコ原発輸出も撤退するなど、原発産業の行き詰まりはいよいよ明白です。
第3章 43期の概要
第1節 運動方針に照らしての43期の到達点~2年間の前進への確信を深め、克服すべき課題を鮮明に
民医連綱領の立場から2年間、特に重視し、とりくんできた点は、①憲法を守り、生かす国民運動に参加し、人権、民主主義が輝く平和な未来を切り開くこと、②社会保障の営利・市場化に反対し、共同組織とともに、住民本位の地方自治の発展、安心して住み続けられるまちづくりをすすめること、③「2つの柱」を旺盛に実践し、経営、職員の確保と育成、運動との好循環をつくり出すことでした。
日本を戦争する国にする安倍改憲を止める運動に、市民と野党の共同に民医連と共同組織の仲間も参加し奮闘してきました。2017年5月3日に「憲法9条に自衛隊を書き込む」と安倍首相が行った改憲発言から4回の国会が終わり、発議どころか審議も行えていません。核兵器禁止条約批准への力強い流れ、沖縄の辺野古新基地建設反対の運動も、玉城デニー県知事の誕生、県民投票の圧倒的な民意を示しながら前進しています。
前総会で呼びかけた、綱領改定10年、綱領と歴史を学ぶ大運動は10万人以上が参加し、民医連とは何か、自らの事業所は何のために、誰のためにあるのか、学び、議論され民医連綱領にもとづく日常の医療と介護への確信、民医連綱領を担う人づくりがすすんでいます。
いのちを脅かす社会保障の実質的解体のもと、事例から出発し、無差別・平等の医療と福祉の実践を民医連内外に広げてきました。豪雨災害や台風被害の被災地で、「困難あるところに民医連あり」と真っ先に被災者のもとに駆けつけ、連携して救援活動にとりくんできた民医連への期待が広がっています。「2つの柱」が2年間の実践を通じて深まり、無差別・平等の医療と介護の実践と創造が広がっています。
厳しい情勢の中、力を寄せ合いつくり出してきた積極面に確信を持ちつつ、未来へ向けて克服すべき課題を鮮明にすることが必要です。とりわけ、民医連の医師数を前進させること、経営課題の前進と経営管理のいっそうの改善、今後さらにすすむ世代交代を見据えた幹部養成、福島・郡山医療生協、長野・東信医療生協経営対策委員会のとりくみも踏まえ、今日的な県連・地協機能の強化、実践などです。
第2節 いのちと人権を守り抜く運動、憲法、平和、原発ゼロへ向けて
(1)医療・介護現場の困難から出発し、全職員参加の社保運動で人権としての社会保障制度を実現するとりくみ
人権としての社会保障制度を実現していくことを掲げ、社会保障・税一体改革路線のもと、現場で起きている困難から出発し、「事実の重み」を全職員で共有し、全職員による社会保障運動を前進させることをめざしました。経済的事由による手遅れ死亡事例調査や国保などのアンケート調査、一職場一事例や困難事例、無料低額診療事業などの事例を学ぶことで、社保活動への確信が広がっています。また、記者会見などで社会に広く知らせ、制度の問題点を明らかにすること、共同組織や地域の団体・個人と、制度改善を自治体に要請する活動が広がりました。
全国生活と健康を守る会連合会(全生連)とともに、貧困や高齢者問題の研究者などとプロジェクトを設置し、「健康で文化的な最低限度の生活」調査にとりくみました。調査に参加した研究者による分析とまとめを行っており、2020年3月をめどに結果を発表する予定です。
中央社保協への結集を強め、民医連事業所のある地域での地域社保協づくりも始まっています。
(2)受療権を守る、「国保改善」「医療費窓口負担金・一部負担の減免拡大」「後期高齢者医療の窓口負担原則2割化反対」の3つの重点課題のとりくみ
国保改善の運動では、19県連が国保アンケートにとりくんで各地で記者会見を実施し、高い国保料の実態や国保加入者の声を浮き彫りにしました。各県連の調査結果では、「国保料が高い」という回答が6~7割を超え、いま、受診している人びとの中にも「特に重い症状の時のみ病院に行く」「受診を先延ばしにしたことがある」と、国保料負担の重さと受診抑制が起きている実態が明らかになりました。このアンケート結果をもとに、共同組織や地域のさまざまな団体とともに、自治体に向けて地域の実態や国保加入者の声を届けながら、国保制度改善の要求運動にとりくみました。全日本民医連として全国商工団体連合会と共同で、院内集会や議員要請行動も実施しました。
高すぎる医療費窓口負担金の減免拡大の運動では、各県の社保協などと協力して自治体キャラバンにとりくみ、子ども医療費、重度心身障がい者・児医療費への助成拡充、国の制度として実現・拡充するよう国へ向けての要望書を提出することなどを要請してきました。札幌市で子ども医療費の助成を拡大するなど各地で助成拡大などの成果につながる経験も生まれました。「75歳以上の医療費の窓口負担金の2割化に反対する署名」は、目標10万筆を大きく上回る18万7727筆(2019年11月末)の達成となりました。
(3)無料低額診療事業の拡大と保険薬局の一部負担金改善を求める運動
43期に新たに5病院、23の医科診療所が無料低額診療事業を届け出し、現在、437(うち医科409)の事業所が実施しています。今期は、無料低額診療事業を地域の中に広げていくことを重視してきました。事例をまとめるとりくみも広がり、埼玉民医連は『いのちと向き合う私たち 無料低額診療事業からみえてきたこと』を発行しました。事例集は反響を呼び、自治体のケースワーカーから「勉強になった。配布したいので送ってほしい」などの声も寄せられています。群馬・北毛病院は、無料低額診療事業利用の事例の分析とまとめをして、自治体と懇談しました。東京民医連では、都立病院の充実を求める連絡会として、東京都に都立病院についての提案を行い、その中で「無料低額診療を全都立病院で着手」するよう要望しました。北海道では、地域の民医連以外の無料低額診療実施事業所と連名のチラシを配布し、経済的に困難な人に診療の案内を広げ、減免の基準の統一などの話し合いも始めています。
無料低額診療事業適用患者の保険薬局の一部負担金改善を求める運動については、北海道旭川市、東川町、東神楽町で助成期間の延長が実現しました。青森、神奈川、群馬、京都、岡山、山口など各県連で、保険薬局を無料低額診療事業の対象とする請願署名や薬代助成を求める請願署名、自治体との懇談などにとりくみました。全日本民医連として、今期も、①保険薬局が無料低額診療事業の対象として位置づけられるよう制度改善を行うこと、②無料低額診療事業対象患者の保険薬局の薬の自己負担分を助成する自治体への支援策を検討することを要望し、厚労省との懇談を実施しましたが、前進はありませんでした。
全日本民医連社保運動・政策部の調査プロジェクトでは、無料低額診療事業の現状把握と、今後の保険診療の給付範囲の縮小などの制度改悪が実行された場合の、無料低額診療事業の考え方を整理するために、「無料低額診療事業に関するアンケート調査」を実施しています。
(4)自治体に向けたとりくみ
今期、社保運動・政策部に「自治体運動委員会」を設置し、各地の自治体に向けた運動の共有やそれをもとにした国保アンケートの具体化など、その時々の自治体に向けた課題を整理し、運動課題に反映させてきました。
各県連で中央社保協や地域社保協とともに自治体キャラバンに旺盛にとりくみ、また県民大運動実行委員会と自治体要請を実施しました。また、西日本豪雨災害をはじめ、台風や地震などの災害被災後の医療や介護保険の一部負担免除などを巡って、各被災県連で災対連(※注)などとともに県や自治体に期間延長の請願書提出などにとりくみました。
地域医療構想について、社保協や医労連などと共同した自治体懇談、実態調査、集会の開催などにとりくみました。参議院選挙、統一地方選挙は、住民本位の政治に転換する絶好の機会と位置づけて、社保運動としても全職員が選挙に主体的にかかわることを重視し、候補者アンケートや「投票に行こう」と呼びかけを行いました。
(5)人権としての社保運動交流集会、社保セミナーの開催
42期まで社保委員長会議と受療権を守る討論集会に分けていましたが、今期は人権としての社保運動交流集会として一本化し、2回開催しました。参加対象も、従来の県連社保委員長などに加え、若手職員を含めて今後の社保運動を担っていく職員の参加も位置づけ、医師、看護師をはじめとする多職種参加型で多彩なとりくみが共有できたことは大きな成果となりました。国保法44条(※注)の適用のとりくみや県連社保学校開催など全国のすすんだ経験から学び、各地の運動の前進につながりました。
青年社保セミナーも参加対象を広げて、社保セミナーとして熊本県水俣市で開催しました。熊本民医連の水俣病のたたかいから、患者に寄り添った医療活動、当事者とともにたたかう民医連事業所の活動、それを担った職員の思いに触れ、民医連運動への理解を深め、参加者の確信となりました。
(6)憲法、平和を守るとりくみ
2017年秋に呼びかけられた「安倍9条改憲NO! 憲法を生かす全国統一署名(略称3000万署名)」は、各地で熱心にとりくまれ、2年間で全国で1000万筆が国会に提出され、民医連の署名数は117万1538筆(2019年12月末)で、提出された署名の1割以上となりました。300万の目標には至りませんでしたが、兵庫・尼崎医療生協では目標を大きく超えるなど、先進的なとりくみも各地で行われました。何より、この力が全国の草の根に強固な改憲反対の世論をつくり出し、立憲野党を励まし、憲法審査会(※注)での自民党改憲案などの審議を実質的に阻止し、2年余りにわたって安倍9条改憲の発議を阻止し続けてきました。3000万署名を軸とした職場や地域での粘り強いとりくみが安倍改憲反対の世論を高め、市民と野党の共闘を発展させる力となり、参議院選挙32の1人区のうち10の選挙区での野党共闘勝利、さらに埼玉県知事選挙、岩手県知事選挙での勝利につながりました。全日本民医連として、4回の県連代表者会議を行い、情勢、運動の交流をすすめてきました。
核兵器廃絶へ向けて核兵器禁止条約の学習、自治体への請願など多彩にとりくんできました。原水爆禁止世界大会には、2018年1476人、2019年1363人が全国からつどいました。ヒバクシャ国際署名は64万3728筆(2019年12月18日現在)です。
辺野古新基地建設反対へ向けて、翁長前沖縄県知事の急逝の中、オール沖縄の力は玉城デニー知事を誕生させ、その後の新基地建設の是非を問う県民投票でも圧倒的な基地建設ノーの民意を示してきました。全日本民医連は民主主義、地方自治をかけたたたかいとして全国から支援活動にとりくみました。2年間の辺野古支援連帯行動は、43次から48次まで6回とりくみ、251人が参加しました。工事が強行される中、辺野古への座り込み行動は223人が参加しています。座り込み行動への医療・救護支援は170人の看護師が各地協で持ち回りで分担し、参加しました。
(7)福島に寄り添い、原発ゼロをめざすとりくみ
今期も福島原発事故被災地視察・支援連帯行動を開催し、福島の実情を自らの目で見てつかみ、県民の思いに寄り添い、連帯するとりくみを続けてきました。原発事故の問題は多岐にわたる中、いまも解決の道筋がみえないのが現状です。原発ゼロをめざし、原発事故被害者に寄り添い続けることが、ひきつづき求められています。
原発ゼロ基本法案に結実し、国会審議に付される中、原発をなくす全国連絡会に結集し、各地で学習会にとりくんできました。
第3節 2年間の医療・介護活動の特徴点
第43回総会で「第42回総会で決定した医療・介護活動の2つの柱は、民医連の医療・介護理念の歴史を踏まえたものであり、第39回総会以後の医療・介護活動の安全、倫理、QI活動、チーム医療などの実践とHPHやSDHへのとりくみといった総合的な医療・介護の質の向上が結実したものです。またそれは国連やWHOが一貫してすすめてきた、健康権実現に向けた提案や実践と響きあい、重なるもの」と整理し、地域包括ケア時代に、民医連の医療・介護活動の新たな「発展期」をつくり出していく上での基軸として、「2つの柱」の実践を呼びかけてきました。43期は実践を通じ、「2つの柱」の活動が深められてきました。
(1)貧困格差・超高齢社会に立ち向かう実践
健康格差の解消に挑む日常医療活動をすすめるためのとりくみがすすんでいます。奈良では県連全医師会議でSVSカンファレンスの実施、気になる患者カンファレンスの開き方講座の開催、福岡・佐賀では「社会的孤立をSDHの視点で深める」、大阪では「事例から学ぶSDHと社会的処方」などです。また、栃木では民医連事業所のとりくみをきっかけに、宇都宮市医師会で健康格差の是正をめざすために「在宅医療・社会支援部」がつくられ、地域で健康格差の解消にとりくむ実践につながっています。近畿、中国・四国で地協医療活動(医活)委員会の確立、東海・北陸で医活担当者会議が開催されるなど、各県の医活委員会を把握し、支援するとりくみが始まりました。「民医連スタディーツアーinトロント」を行い、貧困治療の実践をミクロレベルからマクロレベルまで学ぶこと、民医連の将来を担う中堅、若手医師の民医連医師としての成長の機会とすることなどを目標にとりくみました。公正な医療を実現するために、SDHを改善する運動に医療・介護の専門家が直接かかわり、その改善に自らとりくむべきであること、社会に働きかけるエビデンスとしての臨床研究を行うことなどを学びました。
(2)総合的な医療・介護の質向上のとりくみ
民医連のQIのとりくみには97病院が参加し、厚労省「平成30年度医療の質の評価・公表等推進事業」にはそのうちの67病院が参加して、医療の質向上を意識した指標の測定や評価、改善のとりくみを行いました。また、病院内でのQIのとりくみを促進するための人材養成として、QI推進士の養成にもとりくみ2回のセミナーを開催し、これまでに約200人の推進士が生まれています。厚労省事業の事後評価では、QI推進士セミナーの開催、アンケートや報告会を通じて各病院のさまざまな活動を把握し、共有していることが高く評価されました。一方で、参加病院の広がりや測定状況、活用などついては課題も残しているとの指摘もありました。この厚労省事業は2019年度から「医療の質向上のための体制整備事業」として、従来の病院団体ごとの指標の測定から、病院団体横断的な医療の質向上のためのとりくみとして位置づけられ、「医療の質向上のための協議会」(※注)が設置されました。全日本民医連も参加しています。医療関係団体の横断的なとりくみとして期待されます。
安全や倫理を巡るとりくみでは、医療・介護安全交流集会、医療・介護倫理交流集会が開催され、医療と介護の職員が同じテーブルで話し合いました。倫理交流集会と理事会での議論を経て「DNAR ガイドライン・ミニマム」を発表しました。警鐘事例は、前期より報告数が増加しました。検討結果にもとづき「安全情報」を発出しています。「安全情報」のホームページへの掲載を再開しました。また現在、介護の警鐘事例を全日本民医連として収集する仕組みがなく、医療・介護安全委員会に報告され、検討できる仕組みづくりが必要です。
県連では、この間確立してきた医療活動委員会との関連で介護活動を統括する組織を介護活動委員会(仮称)として新たに組織をつくった県連、医療と介護を統括し医療・介護活動委員会として一本化した県連など実情に応じて検討されています。全日本民医連は、あらためて全県連で、医療活動と介護活動を統括し、「2つの柱」の実現に向けた総合的な視点をもって臨める体制を確立することを呼びかけました。
(3)水俣病、アスベスト、福島第一原発事故などの被害者救済、労働者の健康を守るとりくみ
今日でも多くの水俣病患者が放置されています。熊本、鹿児島、新潟では検診調査活動を継続、救済を求めた裁判も熊本、東京、大阪、新潟で継続しています。国側から要請された「メチル水銀中毒にかかる神経学的知見」に関する意見照会に対し、日本神経学会理事会から「回答」が出されました。回答は、これまで積み上げてきた知見を大きく後退させるものであり、全日本民医連としてチームを編成し、意見書などのとりくみをすすめています。
これまで関東圏に振動障害の診断と治療を行う民医連の事業所がありませんでしたが、今期、神奈川民医連で実施に向けた具体化が行われました。見学や振動病交流集会への参加、職員の研修などを行い、2020年1月に汐田総合病院で第1回の健診を行うことができました。
アスベスト使った建築物の解体は2028年がピークと予想されており、解体にあたっては法的規制を遵守させる必要があります。42期に完成した「アスベスト関連疾患診断支援ツール」をホームページに掲載しています。今後、民医連外でも活用されるよう改善する予定です。
職業性がん疾患に対するとりくみでは、職業歴の聞き取りが重要であり、急性期の病院でどう具体化するかなど方針化を検討しています。
被ばく問題委員会とともに、地元議員の協力を受けながら、原発労働者の相談会を3回開催しました。
労働者を巡る新しい健康問題として、非正規労働、雇用(契約)によらない労働、テレワーク、外国人労働者など、これまでの労働安全衛生の枠組みでは捉えきれない労働者が増加しています。今期は「外国人労働者の健康問題」の公開学習会を開催しました。また、ハラスメントのない職場づくりをめざして「ILOハラスメント禁止条約(※注)を学ぶ」公開学習会を行いました。
社会医学、産業衛生を担う後継者の育成が急務となっています。新専門医制度のもとでどのように具体化するか、検討と対応が必要です。
(4)認知症のとりくみ
43期は全日本民医連の委員会として認知症委員会が新たに設置され、各地のとりくみの共有と課題の整理をはかるともに、『民医連医療』の連載(これからの認知症のとりくみを考える)がスタートしています。第43回総会直後に発行された『認知症実践ハンドブック』は各地で学習、実践に積極的に活用され、ハンドブックを深める目的で開催したセミナーには164人が参加しました。地協では関東地協が2回目の学習交流集会を開催し、映画上映やグループワークを行いました。岡山で第9回認知症懇話会(ありのままの自分を受け入れて欲しい~当事者の想いが実る認知症の人にやさしいまちづくり)が開催され、2日間でのべ824人が参加し、154演題が発表されるとともに、認知症当事者を招いた座談会が企画されるなど大きな成功を収めました。
(5)領域別委員会のとりくみ
今期、領域別の委員会として新専門医制度に対応し、整形外科分野の後継者の確保と養成の推進、初期研修や後期研修における整形外科研修の整備、「2つの柱」にもとづく全国の整形外科施設における共同研究の推進などを課題として、新たに整形外科医療委員会を設置しました。精神医療委員会では、「基盤としてのこころの診療推進方針(案)」(※注)の具体化として『民医連医療』での特集、精神医療・福祉交流集会、精神科病院代表者会議、精神科研修交流集会の開催、精神科事務責任者懇談会を定期的に開催しました。少なくない事業所で、管理体制や医師体制の困難が表面化しています。ひきつづき、各県連で「基盤としてのこころの診療推進方針(案)」の議論と具体化をすすめることが、必要です。
産婦人科医療委員会では、各事業所の産婦人科医療体制および医療内容を討議、交流してきました。休棟していた千葉・船橋二和病院が混合病棟として再開し、2019年4月より分娩を再開しました。埼玉協同病院との懇談、施設見学を行い、地域における産婦人科医療のポジショニングと後継者確保と育成が課題になっていることを共有しました。産婦人科医師交流会は大阪で開催しました。HPVワクチン接種については小児医療委員会とも合同で意見交換を行い、診療現場の状況とがん予防の見地から意見交換、また旧優生保護法下での強制不妊手術問題に対する見解の議論の到達についても討議を行ってきました。
小児医療委員会は、「全国子ども~若者の生活実態調査」に協力し、2518世帯から回答を得ました。今後、分析をすすめます。おたふく風邪や百日咳ワクチンなどについて、厚生労働省に質問事項を文書にまとめて要望書を提出しました。第16回小児医療研究発表会を福島で行い、現地視察ツアーにとりくみました。
第13回学術・運動交流集会で精神科・産婦人科・小児科と歯科部で行ったテーマ別セッションを受け継ぎ、精神医療・福祉交流集会において各科からの社会的困難事例について合同の症例検討会をもち、交流を深めました。さらに第14回学術・運動交流集会に向けても合同の症例検討を準備しましたが、台風により開催中止となりました。
(6)日本HPHネットワーク(J―HPH)のとりくみの広がり
2015年10月に結成された日本HPHネットワーク(※注)は加盟事業所が119事業所(2019年12月6日現在)となり、地域ネットワークとしては世界で2番目の加盟数となりました。イタリアのボローニャ、ポーランドのワルシャワで開催された国際カンファレンスに参加し、日本からの提出演題が、優秀演題に選ばれるなどの成果も上げています。国内では、前期にひきつづき、カナダの家庭医らのSDHに向けたとりくみを学ぶこと、台湾での高齢者にやさしい病院づくりのとりくみなど、講師を招いて普及しています。カナダのとりくみから学び、経済的困窮をスクリーニングし、社会資源の活用やスタッフの学習のために活用できる「医療・介護スタッフのための経済的支援ツール」を作成し、活用を呼びかけました。また、「高齢者にやさしい病院評価マニュアル」の日本語版を作成し、ホームページで公開し、日本でのとりくみを呼びかけています。J―HPHへの加盟の多くは、民医連事業所が占めており、私たち民医連の医療・介護活動がHPHのめざすものと多くの共通点を持ち、「全ての人に健康を(Health for all)」の実現に向けたWHOのとりくみと私たち民医連の日々の医療・介護活動が共鳴していることを示しています。
(7)「旧優生保護法による強制不妊手術」に対する民医連の立場についての検討の到達点と今後のすすめ方
2018年1月、宮城県で旧優生保護法(※注)による強制不妊手術による被害に対し、被害者が国家賠償請求訴訟を起こしました。旧優生保護法のもとで実施された強制不妊手術は、憲法で保障された個人の尊厳を否定し、子どもを産み、育てるという人間としての当然の権利を奪うものであり、きわめて深刻な人権侵害をもたらしました。なぜ、基本的人権をうたった日本国憲法のもとで旧優生保護法が制定され、40年近く運用され続け、母体保護法に改正されたあとも長期にわたって被害者が放置されてきたのか、国の責任がまず問われなければなりません。また、強制不妊手術にかかわった医療界の責任や、強制不妊手術が広く社会に受容されてきた背景についても、全面的な検証が必要とされています。現在においても、国会議員による「生産性」発言など、いのちの価値に優劣をつける優生思想は形を変えて立ち現れています。2度と同じ過ちをくり返さないよう、教訓を明らかにし、未来につなげていくことが求められます。
ひきつづき全日本民医連として、被害者救済法(旧優生保護法にもとづく優生手術などを受けた者に対する一時金の支給などに関する法律)に対して、国の責任を明記し、実効性のある補償内容となるよう大幅な改正を政府に重ねて求めます。現在7地裁でたたかわれている国賠訴訟勝訴、被害者への補償や尊厳の回復に向けて支援をすすめます。戦前から今日に至る優生政策の歴史、旧優生保護法の経過、リプロダクティブライツ(※注)や障がい者権利条約(※注)をはじめとする今日的な人権の到達点、新たな生殖医療技術に関する倫理的課題などの学びを深めることが必要です。43期に全日本民医連理事会としてプロジェクトチームを設置し、旧優生保護法を巡る対応の経過について検証を重ねてきました。ひきつづき、産婦人科、精神科、小児科各科の協力を得ながら、旧優生保護法、強制不妊手術問題に対する民医連としての見解、今後の課題についてとりまとめる作業をすすめます。
(8)歯科分野のとりくみ
医科・歯科・介護の連携を重視し、医療・介護福祉部のとりくみを共有し、歯科部運営をすすめてきました。①医科・歯科・介護が協働し、一体となって地域の健康づくりやまちづくりをすすめていけるように、これまでの「歯科事業所完結型」の歯科医療からの脱皮をはかること、②「民医連らしい歯科医療」の実践としてとりくんだ『歯科酷書第3弾』を学び、活用していくこと、③「中長期計画作成」の具体化として、歯科奨学生の確保と養成をはじめとした、民医連歯科を担う人づくりをすすめていくこと、④歯科の医療活動と経営活動を統一的に評価し、民医連歯科医療を見える化するプロジェクトを立ち上げ、『民医連歯科読本』を改定すること、⑤歯科衛生士、歯科技工士、歯科事務系幹部について、人づくり・後継者育成・幹部養成を位置づけるとともに、歯科衛生士、歯科技工士の確保のための学生対策も検討を開始すること、⑥黒字体質づくりをひきつづき位置づけ、医療活動と経営活動を一体としてとりくむための方略を検討していくことを柱としてきました。今後すすんでいく医科・歯科・介護の連携(協働)に対応した歯科づくりのために、当面は全県連に歯科を建設し、あらゆる事業所に対応するための歯科建設へと結びつけていくことを確認しました。歯科学運交でも、医科・歯科・介護・多職種連携のとりくみ、『歯科酷書』などSDHのとりくみがすすみ、困難な事例に立ち向かう活動が報告されています。
(9)介護・福祉分野のとりくみ
43期は、職員の確保・養成に力を注ぎながら、介護ウエーブ、介護報酬2018年改定と特定処遇改善加算への対応、介護の質の向上と医療との連携強化、経営改善、事例集づくり、新規事業所の開設などをすすめてきました。全体として、厳しい情勢に抗しながら各地で多くの成果を積み上げています。しかし、さまざまな手立てが講じられているものの、職員体制や事業経営では厳しい局面が続いています。
介護ウエーブ(2018、2019)では、介護保険改善と処遇改善を基本要求に掲げ、社保協、全労連と共同した国会請願署名や「介護をよくするアクション月間」のとりくみとともに、各地で宣伝や学習会、自治体への要請などがとりくまれてきました。
実践面では、質の向上、医療との連携強化が介護報酬2018年改定対応と結びつけてすすめられたことが特徴です。各種加算の算定を通して歯科、リハビリ、栄養部門と介護事業所との連携、病棟とケアマネジャーとの連携が強められ、新たな連携の仕組みづくりや日常業務の見直しなどが行われました。しかし、相互理解の不十分さや具体的場面での連携に支障が生じている実態も残されています。「介護現場における重大事故に対応した危機管理の基本指針2018」の普及、学習に広くとりくみました。
介護事業経営は、低く据え置かれた介護報酬、職員確保の困難、事業者間の競争激化、政府の給付抑制策、利用者の経済事情の悪化などを背景に、依然として厳しい状況にあります。一部の社会福祉法人で、資金問題で困難を抱えているところもあります。他方、加算への積極的な対応、事業内容、管理運営の見直しなどを通して経営を改善させている法人、事業所もあります。
体制がとれないため、事業の縮小や休止、事業所の統廃合のほか、特養では職員がそろわずに全室オープンできない事態も生じています。新規の利用者を断らざるを得ない事業所もあります。職員確保はひきつづき最重点の課題となっています。
(10)民医連の病院・診療所のとりくみ
14年ぶりに全国病院長会議を開催しました。会議には40県連から98人が参加し、「民医連の医師と医師集団は何を大切にするのか」について理解を深めるとともに、病院長として率直な思いを交流し合うことができました。病院委員会では、民医連病院の現状認識と課題達成の方略を検討する上で2つの病院(大分健生病院、青森・健生病院)の現地訪問を実施しました。その中で、①地域医療構想・地域医療計画を見据えた病床機能の設定と医療構想、それを実現するための人材の確保と技術構築を含む育成などの基本的な方針、②病院機能と今後の医療構想を踏まえた入院医療構想、適切な病床数と病棟編成の考え方、③病院機能に応じた患者確保方法の検討、外来や救急、紹介・逆紹介などの地域連携など、経路を意識した患者確保戦略の考え方と仕組み、④地域包括ケア時代にふさわしい総合的診療機能や多職種連携(全体最適)に関するビジョン、⑤外来の機能では、病院の機能、規模に応じて、かかりつけ機能、在宅診療機能、紹介患者受け入れ機能の考え方と整備、近接診がある場合は病院外来とのすみ分け、病院機能に応じた健診分野の政策、⑥高齢社会および貧困・格差社会への対応、共同組織やまちづくり、地域課題の方針化など事業経営戦略を考える上での重要な項目として検討しました。その上で、第2回病院長会議は事務長も参加する合同会議として開催し、地域医療構想など、地域の医療・介護事業が著しく変化する中で、ポジショニングを常に見直し病院機能の整備をはかること、医療の質と経営改善をはかる病院管理運営で重視すべき視点として、民医連病院の管理部が実践すべきミニマム(案=※注)を提起し、議論を呼びかけました。
第6回診療所交流集会は、26県連から137人が参加しました。テーマは「まちに出よう、まちを知ろう、まちとかかわろう」。「まちづくりをすすめる知恵と力を共有し、高め合う」を獲得目標に、そのための具体的な目標として、①医療・福祉につながれない人とつながるために、全ての診療所でアウトリーチを実践する契機とする、②SDHの視点で療養や暮らしの困難に立ち向かうために、「地域と共同する」とりくみを学ぶ、③「まちづくりを担う人づくり」の経験を交流する、の3点を掲げました。前回と同様に各診療所からポスターを持ち寄り、診療所が地域で果たしている役割を紹介しました。ポスターを作成する過程で診療所の職員同士が話し合うことで、自らの役割を再認識する機会にもなりました。記念講演では、医療・介護を中心に地域が一体になって生活をささえる実践を学び、ショート・レクチャーでSDHについて学びました。全体を通じ、人権感覚を磨き、SDHの視点で地域に出ていくことの重要性への理解が深まりました。
診療所交流集会に向けたアンケートの中でいくつかの課題が明らかになりました。とりわけ人づくりの点で苦労している診療所が多くありました。8割の診療所が民医連綱領などの学習機会を設けていますが、そのうちの6割が年2回以下の開催頻度でした。民医連の原点である診療所の特徴を生かした学習、教育活動をすすめる必要があります。また、所長を計画的に配置する仕組みが「ない」もしくは「機能していない」という診療所が85%あり、後継者の確保は深刻です。
今後、さらにまちへ出る活動を通して患者や地域の実情を直接つかみ、かかりやすい診療所、相談しやすい診療所をめざすこと、そうした活動をまちづくりや職員の育成にもつなげること、これらと合わせて診療の質の向上、コンプライアンスを含む管理運営の課題についてもとりくむことが求められます。また、地協での診療所交流集会の開催や、地協と全日本民医連の交流集会の役割分担なども検討課題です。
第4節 共同組織の活動の広がりと組織的到達点
(1)共同組織の活動の特徴点
43期運動方針は、「地域の福祉力」を高め、地域を「福祉の場」にしようと呼びかけ、とりくみをすすめてきました。
2500人が参加した第14回全日本民医連共同組織活動交流集会では、地域訪問、見守り活動、子育て世代とのつながり、災害復興、子ども食堂、学習塾、認知症カフェなどのとりくみを通じて、「ひとりぼっちの高齢者をつくらない」「介護世帯を孤立させない」などを目的とした居場所、たまり場づくりが広がっていることが交流されました。また、こうしたとりくみが共同組織の枠を超えて、地域の他団体とつながり、ネットワークへと広がっている実践も報告されました。
43期の共同組織委員長会議では、こうした共同組織の活動の広がりを踏まえ、第35回総会運動方針で確認された共同組織の「5つの特徴・役割」、①健康増進活動の前進、②地域でのネットワークづくり、③国や自治体に対する要求実現運動、④環境・平和を守る運動、⑤民医連事業を発展させるとりくみが地域で大いに発揮され、発展していることが強調されました。そして、職員と共同組織がいっしょに行動することが、職員にとっては地域を知り地域を学ぶ場となり、共同組織にとっては担い手を増やす機会にもなっています。
貧困と格差の広がり、孤立の広がり、自治体の公的責任の後退などの中で、民医連事業所とともに、健康権を掲げ、地域の中で安心して住み続けられるまちづくりをすすめている共同組織の活動そのものが確信となって、仲間増やしが広がっています。2019年12月末の共同組織構成員は370万1052人、『いつでも元気』は5万6314部の到達でした。2回の共同組織拡大強化月間では約3万人以上の純増となり、拡大目標370万を達成しました。月間期間の『いつでも元気』普及部数は、2018年760部、2019年590部(10~1月号)で、2020年1月号の発行部数は5万5529部となりました。『いつでも元気』をささえている販売所の交流集会では、「共同組織の人たちといっしょに運動をつくっていくことが大事だ」と伝えながら、職員に購読を呼びかけていること、『いつでも元気』の読者会を継続して開くことが、ひとりぼっちの人をつくらない活動につながっていること、地域包括支援センターや喫茶店、理髪店などに見本誌を置かせてもらうなど、普及へのとりくみなどが参加者の共感を呼びました。
(2)事業所と共同組織の共同したとりくみの広がり
43期は、事業所がまちづくりの方針を持ち、まちづくりの一翼を担おうと提起しました。共同した特徴的なとりくみが始まっています。第1に、地域住民を視野に入れたとりくみが住民や行政から信頼されて広がり、住みやすい地域をつくるきっかけになっています。自治体の支援事業に認定される、無料低額診療事業の周知をくり返し働きかけることで、自治体のホームページで紹介されるようになる、自治体の保健師が居場所での健康づくりに参加する、そうした経験が広がっています。第2に、共同組織の活動の拠点として、居場所づくりが大きく広がっていることです。第14回共同組織活動交流集会の分科会では、「居場所が地域の実態や困難に気づく拠点であり、安心して自分らしく居られる場所であり、何かを始めようとする起点になっている」こと、民医連の事業所がない地域では、居場所が地域の人たちの新たな交流を生み出していることが報告されました。第3に、まちづくりをすすめるために職員と共同組織が共同してとりくむための仕組みが事業所や法人の中につくられつつあることです。
東京・健生会の地域包括ケア推進委員会では、職員と共同組織の人がいっしょに学習し、地域診断を行い、その結果を自分たちの活動やまちづくりのとりくみに生かしています。埼玉西協同病院では、組合活動を支援する部署と地域連携の部署を一体化し、患者情報の共有や退院患者を訪問して地域の助け合いにつなげるなどの活動をしています。
第5節 経営困難を突破し、民医連の経営基盤を強化するために
民医連の経営は全体として、困難な状況を打開するものとはなっていません。しかし、当該法人の主体的な努力と合わせて、民医連らしい連帯の力で大幅な経営改善を果たすなど、各地でのとりくみの教訓も生まれています。経営改善に向け、私たち自身の事業と運動のあり方を継続的に進化させ続けるために、とりくみの前進の教訓は何か、新たな知恵と力をどう具体化するか、真剣な議論と検討を通じて、確実に実践することが求められています。
(1)厳しさを増す民医連経営の現状と到達点
2018年度経営実態調査によれば、149医科法人の資金の獲得力を表す事業キャッシュフローは、372億円(収益比率5.7%)で前年から微減となり、厳しい状況が続いています。事業キャッシュフローで、金融機関への長期借入金1年以内返済額をまかなえない法人は2割以上にのぼっています。経常利益は医科法人全体で予算合計額96億円に対し58億円と予算差マイナス38億円の大幅な未達(予算比60.6%)で、経常利益率は、収益比0.9%と6年連続で1%に満たない状況です。医科法人のうち65%の法人が経常利益予算未達成という深刻な状況となっています。かならずしも必要利益が予算化されている状況ではないと思われるため、多くの法人で必要利益が確保できていない状況です。必要利益を確保できない場合、保有する現預金を取り崩したり、新たな借入を行ったりして資金を補わざるを得ません。資金流出構造の継続により、資金破たんを招きかねない法人が一定数あるのが現状です。
(2)民医連経営の厳しさの要因と打開に向けたとりくみ
民医連経営の厳しさの要因として、外的要因と内的要因があります。外的要因は、診療報酬や介護報酬のマイナス改定による医療機関や介護事業所の収益減少、患者・利用者負担の引き上げや生活保護制度の改悪による受診抑制など社会保障費の削減政策です。内的要因は、法人・事業所における民医連統一会計基準など管理会計への理解と整備の不十分さや、管理運営・全職員参加の経営の不十分さなど、経営的前進の土台となる主体的力量に課題があることです。
経営困難打開に向けては、県連、地協が困難を抱えた法人の要請にもとづいて対策委員会を設置し日常的、実践的な援助を行い、全日本民医連経営部との連携も含めて、少なくない県連や地協で粘り強い援助がとりくまれました。こうした実践を推進する力となったのは、県連や地協での経営委員会の事務局や委員会の体制補強や開催頻度を増やすなどの委員会機能の強化がありました。県連理事会や地協運営委員会でも、困難法人の改善に向けた課題や方針が共有されるなど、経営分野の位置づけが強化されたことも教訓的です。
2018年度経営実態調査における要対策法人は、緊急に資金対策を要する短期指標に4法人、何らかの対策を打たなければ近い将来に資金問題に直面し得る中期指標に、52法人が該当しました。全日本民医連経営部は、中期該当法人のヒアリングを全地協で開催し、実態と課題の把握を行い、県連、地協とともに連携して対応しました。
専務理事が研修と交流を通じ、経営戦略、管理運営などについて学び、自らの問題意識を整理する機会として、初めて医科法人専務研修交流会を開催しました。経営的前進をつくり出すために、法人運営の要としての専務理事の自覚と研さん、外に出て学び交流する機会や連帯が必要であることを共有しました。「民医連の地域協同募金の整備方針(案)」を提起し、議論を呼びかけました。
(3)郡山医療生協の経営改善の教訓
経営困難から資金ショートの危機を迎えた福島・郡山医療生協は、全日本民医連経営対策委員会のもと、大幅な経営改善をすすめてきました。2018年度の経常利益は前年から1億9000万円の改善を果たし、1億1000万円(経常利益率4.5%)を確保しました。事業キャッシュフローは2億4000万円、事業キャッシュ率9.5%と大幅に改善し、現預金残高は2018年度期末で2億3000万円(月商1.12倍)となりました。危機的な資金状況は大幅に改善、資金破たんを回避し、19年6月で対策委員会の任務を終了しました。郡山医療生協の経営改善の教訓は、①経営トップ集団と理事会のリアルな経営認識を踏まえた再建に向けた固い決意と団結、②中長期の資金見通しと必要利益にもとづく予算を集団で議論・作成し、職員集団に率直に提起し、医師を先頭に全職員でそれを実践したこと、③全日本民医連、地協との交流と学びを通じて、病院のポジショニングの明確化と病床転換、ベッドコントロールの強化、地域連携などの経営課題をあいまいにせず確実に実践したこと、などです。この間のとりくみは、経営再建の状況にある法人のみならず、多くの法人で共通する課題であり、全国的に共有し自らの法人、事業所に引きつけて学ぶことが重要です。
(4)東信医療生協経営対策委員会の設置
長野・東信医療生協は、はるかに力量を超える事業所リニューアルとその後の大幅な赤字構造の継続により経営破たん状態にあることが明らかになりました。当該法人から長野県連を通じて支援要請が出され、19年9月に全日本民医連は理事会のもとに対策委員会を設置しました。当該法人の主体的な経営力量と同時に、県連、地協の経営分野における機能が問われる事態です。この痛恨の出来事を受け、東信医療生協の資金破綻を回避し、経営展望を切り開くために、全日本民医連として、県連、地協と連携した支援を開始しました。
第6節 医師を巡る情勢と民医連のとりくみ
医師の働き方改革について厚労省を中心とする議論がすすめられていますが、これは医療費抑制策のまま、財政的な保障もなく、医師数を増やすこともなく働き方のみを「改革」するものであり、地域の医療機関の実情を踏まえず、住民の医療ニーズ置き去りという中身がいよいよ明らかです。
また新専門医制度を巡っては医師の養成方針について厚生労働大臣の意見を聞く必要があるとされ、官僚統制が強められる中で、地域偏在対策と称して専攻医数のシーリングが実施されました。公的病院の統廃合計画も一方的に対象医療機関が公表されるなど、医療提供体制の削減をすすめる政策が強引に進行中であり、医師の働き方改革も、新専門医制度もそのレールの上に置かれていることは明らかです。民医連を担う医師集団づくりをすすめることが、民医連そのものの発展にとっても、医療と社会保障を切り捨てる政策に対峙する意味でも大きな意義を持っています。
第43回総会運動方針は、医師養成新時代に、民医連の医師集団の役割をあらためて探求し、その形成にとりくむために、「2つの柱」の具体的実践として、SDHとアドボカシーを意識した医療活動や調査研究活動の発展、「2つの柱」を実践する医師養成と医師集団形成、200人の新卒医師受け入れと、500人の奨学生集団をめざすロードマップを実現することが、それらの保障となることを、運動方針として提起するとともに、医師の絶対数の不足を解消する国民的な声を強めていくことを掲げました。
(1)500人の奨学生集団の実現、200人の新卒医師受け入れへの接近
この2年の実践の中で、医学部の奨学生は500人の目標を突破し、新卒医師の受け入れも、20年卒でマッチ者と2次募集での決意者が合わせて203人(2019年12月現在)と、ロードマップの実現に向かって前進しています。500人の奨学生集団の実現をめざすとりくみは、質・量ともに医学対活動が前進する中で、実現されました。子ども食堂や中学生無料塾などへの医学生のかかわりの中で奨学生を決意する医学生が生まれるなど、「2つの柱」にとりくむ医療活動と結びついた報告も寄せられる中での目標達成です。地協ごとに、奨学生の育成指針の整備もすすめられました。研修担当事務交流集会の開催を継続しながら、研修担当事務・医学対担当者合同新人スクールを新しく開催しました。
(2)入試改善や制度見直しを勝ち取った医学生たちの行動
医学部入試における女子学生差別が明らかとなることへの医学生自らの抗議の声の高まり、学費値上げや政府による高等教育の就学支援新制度の中で、新たに授業料免除が切りすてられることなどに対する医学生からの抗議のとりくみが広がり、入試改善や就学支援新制度の見直しに結実しました。
いま医学部の学生を巡っては、スチューデント・ドクター法制化(※注)を含めたシームレスな医師養成の動き、高騰する学費、地域枠を理由とした卒業後の進路選択のしばりなど、さまざまな問題や困難、不公正が存在しています。医学生が直面している諸問題は、日本の医療の将来にかかわる重大なものであり、医学生と旺盛に対話し、かかわりを深め、その解決に向けて大いに協力共同していくことが強く求められています。
(3)医師研修方針について
医師研修委員会は、民医連の医師研修の進化と民医連の医師養成をすすめるために、「民医連の医師研修方針」(以下、「研修方針」)を作成しました。2020年に新医師臨床研修制度の見直しが行われ、その内容は、コンピテンシー基盤型教育(※注)への変化の中でアウトカム評価へのマイルストーン評価の導入(※注)、外来研修の必修化など、民医連がこれまでとりくんできた研修が、一般的に制度化される意味合いを持っています。「研修方針」では、民医連の実践そのものが大きな強みとなる、SDHやアドボカシーなどの、時代が要請する研修を先進的につくり出し、また多職種の中で育ち合う研修など、民医連が大切に実践を重ねてきた優位性を持つ部分はひきつづき発展させることを呼びかけました。そして民医連綱領を学び「2つの柱」を実践する中で、民医連医療への共感を育み、その担い手に成長することを提起しています。2019年度からは、日本医療福祉生活協同組合連合会と合同で開催してきた臨床研修交流会について、集会の内容の見直しをはかりました。
(4)新専門医制度2年、新専門医制度の行方と民医連の後期研修継続を巡る動向、100人の後期研修の目標提起
新専門医制度については、民医連としても整備できる条件のある領域について、制度への対応をすすめ、総合診療領域や内科領域だけでなく、精神科、整形外科、麻酔科、救急、病理、臨床検査領域などで基幹型のプログラムを準備してきました。鳥取生協病院、沖縄協同病院では、新たに内科の基幹型プログラムを取得しています。プログラムのハードルが高く基幹型としては整備できない領域についても、大学との連携づくりを含めたプログラムでの対応をすすめています。トランジショナル・イヤー(以下、TY=※注)の提起も民医連として行い、新専門医制度に最初からすすむ以外の医師養成の道も提示してきました。
TY研修は、新制度の進展の中にあっても、自らの研修だけでなく初期研修の屋根瓦指導など新たな役割を担う中で、自らの力量を強めることや、初期研修の期間中だけでは十分に研修できなかったことを補いながら、将来の進路を検討する期間です。日本の医師養成制度の中でもほかにはない仕組みであり、日本の医師養成課程の不足分を補う積極性と固有の意義を持っています。また民医連の医療活動を主体的に担うことで、民医連の存在意義や魅力をより発見し、自らの医師キャリアと民医連運動を重ね合わせる期間ともなります。
新専門医制度は、18年4月から本制度がスタートしていますが、民医連で初期研修を開始した医師が3年目を民医連で研修継続する割合は、それまでの6割程度の水準から4割程度に後退するなど、新専門医制度の影響は小さくありません。外科系の後期研修を希望する医師にとどまらず、内科系・総合診療領域においても外部での研修を選択する傾向もあらわれています。そうした中、第3回評議員会は、200人の研修医受け入れのほぼ半分にあたる100人の後期研修医(基幹型あるいは連携型となっているプログラムおよびTY研修)の受け入れを新しく目標として提起しました。
新専門医制度そのものも、医療提供体制縮小の政策として位置づける政府・厚労省の方針により都道府県ごとに専攻医数のシーリングが行われるなど、国民の医療ニーズに応える専門医の養成という制度の目的はゆがめられています。日本専門医機構の検討が、密室で行われていることも含めて、都道府県や学界などからも批判の声が上がっており、民医連もシーリングに対する見解(※注)を発表しました。
(5)医師の働き方改革への対応
厚労省に設置された「医師の働き方改革検討会」は19年3月末に報告書をとりまとめ、18年改正労働基準法にもとづく新たな時間外労働規制を24年4月から開始することに向け、各医療機関にとりくみの推進を求めました。全日本民医連は理事会のもとに医師部、経営部から「医師の労働時間短縮に向けた緊急的なとりくみ」の実態調査等プロジェクトを設置し、各事業所の実情調査を行うとともに、19年8月に「『医師の働き方改革に関する検討会報告書』を受けての当面の内部的対応の基本点」「『医師の働き方改革に関する検討会報告書』に対する見解」をまとめました。
医師の働き方の改善は、全ての医師の健康を守るとともに、医療の質の担保、医療安全上の観点などからもきわめて重要であり、また法的な対応も適切に行う必要があります。同時に、絶対的医師不足への対応と財政的保証がなければ、地域医療を守りながらの実現は明らかに不可能です。
関連して、大学などにおける無給医の問題も大きな社会問題となりました。この課題では医師ユニオンによるドクターズデモンストレーションなどのとりくみが行われました。
(6)医師集団づくりの提起「未来に向かって民医連の医師と医師集団は何を大切にするのか」
43期運動方針で医師政策の策定の提起をもとに、各県連で医師政策を具体化していく基盤となるべく、「未来に向かって民医連の医師と医師集団は何を大切にするのか」(以下、「大切文書」)をとりまとめ、19年2月に医師委員長・医局長会議を開催しました。「大切文書」は、1998年の「民医連の医師・医師集団は何を目指すのか」の文書からの約20年の医療を巡る変化と民医連運動を振り返り、私たちの現在地を確認し、これから何をするのか、そのためにどのような集団をどうつくるのかを提起しています。貧困と格差、超高齢社会という大きな2つの課題を眼前において、個人の尊厳と公正な保健医療を求めて健康格差にタックルすることを宣言し、「2つの柱」の実践を主軸に具体的な行動提起をしました。そしてそれを担う医師集団形成について、医師ひとりひとりの多面性、多様性を大切にしながら、それを力に、共通項を議論し、持続成長できる集団を形成すること、多職種協働、「共同のいとなみ」を大切にすること、多チャンネルで医師が民医連に参加するような魅力を持った医師集団をつくること、そのとりくみの中から幹部医師の養成を実現することなどを提起しました。この「大切文書」にもとづき、各都道府県連の議論と医師政策の策定を呼びかけ、議論と実践が広がっています。例をあげると、長野県民医連では「長野県民医連の医師集団は何を大切にするのか」という文書を、世代ごと、女性医師などの重層的な議論を経て練り上げました。
民医連における医師確保が奨学生からの成長、初期研修、後期研修からスタッフ医師へという流れを太い柱としながらも、後期研修から参加する医師、専門的な力量を持ってから外部からスタッフとして参加する医師など、多チャンネルの医師確保を踏まえ、2018年11月に「常勤医師確保対策を前進させるための全国会議」を開催しました。働き方改革への対応、賃金や労働条件など医師処遇のあり方、紹介業者との関係のあり方、流動化がすすむもとで、働いてよかったと感じられ、民医連の医療活動が自分のモチベーションとなるような共感醸成をどうすすめるかなどについて交流しました。
(7)医師支援の課題について
20年3月まで、全日本民医連として、福島・桑野協立病院への月1回の当日直支援を継続し、福島・わたり病院からも当日直支援が行われました。18年6月~20年3月まで熊本・くわみず病院と菊陽病院、19年9月~20年3月まで青森・生協さくら病院への精神科医師支援を行っています。
第7節 民医連運動を担う職員育成
(1)民医連の綱領と歴史を学ぶ大運動
『学習ブックレット 民医連の綱領と歴史 なんのために、誰のために』を教材に19年2月からとりくんだ「民医連の綱領と歴史を学ぶ大運動」は、学習運動としてかつてなく広がり、職員が大いに語り、学び合う機会となりました。大運動の到達は19年12月末日現在、読了は4万6398人(管理者・職責者1万202人、一般職員3万6196人)、学習会はのべ1万273回開催され、11万4114人が参加しています。
学習を通して、日々の活動を常に「誰のために、何のために」と意識しながらとりくむ気風が生まれ、民医連綱領にもとづいた日常の医療・介護活動と民医連の歴史への誇りと確信につながる学習運動になりました。管理部や医局が先頭に立って、病院職員全員がブックレットを読了したなどの経験も各地で生まれました。職場での感想交流の中で世代を超えた語り合いがすすんだことも特徴です。各地のニュース、職員の感想も数多く寄せられました。「民医連綱領の学習は日常の仕事と自分の生き方を重ねて考える絶好の機会となっています」「民医連の歴史を学ぶ中で、どうしてこのような理念ができたのか理解できた」「民医連で働いていることを誇りに思う」など、民医連の存在理由・存在意義を深く捉え直す機会となっています。選挙の投票行動に結びつけた学習大運動として意識的にとりくまれた県連もあり「ここにいなかったら選挙のことなど考えなかった」また、「社保・平和活動などに対する理解が民医連の綱領と歴史を学ぶ過程でよくわかった」など、「たたかう」という意味についても学びが深められました。
(2)職場づくり・職場教育の前進
19年1月に開催した職場づくり・職場教育実践交流集会では、「民医連らしい医療・介護活動と運動を通して育ちあうこと」「職責者の役割発揮、職責者へのトップ管理者の援助」「職場責任者の5つの大切にもとづく職場づくり」「SDHの視点での事例検討やカンファレンス」「多職種協働」「役職者の役割発揮」「平和・憲法学習を力に自分の言葉で語る」などが職員育成にとって重要であることを、具体的な実践報告を通して確認しました。そして「医療・介護活動への確信」と「職場での良好な人間関係」を基本に「職場が安心して発言し行動できる〝安全〟な居場所であること」が職員の成長にとって決定的な影響があることが明確になりました。育ち合いの職場づくりは1日でできるものではありません。「職場管理者の5つの大切」を実践し、「育ち合いの職場づくり8つの視点」で職場づくりや職場教育をたゆまずすすめることが重要です。「2つの柱」と職員育成の好循環をどうつくっていくか、また多職種で育ち合う職員育成をどう深めていくかが課題です。
職場づくり・職場教育をすすめるためには職場責任者の育成が重要ですが、「マネジメントの研修も行われないまま職責に任命され、業務をこなすことで精いっぱい」という声がよく聞かれます。職責者研修の仕組みがあっても、新任の職責者に実務的なことも含めて指導が十分されていない状況があります。制度教育などに新任職責者への教育を位置づけるよう改善が必要です。
(3)各職種部門との懇談と育成活動の検討
全日本民医連職員育成部は、各職種部門の責任者との職員育成活動について懇談を実施し、職種横断的に議論することで各職種部門の相互理解がすすみました。各部門で、職種政策の作成や研修など努力していますが、部門によっては技術向上と民医連の理念が別々に捉えられている傾向もあり、技術教育と理念教育を総合的にすすめるために、民医連における技術職の役割を整理して示すことが必要であることが明確になりました。
(4)青年職員の育成
43期運動方針の「あらゆる活動の中で青年職員の育成の視点を」の呼びかけのもと、9年ぶりに、青年育成の全国交流集会を開催しました。
42期運動方針では、青年援助のための6つの視点が提起されました。あらためて、①未来は青年のもの、青年を明日の民医連運動と民主的な社会の担い手として限りない期待を持って接すること、②青年一人ひとりを尊重すべき個人としてみること、③職場を基礎に民医連らしい医療・介護・運動で力を合わせ、その中で積極的な役割を果たす経験を積むこと、④果たした役割やその姿勢をきちんと評価すること、⑤制度教育や地域活動をはじめ、さまざまな成長・発達のきっかけになる場を多彩に提供すること、⑥18歳選挙権の実現は、主権者意識が高まる機会であり、医学対・看学対など学生対策も含めて主権者としての自覚と成長を促すとりくみを強めることが、ひきつづき重要です。青年職員育成を前進させるために、県連・法人で援助体制を確立、青年に寄り添い、いっしょに成長する姿勢を持つことを確認しました。
第38回全国青年ジャンボリー(以下、「JB」)は岐阜県で開催し、約600人の参加で憲法学習を中心に学びと交流を深め、大きく成功しました。
(5)事務職員の育成
前期までの到達点と課題を踏まえ、事務職員の育成をさらに一歩発展させることを位置づけて職員育成の一職種委員会ではなく、四役直轄の機構として事務育成委員会を発足しました。構成は多職種型、かつ四役と理事が直接責任を持って遂行する体制としました。
全体像や現状把握を踏まえて育成責任者を対象に開催した全国集会では、医療・介護活動への確信、学習と経験、トップの構えと集団化が事務育成を保障するものとして確認されました。参加者が作成した集会直後からとりくむアクションプランに対し、半年後にそのとりくみ具合を把握するフォローアップアンケートを実施しました。未着手または難航している県連・法人は、提起を正面から受け止めて後押しする幹部の構えの問題意識が共通にあげられました。一方、少なくない参加者が自らのプランをすぐに県連理事会や法人機関会議に報告・提起し、事務委員会や法人幹部を巻き込みながら、事務政策や育成指針の策定・改定、事務活動交流集会の開催、県連独自の幹部学校立案など、着実な一歩を踏み出しています。ひきつづき進捗を把握しながら、民医連組織をささえる重要な役割を持つ事務集団として、全体的に発展していけるよう必要な援助と情報発信が求められます。
(6)各職種のとりくみ
①看護部門
1)2年間のとりくみ
『民医連のめざす看護とその基本となるもの』(※注)の活用と普及に努めました。ファシリテーター養成研修を開催、46県連367人が受講しました。全国で学習・活用が広がっており、民医連の看護への確信と理解が広がっています。日常の看護実践、カンファレンスなどに活用できるよう、さらに検討をすすめます。
看護管理に生かす目的で毎年看護管理調査を実施しています。2019年調査から、以下の特徴が浮かび上がってきました。離職率は前回から微増の10.5%でほぼ全国と同水準、新人の離職率は前回から微増の6.6%ですが、日本看護協会調査より約1ポイント低く、新人の定着に努力していることがうかがえます。認定看護師数は369人で前回から25人増、認定看護管理者は87人で全国の認定者数の2.1%を占めています。夜勤交代勤務では民医連は日本看護協会と比較して3交代の割合が高く、離職防止対策で短時間正職員制度や日勤常勤の制度を取り入れている法人数の増加などがあります。日本看護協会調査とも比較検討し、調査結果の考察・活用をすすめます。
42期から開始した看護トップ幹部研修は、医療論や日本の戦後政治史と現在の情勢、医の倫理などの学習、フィールドワークでの体験を通じて、幹部としての役割と責任について自覚し、自己変革に向けた課題を鮮明にすることにつながっています。
2019年新卒確保数は1079人で8年連続1000人超えを達成しました。20年新卒受け入れの到達(2019年12月現在)は、目標1168人に対し、内定1055人、達成率90.5%(うち奨学生は690人、60.5%)です。確保目標達成に向けて最後まで奮闘しましょう。奨学生数は例年に比べ全学年で低い状況があります。奨学生活動の意義を再確認し、低学年の奨学生確保にとりくみましょう。
看護学生をとりまく状況では、高額な学費や入学金などの経済的理由で大学進学をあきらめる学生や、生活費のためにアルバイトの掛け持ちをして留年となる奨学生もいます。東京・東葛看護専門学校の学生自治会では給付型奨学金制度の実現を求める運動にとりくみ、千葉県流山市に要請を行いました。奨学金制度の改善や学費の引き下げ、公的な給付型の奨学金制度の充実に向け運動を展開していきましょう。
第14回看護介護活動研究交流集会は18年9月、宮城県仙台市で851人の参加で開催されました。東日本大震災から7年経過した被災地の復興状況を確認するとともに看護の基本について語り継ぐことの重要性を学びました。
2)看護師の特定行為研修について
15年に看護師の特定行為研修(※注)がスタートし、厚労省は25年までに10万人を目標としていましたが、修了者は1685人(19年3月末・厚労省)という状況で、達成に困難をきわめています。本制度は5年をめどに見直しを行うこととされているので、今後の厚労省の動きを注視する必要があります。
医師の働き方改革に関する検討会報告書(19年3月)では、チーム医療の推進に関して特定行為の見直しに触れ、一連の業務を担うために頻度の高い特定行為および特定行為研修をパッケージ化する必要があるとしています。10月には「医師の働き方改革を進めるためのタスクシフト/シェアの推進に関する検討会」がつくられ、看護師の特定行為の実施で医師の労働軽減がはかれるとの議論がされています。20年度からは、「外科術後管理領域」「術中麻酔管理領域」「在宅・慢性期領域」「救急領域」の4領域についてパッケージ化された研修が開始される見込みです。
また日本看護協会は、特定行為研修を組み込んだ新たな認定看護師研修を20年度から開始します。これにより21年度に特定行為研修を修了した新たな認定看護師が誕生します。現行の認定看護師には移行手続き(特定行為研修の追加履修)をすすめるとしています。診療報酬の要件にも加わるという背景の中、看護管理者だけでなく、組織的な方針や具体的な検討がさらに重要です。
19年看護管理実態調査(135法人の回答)では、特定行為に関する方針を持っている法人は32法人(23%)、特定行為研修を組み入れた新たな認定看護師研修制度に関する検討をしているのは25法人(18.5%)でした。具体的な検討内容はおおむね、「地域のニーズや法人の医療活動方針の中で、特定行為について慎重かつ柔軟に検討する」「認定看護師の研修には積極的に受講させていく、特定行為については実施しない」「積極的な研修はしない」の3つの方向性に分かれています。
特定行為について学習すること自体を否定するものではありませんが、学習することと実際に現場で特定行為を実施することは分けて考える必要があります。今後、特定行為研修を修了した認定看護師が増えてきます。法人・事業所の医療活動の中で特定行為を実施する必要性があるのか、安全性・倫理性からみてどうか、患者の納得が得られるか、特定行為の実施が本当にチーム医療を推進するものになるのか、医師をはじめとする多職種で総合的に検討し、法人・事業所として看護師の特定行為について方針を持つ必要があります。
医師の負担軽減は重要ですが、根本には絶対的な医師不足があります。医行為の安易な他職種への移譲ではなく、医師・看護師が本来の業務に専念できる環境をつくることが大切です。
②介護部門
43期方針で強調した県連の介護職部会は31の県連で設置されました。介護ウェーブ、介護の実践や学習会、後継者の確保と育成などに取り組んできました。
介護職が自律した職能として自ら集い、専門性を深め、社会的地位向上のために行動を進めてきました。42期にとりまとめた「えがおの架け橋」の学習、部会の設置・活動に対する県連・法人への支援を引き続き強めていきます。
常態化する深刻な職員不足の中で、介護職だけでなく、ケアマネジャー、看護師の確保も厳しくなっています。学校訪問や実習受け入れ、奨学金制度の整備、高校生1日体験、職員、共同組織での紹介活動、広報の工夫、自治体事業の活用などさまざまな対策を講じてきました。
政府の給付抑制策のもと、ケアマネジャーに対して介護保険からの「自立」を強いる行政の管理?監督の動きが格段に強まっています。41期に提起した「民医連のケアマネジャ一の役割について」にもとづき、民医連ケアマネジャーに求められている役割、ケアマネ政策づくりの議論と実践をすすめます。法人内でのケアマネジャーの養成も進めていきましょう。
③薬剤
43期、薬剤委員会は四役直轄委員会として、医師理事の参加など委員会体制を強化しました。保険薬局では健康サポート薬局(※注)へのチャレンジ、HPHのとりくみをすすめています(19年6月時点で350薬局中、健康サポート薬局55薬局、HPH加盟12薬局)。また75薬局法人中37法人が一般社団法人に移行しています。薬価制度の改定、処方せん枚数の減少などにより経営が厳しくなっており、経営改善対策の強化が課題です。保険薬局を巡る情勢の変化の中で、民医連保険薬局に求められる役割、活動のあり方を示すことが求められており、保険薬局政策2020(案)の議論をすすめています。44期の薬局法人代表者・専務合同会議で確定する予定です。
貧困・格差が拡大する中、無低診利用者への対応はひきつづき重要な課題です。保険薬局を無低診事業の対象として認めるよう、国への要望と一部負担金の自治体助成を求める運動を強めます。
病院薬局では薬剤師の確保と育成が深刻な課題となっています。求められている病院薬剤師業務は、年々増加(病棟薬剤業務実施加算・薬剤管理指導業務・薬剤調整加算・無菌調剤・医療安全・感染・薬剤師外来など)していますが、診療報酬上の保障がない中で中小病院では総じて人員配置が十分ではありません。一人でも欠員が発生すると病院薬局業務が滞り業務を縮小せざるを得ず、そのことでモチベーションが下がりさらに退職者数が増える悪循環が起こり、ひいては病院機能の維持自体に支障を来すことになります。病院薬剤師は病院全体に占める人数割合も少ないことから、管理部と日常的に薬局体制の困難さや課題を集中し、病院管理部、病院全体の課題として位置づけられるよう連携することが大切です。
④リハビリ
2018年の医療・介護報酬の同時改定では、回復期リハ病棟や通所リハビリにおけるアウトカム評価の強化やリハビリの終了・卒業への誘導がさらに強調され、2019年4月からは介護認定を受けている人の医療保険における期限超えリハビリが原則禁止となりました。リハビリの受療権がますます狭められており、今後のたたかいと対応とが迫られています。厳しい情勢とともに、体制不足によるリハビリ基準維持が困難な事業所もあり、茨城、千葉への全国的な支援も行われました。今期、リハビリ技術者委員会では、セラピスト集団の組織化と幹部育成、「2つの柱」の実践、社会への発信・働きかけ、の3点を重要課題とし、特に「SDHの視点で見て、ICFの概念で考え、社会に向けて行動するのが民医連のセラピスト」と強調してきました。その実践は各地でのSDH学習や社保運動への積極的なかかわりに表れ、教育・育成をすすめる上でも大きな影響があったと報告されています。2018年には第2回リハビリ技術者幹部講座を開催し、幹部、経営、平和について幹部の姿勢と覚悟まで幅広く学びました。また、6000人を超える民医連セラピストの育成が大きな課題となっている中、さらに養成校や職能団体における卒前・卒後教育制度が大きく変化しようとしていることも受け、「民医連セラピストの育成指針2019」を作成し、県連・法人代表者会議で論議を行いました。「民医連における教育の目標は、民医連綱領を実践する人づくりをすすめることです」という指針に大きな反響がありました。今後、各県連・法人での学習と、各事業所や部会でのプランニングと実践をすすめます。「2つの柱」の推進の中で、各現場や職種間の連携が重点とされています。セラピストは急性期から訪問、在宅、保健予防など枠にとらわれることなく活動が可能で、現場を体験しながら調整ができる優点があります。職種間の連携の核としての要望も高く、意識して活動することを呼びかけます。また患者・利用者と1対1でかかわる時間が長い職種であり、ACPの推進や倫理的検討にも深くかかわれる知識と力量をつけることが求められます。来期の実践課題として、①急性期365日リハビリの実践と普及、②在宅リハビリの強化、③がん・予防・産業分野への職域拡大、④多職種や地域連携の要としての役割、⑤経営幹部への成長、などを推進していきます。
⑤検査
定期的に検査部門委員会を開催し、各地協の情報を共有してきました。特に医療整備や検体採取などに関する講習の受講状況の共有、医療法改定にともなう精度確保や記録のあり方などについての情報共有を強めました。大阪で第17回検査部門交流集会を開催するとともに、集会に向けて今期も全日本民医連検査部門実態調査を実施し、調査結果をとりまとめました。前期からひきつづき、日本臨床検査技師会が定期的に行っている開設者別代表者会議に、全日本民医連の検査部門を代表して参加し、民医連から臨床検査技師会に対する要望も伝えました。
⑥放射線
18年11月に全国代表者会議を開催しました。民医連の歴史と医療活動について学習し、各地のとりくみを交流しました。集会に向けて4年ぶりの各病院の放射線部門の実態調査と、初めてとなる35歳以下の青年職員の意識調査を実施しました。
35歳以下の青年職員の意識調査では、新人研修の期間や内容が十分だったか、将来担当したいモダリティや学会などへの参加状況、民医連を選択した理由、民医連に共感できるところ・できないところ、職場の好きなところ・嫌いなところ、など今後の職員育成を考える上で参考になる結果を得ることができました。
放射線部門の課題としては、技師の計画的な採用がすすんでいない現状、研修プログラムの整備など育成の課題、医療安全の向上などがあげられます。医療被ばく低減施設の認定取得にもとりくんでいます。部門委員会では、各地協の委員会での情報共有に生かすために技師体制や機器更新、部門の課題など共通フォーマットの作成や、医療安全向上のための改善提案の共有をはかる仕組みを検討しています。また44期は2013年に作成した全日本民医連放射線技師政策の改定が課題となっています。
19年の医療法施行規則一部改正において診療用放射線にかかる安全管理体制の整備が求められることになりました。具体的には安全管理責任者の配置、安全管理のための指針の策定、職員研修の実施、医療被ばくの線量管理、線量記録の実施、などです。施行期日は20年4月1日で、事業所としての整備が求められます。
⑦栄養
43期の栄養部門県連代表者会議では利用者・患者の「食べたい」という気持ちに寄り添うために、いち早く社会情勢を知り、対応していくことが大切であることと、地域の健康を守るために地域活動に活発に参加しようと呼びかけました。44期に向けてのテーマは、①食、②教育、③連携と題してとりくみを継続して食形態を整備し情報共有をすすめることについて課題を見つめ、食の専門家として〝人生の質〟をささえる役割を職場に生かしていきます。
⑧SW
43期は、「2つの柱」やSDHの視点を重視し、県連・事業所のSDH委員会などへの参加や、職員・組合員対象の学習会講師などに積極的にとりくみました。SW委員会として、前期にひきつづきJ―HPHのSDH評価・介入研究班にオブザーバー参加し、J―HPHネットワークの「医療・介護従事者のための経済的支援ツール」開発や症例事例集作成、スプリングセミナーの貧困治療ワークショップの講師などに協力しました。現場のSDHの事例検討などでの講師活動に向けて、「SDHのとりくみに対する民医連SWとしての重要な視点」をまとめて全国に発信しました。体制、育成面では、新人・中堅層の退職、採用希望者の減少、過密な業務による事例検討や学習の時間がとれないなど、対応が急がれる課題もあります。
辺野古埋め立ての是非を問う県民投票では、SW委員会で緊急ファクス要請行動にとりくみ、全国にも新基地建設反対のアピールと行動提起をしました。19年7月の参院選では、平和と人権が守られる政治を求め、投票を呼びかけるアピールを発信しました。
44期は、憲法25条の理念にもとづき人権を守る福祉専門職のSWとして、権利としての社会保障制度を守り改善を追求し、平和を希求し社会正義を守る立場で憲法改悪を許さないとりくみを継続します。業務が細分化され、他職種の上司や一人配置の職場もあり、退院支援や在宅調整に追われ、専門性やモチベーションを保てなくなるSWも存在します。県連SW部会や地協SW代表者会議で意識的に集団づくりを行い、SW部会のない県連の課題も地協で共有しささえ合います。専門職の自己研さんの場として職能団体への結集を呼びかけ、県連SW部会として職能団体への加入を位置づけていきます。
⑨保育
保育所指針の改定、幼児教育・保育の無償化と、保育を巡る情勢はめまぐるしく変わっています。子ども・子育て支援新制度がスタートして4年が経過し、民医連の院内保育所でも事業所内保育所として認可保育所や企業主導型保育所に移行した園が3園増加(2019年、2017年院内保育実態調査比)しました。また委託化や、自治体からの要請などにより病児保育事業を行う事業所もあり、さまざまな形態の保育所運営となっています。医療・介護の現場の職員である保育者の就労をささえ、安心の医療・介護を提供するために、院内保育所の存在は重要です。未来ある地域の子どもたちを含めた子どもの成長や保護者である働く人びとの環境を改善できるよう、今後も署名や厚労省交渉など運動をすすめていきます。
⑩鍼灸マッサージ
19年1月1日から鍼灸マッサージ療養費に受領委任払い制度が導入されました。これまでの償還払いや代理受領に比べて患者の金銭的負担や手続きが軽減されることになりました。民医連の鍼灸マッサージ委員会も含めて、職能団体の粘り強い要求の成果です。
鍼灸マッサージ委員会として、43期も19年10月に厚労省交渉を行い、手技に対する正当な対価や患者にとって安心で使いやすい制度の実現などを求めました。民医連で働くはり師、きゅう師、あん摩マッサージ師が減る中で横のつながりをどうつくっていくのかが課題です。
第8節 拡大する災害被害と民医連の災害支援
(1)これまでの想定を越す自然災害の発生
43期の2年間の自然災害は、地震、台風、豪雨などで、これまでの想定を上回るものとなっています。それは、日本全体が地震活動期に入っていること、また地球温暖化による気候変動のため、酷暑、暴風雨、超大型台風などにより、多くの人命や財産が奪われ、インフラの破壊などがくり返されました。気候の危機は、世界が直面している最大の危機のひとつであり、いのちを脅かすものとなりました。そしてこの猛威は放置すれば、これからも続く可能性が否定できません。
また、大規模災害が想定される巨大地震は、30年以内に南海トラフ大地震、首都直下地震が高い確率で発生することが予想されています。(表F、G、H)
(2)全日本民医連、MMATを中心とした災害支援のとりくみ
それぞれの災害で、全日本民医連は常駐役員を現地派遣し、災害対策本部を確立して支援をすすめてきました。また、42期の熊本大地震の経験から本格的に活動を開始したMMATが支援活動をささえてきました。
対策マニュアルの整備や訓練など、日常からの備えの有無によって、災害が発生した時に対応には差がみられることから、災害医療の基礎知識を学び、事業所の災害対策マニュアルづくりや訓練が各地で普及することを重視したMMAT研修を開催してきました。また、大規模災害発生時に全日本民医連として災害対策の中心的な役割を担っている、全日本事務局役職員を対象にした研修を開催しました。さらに、被災した場合に県連の対策本部の中心を担う県連事務局長をはじめとする県連幹部を対象に研修会を行い、対策本部の立ち上げや方針、事業所との関係や組織機構などの具体的な方策を検討しました。
南海トラフ地震とそれにともなう広域大規模災害を想定した学習会を開催し、大きな被害が予想される各県の想定被害や対策検討状況などの交流を行いました。4回の研修会には合計249人が参加し、前期開催の研修会を含めて、全ての県連からの参加がありました。
MMATメンバーの登録を開始し、9県連から47人(2019年11月30日現在)がメンバー登録されています。このMMATメンバーを対象にした研修会を今期初めて開催し、メンバーの役割をあらためて学ぶとともに、この間の災害と各地の対応状況を共有しました。
第9節 全日本民医連のとりくみ
(1)全日本民医連・地協結集、県連機能強化の課題
43期は県連会長研修会、事務局長研修会、病院長会議の実施を行い、世代交代がすすむ中で、幹部へ向けた研修を重視してきました。毎月の理事会、専門部会の活動を軸に全ての県連から参加し活動を推進してきました。全国会議の整理、全国会議の開催予定を評議員会で提示し県連の計画に位置づけられるようにしてきました。
43期、全国的に厳しい経営状況の中で、福島・郡山医療生協経営対策委員会、長野・東信医療生協対策委員会を経営困難支援規程にもとづき設置しました。郡山医療生協は、危機を乗り越え、2019年6月に対策委員会を終了し、教訓を全国的に共有してきました。東信医療生協は、再建計画の立案過程です。
43期に検討をすすめるとした評議員会のあり方については組織的検討には至りませんでした。44期に検討をすすめていきます。
(2)第14回全日本民医連学術・運動交流集会
「医療・介護活動の2つの柱を実践し、民医連の新たな発展期を築こう、いのちと人権を守る運動をさらに発展させ、誰もが安心して住みつづけられるまちづくりをすすめよう、憲法を生かし、平和で誰も置き去りにしない世界をつくっていこう」をメインテーマに、第14回学術・運動交流集会を長野市で開催しました。初めての試みとして、17のテーマで550演題全てをポスターセッションとして行いました。韓国社会的医療機関連合会(以下「社医連」=※注)の組織委員長、ソウル・緑色病院副院長の活動紹介があり、玉城デニー沖縄県知事からビデオメッセージを受けました。また特養あずみの里裁判の特別報告がありました。記念講演は国際ジャーナリストの伊藤千尋氏が「憲法が生きる社会をめざして~これから私たちが輝けるために」を行い、憲法9条の理念が世界に広がっていくさまを会場全体で共有しました。今回は甚大な被害をもたらした台風19号の接近で、1日の開催としてくり上げて終了し、2日目のテーマ別セッションは中止しました。今後、全日本民医連が主催する集会や企画についての中止判断の時期、基準について明確にしていきます。
(3)研究倫理審査委員会の設置ととりくみ
第43期に8回の委員会を開催し、6件の倫理審査を行いました。研究に求められる倫理の水準を担保するとともに、毎回の委員会で学習を行い、研究デザインや研究方法についても学び、民医連で行われる研究の質の向上にも寄与しました。
(4)特養あずみの里裁判への全国支援
19年3月25日、長野地方裁判所の一審判決が出されました。死因について客観的事実の裏付けがない推論で「窒息」と認定し、当初の訴因とされた「注視義務違反はない」としながらも、訴因変更によって追加されたおやつ形態確認義務を認め、不当にも罰金20万円の刑事罰を科す有罪判決を言い渡しました。判決に対しては、「これがなぜ刑事罰なのか」「この判決が確定すれば、日本の介護がさらに萎縮、介護の担い手もいなくなる」「特別養護老人ホームや終末期医療のあり方が大きく変わってしまう」など社会的反響が広がっています。弁護活動と45万筆を超える署名の力がマスコミを動かし、世論を動かしています。
裁判は東京高等裁判所に移りました。裁判をささえるため、日本医労連、保団連、国民救援会、全日本民医連で連絡会を結成しました。「無罪を勝ち取る会」と連携して運動を強めています。1月30日に東京高等裁判所において、控訴審の第1回公判が開かれました。弁護団は、死因について窒息でなく、脳梗塞であったとする新たな証拠を3人の専門の医師による意見書として提出しました。東京高裁は、この地方裁判所での判決を左右する新たな証拠について審議することなく却下し、憲法が保障する被告人の裁判を受ける権利を侵害するという暴挙に出ました。東京高裁は、4月に判決を行おうとしています。介護の未来を奪うな、公正な裁判の実施をと世論を広げ、引き続き全力で支援を進めていきます。
(5)乳腺外科医師えん罪事件の到達と支援
東京の「乳腺外科医師えん罪事件」裁判は、2019年2月20日、東京地裁において外科医師側の主張が全面的に認められ、無罪判決を勝ち取ることができました。この裁判では、女性患者の被害が「術後せん妄常態下の幻覚であった可能性」が指摘され、科学捜査研究所のDNA型鑑定・アミラーゼ確定を裏付けるワークシートが鉛筆書きで、書き直した跡が複数判明、また係争中であることを知りながら、DNA抽出液の残存物を廃棄するなど、鑑定が再現性.科学的信頼性のないものであることが明確になりました。東京地検はこの判決を不服として東京高裁に控訴しましたが、高裁では検察側の主張は、一切取り上げられないまま、結審を迎えようとしています。通常の医療行為が、刑事罰に問われるようなことがあってはなりません。必ず無罪を勝ち取るため支援を継続します。
(6)国際活動
ECOSOC(※注)への事業報告を準備してきました。提言やレポートを計画的に提出するまでには、至りませんでした。世界的な格差と貧困の広がり、その中での経済大国である日本の現場から、民医連の各種の調査活動について知らせる活動はきわめて大きな意義を持ちます。
韓国では、18年5月に社医連が結成され、これまでの緑色病院、保健医療団体連合に加盟する人道主義実践医師協議会などに加え、韓国の医療機関との交流が広がりました。社医連の第1回学術運動交流集会などに参加しました。
健康社会のための歯科医師会(健歯)の設立30周年の記念式典に出席をしました。第7回のキューバの医療視察の実施、『医師たちが見たキューバ医療のいま』を出版しました。民医連綱領改定10年へ向けた企画としての中国訪問・研修を行いました。731部隊罪証陳列館など侵略と戦争の歴史、遺棄毒ガスの被害者との懇談など現地で学ぶ貴重な機会となりました。現地での遺棄毒ガス被害者検診に医師団を派遣しました。
(7)民医連の共済活動
民医連の共済活動は、民医連綱領の実現をめざす職員の健康と生活をささえることが目的です。法人・県連・全国のネットワークを生かして、病気やケガ、火事や自然災害などに遭遇した際に、職員同士の助け合いとして見舞金給付や助成を行っています。特に自然災害が多発する中での災害見舞金は、「全国の仲間にささえられていることを実感した」などの声が多く寄せられました。また、文化・スポーツ活動や交流企画も旺盛にとりくまれ、「民医連はひとつ」の連帯と団結を深めることができました。
第4章 44期の方針
新自由主義の暴走により、格差と貧困は年々深刻化し、加えて、地球環境を無視した経済活動によって気候危機がかつてなく進行しています。また、安倍内閣は憲法無視、議会制民主主義を形骸化させ日本の民主主義を激しく劣化させるとともに、人権としての社会保障を根本から否定し国民生活をさらなる困難に陥れようとしています。
今後2年間、民医連は市民社会の一員として、憲法を守り、平和、民主主義、人権を大切にする国内外のムーブメントに連帯し、医療・介護の現場から積極的に運動を展開します。
第1章で示した2020年代の課題認識を踏まえ、44期の全日本民医連の活動の重点は、①「2つの柱」の実践を深化させ、人生の最期まで寄り添う総合的な事業施設体系の整備と連携づくりに攻勢的にとりくむこと、②国民生活の苦難に寄り添い安倍政権の「全世代型社会保障改革」に真正面から対峙するたましいとしての社保運動を全ての職場から発信するとともに、健康権を実現するための国民運動の一翼を担うこと、③戦争NO、核兵器廃絶、地球環境守れ、の方針を全事業所で掲げ、9条改憲を断固許さず、辺野古米軍新基地建設阻止、核兵器禁止条約発効へのとりくみを強化すること、です。
これらの活動を通して、打開が急がれる医師確保と経営分野での前進をめざすとともに、高い倫理観と変革の視点を持った職員の育成に組織を挙げてとりくみます。
綱領改定後10年間の活動に確信を持ち、運動でも事業でも人材育成でも次の10年の発展を展望する、そんな44期にしましょう。
第1節 憲法を生かし人権としての社会保障と平和を守り抜こう
(1)憲法と健康権を生かし、いのちと人権を守り抜く運動をすすめよう
1)地域住民の受療権を守り抜く課題
①安倍政権の「全世代型社会保障改革」阻止の大運動を
地域から病院をなくし、さらなる負担増(後期高齢者の2割負担、紹介状なしの200床以上の病院外来診療への自己負担)と給付削減(病床削減等)を明記した「中間報告」は受療権を深刻に侵害するものであり、私たちは許すことができません。政府は、今年の夏に最終報告をとりまとめ、21年1月の通常国会への改悪法案を提出しようとしています。安倍政権の「全世代型社会保障改革」阻止の大運動を起こしましょう。全日本民医連としての推進体制を確立して大運動にとりくみます。
②地域住民とともに、立場の違いをこえて地域全体で地域医療を守る運動をすすめよう
地域医療構想の策定(20年9月予定)がすすめられています。「全世代型社会保障改革」の大きな柱です。地域から病院を奪わせてはなりません。厚生労働省が提出した424の公立・公的病院再編統合のリストは地域医療を壊し、受療権と暮らしを奪うものです。すでに多くの都道府県で運動が始まっています。当該の病院、医師会、自治会、住民などに呼びかけて、すべての県で「地域全体で医療を守ろう」の一点の運動を広げましょう。
③安心して利用できる国民健康保険への抜本的改善
国民医健康保険は「社会保障及び国民保健の向上に寄与することを目的とする」(国民健康保険法第1条)ものであり「住民の助け合い」の制度ではありません。しかし、もっとも受診抑制がすすんでいるのが、国民健康保険(※注)です。高すぎて払えない保険料と3割負担が大きく影響しています。
安心して利用できる国民健康保険へ抜本的改善を求めていくことが地域住民の受療権を守る上でいま求められています。一般財源からの繰り入れや基金の活用をした高すぎる保険料(税)の引き下げ、子どもにかかる均等割保険料(税)の減免(※注)、統一保険料への動き(※注)を許さない運動、全国知事会も要請している1兆円の公費投入も含めて国保への国庫負担増、保険料を低く抑えるための自治体の独自予算に対するペナルティーの廃止など改善運動の課題としてすすめます。国保法44条がより活用しやすい制度となるよう、改善のとりくみを強化します。
④一部負担金減免制度の拡充
「子ども医療費」「重度心身障害者・児医療費」への助成拡充をはじめ、誰もがお金の心配なく安心して必要な医療を受けられるよう、一部負担金減免の拡大を求める運動にとりくみます。
⑤無料低額診療事業制度の拡大と改善
すべての民医連事業所が届け出に挑戦しましょう。同時に、地域の中で制度を広め、民医連外の事業所でも届け出がすすむよう働きかけましょう。特に公立・公的病院がその役割を果たすためにも、無料低額診療事業に積極的にとりくむよう働きかけましょう。地域の無料低額診療事業にとりくむ事業所と、共通の認定基準の検討、薬代の自治体助成など共同したとりくみを推進しましょう。国に対して保険薬局を事業の対象とすることを強く要請していきます。
⑥生活保護制度の改善
生活保護引き下げの不服審査請求の支援にとりくむとともに、生活保護基準の引き上げ、低すぎる生活保護の捕捉率の引き上げで、必要な人が利用できる生活保護制度実現にとりくみます。
⑦外国人労働者の健康権を守るとりくみ
1981年の難民条約批准(※注)にともない、労働や社会保障制度などについて内外人平等のとりあつかいが必要となりました。現在は、生活保護法を除く社会保障、社会福祉、医療の分野の制度では国籍条項がある制度はありませんが、1990年の出入国管理および難民認定法(入管法)改定などで外国人が増加する中、国は、生活保護、国保などの適用をさまざまに制限しており、医療にかかれず重症化する事例が広がっています。18年末時点で、在留外国人(※注)は273万人となっています。民医連事業所での具体的な事例を集約し、人権、受療権を守る制度の確立をめざして、労働組合、働くもののいのちと健康を守る全国センターなどと共同していきます。
2)現場の実態を可視化し、発信しよう
現場の実践から「事実」をまとめ、発信することができるのは民医連の強みであり、「いのち、憲法、綱領」の視点、「健康の社会的決定要因」の視点を自覚している私たちの優位性です。全県連で経済的事由による手遅れ死亡事例調査、無料低額診療事業の事例調査を行い、社会保障制度の問題点などを明らかにして、制度改善の運動にとりくみましょう。一職場一事例、気になる患者訪問、未収金訪問調査、熱中症調査や寒冷地調査、SDHカンファレンスなどで日常の医療と介護実践の中で事例を深め、全職員で社保運動にとりくみましょう。
3)「介護保険20年」のもとでの介護ウエーブ
制度改悪中止と大幅な処遇改善を求めるとともに、介護報酬21年改定での報酬底上げ・改善の実現に向けて、地域の事業所・団体と共同し、介護ウエーブを大きく広げていきましょう。国への意見書提出を求めるなど自治体への働きかけもひきつづき重要です。「介護の社会化」の期待を背負い2000年4月にスタートした介護保険は、政府の社会保障構造改革のもとで、契約にもとづくサービス費用の上限付き補償(現金給付)、要介護認定、応益負担(利用料)の導入、国庫負担の削減、営利企業の参入容認など、必要なサービスを保障する「必要充足」原則(※注)から乖離した「構造的な欠陥」を最初から組み込んで創設されました。施行後は「持続可能性の確保」を掲げた政府による給付抑制・負担増の見直しがこの欠陥を増幅させてきました。特に12年以降は、「地域包括ケア」「地域共生社会」を掲げた医療・福祉との一体改革のもとで、「自助・互助」が前面に打ち出され、さらに「自立」理念の変更、介護職による医療行為容認、財政インセンティブの導入など介護保険制度の質そのものを大きく転換させる見直しが実施されてきました。その結果、「保険あって介護なし」という事態の広がり、打開の方向性が見いだせない担い手不足、保険料の上昇で破たんを招来しかねない保険財政など、このままでは介護保険そのものの持続性が危機に陥る深刻な状況に直面してしまいます。政府に対して「介護保険20年」の全面的な検証と、「必要充足」原則を貫いた制度の抜本改善を求めます。これは無差別・平等の地域包括ケアを実現する上でも、介護・医療連携を制度的に保障させる上でも不可欠です。利用者、事業所の実態を通して現在の介護保険の矛盾・問題点を掘り下げ、さまざまな工夫による当事者の参加も追求しながら、制度の抜本改善を求める声を広げていきましょう。
4)応能負担にもとづく公正な税制と再分配の確立・社会保障財源を消費税に頼らない合意づくりを
政府は、18年度に約120兆円だった社会保障給付費が40年後には約190兆円となるとの試算を提示しました。高齢化がすすみ病気になる人が増加すれば、給付が増えるのは当たり前です。問題は、誰が、どのように、財源を負担し国民の健康権を守っていくのかということです。日本の社会保障の財源をヨーロッパと比較しても税制で消費税以外の財源=法人税や所得税などの割合が極端に低いこと、また保険料でみると事業主の保険料負担が低いことがわかります。(表I)
税収そのもので法人税、所得税を応能負担とし引き上げていくことで社会保障に投入できる公費を増加させること、高額所得者が優遇されている保険料の上限の撤廃、事業主負担を応分に引き上げることこそが必要です。社会保障の財源の不足を、患者負担でまかなうことは、医療へのアクセス悪化を招く人権侵害であり、国民皆保険制度を空洞化させるものです。
消費税は、低所得者ほど収入に占める負担割合が重くなる逆進性の高い税制(※注)です。こうした消費税は社会保障財源にもっともふさわしくありません。「応能負担」というのであれば、富裕層の税負担引き上げを実施することが先決であり、格差を是正し所得の再分配機能を強めることが求められます。同時に、過去最高の約449兆円もの内部留保をため込んでいる大企業への優遇税制をやめて応分の負担を求め、対米追従の防衛予算をあらためてゆがんだ税制を正せば、消費税に頼らずに社会保障を拡充する財源を生みだすことは可能です。
2019年の参議院議員選挙にあたって市民と野党の共闘で13項目の共通政策を掲げました。そこには「膨張する防衛予算をほかの財源に」「10月からの消費税増税中止」が掲げられました。こうした到達を踏まえ、教育や雇用改善も含めて、消費税に頼らない社会保障財源確保への合意を広げ、世論にしていくことを強めていきます。
5)地協社保委員会の設置
各地協で県連社保委員会の交流の場を設け、地協レベルで社保活動をすすめながら、今期中の地協社保委員会の設置をめざします。全日本民医連として、すでに地協社保委員会を設置している地協の積極的なとりくみや経験を、適宜ニュースなどで全国に広めていきます。
(2)憲法を守り抜き、平和な日本と北東アジアを
1)安倍政権の9条改憲を阻止し憲法が生きる社会を
①44期は安倍政権による9条改憲を完全に断念させ、憲法を守り生かす重要な期間です。民医連綱領と憲法学習を全ての法人、事業所で旺盛にとりくみ、安倍9条改憲NO! 全国市民アクションが提起した「安倍9条改憲NO! 改憲発議に反対する全国緊急署名」(2020年、秋臨時国会までに、民医連として100万筆目標)を軸に改憲発議をさせない世論を大きくつくっていきます。
②衆議院議員選挙へ向けて、全ての小選挙区で野党統一候補とともに、改憲発議に反対する運動を強めていきます。とりわけ、13項目の共通政策で社会保障への要求を明記していくとりくみや県連としての政策協定などに挑戦します。
2)被爆から75年、核兵器の廃絶へ向けて
①被ばくの実相を学び、語り広げ、「ヒバクシャ国際署名」を広げ、2020年を核兵器禁止の転機にしていきましょう。核兵器禁止条約への参加を日本政府に求める運動を地域から広げていきます。
②核兵器廃絶と気候変動をテーマに開かれる今年4月の原水爆禁止世界大会inニューヨーク、2020年NPT再検討会議での国際共同行動の成功へ向けて、全ての県連から前回のNPT再検討会議を上回る代表を派遣しましょう。
3)沖縄との連帯、各地の基地闘争、日米地位協定見直し
①ひきつづき辺野古新基地建設ストップのため、連帯行動、医療班の派遣にとりくみます。22年1月の名護市長選挙での勝利へ向けた運動を全国でとりくみます。
②自衛隊基地の再編強化、米軍基地の全国での展開の中で、地域での運動を他団体と共同してとりくみます。爆音、環境破壊など基地が引き起こす健康被害について調査活動を行い、世に問う活動にとりくみます。
③日米地位協定の見直しを求める全国的な運動を共同してすすめていきます。
④職員向けに日米安保条約(※注)を学ぶテキストなどを検討し、学習を広げていきます。
4)韓国の医療・介護の職員、事業所との交流をさらに強めよう
①朝鮮半島の非核化・平和のために9条を生かした外交を求めていきます。
②加害と被害を学び、相互の交流を強め、日韓両国での平和と健康権を守る運動の前進をはかります。平和学校、日韓の医学生の交流などを旺盛にすすめていきます。
(3)原発ゼロ、全ての災害被災者の人間らしい生活を取り戻そう
今期は東京電力福島第一原発事故から10年目を迎える2年間となります。一方で安倍政権は、東京オリンピックを機に原発事故を忘れさせ、原発を再稼働させる政策を推しすすめています。
原発ゼロは、いまも続く福島の現実の中に理由があります。ひきつづき「福島原発事故被災地視察・支援連帯行動」を行い、福島の現実を多くの人たちに伝え連帯し、原発事故からの真の復興と原発ゼロの社会をめざします。
原発事故から10年目を迎える今期、原発をなくす全国連絡会など共同した全国集会(福島)を中心に「福島に寄り添い、原発事故から真の復興と原発ゼロをめざす大運動」が準備されています。民医連として成功させていきましょう。原発ゼロをめざす運動を大きく広げ、原発ゼロ基本法案の制定をめざします。
(4)環境問題・地球温暖化・地球環境保全のとりくみ
環境問題・地球温暖化対策へのとりくみを強めていきます。環境破壊・地球温暖化は健康の社会的決定要因であり、民医連綱領は「環境を守る」を掲げています。
09年に日本医師会も「環境に関する日本医師会宣言」を出し、地球環境保全が人間の安全保障であり、地球環境とそこに生きる人類の健康の保持増進をめざすことを宣言しています。保健医療分野にかかわる私たちにとって共通の責務です。
民医連は、水俣病、大気汚染など公害の犠牲となってきた患者への治療とともに、疾病と企業による環境破壊関係を医学的に明らかにして患者とともにたたかってきました。各地では、火力発電所建設反対の運動や、各種の裁判支援にもとりくんでいます。また、今日的に五大公害・環境問題と言われている、東京電力福島第一原発事故災害の被害者救済と復興の課題、アスベスト複合・ストック災害の総合的対策、辺野古新基地建設と環境破壊、水俣病の完全な解決に向けた課題、地球環境と石炭火力問題などにかかわっています。
今後、地球温暖化対策に環境団体と共同してとりくんでいくこと、民医連としての学習運動、また環境問題を考える上で、私たちの仕事や生活がどのように環境に影響を与えているかを洗い出し、その負荷を低減するために何ができるかを考えることが基本です。エネルギー使用量の削減や廃棄物の削減、レジ袋の廃止など、私たちができる環境負荷低減のとりくみをすすめましょう。また、最大の環境破壊である戦争に反対し、核兵器の廃絶のとりくみを広げるとともに、各事業所で原発ゼロのとりくみと一体に再生可能エネルギーへの切り替えなどの運動にとりくみましょう。
ノーモア・ミナマタ被害者・弁護団全国連絡会議が取り組むすべての水俣病被害者の救済へ向けた「公正な判決を求める要請書名」を全国的に推進していきましょう。
また、「ビキニ核被害者救済」に向けて、船員保険法の適用による救済の道を開くため適用を不承認とした処分の取り消しを求める提訴が行われました。高知民医連より、全国の県連、民医連の事業所に「支援する会」への加盟の要請が出されました。すべての県連、事業所で支援活動に取り組みましょう。
第2節 医療・介護活動の重点
地域住民、患者、利用者の中で社会的孤立が増加し、貧困も急速に広がっています。地域の医療供給体制が様変わりする中で、「2つの柱」の重要性は、ますます際立つ時代を迎えます。
世界保健機関(WHO)は、プライマリー・ヘルスケア(PHC)を地域の医療要求に立脚し地域住民の参加のもとに必要な医療を提供すること、ヘルスプロモーション(HP)を人びとが主体となって健康とその決定要因をコントロールし改善するプロセス、公正な社会の創造である、と定義しています。そして、PHCとHPを基本的な健康戦略、車の両輪としています。こうした点を踏まえ、健康格差の克服に挑む民医連の医療・介護を創造していく2年間にしていくうえでの重点課題を提起します。
(1)無差別・平等の民医連の医療と福祉
1)個人の尊厳を大事にする断らない医療・介護の提供
私たちが出会う患者の多くは複数の疾患を持ち、社会経済的な課題、家族の課題など複雑な背景を持っています。加齢による認知機能・身体機能の低下など避けられない病態もあり、疾病以外の課題の解決に困難を感じることも少なくありません。人口の減少と高齢化の同時進行、身寄りのない単身世帯の増加により、その傾向はさらに強まっていくと考えられます。また、現場の多忙さ、複雑さは増しており、その中でひとりひとりの患者の尊厳に配慮した医療活動が求められています。多忙な現場にあっても、複雑な背景を持つ患者に人権保障の視点で向き合い続けることが、地域から民医連が期待されていることのひとつであり、無差別・平等の医療・介護・福祉をめざす民医連綱領の立場です。
身体機能や認知機能が低下していたとしても必要な医療が受けられるように、意思決定を支援し、ひとりひとりの患者・利用者の尊厳をチームの力で守り、民医連らしい医療・介護活動を展開しましょう。また、ジェンダー、外国人、LGBTなど多くの差別が現存する中、人権のアンテナを高く持ち、個人の尊厳を守る立場で医療・介護の実践をすすめていきましょう。
地域医療構想・医療計画や診療報酬の誘導により、地域の病院の役割分担が半ば強制的にすすめられようとしています。民医連の病院も、厳しいポジショニングの議論を経て、部分的な診療内容の変更や規模の縮小を選択する状況もあります。提供可能な医療内容や人員体制に制限があり、救急・急性期・回復期・慢性期それぞれの場面で疾病・病態によっては受け入れができないこともありますが、患者の受療権を守るために「まず診る」「援助する」「何とかする」という姿勢を事業所全体で確認しましょう。
2)アウトリーチの推進
アウトリーチとは直訳すると「外に手を伸ばすこと」であり、積極的に対象者の居る場所に出向き、必要な人に必要なサービスと情報を届けることです。生活に困窮した人たちは自ら支援を申し出ることができない、あるいは支援の必要性を認識していないことも多く、彼らの生活の場に出向いて潜在的なニーズを発掘し支援につなげる必要があります。
民医連事業所では古くから中断患者訪問、気になる患者訪問、共同組織とともに会員訪問などを行ってきました。また、「駅前何でも相談会」や高齢化、独居化のすすむ団地などの全戸訪問、日本に滞在する外国人の医療生活相談、ホームレスや経済的に困窮した人たちへの訪問・相談活動など、さらに対象を広げた活動も行ってきました。しかし、困難を抱える多くの人が孤立し、医療・介護・福祉にたどり着けずにいます。もっと多くの人びとに民医連の事業と運動を届けるためのアウトリーチを日常的に行う体制を具体化することが必要です。
3)質の高い在宅医療の提供
人口の高齢化と政策的誘導もあり、在宅医療への期待が質・量ともに高まっています。在宅医療を行っている中小病院と診療所では可能な限り機能強化型在宅療養支援病院や機能強化型在宅療養支援診療所をめざしましょう。24時間365日の在宅療養をささえるため、特に時間外・休日の体制づくりが課題です。グループ主治医制、病診連携による体制づくりなど全国の工夫に学びましょう。医療ニーズの高い患者が在宅に復帰してくることも増え、病院や地域の専門医との連携が欠かせません。嚥下機能や認知機能、運動機能の改善をめざし、歯科や栄養サポートチームとの連携をこれからもすすめていきましょう。
現状では在宅医療の質を評価する指標が明確ではありません。総合的な評価方法を開発する必要があります。
4)認知症のとりくみを強めよう
25年に認知症を持つ人は、全国で700万人を超えると推計されています。認知症のとりくみは民医連の医療・介護実践上の大きな課題であり、共同組織と連携した地域包括ケア、まちづくりの課題でもあります。地域の要求に応え、法人・県連として認知症に対する方針・政策を明らかにし、各地の経験を学び合いながらとりくみを強めていきましょう。20年秋に認知症実践セミナーを開催するとともに、21年秋に予定されている第10回認知症懇話会の成功をめざします。地協での学習会や交流集会などの開催を検討しましょう。全日本民医連として、認知症に関するとりくみ状況について地協や県連、事業所ごとの把握をすすめます。
5)地域の変化に向き合い、リポジショニングを恐れず検討しよう
少子高齢化の進行とともに人口減少への対応が地域の大きな課題となっています。典型的な疾患の患者数が減少する中、地域によっては救急患者、手術適応のある患者を大病院が奪い合うような状況も生まれています。また、急性期病院からのポストアキュート患者を受け入れるため、特定の回復期・慢性期病院や在宅医療機関が密接に連携しているケースも増加しており、民医連の事業所がその強固な連携に参入できずに、入院患者や在宅患者の確保に困難をきたしている状況もあります。民医連内だけでなく、他法人の医療機関や地域包括支援センター、ケアマネジャーなど地域の介護サービス事業者との顔の見える関係づくりをさらにすすめましょう。そして、地域の情報を集め分析し、自院のポジショニングや将来像を客観的かつ冷静に検討し、変革が必要と判断したら直ちにとりくむ勇気と迅速さが必要です。患者・利用者の人生の最期まで寄り添える事業所体系づくりを考える点で、看護小規模多機能型居宅介護事業所、介護医療院などの検討も必要です。
(2)無差別・平等の地域包括ケアを実現するための連携をすすめよう
民医連のめざす医療・介護は、「誰もが安心して住み続けられるまちづくり」を実現するための活動をすすめています。これらを実現していくためには、医科・歯科・介護の連携は不可欠です。連携を強化するために3つの課題にとりくみましょう。
第1の課題は、多職種協働のとりくみを法人を越えて地域で促進することです。多職種協働(inter―professional work…IPW)は「複数の領域の専門職がそれぞれの知識と技術を提供し合い、相互作用しつつ、共通の目標の達成を患者・家族とともにめざす援助活動」と定義されており、そのために必要な専門職の能力として「共通の能力」「個々の専門能力」と「IP協働的能力」の3つがあげられています。IPWを実践する人材育成をめざす多職種連携教育(inter―professional education…IPE)とは「複数の領域の専門職が連携およびケアの質の改善するために、同じ場所でともに学び、お互いから学び合いながら、お互いのことを学ぶ」と定義され、「チームを動かす力」「多職種と協働する力」「対人援助の基本的な力」の3つの実践力が必要とされています。
IPW・IPEをすすめる上で大切な視点は、利用者と家族とともにとりくむこととそれぞれの専門職を尊重し、相互理解を深めるための努力が必要です。自分の専門職が他職種からどのようにイメージされているか、他職種からどのような役割を期待されているか、いっしょに働く他職種のことをどれだけ理解しているかが重要です。
第2の課題は、法人あるいはグループ内でのソーシャルワークを含む統合的な運営強化です。この間行われた医療・介護にかかわる全国集会では、民医連内であっても依然として職種間に壁があること、事業所間連携の難しさがあることなどが報告されています。情報共有やコミュニケーション、他職種をリスペクトするカンファレンスの持ち方など現場での対策から、事業所や法人の枠を越えた医療・介護複合体としての機能を発揮できるような管理運営のための仕組みや工夫が必要です。現場レベル、事業所レベル、法人・県連レベルなどさまざまな段階で検討が必要です。貧困の広がりや制度改悪の中でSDHを重視すればするほど、ソーシャルワーク機能が重要です。病院SWやケアマネジャーの体制と力量強化にとどまらず、社会的処方や日常的な制度改善がすすむような仕組みづくりに挑戦しましょう。
第3の課題は、医療・介護を越えて地域のさまざまな団体と連携することです。教育機関やマスコミ、商店街、各種NPO、社会福祉協議会など、多職種、多業種の幅広い団体にも声をかけてみましょう。そのためには共同組織の役割が重要であり、住み続けられるまちづくりの実践そのものです。
(3)総合的な医療・介護の質向上のとりくみ
質向上のために患者・利用者の個人の尊厳を守り、そのための多職種協働のレベルアップをはかることが無差別・平等の地域包括ケアの実現やその実現のため民医連の事業所の役割として重要です。
それらの活動をすすめる上で、事業所や法人・県連での倫理委員会の活動を重視します。倫理的課題でのカンファレンスの開催や必要に応じて倫理コンサルテーションが事業所の規模にかかわらず実施できる体制を検討しましょう。
全日本日本民医連QI委員会では、これまでのとりくみを踏まえて指標の整理を行い、QI指標Ver.5への改訂を行いました。2020年1月から新指標での測定にとりくみます。同時に、この間のQI推進士の養成を力に、各事業所での具体的な質改善のとりくみを意識的に展開することを呼びかけます。全国の病院団体横断的なとりくみが開始されたこともきっかけに、未参加の病院について、あらためて、この事業への参加を呼びかけます。
倫理的課題や医療の質の課題を踏まえて医療・介護の安全のとりくみにいっそう力を入れます。ひとりの人が時に患者となり、時に利用者となります。同じひとりの人の安全を、医療と介護でシームレスにささえることがますます求められます。医療・介護の連携と多職種協働、権威勾配の解消、コミュニケーション、心理的安全性などをキーワードとした安全文化の醸成は、職場づくりの課題ともいえます。組織と個人がともに成長・変革し、医療・介護安全の前進を通じて、医療・介護の総合的な質向上をすすめましょう。
(4)県連・地協の医活委員会のとりくみ
全県連に設置された医活委員会の活動をひきつづき重視していきます。医療と介護のニーズが混然とし、さらにまちづくりへと課題が広がる中、地域全体を見渡す広い視野でとりくむことが求められています。県連や法人での医療・介護活動を統括し医療・介護の一体的提供を推進する組織機構として、各種学習会・交流会の開催やHPH加盟の推進だけでなく、事業所間のコミュニケーションのあり方、現場でのカンファレンスの持ち方の工夫などさまざまな段階で検討をすすめましょう。地協の先進事例として、地協レベルでの医活委員長会議の開催、医活委員会の設置、医活担当者会議の開催などがとりくまれています。全地協のとりくみへと発展させていきましょう。
(5)日本HPHネットワークのとりくみへの参加を
日本HPHネットワークは、2020年に結成5周年を迎えます。健康に暮らせる地域づくりが課題となる中で、民医連らしいヘルスプロモーション活動をすすめることと合わせて、ヘルスプロモーションにとりくむ事業所のネットワークを大きく広げましょう。昨年度作成した「医療・介護スタッフのための経済的支援ツール」、「高齢者に優しい病院評価マニュアル」の活用を広く呼びかけます。20年10月に開催される日本カンファレンスは、「公正な医療の質とアドボカシー」をテーマに開催されます。全国からヘルスプロモーションの実践を持ちより交流・発展させる機会として位置づけ、発表などの準備もすすめましょう。韓国・ソウルで開催される国際カンファレンスへの参加もすすめましょう。
(6)歯科のとりくみ
民医連がめざす無差別・平等の医療と福祉を実現する上で、口の健康を守り維持していくことは重要な課題であるとの認識が、民医連の中でも広がってきました。さらにすすめていくために、44期は以下の重点課題にとりくんでいきます。第1に「歯科事業所完結型」から脱皮した歯科医療活動をさらにすすめていきます。医科・歯科・介護の連携(協働)をすすめるために、歯科からの情報発信をしていきます。第2に歯科の経営においても、必要利益を確保する経営改善をすすめ、中長期計画を実現するため、全職員参加の経営にこだわっていきます。第3に民医連歯科を担う、歯科医師の確保と養成にとりくんでいきます。歯科奨学生の確保をはじめ、歯科医師臨床研修の充実、青年歯科医師や中堅歯科医師の育成、幹部歯科医師養成など中長期計画の立案の中心課題としてとりくむことを提起します。また、歯科衛生士、歯科技工士、事務なども含めた育成にとりくんでいきます。第4に「全県連に歯科を」の目標を掲げ、さらにあらゆる事業所に対応する歯科の建設をすすめるため、地協の課題としてとりくんでいきます。歯科の空白県連は、16県連あります。空白克服は、地協で議論されて初めて課題になります。地協の中に、歯科の責任者を置き、歯科の地協運営委員会とも連携してすすめていきます。第5に歯科読本の改定を行います。これは、民医連歯科の医療活動や経営活動をはじめ、歯科医師の育成や、歯科衛生士、歯科技工士、事務など各職種の育成について、この間のとりくみをまとめ、これからの課題に即した改定を行います。第6に韓国の「健康社会のための歯科医師会(健歯)」とは、お互いの運動と歯科医療活動の交流をすすめていきます。
(7)介護・福祉分野の重点課題
44期の介護・福祉分野の活動のポイントは、①新たな制度改悪を許さず、「介護保険20年」のもとで制度・報酬の抜本改善、大幅な処遇改善を求める、②地域要求に総合的に応える「2つの柱」のとりくみ、無差別・平等の地域包括ケア・まちづくりをすすめる、③こうした活動を担う職員の確保、経営改善を軸にすえた事業基盤の強化をはかる、④以上を推進するために、法人介護事業部をはじめとする体制の強化をはかる―の4点です。政府は、今後の介護分野の展開について、「地域共生社会の実現と2040年への備え」を改革のめざす方向として掲げ、「介護予防・地域づくり、認知症施策の推進」「地域包括ケアシステムの推進」「介護現場の革新」の3つの課題を示し、それを下ざさえする改革として「保険者機能の強化」「データの利活用」と「制度の持続可能性の確保のための見直し」を打ち出しました。「共生社会」のあり方についての議論や、あげられている個々の内容について「たたかいと対応」の視点から課題を整理・具体化していくことが今後求められます。
1)介護実践・事業の課題
① 介護・生活に困難を抱えている人への対応
貧困の「全世代化」、「8050問題」に象徴される生活問題の「複合化・世帯化」のもとで、介護ニーズとともに、生活支援や福祉に対するニーズが地域で増大しています。経済的な事情やさまざまな生活・介護上の困難を抱えている人びとへの対応を強めましょう。地域包括支援センターをはじめ、社会福祉協議会(社協)や民生委員、支援組織など地域のさまざまな団体・個人との連携を強めることが必要です。制度改悪で利用者負担が増えサービス利用に困難をきたす利用者が増えています。無料低額老健施設や社会福祉法人減免の拡大とともに、自治体に費用軽減施策の実施、高齢者福祉の拡充を求める運動課題としてもとりくみます。
介護保険からの「卒業」を強いる行政からの介入が強まる中、アセスメントをレベルアップさせ、生活実態や課題、サービスの必要性の根拠を明らかにして求められるサービス・支援を確保していくことにこれまで以上に注力する必要があります。地域ケア会議への参画を強め、困難層への対応を通して「地域の福祉力」の向上を追求します。
② 質の高い介護の追求、安全・倫理のとりくみ
介護の質の向上に向けて、看護、歯科、リハビリなど医療実践から深く学び合うとともに、民医連内外の優れた介護内容を積極的に採り入れましょう。介護の質の「見える化」をはかり、介護の専門性の向上に努め、民医連らしい質の高い介護とは何かを追求します。「民医連の介護・福祉の理念」の視点から日頃の実践をまとめましょう。こうした内容を多職種カンファレンスなどを通して医療の側に積極的に発信する仕掛けづくりも大切です。安全、倫理の課題に真摯にとりくむことは、介護の質向上の重要な構成要素であり、医療との連携を深める推進装置です。安全、倫理のとりくみを通して「本気」の連携は確実に前進します。「介護現場における重大事故に対応した危機管理の基本指針2018」について、実際の危機管理の場面で職員ひとりひとりの行動に生かせるようくり返し学びます。
政府は「自立」理念の変更、生活援助の縮小、「生産性」の向上、「科学的介護」の名による質の一面的評価など、介護のあり方、職能のあり方にかかわる抜本的な見直しをすすめています。本来の「自立」とは何か、高齢者が求める質の高い介護とはどのような介護か、介護に求められる専門性とは何かについて、実践を通して明らかにし、発信していくことがいっそう重要になっています。
③ 介護・福祉事業の総合的な展開
ひきつづき地域の要求に応え、要支援者・「軽度」者の生活・介護支援、看取りを含む中重度のケアの強化、介護予防などを通した事業の裾野の拡大をすすめます。医療との連携をいっそう強めるとともに、共同組織との協力による生活支援の強化・事業化や介護予防への対応など、まちづくりの共同をいっそう強めることが必要です。総合事業については、ひきつづき介護サービスの打ちきり、削減を実施させない運動課題としてとりくむとともに、既存の介護事業とは別の枠組みでの対応を検討することも今後必要です。低所得でも安心して入居できる住まいづくりを追求します。
民医連社会福祉法人は50法人になりました。「地域福祉を守るとりで」として、社会福祉法人減免の実施や、地域貢献、障がい、児童、就労支援など介護保険事業にとどまらない福祉事業の展開など、全世代型地域包括ケアの推進に向けて、その役割はいっそう大きくなっています。ひきつづき「経営指標」にもとづく経営分析と改善に向けたとりくみをすすめます。
民医連地域包括支援センターは32県連84カ所になりました。行政評価による委託先変更、委託契約の範疇を超えた業務要請など新たな動きもあります。地域の期待に応え「生活と人権を守るまちづくりの中核」として活動をすすめます。地域包括支援センターに対する法人(受託法人)の支援を強化します。
2)職員の確保をはじめとする事業基盤の強化
民医連の介護・福祉分野を担う職員確保は、全法人にとって急務であり、ひきつづきの最重要の課題です。法人の総力をあげ、共同組織とも協力しながら、職員の確保に手立てを尽くしましょう。介護の魅力、やりがいを「見える化」して発信することや、「民医連の介護・福祉の理念」、法人の理念にもとづく日常の介護実践、法人内の養成の実績や地域で果たしている役割などを積極的にアピールすることが大切です。離職率が全体として増加傾向にあります。退職者を生まない職場づくりを追求します。業務や運営の見直し、日常の仕事の中でやりがいを実感できる環境整備にひきつづきとりくみましょう。綱領や「民医連の介護・福祉の理念」を自分の言葉で語れる職員の養成、集団的に育ち合う職場づくりにひきつづきとりくみます。管理者の養成を重視してすすめます。技能実習生、留学生の受け入れ経験などを踏まえ、外国人の受け入れに対する視点や課題をあらためて整理します。ひきつづきハラスメントの実態把握や厚労省マニュアルに添った対応をすすめます。複数訪問への助成を求めるなど運動課題としてとりくむことも必要です。
介護報酬2021年度改定に対する準備をすすめ、質の向上、経営改善の両面から改定報酬への的確な対応をはかりましょう。多額の報酬返還は管理者・職員を傷つけ、大きな損失をもたらします。全ての活動の前提として法的整備を抜かりなくすすめることが重要です。21年からスタートする第8期介護保険事業計画を分析し、条件のあるところは地域密着型サービスをはじめとする新規事業の受託・開設を積極的に検討しましょう。医療・薬局・歯科を含めた法人グループとして計画化することも必要です。
3)活動を総合的にすすめる体制強化
介護・福祉分野での「たたかいと対応」を総合的に推進するために、県連や社会福祉法人を含めた法人グループとしての体制強化が必要です。法人介護事業部の体制・機能の強化が求められており、特に法人内外との連携強化や経営改善は今日的にいっそう重要な課題となっています。法人介護部長が配置されていても事業所管理者などを兼務している実態が多くあります。法人介護部長の専任化、業務保障のための条件づくりをすすめます。介護・福祉分野の幹部養成はひきつづき重要な課題です。全日本民医連として研修会の開催を検討します。
第3節 安心して住み続けられるまちづくり
(1)民医連が主体的にまちづくりにとりくむ意義
まちづくりとは、住民の主体的参加により住民の生活課題の改善に総合的にとりくむ活動のことであり、住民自治のひとつの形でもあります。健康の社会的決定要因の発見により社会と疾病のかかわりが明らかとなり、人びとの健康を守るためには健康的なまちづくりが欠かせない時代となりました。民医連職員が医療・介護・福祉の専門家としてあるいは住民のひとりとして、共同組織や地域住民といっしょになってまちづくりに主体的に参加し、憲法や人権の視点を持った活動をすすめることには積極的な意義があります。
健康的なまちづくりのとりくみは、運動・食事やサロン活動など一般的な健康志向にとどまらず、健康情報や健康を守る仕組みにアプローチしやすくすること(ヘルスリテラシーの改善)、健康格差を解消する活動(SDHの改善、社会的処方)、健康であるために必要な制度を整備する運動(社保活動)、認知症やLGBTの人たち、外国人など多様な人びとを包摂する社会をつくること(人びとの意識を変える活動)、さらに最大の健康阻害要因である戦争を避ける運動(平和活動)など多岐にわたるものであり、広い意味でのヘルスプロモーション活動と言えます。
(2)具体的な課題
国連のSDGsの目標11「住み続けられるまちづくり」は、「持続可能な未来の都市をつくる」を掲げています。地域のさまざまな団体や個人がまちづくりを通じてつながっていく可能性が広がっています。
厚労省の「これからの地域づくり戦略」では、介護予防、フレイル対策としての「通いの場」「つどいの場」が重視され普及がすすめられています。また、市町村がすすめる健康づくりや介護予防の運動も広がりを見せています。貧困の広がり、孤立がすすむ中で、従来の医療・介護の枠にとらわれない拠点として、居場所(サロン)、カフェ、子ども食堂など新たな地域拠点として位置づけること、アウトリーチの日常化が必要です。条件があれば補助金などを活用して事業化する道も探りましょう。私たち民医連が全ての人の人権を守る視点で共同組織とともに展開し、地域に影響を与えていくことで、地域を変えていく新たな拠点づくりやとりくみが求められています。
県連、法人・事業所、共同組織がいっしょになり、①地域の状況を把握し、その特性やどのようなニーズがあるかを明らかにする地域分析を行うこと、②主体的力量から、どのように地域づくりにかかわるのか、地域に貢献できるのか方針を確立しましょう。共同組織の独自の活動と地域他団体との連携を重視し、「地域の福祉力を高め、住民自治の当事者としての運動」となるようにすすめましょう。
全日本民医連として全国の県連、法人、事業所の優れた経験を集め、交流するため、まちづくり交流集会の開催や、まちづくりチェックリストの策定を検討していきます。
第4節 地域での健康権の担い手・共同組織、全てのとりくみを共同組織とともに
(1)全ての課題を共同組織とともに、まちづくりと共同組織
民医連がめざす、誰もが「安心して住み続けられるまちづくり」は、「地域の福祉力」を高め、地域を「福祉の場」につくり変えていく実践と運動です。事業所や共同組織が、地域のさまざまな団体や個人と結びつき、連携を強め、まちづくりの一翼を担う存在となっていくことが必要です。公的な医療と福祉がしっかりそれをささえられるよう、自治体や国に働きかけることも同時に必要です。
共同組織が中心となって地域に居場所をつくり、助け合いやささえ合いをすすめること、医療・介護・福祉の専門職として民医連職員が地域で力を発揮すること、この両方が不可欠です。班会や居場所に職員が定期的に出向き、地域の人を対象に、健康や介護、生活相談に乗ったり、支援につなげるなど、「まちの保健室・相談室」のような活動も、検討すべきとりくみと言えます。
各事業所は、対応する共同組織と定期的に話し合い、校区などの単位で、どんな課題があり、それを解決するためにどうしていくのか、まちづくりの方針を持つ必要があります。行政組織はもちろん、地域の医療や介護・福祉の事業所、NPOやボランティア、民生委員、町内会など、地域の人たちの暮らしをささえ、まちづくりを「共同で行う組織・個人」も視野に入れて具体化しましょう。そして、いまある社会資源で解決できない課題は、実現を求める運動として地域や共同組織とともにとりくみましょう。
共同組織の担当者は、地域の課題を共有し、まちづくりについての事業所などの方針を具体化するために、職員や共同組織も含めた地域の人たちをコーディネートする役割を中心的に担う職員です。各事業所で、職員の配置や育成を含め、そうした役割を担うにふさわしい機能強化(「まちづくり企画室」など)の検討をすすめます。
全日本民医連では、共同組織とともにSDHを学ぶパンフレットを作成しました。SDHパンフレットを活用した学習運動をすすめます。
(2)共同組織の拡大強化・担い手づくり
共同組織の担い手(支部長・運営委員・班長など)は、これまで担ってきた人たちの高齢化や環境の変化などにより新たな担い手づくりが課題となっています。担い手が生まれていないなどの声が聞かれている一方で、支部や班の運営に意識的に新しい人たちを加えて活性化している報告も増えています。
サークル活動やボランティア活動、相談活動などに参加した人がやりがいを感じ、要求が実現することを経験して次の担い手が生まれています。また継続的に役員の研修会を開いて、情勢を学び、民医連や共同組織の理解を深めながら担い手づくりをすすめているところもあります。班会・健康づくり・サークル活動で組合員・友の会員増やしを意識すること、「入って良かった」と思える共同組織活動とするための意思統一を、共同組織とともに十分はかったところで、新たな担い手が生まれていることが特徴です。
事業所、職場でのあらゆるつながりを生かして、仲間を増やすこと、とりわけ居場所や健康づくりなど、地域に開かれた共同組織の活動を通じた仲間増やしを重視します。
事業所や居場所・たまり場などに入会特設コーナーを設置しましょう。全日本民医連として400万共同組織を展望しつつ、今期は380万をめざします。
(3)『いつでも元気』の普及と販売所をささえる方針
県連をはじめ全ての事業所で『いつでも元気』の普及目標を決め、職員・共同組織・地域での読者拡大について方針を立てましょう。その際、学習会や読書会を行うなど、『いつでも元気』を活用しながらその魅力を伝え、読者になってもらえるよう工夫しましょう。少なくとも職員の購読率50%以上をめざしましょう。販売所については増減部数を県連や法人で把握・管理できるようにするとともに、販売所をささえるための方針を県連や法人で具体化しましょう。
(4)第15回共同組織活動交流集会in山梨の成功を
「富士のふもとで語り合おう つながり広げる共同の“わ”~憲法・平和・いのち・人権を大切に、誰ひとり取り残さないまちづくりを~」をテーマに、第15回共同組織活動交流集会が、9月6~7日に山梨で開催されます。全ての県から、共同組織、職員が参加し、成功させましょう。医師をはじめ、共同組織とともにすすめる、HPHや地域の中で健康権を守る活動を学び合いましょう。
共同組織活動全国連絡会が県連を超えた共同組織の交流と意思統一の場として、活動を前進させる源となっています。あらためて全ての県連から連絡委員を選出しましょう。
第5節 民医連経営の維持・発展をめざして
民医連経営が直面している困難をいかにして打開し、地域の要求と期待に応え続けるのかが問われています。厳しい現実を見据え、しっかりと変革の方向を見いだし、打開の方向性を示すことが求められています。
(1)民医連綱領の示す目標の中に経営改善、経営戦略の基本がある
民医連経営の強さ(優点)は、民医連綱領によって団結していること、綱領にもとづくとりくみの総合性にあります。組織の理念やビジョンを全職員が理解し、日々の活動に生かしているかは、経営や管理の改善をすすめる上で大前提となる課題です。民医連の綱領と歴史の大学習運動は、民医連の医療・介護に対する共感と確信を深めるとりくみとなっています。民医連綱領は、私たちの日々の医療・介護活動の羅針盤であると同時に、民医連経営の羅針盤であるとの認識が重要です。綱領前文、6つの目標は全て経営改善、経営戦略の柱となり、その点検と実行が経営改善の基本となります。法人、事業所の年度方針や中長期の経営戦略は、その視点に立った議論の上に総合性を持った方針とならなければなりません。「2つの柱」も医療・介護活動の方針であるとともに、経営改善に向けた方針として、一体的に捉え経営的な前進をめざすことが必要です。
(2)経営を守り発展させる「たたかい」の多彩なとりくみを大きく広げよう
私たちの組織内部の変革に向けたとりくみとともに、不当で不十分な報酬制度に対しての本格的な「たたかい」をいま一度再構築することが必要です。次々と打ち出される、診療報酬・介護報酬改定と引き下げへの対応が精いっぱいで、目の前の課題に常に迫られる現実がありますが、医療機関や介護事業所の経営を圧迫し、病人が患者になれない状況を生み出す社会保障制度の改悪をストップさせることなしに、経営困難の原因を根本から取り除くことはできません。「たたかう」べき課題は山積みです。DPC制度のあり方、病院給食費自己負担の連続的引き上げ、本当に医療・介護の質と患者、利用者のためになっているのかが問われるさまざまな書類の山、年齢による一律のリハ査定などの報酬制度の問題点だけにとどまらず、不当な消費税負担、高額な薬価、医師増員なき働き方改革、地域医療構想をてこにした強引な医療機関の再編など、多くの課題を全体としても捉え「たたかい」をすすめましょう。多くの医療機関、介護事業所が経営困難も含めて同様の矛盾や悩みを抱えています。医療・介護活動での地域的協同と重ねて、経営課題でのたたかいを地域から起こしていきましょう。
(3)法人・事業所の統合・分離、連携体制のあり方などを正面から検討しよう
民医連は、連帯と団結の力とスケールメリットを生かすことで、経営改善と医療・介護活動の前進を勝ち取ることができる条件を持っています。事業所を基礎にしながら、民医連運動の前進の観点で、法人形態を選択し、必要な変化発展が可能な組織です。民医連経営をとりまく内外の要因を打開し、民医連運動を維持発展させていくために、法人形態や民医連法人間のあり方を永続的かつ固定的なものではなく、戦略的かつ柔軟に考えることが必要です。その地域の医科法人、社会福祉法人、保険薬局などの民医連事業所の運営や連携を一体的にすすめるための組織のあり方や、人材の効果的配置、本部機能の統合による効率化や機能強化を可能にする再編検討など、あらゆる角度で大胆に検討することが必要です。地域医療構想による検討の中で、病院の病床の機能分化や集約化を必要に応じて検討する状況が想定されます。また医師体制など主体的力量に課題を抱える小法人においては、その地域での民医連運動の灯をいかに守るかという観点で、法人のあり方についての県連としての枠組みとしての検討も避けられない状況です。いずれも単なる事業の縮小ではなく、新たな前進をつくるという観点での検討が求められます。「たたかう経営」路線を掲げる民医連として、これからも陣地を確保し、たたかい続けるための隊列をどう組み直し、戦線を広げるためには、何が必要か、検討をすすめましょう。
(4)管理運営の強化と人材の確保と育成、労組との対等平等・協力共同の今日的発展を
経営困難の背景には管理運営課題があり、管理運営の機能不全は、経営危機として露見します。時代の変化に対応しない組織は陳腐化します。全職員が経営実態を認識し、知恵と力を結集するためにはトップ管理集団が、何よりもリアルで具体的な認識がなければなりません。経営改善に、こうすれば改善するという一般的回答はなく、経営は教科書を読んだだけで改善するものではありません。内にこもり、我流を継続するのではなく、民医連統一会計基準、事業所独立会計制度、部門別損益管理、中長期経営計画の意義と意味の理解を深め、具体的かつ組織的な整備を確実にすすめることが必須です。法人、事業所における民医連の管理会計制度の理解と整備状況を自己点検し、民医連経営の優れた到達点を自らの力とし、経営改善の土台となる管理会計の力量を引き上げましょう。
労基法改定にともない、順次施行されていく「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」などは多くの問題点を含むものとなっています。これらの課題は、経営と直接連動していく課題でもあります。「たたかい」をすすめつつ、避けて通れない「対応」すべき課題として、着実な準備をすすめなければなりません。経営困難を抱える中、ピンチと言える局面ですが、この改革法を転機と捉え、自らの組織のありようを変革する機会としましょう。人材確保のために17年度に紹介業者に支払った金額は、集計できただけで7億2446万円にのぼります。医療界での共通した課題でもあり、ここでも、思い切った運動と連帯を広げましょう。
労働組合の存在は民医連経営の優点です。労働組合との協議や団体交渉は、民医連運動や民医連経営について語り、職員の団結を強めていく重要な機会であり、法人の経営状況や課題を職員に伝えていく重要な場です。また、共同の力を発揮すべき課題として、労使が協力して「たたかい」を大きく前進させることも求められています。具体的な「たたかい」の前進にこそ、職員の成長と対等平等・協力共同の民医連の労使関係の構築の基礎があることを確認しましょう。経営幹部が労働組合の実態や抱えている課題に正面から向き合い、対等平等・協力共同の関係を今日的に発展させることが重要です。
(5)病院、診療所、介護事業所の個別課題を明らかにして改善を
20年診療報酬改定は、4回連続となるマイナス改定となり、薬価の引き下げを中心に全体で0.46%引き下げと厳しい内容です。抜本的な入院料体系の見直しが行われた前回の18年改定を受け、地域医療構想に掲げる病院再編を誘導する算定要件の強化が議論されています。厚労省は、重症度、医療・看護必要度の該当患者の判定基準や項目の見直しを提案しており、地域包括ケア病棟入院料は自院内転棟に一定の制限が設けられ、回復期リハビリテーション病棟入院料での実績指数の基準引き上げなどが行われる可能性があります。民医連の病院へは少なくない影響が予測されます。病院も含め全ての事業所で現状を踏まえた対策の検討が必要です。
地域医療構想による地域の病院機能再編の動きは、従来の診療報酬による医療機関再編誘導と質が異なるとの認識が必要であり、病院だけでなく、診療所を含めたポジショニングを明確にしていかなければなりません。
①病院、診療所の経営課題を前進させよう
病院は、急性期病床の削減や入院期間の短縮への誘導がすすめられ、地域の医療機関の病棟戦略の変化や外来と入院の患者の流れに変化が起こっており、地域医療の変化に対して、機敏かつ的確な対応が求められています。ポジショニングを明確にし、ほかの医療機関や福祉施設などとこれまで以上に深化した連携を築く必要があります。診療所では、通院、在宅、保健予防、介護事業など、部門別の収支を把握し、改善課題を明らかにすることが、必須の課題となっています。近隣の病院や介護事業所との連携の到達点を評価するために、連携の統計も重要です。近接診療所は、診療報酬上の優位性や病院外来部門の環境整備などの点で設置されてきた経過がありますが、当初の情勢と大きく変化していることに留意が必要です。病院機能と「かかりつけ医」としての診療所の機能が政策的にも明確化されてくる情勢を踏まえて、近接診療所は、実体的にも医師体制上も独立した診療所として、近接する民医連病院と密接な連携のもとに、その位置づけや役割について、いま一度再検討することが必要です。
②介護事業での経営困難に立ち向かい獲得した陣地を守り前進させよう
介護事業においては、介護保険事業に限定しがちな発想から転換し、国民的な要求に応え人権を守る立場から、たたかいと事業を総合的にすすめるという観点が重要です。当面の経営課題として、介護事業におけるサービス事業所別の損益計算書作成による正確な経営実態の把握、軽度者への対応は、介護保険事業とは異なるという認識を持ち、自治体に対する運動と共同組織と連携したとりくみを重視すること、中重度者への対応の力量を引き上げるための医療と介護の連携強化、加算取得やランクアップを含む事業の検討、医療と介護の連携を前進させるための管理者の養成とマネジメント力量の強化などが重要です。
(6)共同組織構成員の「大衆資金」結集と経営参加を思い切って広げるとりくみを
経営を安定化させ、自ら獲得した利益で経営を維持発展させることが重要であり、それなしで、「大衆資金」に過度に依存する経営であってはなりません。一方、出資金、地域協同基金、特定協力借入金などの「大衆資金」(※注)は、地域に期待されささえられる民医連事業所を資金面でささえる重要な要素であり、そのすう勢は、民医連経営の存立基盤を左右する重要課題です。今後の民医連運動を展望するとき、「件数」の大きな前進を視野に入れて、法人、事業所の経営戦略の中にもしっかりと位置づけなければなりません。高齢化が進行する中で、民医連経営をささえる人の数を大きく増やすためには、いままでの延長線でない、新たなとりくみの工夫も必要になっています。これらの課題は、共同組織の拡大強化と構成員の資金協力、経営参加を実質的なものとして前進させるという課題として、未来の法人・事業所のあり方を描きながら、経営改善の重要課題との位置づけを持ちとりくみをすすめましょう。
(7)県連、地協経営委員会の強化と全日本民医連経営部のとりくみ
経営課題において民医連の連帯と団結の力を発揮する上で、全日本民医連、地協、県連がその力をいかんなく発揮することが求められています。一方で、県連と地協の経営委員会の機能や位置づけも大きな差があるのが到達点です。経営委員会ミニマム(※注)の全面実践の立場で、どう改善をはかり、時代が求めるふさわしい機能を確立するのか真剣な検討が求められます。県連、地協経営委員会のこの間の優れたとりくみや教訓を学び合い、到達点に違いのある経営委員会の課題をいま一度明らかにし、強化に向けてとりくみましょう。
全日本民医連経営部は、経営困難法人などへの援助や相談活動なども展開していますが、経営困難法人への対応数が増加していることや、社会福祉法人や保険薬局の経営実態の把握や検討の課題など、対応すべき課題の質と量が増しており、今後さらなる強化が必要です。病院・診療所、介護事業所の経営課題、管理運営における課題、予算管理や中長期経営計画作成をはじめとする管理会計力量の課題など、経営分野での前進に向けた情報の発信、提起を行います。
第6節 「大切文書」を力に、民医連の医師と医師集団づくりの議論と実践をさらに前進させ、医師政策に結実させよう
44期は、500人の奨学生集団の実現に続いて、ロードマップ最終年である21年に200人の新卒医師受け入れを実現する年です。その延長線上に、新たに後期研修医100人の受け入れ目標を43期第3回評議員会で提起しました。
他方で、国のすすめる三位一体の改革(地域医療構想、医師の働き方改革、医師の偏在対策)に対するたたかいと対応もすすめなければなりません。
そのためにも、「大切文書」をてこにしながら医師集団づくりの議論をすすめ、各県連、事業所で医師政策を策定し、医療構想や長期計画と合わせて、医師の確保と養成の具体化と、次代の核となる医師集団づくりや働き方改革への対応整備をはかりましょう。また、「医師研修方針」の検討を通じて、研修のアウトカム像について、合わせて確認していくことも大切です。
地域医療構想にもとづく病院再編の議論が加速する情勢のもとでこそ、地域からあらためて「医師増やせ」の声をあげ国民の世論へと発展させる中で、医師増員を広く医療界の共通の認識にしていくための運動をすすめましょう。
(1)「大切文書」の議論を医師政策に結実させ、民医連の医師と医師集団の持続発展をめざそう
「大切文書」のリーフレットを作成します。ひきつづき文書にもとづく議論を継続し、県連、事業所の医師政策に結実させていきます。多面性・多様性を前提に共通項を確認する過程で大事なことは、医師ひとりひとりが自分の言葉で民医連を語り、集団で議論を積み重ねることです。
また、医学生や青年医師たちに、「大切文書」にある民医連の医療観、格差と貧困にタックルする民医連の医師像、「医師研修方針」にも示された民医連における研修の意義と優位性を届け、200―500のロードマップの最終年である21年に、200人の新卒医師受け入れをなんとしても実現しましょう。200人達成に向け、地協単位での目標数設定など新たなロードマップの策定を行います。
200―500目標の達成・維持が可能となる組織づくりのとりくみを継続します。14年の「早急に求められる医学対担当者の育成と集団化のために」の文書に常に立ち返り、医学生委員長の活動保障、医学生委員会担当者の配置と育成、集団形成はひきつづきトップの課題として位置づけましょう。研修担当事務交流集会の開催に加え、研修担当者と医学生委員会担当者の合同スクールの開催など、200―500目標達成が一対となったとりくみの強化をひきつづきすすめます。
「医師研修方針」は、2020年の初期研修見直しについて民医連の研修の優位性が発揮されるようなプログラムの進化と、「2つの柱」を実践する民医連医師の養成を提起しています。民医連綱領を学ぶこと、アウトリーチやまちづくりへの参画、ヘルスプロモーションやアドボカシー活動につなげることなどを重視する研修内容を初期研修プログラムに落とし込む作業を行い、初期研修を通じて、民医連綱領の実践や「2つの柱」への共感と、その主体者としての意識を醸成することをめざしましょう。
(2)後期研修の整備をすすめ、後期研修医100人目標の新しいチャレンジへのとりくみと多チャンネル時代の医師受け入れへの対応を
新専門医制度への対応として、19の基本領域については、可能性のある領域は基幹型プログラムの取得にチャレンジすること、民医連らしいプログラムづくりで差別化をはかることをめざします。総合診療分野については、全てのプログラムで専攻医を安定的に確保できるよう民医連総合診療プログラムブラッシュアップセミナーの開催やサイトビジットなど、プログラム整備をすすめ、外部からも選ばれる後期研修づくりをめざします。
総合診療や内科、外科について診療委員会の立ち上げの検討をすすめます。
日本専門医機構では、基本領域に対応する2階建て部分のサブスペシャリティー領域の枠組みについて検討がすすめられており、民医連でも対応が求められています。プライマリ・ケア連合学会の新家庭医プログラムだけでなく、総合内科、内科専門領域はもちろん、他領域についても条件のある領域について、医療構想や医師政策の議論と合わせ、プログラムの申請準備や具体的課題の検討をすすめましょう。
時代は、民医連が基幹施設や連携施設としてかかわるプログラムでの総合性を軸にした研修をすすめていくことの意義を大きくしています。TY研修についても、民医連独自のとりくみとしてアピールし、その意義を初期研修医に提示、発信するとともに、全日本民医連・地協でサポート体制の整備をはかっていきます。
これらの総合的なとりくみの中で、後期研修医100人受け入れへのチャレンジを開始します。その意義については、43期第3回評議員会で示されたように、民医連を担っていく医師集団を維持、発展させていく上で、要となる重要な課題であると同時に、医師数の官僚統制や医療提供体制の縮小をねらう政府の方針へのたたかいでもあることをあらためて確認します。オール民医連で目標に向かって奮闘することを呼びかけます。
2018年度からスタートした新専門医制度下で、医師の流動化は加速しています。2021年には研修修了者が生まれる状況下で、民医連内外の基幹型プログラムに送り出した専攻医が専門医資格を取って帰任することや、新たに常勤医師を外部から確保するケースが想定されるなど、多チャンネル時代が本格化します。多チャンネルでの医師確保へのギアチェンジをすすめるために、43期に初めてとりくんだ常勤医師確保対策を前進させるための全国会議の定期開催を検討します。
わが国の中小病院の存在意義、価値について確認しながら、医師養成新時代に、私たち医師集団の役割と地域医療の現場で求められる医師像、その養成方略について提言をまとめ、発信できるよう検討をすすめます。
時代が地域における診療所の役割を大きくしている一方で、後継者の確保が存続にかかわる事業所も少なくありません。次代の担い手の確保と養成について総合診療専門医養成も含めた議論ととりくみをすすめましょう。
(3)学術・研究活動の発信強化、研究活動のサポート体制の整備
行政を動かし健康的な政策を実行するためにはエビデンスが欠かせません。SDHにかかわる研究活動を重視し、学会発表や論文作成など対外的な情報発信に積極的にとりくみましょう。医師をはじめSDHや健康格差に関する共同研究への助成、各種研究活動の相談などが行える仕組みづくりなど、予算も確保した上で、事業としてスタートさせます。
また、医学生だけでなく、研修医や医師がさらに活用できるようなイコリスサイトの強化をはかり、レクチャーの共有や、研究や学会発表などアウトカムの共有、研修におけるグットプラクティスの共有ができるよう改善をすすめます。
(4)医師の働き方改革に正面から対応しよう
医師の働き方改革は2024年をひとつの期限としてすすめられます。43期に示された基本点を軸に必要な対応を検討していきます。法人・事業所では、医師の健康を守るためにも内部的対応を推進する体制を確立し、宿日直の取り扱いや労働と研さんの区別なども含め、課題を明確にして、総合的に経営的な観点を踏まえて整備をすすめましょう。
女性医師が増加する中で、さまざまなライフイベントやキャリア形成への対応もいっそう求められます。それぞれのライフステージで、生き生きと働ける環境整備をすすめましょう。
初期研修に加え、新専門医制度下で、民医連外の医師が研修する機会が増える面もあります。民医連の医療活動をしっかりつたえると同時に、ワークライフバランスにも配慮された働きやすい職場環境であることもアピールできるようなアドバンテージをつくっていく視点からも整備をすすめましょう。
国に対し、改革への対応のためのさらなる財源措置ならびに診療報酬の引き上げを求め、民医連外の医療機関や医療団体とともにひきつづき運動を強めます。
(5)国民本位の医療の実現、いのちの格差を許さない幅広い共同の形成のために
医学部入試差別、地域枠に関するアカハラ、フラワーデモやLGBTの権利、学費値上げや学費免除の実質的な改悪を許さないと声をあげる医学生たちの声は、医療の未来にかかる課題です。自らの課題であると捉えて、かかわりを強めともに医療を良くしていく運動を強めます。
民医連だけでなく日本の医療を巡る諸問題(医師の働き方改革、新専門医制度、地域枠の削減に伴う医師養成定数削減への動き、ベッド削減ありきの地域医療構想の推進による地域医療破壊など)において、どの課題をとっても、医師増員が必要であるにもかかわらず、医療界の中に合意が形成されていないことが、私たちのさまざまな活動の前に大きなハードルとして立ちふさがっています。国民本位の医療の実現、いのちの格差を許さない幅広い共同の形成のために、この問題に大いにタックルしていく2年間にしましょう。
第7節 民医連綱領を担う職員育成の強化
(1)民医連綱領の学習の日常化、土台としての日本国憲法、人権の到達を学ぶ活動
ひきつづき制度教育や職場教育の中で綱領を継続的に学んでいく仕組みを検討しましょう。自法人・事業所の歴史を学ぶとりくみや、事例を大切にし、日常の医療・介護活動と綱領を結びつけて理解する学習を追求しましょう。憲法学習とともに、日本と世界の人権の状況を学び、人権意識を高める学習を位置づけましょう。
(2)「2012年版教育指針」の改訂
「2012年版教育指針」は2010年代初頭の情勢のもとで、あらためて民医連職員育成の目的を明らかにし、教育活動の基本と3つの基本形態である「制度教育」「職場教育」「自己学習」を具体化しました。とりわけ職場づくり・職員教育の重要性について提起し、民医連の職員育成をすすめる画期となりました。この指針にもとづき各県連や法人、事業所で、「育ち合いの職場づくり」「職場教育」の実践がすすめられました。
しかし、この7年間で改憲を巡る動きや新自由主義的な構造改革が加速し、情勢が激変しています。また職員育成にかかわる民医連の方針とその実践も、この7年間に発展しています。これからの民医連の展望を切り開くために求められる職員育成の重点を鮮明にし、44回総会運動方針の具体化として教育指針を改定します。
民医連にとって重要なのは憲法と綱領にもとづく職員育成です。人間の尊厳を何よりも大切にし、平和と民主主義を社会正義として志向し、科学性とヒューマニズムに満ちた人格と能力を備えた職員を育成することは、民医連職員としての成長はもとより、一市民としての成長にとっても重要な意義を持っています。
政治と医療・介護が密接に関係していることが、いま医学生や若手医師の中で違和感なく受け止められるようになりつつあります。民医連は医療を社会的に捉えてきた歴史の中で、常にたたかう視点を持ち続けてきました。私たちの実践がその歴史をつくってきたことを確信にし、人権意識を磨き、変革の視点を持った職員育成をすすめましょう。
(3)青年職員育成
青年職員の成長、育成の課題はひきつづき重要であり、民医連を次の時代へ継承・発展させていけるのかという「組織存在」の問題です。主権者として成長するために、想像力・共感力、当事者性を育む育成をすすめること、患者・利用者、地域の現実から新自由主義の問題を見抜き、それを乗り越えていく力をつけること、成長・発達のきっかけとなる多彩な場を提供することを重視しましょう。
青年JB活動を青年職員の成長の場として位置づけを高めましょう。自分たちで企画をつくり上げる経験(議論のすすめ方、自治の体験、人間関係の構築など含め)は青年職員にとって大変貴重な体験です。しかし〝自主的活動〟の名のもとに青年任せにしていたり、放置していては前進しません。職員育成の一環として、青年の自主性・自発性を育みながら援助することが大切です。県連・法人・事業所ではJB活動に困難を抱えているところも少なくありません。JB活動の実態を把握し、課題を確認しましょう。県連担当者と全日本民医連との懇談会などを検討します。
(4)幹部育成
世代交代がすすむ中、全ての職種において、中間管理者の中から次の幹部を担う人たちの育成の強化が必要です。課長・師長などから次期幹部を担うべき人たちを対象に、系統だった幹部研修を県連や地協で具体化しましょう。民医連の理念を学び幹部としての構えを持つこと、職能団体の管理者研修カリキュラムなども参考にし、管理運営の基本的内容、行政対応、経営管理なども適切に組み込み具体化しましょう。
(5)総合的な力を発揮して民医連運動の発展を切り開く事務職員集団を育成しよう
43期の実践を後押しし、民医連事務集団の全体的な発展につなげるため、四役が直接責任を負う多職種構成型の事務育成委員会を継続し、かつ現場の育成責任者を補充して、よりリアルに実態を把握し、具体的な経験交流を推しすすめる機能を強化します。
育成対象となる青年から中堅層の事務職員自身が、現場の実践を大いに語り合い、発信し合って、次代の民医連幹部に成長していけるような集団づくりを意識した集会を開催します。
育成と同時に採用・確保も依然として重要かつ切実な課題です。事務職員として医療・介護現場で働くことや無差別・平等の組織運営に携わる魅力を打ち出す学生対策に踏み出す経験も生まれています。民医連に理解のある大学教員とのつながりを広げるなど、民医連への応募の契機になる学生との結び付きを広げていきましょう。
民医連運動の発展に重要な意味を持つ多職種協働のコーディネーターであり当事者である事務が民医連組織の土台づくりの鍵を握っているという気概を持って、民医連らしいマネジメントや危機管理を学ぶなど、全地協で開催されるに至った幹部学校の到達を踏まえた次の段階の、思い切った工夫での幹部育成を提起します。ほかの医療団体の幹部養成のとりくみについても研究を行います。
(6)健康で働き続けられる職場づくり
法人・事業所の管理部が法令遵守だけでなく、職員の健康を守るために積極的に法令の精神を生かしていく姿勢が大切です。健康職場5つの視点(※注)に沿って捉え直し、健康職場づくり7つの課題(※注)にもとづき年度ごとの目標を明確にしながら、着実に積み上げていきましょう。「労働安全衛生実態調査(19年3月末時点で回答162事業所)」の結果では安全衛生委員会は定期開催されていますが、産業医による職場巡視の毎月の実施や、雇い入れ時(配置転換時)の安全衛生教育などが十分でなく、安全衛生委員会と産業医活動のさらなる活性化が課題です。産業医の育成計画を確立した事業所は13事業所(9%)と、低い水準です。各法人で、産業医の必要数を明確化し、産業医の積極的育成と世代交代をはかりましょう。
メンタルヘルス対策では、「健康で働き続けるために」のパンフレットを積極的に活用し、これまでに蓄積された理論的到達を学び直し、いまやれる対策を実施しましょう。ハラスメント対策は、メンタルヘルス対策の一環としても重要な意味を持っています。全ての事業所が、「ハラスメント防止」を宣言し、ハラスメント防止マニュアルの整備とその運用を具体化させ、職員が安心して働き続けられる職場環境を守ることが、患者・利用者の受療権を守ることにもつながるという認識が必要です。職員健診要精査の対応や、疾病を持ちながら働く職員への治療と仕事の両立支援についても制度の整備が必要です。健康増進法にもとづく禁煙、またアルコールについてもとりくみをすすめましょう。
訪問系サービスにおける暴力・ハラスメントの対応も課題です。18年、19年と法人を対象に実施した調査では、17の法人がこの1年間で契約書・重要事項説明書の内容を改定しています。また「注意喚起の文書を利用者に配布し協力を得る」「対応マニュアルの策定に着手」「研修会等の実施、事例検討、情報共有」「顧問弁護士との協力関係強化」などにとりくむ法人が増えています。いくつかの県連でハラスメントの実態調査結果をもとに自治体交渉を行っています。厚労省から「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」が通知され、「訪問看護師、訪問介護員安全確保・離職対策事業」に位置づけられている同行訪問時の補助事業を活用する市町村が増えています。法人、事業所としてひきつづき、患者・利用者と職員の人権を守る課題と位置づけとりくみましょう
近年、地震や台風、大雨により広域な被害が続きました。災害時における職員の健康を守るとりくみや、支援者の健康を守るとりくみでは、民医連の活動と教訓の蓄積が生かされ発展しています。災害時マニュアルに職員の健康を守り抜く活動を明確化し、いざという時に備えましょう。
第8節 自然災害への対策ととりくみの強化
(1)被災者の公的支援など運動の課題
防災・減災に関する全国世論調査(2019年12月7日、日本世論調査会)で、住宅半壊、一部損壊しても支援金が支払われない現行の被災者生活再建支援法(※注)について「妥当だと思わない」と考えている人が78%、全壊・大規模半壊した世帯に支給される最大300万円についても64%が「不十分」と答え、国や自治体に対して今後力を入れるべき対策として生活再建支援の充実を望むは47%です。医療・介護費免除制度の拡充、避難所施設の改善などの政策要望を災対連などと協力し、国と自治体に求めていきます。
(2)MMATの拡大と研修の強化
毎年発生する災害に備え、マニュアル整備と災害訓練の実施をすすめるためにもMMAT研修交流会の開催は、多くの人の参加ができる開催方法などの検討もすすめ、各県、事業所の災害対策の中心を担うMMATメンバーの募集をひきつづき行います。この間の災害対策状況の集約を行うため、災害対策アンケートをとりくみます。また、災害時の事業継続計画(BCP)について学習と交流などもすすめていきます。
第9節 全日本民医連のとりくみ、地協・県連機能の強化
(1)理事会機構としての地協機能、県連機能を強めるために
全日本民医連は、民医連綱領の実現を目的に、綱領、規約を承認する事業所によって構成される「県連」を基本単位として組織されています。各県連は、歴史的特徴を持ちながら発展してきましたが、共通する役割は、その県において民医連運動の中心として、加盟する全ての事業所を民医連の方針に沿って指導すること、またその県の民医連運動を代表して医療・介護、福祉団体をはじめとする他団体や個人の人びとと共同のとりくみを発展させることです。
民医連は、運動体であり、事業体です。県連を単位に、医療・介護事業、経営、運動、育成を総合的に前進させることが必要です。そのために、今回、あらためて県連の活動として①全日本民医連の方針の討議と具体化、②役割にふさわしい理事会の機能と機構の確立、③県連長期計画の策定、県連経営委員会ミニマムの全面実践、共同事業の推進、④県を代表しての運動、⑤共同組織の拡大、『いつでも元気』の普及と交流、⑥職員育成、教育事業の推進、⑦医師の確保と養成、医学生対策、を最低限の課題として提起します。この役割を総合的にすすめるために、法人、事業所が県連に自覚的に結集することを通じて、情報や経験、教訓を学び生かし前進させていくことが保障されます。
また、国民健康保険の都道府県単位化、地域医療構想などのたたかい、格差と貧困の広がりのもとで地域の中での民医連外の事業所と連携を広げ、無差別・平等の医療・介護を実践していく課題、安心して住み続けられる地域をつくる課題、また、市民と野党の共同の小選挙区単位での広がりなど、今日的な情勢を踏まえると県連の機能強化はますます重要です。
こうした県連の活動がすすめられる上で、全日本民医連理事会と四役、理事の役割は重要です。1997年に発生した大阪民医連同仁会の「前倒産」からの経営再建を経て、早期にさまざまな問題や困難を把握できるよう、理事会の機構として地協を設置する改革を行い、四役・理事は基本的に各地協から選出し、地協運営委員会を軸に運営を行ってきました。
43期の総括、44期運動方針案の中で、医師・医学対、経営、医療・介護などの地協的な強化を求める課題が鮮明になっています。各地協の到達点と課題を鮮明にし、必要な体制を確立します。常駐役員の力量の向上と地協への援助体制を強めていきます。
(2)全日本民医連の組織強化とトップ幹部育成
各専門部が担当部門の全国課題を整理することとともに、たたかいの課題や医療・介護活動と育成、医師、経営など総合的に県連に提起できるよう四役会議・理事会に集中し、コラボレーションを重視します。広報活動、学術活動、国連活動を強化していくための体制を確立します。2020年代の民医連の運動と事業の発展にとって、経営分野の前進がますます重要となっています。経営分野の機能強化について検討します。
県連機能を発揮していく上で、県連会長と県連事務局長が軸です。この間、いくつかの県連で世代交代により会長、事務局長の交代もすすめられています。全日本民医連として会長、事務局長の研修を具体化します。理事長、病院長、事務長、看護部長、看護トップ幹部研修など法人・事業所の中心幹部の全日本としての研修を具体化します。経営幹部の育成、集団化が求められています。法人専務を対象とした研修を具体化します。それらを全日本民医連の専門部横断体制で推進します。44期は、こうした研修を重視し、従来のトップ研修会は実施しないこととします。
(3)民医連結成70年(2023年6月7日)へ向けた準備
全日本民医連は、3年半後には結成70年を迎えます。44期の中で、70周年記念事業の検討を開始します。また、50年史への綱領改定から10年の歴史の補強作業、医療・介護、経営などの重要方針・問題提起などの整理と書籍化について理事会で具体化をはかります。
(4)国際活動
ECOSOCの協議資格を有効に活用した活動をすすめるため、国連の担当チームを理事会内に設置するなど活動改善をはかります。韓国との交流は、社医連との協定、これまでの友好団体・個人と豊かにとりくみます。医師、医学生をはじめトップ幹部などのフィールド学習の場として、医療視察、平和と戦争の歴史を学ぶ企画をひきつづきとりくみます。
(5)民医連の共済活動
民医連の共済活動では、ひきつづき、法人・県連・全国で職員同士の助け合い事業や健康づくり、文化・スポーツ活動などを推進していきます。また、公的年金が引き下げられる中で、退職者の生活をささえる一助としての退職者慰労金制度を維持・発展させるためにとりくんでいきます。
おわりに
今総会で民医連綱領の10年を振り返り、私たちが、これからの10年を、平和と人権を守る立場から、無差別・平等の医療と福祉の実現へ向けてどう立ち向かうのか、議論しました。
九条の会の呼びかけ人のひとり、故奥平康弘さんは、「憲法というものは、私たちが世代を超えてつくり上げてゆく、未完のプロジェクトである。このプロジェクトは、不可避に『理念と現実』との対立の中におけるとりくみであるから、完結してめでたく終了ということはありえない。『未完』の部分を将来の課題として残しながら、存在し続けるのである。だからこのプロジェクトには『発展』があるのだ。それが次の世代に引き継がれることになるのである」と述べました。
民医連綱領がめざす無差別・平等の医療と福祉、それは、健康権の実現でもあります。健康権は、健康であればよいというものではなく、「到達可能な最高水準の身体的及び精神的健康を享受する権利」として国際人権規約に規定されている基本的人権です。
このいとなみもまた、完成されているものでなく、時にこれを壊そうとするものとのたたかいの中で、引き継がれながら完成していくものです。
無差別・平等の医療と福祉の実現をめざす組織として、時代の中で民医連がさらに発展し前進していけるよう奮闘していきましょう。
以 上
■ 用語解説
【第1章】
○市民社会
国連など国際社会で定着している用語。国連の諸活動に自発的にかかわる個人と団体を包括した概念で、「市民の運動」より広い意味。90年代の経済のグローバル化に伴い、国境を超えて各国市民が行動する必要性が共有され、本格的に国連の各種会議に加わってきた。たとえば世界を核兵器廃絶へと動かしたのは市民や平和運動などの市民社会の力だとして、核兵器禁止条約前文にも明記され高く評価されている。
○人権としての医療・介護保障めざす民医連の提言
崩壊の危機にある社会保障制度、医療・介護を国民本位に立て直し、さらに充実させることをめざし、まとめられた提言。医療・介護をめぐる厳しい現実の原因と国の責任を明確にし、当面の制度改革と健康権・生存権の実現方向、その財源は税金の集め方・使い方を変えれば消費税増税をせずに社会保障の財源確保は可能であることを示した。
○健康の社会的決定要因(SDH)
Social Determinants of Healthの略。健康は、遺伝子や生活習慣だけでなく、その人の社会経済的な地位をはじめとする社会的要因によっても決定されている。世界保健機関欧州地域事務局は、1998年に「Solid Facts(確かな事実)」を公表し、2003年には第2版を出した。「Solid Facts」では社会的決定要因として、▽社会格差、▽ストレス、▽幼少期、▽社会的排除、▽労働、▽失業、▽社会的支援、▽薬物依存、▽食品、▽交通をあげ、それらが健康に与える影響を説明している。
○民医連の医療・介護活動の2つの柱
43期運動方針で医療・介護活動の新たな「発展期」をつくり出していく上で2つの柱として実践を呼びかけた。第1の柱は「貧困と格差、超高齢社会に立ち向かう無差別・平等の医療・介護の実践」第2の柱「安全、倫理、共同のいとなみを軸とした総合的な医療・介護の質の向上」
○NPT再検討会議
NPT(核拡散防止条約)は、核兵器の拡散防止、核軍縮の促進、原子力の平和利用の促進を目的に1963年に国連で採択、70年発効。米、露、英、仏、中を核兵器国とし、新たな核保有国を増やさない義務を課した。25年の期限について、1995年に無期限に延長し、5年ごとにNPTの運用状況を確認する再検討会議を開催。2020年は核兵器禁止条約成立後初めての会議となる。会議に合わせて4月24日から26日に原水爆禁止世界大会をニューヨークで開催。民医連から200人以上の参加をめざす。
○核兵器禁止条約
2017年7月、国連で122カ国の賛成で採択された。現在34カ国が批准、50カ国の批准で条約は発効する。発効すれば核兵器保有国も含めて、「核兵器の開発、実験、生産、製造、取得、保有、貯蔵、移転、使用、威嚇」を禁止、こうした行為への援助や奨励、勧誘も禁止される。核兵器による威嚇の禁止により、「核抑止力論」も否定される。
○SDGs
2015年9月、ニューヨーク国連本部で「国連持続可能な開発サミット」を開催、150を超える加盟国首脳の参加で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、16年1月に発効。アジェンダの17の「持続可能な開発目標(SDGs)」は、あらゆる形態の貧困に終止符を打つことをねらいとし、各国は15年間で貧困に終止符を打ち、不平等とたたかい、気候変動に対処しながら、誰も置き去りにしないためのとりくみをすすめるとした。
○気候危機
18世紀の産業革命以降、石炭、石油など化石燃料を燃やして多くのエネルギーを使うようになった。その結果、大気中の二酸化炭素が急速に増加し地球温暖化による気温の上昇のみならず、地球全体の気候を大きくかえる「気候変動」を引き起こし、世界各地で自然環境や暮らしに影響や被害が出ている。その深刻さから近年は「気候危機」という言葉が使われ、日本でも豪雨や猛暑などの異常気象、被害が起こっている。
○女性、子ども、障がい者、移住労働者、差別的な待遇におかれた人びとなどの尊厳を保障する国際的な規範
国際的な人権保障の基準は1945年の国連憲章、48年の世界人権宣言、66年の国際人権規約などを通じて確立してきた。92年には「民族的又は種族的、宗教的及び言語的少数者に属する者の権利に関する宣言」を国連総会で採択。2017年には各国政府に少数者への差別的、不公正な法律や政策などの見直しを求め、少数者集団の子どもや女性の保護、高齢者、障がいのある人の状況に注意を払うよう呼びかけられた。
○アドボカシー
権利を阻害された人たちのための権利擁護の活動。自らの専門性や影響力を用いて、当事者の代弁・行動だけでなく、患者団体やコミュニティーとともに活動すること。2つの水準があり、1つは、障がい者の権利擁護や患者の苦情に応える病院のとりくみなど、個々人の権利擁護の活動。もう1つは、公共的な課題の解決や具体的な政策目標の実現のために広く社会と政策決定者および同決定プロセスに働きかけること。政策立案者への専門的な提案にとどまらず、まちづくり活動や社会保障運動など変革とたたかいの視点を持つことが重要。
○地域医療構想
「医療介護総合確保推進法」(2014年成立)により、都道府県は医療計画の中で「地域医療構想」を定めることとなった。25年に向けた医療費抑制推進の一環。原則第二次医療圏を単位とする「構想区域」ごとに、急性期から回復期、在宅医療に至るまでの医療提供体制の構築がすすめられ、病床の機能分化、在宅医療・介護、医療従事者の確保・要請などの検討をすすめる。政府や財界の思惑通りに病床削減がすすまず、19年9月、厚労省は公立・公的病院の再編統合に向けた議論促進のため、全国424の病院名を公表。20年1月、厚労省はさらに約20病院(非公表)を再編統合の対象として新たに追加した。
○世界人権宣言
1948年に国連で採択。「すべての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」として、初めて国際的に人権保障をうたった画期的な宣言で、保護されるべき人権の内容を包括的に示した。世界各国の憲法や法律、国際会議の決議などに強い影響を与えている。
【第2章】
○経済グローバリズム
地球全体を視野に、経済活動を推進する考え方。先進資本主義国の経済成長ゆきづまりの結果成長経済を持続させるため積極的に展開されてきた。その結果先進国における自国の経済の空洞化、国際競争の激化がおこり、世界市場における国家間の対立が表面化している。
○新自由主義
70年代後半から先進国で台頭した大企業中心の政治経済システム。企業の競争を促進することで経済も発展するという考え方。「大きな政府」にかわる「小さな政府」の主張で企業への規制緩和・自由化が進められた。日本では中曽根内閣(1982年~87年)以降、新自由主義的な政策がとられ福祉、社会保障の切りすて、大企業や富裕層のための社会経済システムがつくられた。
○立憲主義
憲法によって権力を制限し、国民の権利と自由を保護するという考え方。17~18世紀のイギリス、フランス、アメリカなどの近代市民革命を経て確立された。日本国憲法にもこの立憲主義が貫かれている。
○ジェンダー(社会的・文化的性差)平等
誰もが尊厳をもって自分らしく生きられる社会に向け、男女の平等、同権をあらゆる分野で擁護し、保障することを求める動きが世界でも日本でも広がっている。女性の独立した人格の尊重、法的な地位向上とともに女性の社会進出などを妨げる障害を取り除くことが求められる。また性の多様性を認め合い、性的マイノリティーへの差別をなくし尊厳を持って生きることを求める運動も大きくなっている。
○「#Me Too」「#With You]
Me Too(ミートゥー)は、「私も」を意味する英語にハッシュタグ(#)を付したSNS用語。セクシャルハラスメントや性的暴行の被害体験を告白・共有する際に使用される。#With Youは、セクハラの被害者を孤立させないため「あなたはひとりではない、わたしたちがついている」というメッセージである。国会前では、財務省事務次官のセクハラ疑惑に抗議の意志を示す集会が行われ、「#Me Too」と書かれたプラカードを掲げた。
○カール・マルクス
19世紀に活躍した哲学者、思想家、革命家。エンゲルスとともに科学的社会主義を打ち立てた。また資本主義社会の研究を「資本論」としてまとめ、その理論にもとづく経済学をマルクス経済学と呼ぶ。
○安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合(市民連合)
2015年に安保関連法が成立する過程で多くの市民が反対の声をあげ、抗議行動が連日全国各地で行われた。その中で「政治をかえよう」「野党は共闘」という声が集まり同年12月に結成された。19年参議院選挙でも野党共闘のとりくみを後押しし、4野党1会派との間で1人区の候補者一本化基本合意と政策協定調印を行い、32の1人区で10議席を獲得した。
○LGBT
Lesbian、Gay、Bisexual、Transgenderの頭文字。性的少数者(sexual minority)を表す言葉として用いられる。Lesbian(レズビアン)は、心の性が女性で、性指向も女性である人。Gay(ゲイ)は、心の性が男性で、性指向も男性である人。Bisexual(バイセクシュアル)は、身体と心の性別を問わず、性指向が両性である人。Transgender(トランスジェンダー)は、身体の性別と心の性が一致しない人。
○NPTの根幹である6条
「各締約国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する」。2010年NPT再検討会議では「核兵器のない世界」に向け、「必要な枠組みを確立する特別なとりくみを行う」ことに合意し、核兵器禁止条約の国際交渉に道をひらく方向を打ち出した。
○「有償軍事援助(FMS)」契約
米国政府が、米国の安全保障政策の一環として、武器輸出管理法にもとづき、同盟諸国などに対し、装備品などを有償で提供するもの。契約価格、納期は見積もりであり米国政府はこれらに拘束されず、代金は前払いという米国に有利な契約。2017年度には3882億円であったものが20年度概算要求では5013億円と激増している。
○軽減税率
特定の商品の消費税率を一般的な消費税率より低く設定するルール。消費税10%への引き上げに際して食料品などに導入されたが税率は8%のままであり、「軽減」ではなく「据え置き」にすぎない。外食は税率10%で、持ち帰れば8%になる、などと合わせて制度を複雑化させる一因となっており、複数税率に対応できる専用レジを導入しなければならない中小業者にとっても大きな負担となっている。
○実質可処分所得
個人所得の総額から税金や社会保険料などを除いた個人が自らの意思で使える可処分所得に、物価上昇分を加味した実質的な可処分所得のこと。個人の購買力を測るひとつの目安になる。
○内部留保
企業が生み出した利益のうち、税金や配当、役員報酬など社外流出分を差し引いた分で企業内に蓄積されたもの。大企業が史上空前のもうけをあげ、多額の内部留保を積み増している背景に、法人税率のあいつぐ引き下げや研究開発減税など大企業に対する優遇税制がある。
○中核市
政令指定都市と並ぶ日本の大都市制度の一つであり、法定人口(法律の施行の際に根拠となる人口)が20万人以上で、保健衛生、福祉、教育、環境、まちづくりなど必要な行政処理能力を有していることが要件。2019年4月現在、58市。
○マクロ経済スライド
毎年度行う年金額の改定の際、「年金財政の均衡をはかる」ことを理由に、年金額の伸びを物価や賃金の伸びより低く抑え、年金を目減りさせていく仕組み。政府の公的年金改革はこのマクロ経済スライドによる年金水準の引き下げを前提にしている。
○過労死ライン
過労死の認定基準。残業時間が「発症前1カ月の間に100時間」か「2~6カ月前に月あたり80時間(月に20日出勤とすると1日4時間以上の残業=12時間労働)」とされている。
○紹介状のない患者の大病院への外来受診の定額負担の仕組み
大病院と中小病院、診療所との外来機能分化を理由に、他の医療機関からの紹介状がない患者が大病院を外来受診した場合に通常の窓口負担とは別に定額負担を求める制度。選定療養の一環であり、現在は、特定機能病院と許可病床数400床以上の地域医療支援病院が対象となっている。
○市町村国保の法定外繰り入れ
市町村の一般会計から国保特別会計に財政を繰り入れること。国保保険料(税)の高騰化や財政基盤の脆弱化(赤字の拡大)を回避するために多くの市町村が実施し、保険料(税)の抑制をはかる方策となっている。政府は法定外繰入の解消に向けて削減の年次目標などを定めた計画の策定を要請し、さらに保険者努力支援制度の中で新たな指標を設け、都道府県・市町村の進捗状況の評価を強化するとしている。
○調整交付金
介護保険財政において、高齢化率や所得状況によって生じる財政上の過不足を市町村間で調整することを目的とする交付金。
○日米貿易協定
日米貿易協定では、米国産牛肉の関税率をTPP(環太平洋連携協定)参加国と同じ税率まで引き下げ、米国向けのセーフガード(緊急輸入制限措置)を新設して低関税での輸入枠を実質的に拡大する一方、米国側の自動車・自動車部品の関税削減は先送りされた。引き続き関税や他の貿易上の制約、サービス貿易や投資に係る障壁などで交渉を開始するとしており(共同声明)、自由貿易協定(FTA)につなげていく方向が示されている。
○TPP
アジア太平洋地域で関税、サービス、投資の自由化などをめざす協定(環太平洋連携協定)。輸出大国や多国籍企業の利益を最優先し、際限のない市場開放を推進する。2016年に12カ国が署名したが、米国が離脱を宣言したため、翌年11月、11カ国により「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(TPP11)として締結された。
○全国後期高齢者医療広域連合協議会
後期高齢者医療制度の運営主体である広域連合の全国協議会として2009年に発足。各連合会の意見を集約し、厚労省に要望書などを例年提出している。
○2017年の社会福祉法一部改正法改正
2017年6月、地域包括ケア強化法の一環として社会福祉法が「改正」され、地域で生じるさまざまな生活課題に対して、住民が主体となり諸団体と連携しながら解決をはかっていくことが地域福祉の基本とされた(第4条)。この内容は、公的支援を住民の「互助」に置き換える「我が事・丸ごと」地域共生社会の法的根拠とされている。
○自治体の責務
地方自治法(第1条2)で、「地方公共団体は、住民の福祉の増進をはかることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」と規定されている。
○緊急事態条項、合区の解消、教育の充実
自民党改憲案のうち9条改憲以外の項目。緊急事態条項は「大規模災害時」に、内閣が勝手に法律にかわる政令をつくり、地方自体や国民をしたわせる権限をもつという条項。この「災害」には「武力攻撃災害」が含まれる恐れがある。緊急事態と宣言して、政府の権限を強化し、国民の人権と生活の制限がねらわれている。合区の解消は、参院選の合区解消を理由に、各都道府県から少なくとも1人を選ぶ仕組みに変える。1票の格差を容認し、憲法14条違反。また国会議員は「全国民の代表」と定めた憲法43条にも違反する党利党略の条項。教育の充実は、「教育の無償化のため」としながら、文案には「無償化」の文字はなく、「教育環境の整備」の記載のみ。改憲ではなく、憲法26条の実現こそ求められる。
○アメリカの対中国包囲戦略
「中国は、近い将来インド太平洋地域の覇権を追求し、アメリカを追い出しグローバルな優位を獲得しようとしている」(2018年、米「国防戦略」)として、アメリカが覇権維持のために行う中国への対抗戦略。日本の自衛隊の空母保有、イージスアショアの配備、南西諸島への自衛隊の配備もその戦略の一部。
○日米地位協定
日米安保条約にもとづいて設置された米軍・米軍人などの法的地位や米軍基地運用のあり方を定めた協定。本来、憲法を頂点として国が治められるべきものを、これとは異質な「安保法体系」というもう一つの法体系が存在しており、日本の政治の基本的あり方を左右している。
【第3章】
○災害被災者支援と災害対策改善を求める全国連絡会(全国災対連)
災対連は、全国災対連と地域の災対連が、①被災者の生活再建と住民本位の復興の支援、②被災者生活再建支援法の改善、③運動・情報の交流を目的に活動している。
○国保法44条
国民健康保険法では、「保険者は、特別の理由がある被保険者で、(中略)一部負担金を支払うことが困難であると認められるものに対し、」病院などでの一部負担金の免除、減額、徴収猶予の措置を取れることが規定されている(国保法第44条)。災害による世帯主の死亡や資産の損害、農作物の不作や不漁による収入減、事業の休廃止、失業などによる収入減などで減免されるが、基準や条件は自治体が独自に要項を作成し運営する。担当者の制度への認識不足、手続きの煩雑さ、恒常的な困窮での適用が認められないなど、現状では利用しづらく改善が求められる。
○憲法審査会
2000年からはじまった憲法調査会が、07年の国民投票法成立を受け、それを引き継ぐ形で衆参両院に設置された。憲法にかかわる議論をする場とされているが、自民党が独自の改憲案をとりまとめ、憲法審査会へ提示し改憲論議を強行しようとねらっている。
○医療の質の向上のための協議会
2019年に、10年から8年間に厚生労働省が行った「医療の質の評価・公表等推進事業に参加した病院団体による医療の質向上のための協議会が設置された。全日本民医連の他、地域医療機能推進機構(JCHO)、国立病院機構、全国自治体病院協議会、全日本病院協会、日本病院会、日本慢性期医療協会、日本看護協会、労働者健康安全機構、日本赤十字社、恩賜財団済生会などが参加している。「医療の質の向上、情報の適切な開示・活用、そして患者中心の医療連携」を目的に、「団体の枠を超えた未来志向の建設的な協業をすすめていく」(設置趣意書)組織です。
○ILOハラスメント禁止条約
ILOは国連の国際労働機関。ハラスメント禁止条約の正式名称は、「仕事の世界における暴力とハラスメントの除去に関する条約」。2019年6月のILO総会で成立した。「暴力とハラスメント」を包括的に定義し(第1条)、契約上の地位にかかわらず働く人びと、訓練中の者、雇用が終了した労働者、求職者、就職職申込者など保護の対象を広く定めている(第2条)。暴力とハラスメントのない仕事の世界は人びとの権利であるとし、加盟国に対してその尊重、促進、実現を求めている(第4条)。
○基盤としてのこころの診療推進方針(案)
国民のこころの健康がひどく脅かされている中で民医連としてこの問題をどう考え、とりくむかについての方針案。日本ではなぜこの領域でのとりくみがすすまなかったのか歴史的な説明とともに、民医連内における精神医療の位置について分析し、民医連の医療活動を総合的に発展させるために、「こころの診療」推進に関する議論をよびかけその具体化を求めている。
○日本HPHネットワーク
HPHはHealth Promoting Hospitals & Health Servicesの略。ヘルスプロモーションを実践する医療機関や介護・福祉の事業所が趣旨に賛同し加盟する組織です。現在119事業所が加盟し(2019年12月6日現在)、WHOが推奨・開始したHPH国際ネットワークの国・地域ネットワーク(日本支部)の役割も果たす。患者、職員、地域住民の健康水準の向上をめざし、健康なまちづくり、幸福・公平・公正な社会の実現に貢献することを目的に活動している。国際HPHネットワークには、45カ国900以上の施設が加盟している。
○旧優生保護法
1948年、「不良な子孫の出生防止」と「母性の生命健康の保護」を目的に制定。法施行から1996年に母体保護法に改定される半世紀の間に、本人の同意を要しない強制的な不妊手術1万6475件(4条、12条)、当事者の同意にもとづく形式はとっているものの事実上強いられた手術8516件(3条)、計2万4991件の不妊手術が実施され、さらに子宮摘出など違法な手術も行われていた。
○リプロダクティブライツ
性と生殖に関する権利。1994年のカイロ国連世界人口開発会議で初めて明確に打ち出された。日本では96年、旧優生保護法が母体保護法に改定される際に国会の附帯決議に盛り込まれ、また2019年5月の強制不妊手術被害国賠訴訟・仙台地裁判決において、憲法13条にもとづく基本的人権(子を産み育てるかどうかを意思決定する権利)として明記された。
○障がい者権利条約
「障がい者の権利に関する条約」。障がい者の人権および基本的自由の享有を確保し、障がい者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的に掲げ、障がい者の権利の実現のための措置などについて定めている。2006年に国連総会で採択され、日本は14年に批准した。20年秋に国連の障害者権利委員会が条約後の進捗状況について日本政府を審査するとしており、この審査を前に、国内の障がい者団体が「障がい者の人権・生活状況は同条約に照らして大きなギャップがある」というパラレルレポートを国連に提出している。
○民医連病院の管理部が実践するべきミニマム(案)
43期第2回病院長会議(病院長・事務長会議)の問題提起の中で、「会議参加者が自らの手で民医連病院の管理部として実践すべき中心課題を明らかにするということに挑戦」するとし、自院の理念と基本方針の明確化と浸透、ポジショニングと地域連携、目標設定とPDCAサイクルの確立、組織機構の整備と民主的管理運営の確立、安全・倫理と医療の質向上、人材の確保と育成、まちづくり・社会保障改善や平和のとりくみに職員と共同組織がともにとりくむことなどを柱とした7つの論点を提示した。
○スチューデント・ドクター制度
医学生の実習で一定の医行為をさせるためにスチューデント・ドクターとして位置づける動きは、以前からいくつかの大学で行われていた。大学の医学教育から初期研修にシームレスにつなげることを目的として、現在医学部4年生を対象にした共用試験(CBT、OSCE)を医師法に位置づけ、同合格者には「スチューデント・ドクター」の資格を与え、臨床実習で一定の医行為を実施できるようにする制度改定が検討されている。侵襲性の高い医行為を医学生に行わせることの是非なども議論されている。
○コンピテンシー基盤型教育
従来の細かな研修目標や経験目標をひとつずつ積み上げていくプロセス型の研修方式ではなく、研修のアウトカムとして医師に求められる資質・能力(コンピテンシー)を設定して、そのコンピテンシーを獲得していくための研修方略や評価を行う教育方式。海外では2000年前後からこの方式の導入がすすめられてきた。
○マイルストーン評価の導入
医師としての能力を、到達段階のレベルごとに具体的に記載したものがマイルストーン。アメリカの研修医や専門医養成におけるコンピテンシー基盤型教育に対応した評価のためのツールとして開発された。民医連は早い時期に初期研修評価などにマイルストーン評価を取り入れてきたが、2020年度からの新医師臨床研修制度の見直しにともない、国の制度としても、研修医の到達評価のためにマイルストーン評価が導入されることになった。
○トランジショナル・イヤー(TY)
アメリカでは、日本の初期研修終了に相当する医学部教育の終了時期から専門研修に移る前の1年間の移行期研修について、トランジショナル・イヤー研修と呼ぶ。日本では、新専門医制度の導入にともない初期研修終了後に専門領域を決め、専門医取得にむけた研修を開始する流れが強まった。これに対し、すぐに専門領域を決めず、初期研修2年で不足した力量をつけたり、後進の教育に関わる役割を担う中で、さらに総合性を身につけるような研修をトランジショナル・イヤー研修として民医連では位置づけている。
○シーリングに対する見解
医師の地域偏在・科別偏在を解消する目的で、新専門医制度において都道府県や領域ごとに後期研修の定員に上限を設定する仕組み。厚生労働省と日本専門医機構がすすめているが、すすめ方が不透明というだけでなく、専攻医にとっては自由に研修先を選べなくなることや、病院にとっても後期研修医の採用への障壁となるなど大きな問題があり、学会などからも強い批判の声があがっている。
○『民医連のめざす看護とその基本となるもの』
民医連の看護が培ってきたものを継承・発展させるための教材として2017年に発行した。民医連のめざす看護とは、看護実践の根幹に日本国憲法と綱領をすえ、すべての人が人間らしく、その人らしく生きていくことをあらゆる場で援助する無差別・平等の看護であり、その実践において「民医連の看護の視点・優点(3つの視点、4つの優点)」「患者の見方・とらえ方」「社会の見方・とらえ方」を基本となるものとして整理している。
○看護師の特定行為研修
2014年の通常国会で成立した「医療介護総合確保推進法」の中で特定行為にかかる看護師の研修制度が創設され、保助看法の改正がされた。医師の包括的指示のもとで、あらかじめ作成された手順書により看護師の判断で一定の医行為ができるようにするための研修である。実践的な理解力、思考力および判断力並びに高度かつ専門的な知識および技能の向上をはかるための研修である。研修は、全ての特定行為区分に共通する「共通科目」と、特定行為ごとに異なる「区分別科目」で構成され省令で定められている。
○健康サポート薬局
かかりつけ機能に加え、地域住民の主体的な健康保持・増進を積極的にサポートするために、薬や治療のことに加えて健康や介護に関する相談ができる薬局をめざして2016年に制度化された。服薬指導の一元的・継続的な管理、24時間対応・在宅対応、医療機関との連携などを要件とし、所定の研修を受けた薬剤師の常駐が必要。診療報酬上の評価はない。
○韓国社会的医療機関連合会(略称‥社医連)
2018年5月26日に結成。56機関が加盟し職員数は1123人、組合員数は2万4208人。綱領前文では、「命を扱う医療は社会と国家が責任を負う公共エリアに属する。しかし、私たちの社会での医療の公共性はますます弱くなっている。医療の民間部門への依存度が増加し、商業化が加速され、国民の健康の不平等は深刻化している。そして医療が行われる過程で、患者と介護者、地域住民の積極的な参加は難しくなっている。社会の高齢化により医療とケアの境界が不明瞭となっており、医療に関連して、福祉のニーズも増加している。医療機関を中心とし、医療だけではなく、健康なまちづくりに対する要求も徐々に増加している。そして、私たちは戦争、核兵器、原子力発電所などの大量破壊をもたらすことができる生命の危機状況の中で生きている」ことを掲げている。
○ECOSOC
国際連合経済社会理事会(英語‥United Nations Economic and Social Council)は、国際連合の主要機関のひとつで、経済および社会問題全般に関して必要な議決や勧告などを行える。国連憲章で定められているNGO参加のための公的な体系をもった唯一の国連機関で、略称はECOSOC(エコソク)。民医連はECOSOCの協議資格を取得している。
【第4章】
○もっとも受診抑制がすすんでいるのが、国民健康保険
国民健康保険は、協会けんぽや健保組合に比べ年齢構成や医療費水準は高いが4割以上が無職者で所得水準は低い。所得に対する保険料負担率も、協会けんぽ7.5%、健保組合5.8%に対し、国保は10.1%と負担が重い。2019年10月発表の医療保険別概算医療費では、国保のみ3年連続医療費減、3年累積で10%程度減少。ひとり当たりの医療費は増加しているが総額は減少し、国保加入者の受診抑制がすすんでいると推察できる。
○子どもにかかる均等割保険料(税)の減免
国保料(税)には応能部分(①所得割と②資産割)、応益部分(③均等割と④世帯割・平等割)があり、自治体が①~④を組み合わせて国保料(税)を計算。応益部分は加入者の所得の有無や負担能力は考慮されず、子どもの負担額も算定される。全国知事会や全国市長会議も子どもに係る均等割保険料軽減措置を国に要望。子どもの均等割分の軽減制度を独自実施する自治体も増えている。
○統一保険料への動き
市町村は、保険料負担の軽減のため法定外繰り入れをしつつ、国に対し国庫負担増額を要求。同時に保険料負担問題の解決を求め、同じ給付水準なら保険料負担水準も同じにと「公的医療保険の一元化」制度改革を要望してきた。そうした背景から「都道府県単位での統一保険料率設定」を求める動きがある。しかし保険料率統一で保険料水準が軽減されるとは限らず、逆に収納率アップのために国保加入者の負担増につながる危険がある。
○1981年の難民条約批准
1951年に国連で「難民の地位に関する条約」が、67年に「難民の地位に関する議定書」が採択され、通常この2つをさして「難民条約」と呼ぶ。難民の定義を定め、難民に保護を保障し、生命の安全を確保するために「難民を彼らの生命や自由が脅威にさらされるおそれのある国へ強制的に追放したり、帰還させてはいけない」、「庇護申請国へ不法入国し、また不法にいることを理由として難民を罰してはいけない」などの原則を定めている。
○在留外国人
在留外国人とは3カ月以下の短期滞在者や難民認定申請など在留資格を有しない人を含まず、永住者や中長期在留者、留学生などをさす。在留資格別には、永住者、留学、技能実習、特別永住者、技術・人文知識・国際業務などがある。2018年末の在留外国人数は、前年末に比べ16万9245人(6.6%)増加し過去最高となった。出入国管理法の改正(19年4月1日施行)により新たな在留資格「特定技能」が新設され、19年度は最大で4万7550人、5年間で約34万5000人の外国人労働者の受け入れが見込まれている。
○「必要充足」原則
医療・福祉などの公的な社会サービスは、当事者の必要が満たされる内容・方法で給付・保障されなければならないとする原則。
○逆進性の高い税制
税負担における平等原則は、経済的な負担能力に応じて税を負担する「応能負担原則」である。消費税はこの原則に反し、負担能力の低い人ほど逆に負担率が高くなる。消費税負担率は、国の試算でも2019年10月の消費税率10%への引き上げにより、年収200万円未満の層は5.9%からさらに6.8%に上がる一方、年収1500万円以上の層は2.1%から2.6%に上がるにとどまり、低所得層との負担率の差がさらに広がる。
○日米安保条約
米軍によるアジア軍事拠点の確保を目的に、1951年サンフランシスコ平和条約と同時に締結。60年改定時は全国的な反対運動に発展した。これにより国内に134カ所の米軍基地が住宅密集地につくられ、深刻な住民被害が生じている。日本の米軍基地から出動する部隊は、ベトナム戦争やイラク攻撃の拠点となり、世界でも大変危険な存在となっている。
○出資金、地域協同基金、特定協力借入金などの「大衆資金」
出資金は、医療生協の加入時に出資し生協の運営資金となる。地域協同基金は、医療生協以外の医療法人及び公益法人などの共同組織構成員及び家族、役職員とその家族が拠出し法人の運営に資する資金。特定協力借入金は、病院建設や医療器機購入などの特定の投資を目的に共同組織の構成員および家族、役職員とその家族から借り入れる資金。民医連の活動に賛同し、財政的に支援する医療生協組合員や友の会の構成員など地域の人によって拠出されるので民医連では「大衆資金」と呼んでいる。
○経営委員会ミニマム
「県連及び地協の経営委員会ミニマム」…経営活動の交流や援助を通じて経営分野での前進をめざすために、県連や地協の経営委員会が最低でもとりくむべき課題や任務を明記したもの。2013年12月に改定され、主な内容は、①法人の経営状況、中長期経営計画の掌握、②民医連統一会計基準の推進、③経営検討会や予算編成交流会、診療報酬対応交流会などの開催、④施設拡大計画についての審議と県連理事会への報告と必要な指摘や提起、⑤各法人での内部監査委員会など内部牽制制度の充実促進と監事監査の役割交流など。
○健康職場5つの視点
民医連職員の健康を守っていく視点で、具体的には以下5項目。①個人にとって適度な負荷となっているか、②職員の安全・安心が保たれているかどうか、③技術的に研修の機会が保障されているか、④使命が明確で評価されているか、⑤ライン内・職場間・職種間で少数意見が保障され、コミュニケーションが向上しているか、の具体化と点検。作業に必要な情報の質、量、伝達方法、交代の多い職場ではコミュニケーションを常に向上させる観点が不可欠など指摘された(37回総会方針)。
○健康職場づくり7つの課題
「健康づくり」の前進には、①保健師も含めた衛生管理者の選任化と管理部の連携、②保健師・医師面接や保健室の設置、③メンタルヘルス不調などの困難者を抱える職責者への「職場復帰支援チーム」の設置、④職員の「特定検診・特定保健指導」の向上、⑤予防的作業管理(筋骨格系疾患の予防の人間工学的対策導入など)の重視、⑥職場環境改善のために予算化、⑦小規模事業所の衛生活動への援助、などを重視していくことが必要であり、職員の健康管理は、医療改悪による激務の中でも仲間を大切にする民医連組織の真価が問われる課題と提起された(38回総会方針)。
○被災者生活再建支援法
この法律は第1条の目的として、自然災害によりその生活基盤に著しい被害を受けた者に対し、都道府県が相互扶助の観点から拠出した基金を活用して被災者生活再建支援金を支給することにより、その生活の再建を支援し、もって住民の生活の安定と被災地の速やかな復興に資することを目的とされている。