くすりの話
機能性表示食品
執筆/藤竿 伊知郎(外苑企画商事・薬剤師)
監修/高田 満雄(全日本民医連薬剤委員会・薬剤師)
読者のみなさんから寄せられた薬の質問に、薬剤師がお答えします。
今回は機能性表示食品についてです。
食品は医薬品と違い、疾病の治療につながる効能を宣伝することができません。例外として、9月号で紹介したトクホ(特定保健用食品)があります。しかし、トクホの申請にはヒトでの比較臨床試験が必要で、多額の費用と審査時間がかかります。2015年に業界の要望を受け、“科学的根拠”をもとに届け出ることで健康に関する機能表示ができる「機能性表示食品」制度ができました。
現在、栄養ドリンクやさば缶、ドレッシングやビールにいたるまで、さまざまな製品が販売されています。18年にはトクホ新規許可数の40倍、506品目の新製品が発売され、年間2000億円とトクホの3分の1の市場規模に成長しました。現在の届出件数は2287件(販売中は1013件)で、トクホの許可数1066件を超えています。
文献評価の客観性に疑問
トクホのような審査がないため、制度発足直後から怪しい商品が売り出されました。
キユーピー株式会社の「ヒアロモイスチャー240」は、2008年に「有効性の根拠がない」としてトクホの承認を得られませんでした。ところが同じ研究をもとに届け出て、15年に機能性表示食品として発売。株式会社リコムが届け出たエノキタケ抽出物配合の「蹴脂粒」は、トクホの審査で「安全性を確認できない」と却下されていたのに、同じく機能性表示食品として発売されました。
届け出のガイドラインでは、トクホに準じた臨床試験か、審査のある専門誌で発表された複数の論文にもとづく評価による実証を求めています。しかし、臨床試験を行った製品はわずか7%で、残りは文献評価に基づく届出というのが実態です。専門誌といっても、業界とつながりの深い編集者が作っている雑誌もあり、論文の客観性が疑問視されています。
規制と監視が必要
機能性表示食品から生じた健康障害などの情報集積と周知も不十分です。東京都が17年、消費生活センターに寄せられた相談をもとに、薬物性肝炎の事例を報告しました。被害者は40代男性で、「目のピント調節」のため機能性表示食品を1日2粒ずつ摂取。服用開始半月後からオレンジ色の尿が出たため、受診しましたが原因不明。その後、全身のだるさとめまいが続き、急性肝炎の疑いで緊急入院となった事例です。販売会社は服用との因果関係を否定し、製品を売り続けています。
昨年1月にも、「葛の花由来イソフラボン」を「飲むだけで痩身効果が得られる」と宣伝していた販売業者に、消費者庁が景品表示法違反に基づく課徴金納付命令を出しました。このように、届け出た情報の一部を誇張して宣伝する事例が後を絶ちません。誇大広告に対する厳しい取り締まりと、消費者による監視が求められています。
いつでも元気 2019.10 No.336
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