けんこう教室
難聴と補聴器
先月号では、難聴と認知症の関係について述べました。難聴を放置すると、家族や社会から孤立してしまい、認知症になるリスクが高まります。
難聴になったら人とのコミュニケーションを円滑にするため、補聴器を活用する必要があります。しかし、一般的に片耳だけで3~20万円と高く、ひとりひとり丁寧に調整する仕組みが整っていないため、「ガーガーうるさいばかりで聴き取りづらい」「頭が痛くなる」など、補聴器に不満をもつ人は少なくありません。
加齢性難聴者が約1000万人いるにもかかわらず、補聴器の販売台数は年間40万台ほど。補聴器を使っている割合は1割台で、欧米諸国よりかなり低くなっています(表1)。ヨーロッパと比べて、購入に対する公的補助のしくみが十分に整っていないことも、補聴器の使用が広がらない一因です。
受診と検査
補聴器を使用するには、まず耳の状態を調べるため耳鼻咽喉科を受診します。最近は、補聴器の相談に特化した「補聴器外来」を開いているところもあります。また、日本耳鼻咽喉科学会が「補聴器相談医」を認定しています。学会のホームページ上に認定された医師の名簿を掲載していますので、参考にしてください。
聴こえの状態をチェックするには、「オージオメーター」という機器を使います。受診者が着けたレシーバーに向けて音の高さ(周波数)を変えて音を出力し、それぞれの周波数でどの程度小さい音量まで聴き取れるかを測定します(表2)。さらに言葉を正確に聴き取れているかをチェックするために、「語音明瞭度検査」を行います。
生活の状態に応じて個人差がありますが、平均50デシベル以上しか聴き取れない方は、補聴器の使用を勧められます。ちなみにWHO(世界保健機関)は、平均41デシベル以上しか聴き取れない方に補聴器の使用を推奨しています。難聴を悪化させないためにも、早めに手を打ったほうがいいでしょう。
「両耳とも平均70デシベル以上しか聴き取れない場合」「語音明瞭度が50%以下の場合」などに身体障害者として認定され、補聴器の購入に公的補助が受けられます。
販売店での注意
補聴器を一般的な販売店で購入する方も多いでしょう。「認定補聴器技能者」がいる販売店がお勧めです。
販売店の大部分は、メーカーの直営店です。形はさまざまあっても、音質は1種類しか用意していないことが多くあります。遠慮せずに「他のメーカーの補聴器は置いていませんか?」と尋ねてみましょう。レンタルで試聴できる場合は、必ず日常生活の中で使い心地を試してください。
迷ったら「別の店の補聴器も試してからまた来ます」などと言って、すぐには買わないことです。補聴器は買ったあとも定期的に調整が必要なため、やり取りをした時の販売店の対応や雰囲気も、補聴器を選ぶ際の重要なポイントです。
一般的に補聴器は、サイズが小さくなるほど値段が高くなります。値段が高い補聴器ほど性能が良くて、安い補聴器が悪いということはありません。ご自分の耳に合ったものを選ぶことが何より大切です。
2005年の薬事法改正によって、補聴器は単なる医療用具から「管理医療機器」に規定されました。厚生労働省の認定する管理者がいない限り、補聴器の販売はできません。販売者は少なくとも3年間は売った記録を残して、苦情などに適正に対応しなければなりません。要望をきちんと伝えて、納得できるまで吟味してください。
訪問販売や通信販売などでの購入は避けましょう。
13社の補聴器を用意
私が立ち上げた「沖縄県難聴福祉を考える会」附属診療所では、補聴器を適合させる際、ヘッドホンではなくイヤホンを使い、補聴器の周波数特性に合わせて出力を調整します。実際に補聴器を使う状態に近づけたほうが、より正確に適合させられるからです。
診療所には、日本に流通している代表的な13社の補聴器を用意しています。希望する方には2週間単位で貸し出して、実際の聴こえ具合や使い勝手を確かめていただきます。
ほとんどの方は「これだ!」という補聴器が決まるまでに4~6回(約2~3カ月)かかります。さらに補聴器を使いこなせるように装用指導を行い、最適な状態を維持するために、半年に1度受診していただきます。
聴こえのバリアフリーを
超高齢社会の日本で、10人に1人が難聴者という時代を迎えました。適切に予防やケアを行いながら、「必要になったら補聴器を使うのが当たり前」という社会にしていきたいと思います。
補聴器に直接音声を送り込む磁気ループ(ヒアリングループ)を公共施設や劇場に普及させるなど、集団補聴システムの整備も欠かせません。
もし相手が聴こえづらい方だと分かったら、真正面から唇を見せるようにして、はっきりゆっくり話しかけてください。相手の目を見て、一人の人間として尊重する態度が重要です。家族や社会からの孤立を防ぐためにも、聴こえのバリアフリー社会をつくっていきましょう。
補聴器購入に公的補助を!
補聴器は社会参加の必需品であるにもかかわらず、年金などで暮らす低収入の高齢者には手が届かないほど高額です。
補聴器の購入に公的補助が受けられるのは、「両耳とも平均70デシベル以上しか聴き取れない場合」「語音明瞭度が50%以下の場合」などと限定的。一部の自治体で公費補助制度が導入されていますが※、所得制限などの条件をつけて、わずかな金額の補助にとどまっています。
これに対し、ヨーロッパなどでは手厚い公的補助があり、国家資格を持つ聴覚の専門家や医師が補聴器を調整します。
昨年12月、兵庫県議会は「補聴器購入に公的補助を求める意見書」を全会一致で採択。国会でも3月、大門実紀史参議院議員(日本共産党)が、この問題を取り上げました。「難聴に早く対応することは、認知症やうつ病などへの進行を防ぎ、医療費を抑える効果もある」と指摘。麻生太郎財務相から「必要なこと」との答弁を引き出しました。(編集部)
※例えば、東京都江戸川区と墨田区は「満65歳以上、住民税非課税で医師から必要と認められた方」に上限2万円を補助。葛飾区は同じ条件で上限3万5千円を補助。
いつでも元気 2019.8 No.334