介護・福祉

2020年1月21日

相談室日誌 連載477 本人が望む場所へ 寄り添う退院支援(富山)

 Aさんはひとり暮らしの70代の男性です。自宅で動けなくなっているところを、車のエンジンがかけっ放しになっていることに気づいた近所の人が発見。地域包括支援センターに相談し、受診となりました。家の中は、ごみや飲食物、排泄物が散乱した状態だったといいます。来院時には異臭がし、劣悪な環境で過ごしていたことがうかがえました。糖尿病の治療を数年間中断しており悪化していました。うまく歩行できずひとり暮らしが困難な状態であり、そのまま入院となりました。月に約10万円の年金のうち半分を借金の返済に充てており厳しい経済状況でした。
 Aさんは独身で、町内の友人がキーパーソンです。友人は、Aさんのひとり暮らしは困難と考え、本人と相談の上、家を売却し、借金を清算、施設に入ることになりました。Aさんは当初は納得していましたが、友人が不動産屋を手配し、要介護3の認定がつき、入所を準備していた矢先に突然、「施設はいやだ、家に帰る」と翻意しました。理由を聞いても同じ言葉をくり返すのみで、友人が説得しても意思は変わりませんでした。入院して体調が良くなり、自信を取り戻したのだと推察します。Aさんは、口数が少なく独特の間があるため意思疎通は容易でなく、判断力を誤解されやすい面があります。しかし質問には正直に返答し、ていねいに聞き出すと今後の生活への希望を確認できました。友人とも話し合い自宅退院へ方針転換しました。借金の任意整理を行いましたが、生活費はぎりぎりです。使える介護サービスが少ない懸念もありましたが、それでも何とか自宅でやっていく見込みがつきました。また、近所の人がAさんの自宅退院を懸念していましたが、支援体制を説明し理解を得られるよう努めました。そうして家へ帰ったAさんは、友人の支援や当院の訪問診療を受け、再入院することなく元気に、Aさんらしく暮らしています。
 意思疎通に課題のある人の場合、キーパーソンや周囲の人びとの希望が強くなりがちと感じることがありますが、本人の希望を確認し、困難があっても本人が望む場所への退院を支援する大切さを感じた事例となりました。

(民医連新聞 第1708号 2020年1月20日)

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