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ニュース・プレスリリース

第43期第3回評議員会方針

2019年8月18日全日本民医連第43期第3回評議員会

はじめに

第1章 第2回評議員会からの実践の特徴・到達点
(1)人権としての社会保障運動と平和の課題
(2)医療・介護・歯科分野
(3)経営分野のとりくみ・郡山医療生協経営改善の教訓
(4)医師分野のとりくみ
(5)民医連の綱領学習運動のとりくみ
(6)共同組織の活動の広がりと発展
(7)旧優生保護法などに対するとりくみ
(8)事務育成の前進に向けたとりくみ
(9)全国的とりくみ

第2章 情勢の特徴
(1)参議院選挙の結果と憲法を守り生かす運動の展望
(2)格差と貧困の一層の広がりと社会保障解体
(3)核兵器禁止条約の発効へ広がる世界と日本の運動
(4)東京電力福島第一原発事故から丸9年、10年目へ向けて

第3章 第44回総会へ向かう方針
(1)民医連綱領改定から10年、全国で次期総会に向けて振り返りをすすめよう
(2)「2つの柱」を総合的にすすめる体制の整備とまちづくりへ向けて
(3)人権としての社会保障と平和を守る課題
(4)憲法9条改憲反対の全国的な運動について
(5)共同組織拡大・強化のとりくみ
(6)医師の確保と養成のとりくみ
(7)経営分野のとりくみ
(8)職員育成

おわりに

はじめに

 第44回総会まで半年となりました。2月に開催した第2回評議員会では、第43回総会運動方針から1年間の到達点を確認し、残り1年間の重点課題を明確にしました。
 第43回総会は、「憲法をまもり生かす国民的運動に参加し、人権、民主主義が輝く平和な未来を切り拓こう」とスローガンで呼びかけました。2017年5月3日、安倍首相が憲法9条を変えると明言してから、7月末で820日が過ぎました。安倍改憲NO! 3000万人署名を掲げた市民アクションの運動、市民と野党の共闘など民医連も参加した市民の力で、改憲発議はおろか改憲案を提示することさえできず、7月21日に投開票された参議院選挙の結果、改憲をめざす政党の議席は改憲発議を可能とする3分の2を割り込み、改憲を中心ですすめてきた自民党の議席は過半数以下となり、改憲は行き詰まっています。
 第3回評議員会では、参議院選挙の結果、情勢の変化、特徴点を共有し、方針にもとづく全国各地の経験、教訓を学び、第44回総会へ向けた重点課題を意思統一します。
 全国の職員、共同組織のみなさん。来年2月に、熊本で開催する第44回総会は、民医連綱領改定から10年の節目です。この10年間の民医連綱領にもとづく実践を振り返るとともに、2020年代の課題を鮮明に打ち出していくことが必要です。そうした総会を展望しつつ残りの半年の全国的な重点を明確にする評議員会となりました。
 評議員会は、第3回評議員会方針、第44期役員選出方針、2019年度上半期決算について全会一致で決定しました。

第1章 第2回評議員会からの実践の特徴・到達点

 第2回評議員会は重点課題として、①7月の参議院選挙で憲法、平和、人権を守り抜くこと、②人権としての社会保障運動と平和の課題、③民医連の医療・介護の活動をまちづくりと結び旺盛にとりくむこと、④民医連が確立してきた経営方針と教訓を生かし、経営困難を乗り越えること、⑤「未来に向かって民医連の医師と医師集団は何を大切にするのか(案)」を力に、医師の確保と養成の前進を切り拓くこと、⑥『学習ブックレット 民医連の綱領と歴史』を活用した学習運動、を提起しました。これら重点課題を中心に実践の特徴・到達点を述べます。なお、参議院選挙のとりくみは情勢の章に記載します。

(1)人権としての社会保障運動と平和の課題
 77事例が報告された2018年経済的事由による手遅れ死亡事例を、全日本民医連や各県連で記者会見して公表しました。調査結果では、単に経済的な困難のみならず、本人や家族の障害やそのための地域からの孤立など、複合的な困難があることを指摘しました。死亡原因の74%は「がん」で、自覚症状発症から1カ月以内の受診はわずか19%、進行、悪化してから救急搬送され、積極的治療ができずに亡くなった人が少なくありませんでした。さらに健診で早期に発見すれば治療可能な「がん」でも、自治体のがん検診を受けるためには、自己負担金が重い負担となります。「無保険」「国保資格証明書」など正規の保険証がない人たちにとっては、「保険者」=「国保」が行う特定健診を受けることが困難であったと推察されます。また、約半数は、正規の保険証があっても「手遅れ」となりました。最大の要因は、高い医療費窓口一部負担金にあると思われます。国保では、国保法44条による一部負担金の免除、減額、徴収猶予の制度がほとんど機能していません。77事例中、民医連で受診後に生活保護受給につながったのは30事例ありました。国保や生活保護の窓口などでの対応改善が求められます。
 福岡では記者会見に合わせて、国保の都道府県単位化に伴って国保料(税)を引き上げた自治体の実態調査の実施や、国税徴収法違反の差し押さえをしないよう市町村への指導を強めることなど9項目の要望書を県に提出しました。各県連では、自県連の事例検討会を行い、運動の課題を明らかにするとりくみをすすめています。
 国保学習ビラでの学習を行い、国保の改善に向けた国保アンケート調査が、各地ですすんでいます。統一地方選挙や参議院選挙も視野に入れながら、滋賀、長崎でアンケート結果を記者会見し、高い国保料や窓口負担が受療権を侵害している実態を告発しました。東京・健生会では、独自に学習パンフも用意して共同組織とともにアンケート調査にとりくみ、自治体に向けた国保料(税)引き下げの請願運動につなげています。
 「国民健康保険料(税)の引き下げと制度改善を 中小業者の『受療権』確立への7つの提言」を発表した全国商工団体連合会と共同で「国保制度の改善をめざす国会内集会」を開催し、国保制度の改善、保険料引き下げの運動を交流しました。
 無料低額診療事業の改善へ向けて、自治体による薬代助成の要請にとりくみ、青森では弘前市と薬代助成などで懇談を実施、北海道旭川市は2019年度予算で該当患者の薬局助成の12カ月までの延期を実現しました。岡山では請願署名を提出しました。また、長野県安曇野市や福井市では無料低額診療事業を説明したパンフレットを国保年金課などの窓口に常時置いています。愛媛では、済生会と共同し松山市と懇談会を実施しました。無料低額診療事業は、第2回評議員会以後、山形・しろにし診療所、石川・羽咋診療所、鹿児島・谷山生協クリニックと川辺生協病院、岡山・水島協同病院、北海道・北見病院、香川・みき診療所の7事業所で新たに開始しました。
 今年6月、水俣をフィールドに社保セミナーを開催し、24県連から32人が参加しました。各県連独自の社保学校・セミナーは、千葉、長野、愛知、兵庫、沖縄で開催され、山梨、福岡で準備がすすんでいます。
 沖縄では、2月24日の県民投票、4月21日の衆議院沖縄3区補欠選挙と、辺野古新基地建設反対の圧倒的な沖縄の民意が示され続けました。全日本民医連は、全国的な連帯と支援にとりくんできました。また、第46次辺野古支援・連帯行動と、辺野古新基地建設反対行動への医療支援に継続してとりくみました。7月からは第7回平和学校がスタートしました。
 消費税の増税の問題では、斎藤貴男さん、浜矩子さん、本田宏さん、室井佑月さん、山田洋次さんら各界の著名人が呼びかけ人となり「10月からの消費税10%ストップ! ネットワーク」が結成され、民医連も共同したとりくみをすすめています。
 統一地方選挙、参議院選挙に向けては、各県連で立候補予定者や政党への政策アンケートを実施し、東京民医連では候補者アンケートの結果をまとめ、職員の投票行動の参考資料になるよう県連のホームページで公表するなど、全職員に「投票に行こう」と呼びかけを広げました。

(2)医療・介護・歯科分野
写真 医療・介護の連携や一体的な提供、多職種協働が課題となる中で医療と介護の共通する課題をテーマとして設定し、医療介護安全交流集会や医療介護倫理交流集会などを開催してきました。集会を通じ、職種間の権威勾配をなくし、人権の尊重、人権感覚を高めることの大切さなど、共通する課題が明らかになりました。また、介護現場での安全や倫理問題への対応については、実態にあわせて対応を検討する必要性も明らかになりました。また「DNARガイドライン・ミニマム(案)」を提案しました。
 日本HPHネットワーク主催で「J―HPHスプリングセミナー」「高齢者にやさしい病院ワークショップ」が開催され、民医連の事業所からも多数参加しました。台湾でのヘルスプロモーション活動や高齢者にやさしい病院認定制度などの紹介、地域診断やLGBTの人びとの医療について考えるワークショップが開催されました。5月にポーランドのワルシャワで開催されたHPH国際カンファレンスでは、日本HPHネットワークの企画として、「戦争と平和、ヘルスプロモーション」をテーマにワークショップを行いました。民医連からの参加者が、日本の被爆者医療の状況やパレスチナでの医療支援活動、日本軍による中国での遺棄毒ガス兵器による健康被害、反核医師の会のとりくみや憲法カフェのとりくみなどを報告し、ホロコーストと医の倫理を研究しているポーランドの医師からの講演もありました。
 2月に、IT担当者交流集会を開催し、病院や法人で抱える医療情報システム(HIS)の現状や課題について交流しました。法人や病院としてのITにかかわる戦略や方針が明確でなく、担当者任せになっている状況も一部にあり、法人や病院としての方針を明確にし、業務の整備をすすめる必要があります。
 全県連で医療活動委員会または同等の機能を有する機構が確立し、県連全医師会議で「SVSカンファレンス」を実施し、「気になる患者カンファレンスの開き方講座」を開催(奈良)、「事例から学ぶSDHと社会的処方」(大阪他)など、「医療・介護活動の2つの柱」(以下「2つの柱」)やSDHの内容や考え方が、現場に浸透し、日常の医療・介護活動の中で具体化されてきました。
 また、地協では、地協医活委員会の確立(中国・四国)、医活委員長会議の開催(九州・沖縄)、医活担当者会議の開催(東海・北陸)など、各県連で医活委員会を把握し、支援する工夫も始まっています。
 J―HPHと共同して検討をすすめてきた「貧困評価介入ツール(試行版)」は、各県連、法人、事業所などで学習会やワークショップの材料として活用され、また、外来でのスクリーニングなどでも利用されています。
 医療の質改善・向上をはかる民医連のQI活動は97病院が参加し、厚労省「平成30年度医療の質の評価・公表等推進事業」にはそのうちの67病院が参加して医療の質向上を意識した指標の測定や評価・改善のとりくみが行われました。厚労省は病院団体ごとにとりくむこの事業としては一定の到達を得たとして、あらたに「医療の質向上のための体制整備事業」に切り替え、病院団体の横断的な医療の質向上のための協議会を立ち上げ、医療機関、病院団体を支援する仕組みをつくるとしています。この間の民医連のとりくみは高く評価されており、協議会への参加も要請されています。
 学術委員会では、2012、2013年の若年2型糖尿病の調査対象であった782人について、18年に追跡調査を行いました。56施設の協力を得て481人のデータが集まり分析・研究をすすめています。5人に1人が治療を中断している可能性がある、より積極的な治療が行われているにもかかわらず血糖コントロールが悪化している、顕性蛋白尿が顕著に高率であるなど、新たな知見が出てきており、引き続き研究をすすめます。
 「民医連のめざす看護とその基本となるもの」のファシリテーター養成研修を3月と6月に開催し、367人が受講しました。2020年度から再構築される認定看護師教育制度の中で、特定行為の研修が組み込まれます。民医連は、専門看護師、認定看護師の養成について看護の質向上のために積極的に位置づけてきましたが、この再構築の中で考え方の整理が必要です。看護管理調査(9月実施予定)で、各県連の検討状況を把握し、11月をめどに集約・分析します。
 介護事業所では、2018年度介護報酬改定に対して、質の向上や医療との連携を通した加算の算定を引き続き追求しています。
 一方で、職員不足の状況が続いており、通所介護などの報酬「適正化」のもとで、経営上の厳しさが続いています。今年度前半の介護ウエーブでは、社保協、全労連と共同してとりくんだ介護改善署名16万筆を国会に提出しました。次期の法「改正」に向けた審議がスタートしており、改悪を許さない後半期の介護ウエーブ方針の具体化が開始されています。
 歯科分野では、6月6日に参議院議員会館で「保険でより良い歯科医療を求める6・6歯科総決起集会」(主催‥「保険で良い歯科医療を」全国連絡会)が開催されました。全国から350人を超える参加があり、民医連は新入職員をはじめ若手職員を中心に79人が参加しました。集会後に国会議員要請行動を行い、日々の医療活動で目にした状況や要望を直接国会議員や秘書に伝えることを通して、「保険でより良い歯科医療」を求める国民の要求を国会でしっかりと議論して、少しでも私たちの願いを届けてほしいと行動しました。署名目標は20万筆とし、4月から11月末までのとりくみとします。引き続き『歯科酷書第3弾』の事例も学び、地域に出かけましょう。
 学校健診で必要とされた小児の歯科矯正について保険適用拡大の運動として、10万筆の目標で「子どもの歯科矯正に保険適用の拡充を求める請願署名」にとりくみ、4月末時点の民医連の署名提出数は5万4234筆となりました。11月末まで延長してとりくみをすすめます。
 歯科奨学生は、2年連続で20人を超えています。歯科事業所の経営状況は、6月時点で集約数107事業所(集約率89・2%)、提出事業所合計で4・6億円の黒字(収益比2・9%)、黒字事業所比率71・0%となっています。
 7月に4年ぶりとなる第22回歯科学術・運動交流集会を札幌で開催し、200人が参加しました。医科・歯科・介護の連携や無料低額診療事業のとりくみなど多彩な報告がされ、韓国・健歯からも4人が初めて参加し、大きく成功しました。これからも「脱・歯科事業所完結型」の歯科医療をめざし、地域での医療・介護を多職種協働ですすめていきます。そのための人づくりにとりくんでいきます。
 今後は、医活調査(7月)、全国中堅歯科医師会議(11月)、各地協所長事務長会議、歯科読本の改定、歯科衛生士政策の作成をすすめます。
 全日本民医連として認知症委員会を新たに設置しました。「新大綱」をはじめとする政府の新たな認知症施策などを踏まえ、課題の整理をすすめています。

(3)経営分野のとりくみ・郡山医療生協経営改善の教訓
 民医連の医科法人の経常利益は、2018年度経営実態調査(速報値)でも経常利益率0・9%となっており、13年度以降1%にも届かない状態が継続しています。中期該当5ポイント以上の法人は52法人(35・3%)にのぼっています。困難は継続しているとみなければなりません。経常利益予算比では、60・5%となっており大幅な予算未達成です。少なくない法人が、適切に必要利益を予算化できていない現状からすれば、利益予算の未達成は重大な問題であるとの認識を、今一度受け止めることが必要です。薬局法人の経常利益率は1・3%と前年から2・7ポイント低下しました。処方せんのべ枚数の減少などによる技術料収益の減少、特に薬価改定が大きく影響しました。介護事業主体の社会福祉法人では、15年以降の相次ぐ制度改悪と報酬引き下げ、そして人材不足により、資金問題が表面化する法人が出てくるなど経営問題が深刻になっている法人があります。連携法人との対応を強化するとともに、県連・地協などの対策を強めていくことが必要です。また、医科法人での介護事業の経営管理の把握と改善をさらに強めることが必要です。
 6月、全日本民医連として初めて医科法人専務研修交流会を開催し、専務理事が研修と交流を通じ、経営戦略、管理運営などについて学び、自らの問題意識を整理しました。経営課題や医師問題を突破し、前進をつくり出すために、法人運営の要としての専務理事の自覚と研さん、外に出て学び交流する機会や連帯が必要であることを共有しました。
 経営困難から資金ショートの危機を迎えていた福島・郡山医療生協は、全日本民医連経営対策委員会のもと、この1年半のとりくみを通じて資金危機を乗り越えて、本格的な経営再建に向けたスタートラインに立ちました。資金破綻を回避したことから、2019年6月で全日本民医連経営対策委員会は任務を終了し、医師の確保と養成や管理会計水準のさらなる引き上げなど継続する課題について、北海道・東北地協が援助を続けていきます。
 郡山医療生協の2018年度の経常利益は1億1000万円(経常利益率4・5%)と予算を達成、事業キャッシュフローは2億4000万円、事業キャッシュ率9・5%と大幅に改善してきました。現預金残高は、金融機関との借り換え交渉も成立し、18年度期末で2億3000万円(月商1・12倍)となっています。郡山医療生協が、経営危機に陥った要因は、①正しい経営状況の把握(正確な自己認識)ができていなかったこと、②民医連統一会計基準や事業所独立会計への基本的理解と実務的整備の不十分さ、③法人、病院の管理体制と機能の未確立、④医師の経営参加の仕組みや努力、医師集団づくりや医師確保対策などの不十分さ、⑤経営分野をはじめとする県連機能の弱さ、です。
 郡山医療生協の経営改善の要因は、①経営トップ集団と法人理事会のリアルな経営認識を踏まえた再建に向けた固い決意と団結、②中長期の資金見通しと必要利益にもとづく予算を集団で議論・作成し、職員集団に率直に提起し医師を先頭に全職員で予算を実践したこと、③全日本民医連、地協などとの交流と学びを通じて、病院の病床転換やベッドコントロールの強化、法人内連携や地域連携など具体的な経営課題を曖昧にせず確実に実践したこと、などがあげられます。これらは、経営困難な状況にある法人のみならず、多くの法人で共通する課題であり、全国的に共有すべきものです。自らに引きつけて学ぶという意識とその努力が重要です。

(4)医師分野のとりくみ
写真 「未来に向かって民医連の医師と医師集団は何を大切にするのか(案)」について議論が開始されました。医師養成新時代とも言えるいま、綱領学習のとりくみでの民医連の存在意義を再確認していく作業と結んで、多様性と共通項についての提起、多チャンネルでの医師養成の認識をどのように生かして健康格差にタックルし民医連の医療活動を担う医師集団形成のアップデートに結び付けていくのか、全国のとりくみを交流しながら具体化していく段階です。全日本民医連として、とりくみの交流、研究助成の強化、総合診療の委員会の立ち上げ、広報活動および情報交流の仕組みの改善などの作業に着手しました。
 「民医連の医師研修方針~民医連の初期研修から、Transitional Year研修を展望して~」を発表しました。政策の動向として卒後研修が切り縮めようとされるなかで、より良い初期研修をめざす民医連外の動きと連なりながら、国際的な学びの成果も取り入れ、現在およびこれからの医師養成に必然的に求められるSDH、ヘルスアドボケイト、多職種協働、地域包括ケア、まちづくりなどの領域での力の習得を明確に位置づけることを提起しました。同時に、民医連の医療活動への理解と共感をどう醸成していくのかという中心課題については、重視する研修内容の最初に「民医連綱領を学ぶ」を位置づけ、「2つの柱」の担い手としての成長を提起しています。
 マイケル・マーモット氏を招へいした講演会を、J―HPHなどと共同してとりくみSDHに関心のある医学生や研究者、医療関係者をはじめとした幅広い参加を得て成功させました。
 働き方改革については3月28日、医師の働き方改革検討会が年間1860時間の時間外勤務を容認する報告を答申したことで、すでに地域医療に少なからず影響が現れており、患者の受療権を守ることと医師の働き方を改善していくこと、医療経営を守ることを求めながら、民医連としての見解の表明を準備しています。
 新専門医制度による影響は、民医連における専門研修においても大きな影響がみられ、2019年4月の初期研修修了医師のコース選択では、何らかの形で民医連に戻ってくることを表明しながら外部の研修にすすんだ医師を含めて50%を割る状況となりました。医師の流動化を前提としながら、選択される民医連の後期研修の整備をさらにすすめることが必要です。同時に、本格化してきた科別・地域別の医師偏在対策として持ち込まれた「シーリング」による影響で、大学や一部の大病院にさらに後期研修医が集中する傾向が強まり、結果、地域医療の崩壊が加速されることも懸念されます。民医連内でも、ある基幹型病院で定員削減を大学から要請されたり、連携施設においては自院での研修期間の短縮を基幹型病院から求められる、また大学入局者の採用を優先することを通告される、などの影響が報告されています。絶対的な医師不足の認識のないままに必要医師数を設定し当事者たる専攻医や国民的な議論なしに拙速に「シーリング」が設定されることや、新専門医制度に関与を強め、医師の偏在解消にも利用しようとする厚労省の動きに反対の立場から、今後、民医連として新たな提言を行うことを検討します。
 200―500の医師受け入れのロードマップは、500人の奨学生集団という過去最高の峰に到達しました。この4年間、年度ごとに達成度の確認と総括を行い、とりくみをすすめながら、医学生対策の力量を上げること、全国的な教訓を共有することなどをすすめてきました。県連内で奨学生確保が困難な状況であっても、地協内の協力で奨学生を増やす運動をつくり、医学生の紹介活動をすすめてきました。また、民医連の医師数の減少と高齢化に対して、500人の奨学生集団をつくり上げることが、民医連の医師の後継者対策であることを正面から捉えたことも重要です。こうしたとりくみを通じて、500人の奨学生集団をつくりあげる気運が全国に広がり、運動の推進力となりました。
 また、奨学生の誕生とともに奨学生を育てる点を重視し、一人ひとりの奨学生に対して援助を行うこと、医学対と「2つの柱」やSDHを結合させ、子ども食堂や無料塾のとりくみの中から奨学生が誕生するなど、民医連とのかかわりを通して成長しています。地協や県連、事業所で奨学生育成指針を作成する経験も生まれています。
 女子学生の入試差別を許さない医学生や受験生の声や運動によって、2019年度の入試では、女子学生の割合が増加する結果となりました。医学生の自主的な運動が医療界、教育行政をつき動かしました。また学費の問題や、地域枠の学生への締め付けの問題に対しても医学生たちが自ら調査し告発しています。依然として広範に残されている女子学生差別などの実態の解消に向けたとりくみなども含め、さまざまな課題での医学生のとりくみの広がりに対して、民医連として引き続き協力共同していきます。

(5)民医連の綱領学習運動のとりくみ
 第2回評議員会で、日常の医療・介護、諸活動が民医連綱領の理念にもとづいて実践されていること、民医連の歴史から自分の事業所の存在意義は何かを理解し、確信にすることを目標に、総会までの1年間の綱領学習大運動を提起し、全ての職員が、第3回評議員会までに『学習ブックレット』の第1部(綱領編)を読了すること、管理者、役責者(主任・副主任以上)は全文を読み通すことを呼びかけました。
 7月末現在で、第1部(綱領編)の読了職員は3万2234人、全文読了は6904人、学習会は7857回、のべ6万8679人が参加しています。
 これまでのとりくみの特徴は、①「綱領の文言の成り立ちや説明がていねいにされていてとても納得できたし内容がわかりやすかった」など学習ブックレットそのものの力、②“なんのために、誰のために”自らの法人・事業所が誕生したのかを調べるなど、自らの法人のルーツや先人の思いをたどりながらの学習での深まり、③読了にこだわったさまざまな工夫、④この学習運動を通じて、世代や職種を民医連の綱領と歴史がつなぐという貴重な経験の誕生、⑤クイズ、テスト、綱領の旅マップ、替え歌作成、学習マラソン開催など楽しく参加し学ぶ工夫がされ、多様なとりくみが花開いていること、です。学習を通じて日常の医療・介護の実践が、民医連綱領と結びついていることに、確信が広がっています。

(6)共同組織の活動の広がりと発展
 共同組織は「民医連のあらゆる活動のパートナー」であり、「民医連の方針と密接に結びついて、地域の要求を実現する自立した地域住民組織」です。そして、具体的な活動の特徴と役割は、①青空健康チェック、健診など健康増進活動の前進、②地域での助け合い活動、ネットワークづくり、③国や自治体に対する要求実現をめざす運動、④環境・平和を守る運動、⑤民医連事業所を発展させる運動で力を発揮しています。
 この間の変化は、①地域住民を視野に入れたとりくみが広がっていること、とりわけ地域で困難を抱えた人とつながるとりくみが広がっていること、②地域での健康づくりをすすめ、住民同士のつながりを広げる上で、居場所がその拠点として大きな役割を果たしていること、③共同組織の多彩な活動が地域住民や行政の信頼を得て、地域を変え住みやすい地域をつくるきっかけとなっていること、④事業所や法人の中に、職員と共同組織が共同してとりくみをすすめる仕組みがつくられつつあること、です。

(7)旧優生保護法などに対するとりくみ
 4月に成立した、旧優生保護法に基づく不妊手術を強制された人への救済法(一時金支給法)は、人権侵害に対する補償と尊厳の回復を求める被害者、家族の願いと大きくかけ離れたものとなりました。全日本民医連は、声明を発表し、国の責任と旧優生保護法の違憲性を明記することや、あまりにも低い補償額の引き上げ、法律を個々の被害者に周知するなど手続きの改善などを国に要求しました。
 5月には、仙台地方裁判所が国家賠償請求訴訟で初めての判決を言い渡し、旧優生保護法が憲法違反の法律であると断罪しました。一方で原告の賠償請求は棄却しており、全日本民医連として、真の救済につながる高裁判決を求めるとともに、国に対して旧優生保護法の違憲性を認めた仙台地裁判決を踏まえ、一時金支給法を含む救済措置の抜本的な見直しを早急に行うことを要請しました。
 第1回評議員会以降、旧優生保護法に対する全日本民医連としての見解をまとめる作業をすすめてきました。8月の理事会で討議の到達をまとめ、第3回評議員会に報告しました。旧優生保護法に対する民医連の対応の経過を整理し今後の課題を明らかにするとともに、二度とこうした事態をくり返さないよう教訓を生かしていくために、国が主導して全面的な検証を行うことを提起していきます。
 6月28日に、熊本地方裁判所で、500人を超える、ハンセン病であった人の家族が、国を被告として起こした国家賠償請求訴訟の判決が出ました。判決は、ハンセン病隔離政策が本人だけでなく、その家族らに対しても憲法13条が保障する社会で平穏に生活する権利(人格権)を踏みにじる違法な人権侵害であったとし、厚生労働大臣、国会議員の責任を認めました。また、厚生労働大臣、法務大臣、文部科学大臣に対して、らい予防法廃止後も、家族の差別偏見を除去すべき義務に反した責任も認めました。安倍首相は、国が控訴せず、訴訟への参加、不参加を問わず、保障する制度をつくると談話を発表し、判決が確定しました。全日本民医連は、この判決の確定を歓迎し、全ての人の基本的人権が守られる社会をめざす立場から、ハンセン病問題の全面解決のための支援と協力をすすめていきます。

(8)事務育成の前進に向けたとりくみ
 事務育成委員会は、今期四役直轄委員会に移行したもとで、前期までの到達点と課題を明確にして、さらに一歩発展させることを目的として、6月に事務育成責任者・事務委員長会議を開催しました。医療・介護活動の確信の中でこその成長、多職種協働そのものの理論的な学習と、事務自身も当事者として実践を深めること、育成を保障するトップの構えと体系化・集団化などが教訓として整理されました。参加者は自県連・法人の課題を洗い出し、自らへの行動提起を課すレポートを作成し、翌日からの実践を確認し合いました。

(9)全国的とりくみ
①災害対策とMMATの活動

 熊本では仮設団地と一部のみなし仮設住宅、宮城では災害公営住宅の実態調査にとりくみ、医療・介護費の免除の必要性を明らかにし、運動をすすめてきました。調査結果では、8割が免除制度の継続を希望、治療中断も発生しています。広島県坂町、岡山県真備町で医療費、介護費の減免期間延長が実現しました。
 最大震度5弱を超える大きな地震が熊本、北海道胆振地方、日向灘、山形県沖で発生しています。
 各県連、事業所で災害に対応する指針づくりがすすめられています。日常の訓練実施と総括・マニュアルの見直しが鍵です。各事業所での災害訓練の内容について情報共有をすすめています。MMATメンバーの登録は、31人となりました。5月には全国的規模の災害発生時に本部としての役割を担う全日本事務局役職員を対象としたMMAT研修を行いました。

②国際活動
 韓国の健歯30周年記念レセプションとシンポジウムに歯科部が招待を受け、交流しました。韓国社医連の結成により、韓方医、学生や緑色病院の役職員が民医連事業所の視察に訪れる機会が増加し、交流がすすんでいます。日本原水協などを中心に実行委員会でとりくまれた日韓フォーラムに代表派遣しました。
 3月には7回目のキューバ医療視察を行い、『医師たちが見たキューバ医療のいま』を発行しました。
 なお、国際連合経済社会理事会(ECOSOC)への活動報告は2020年6月となりました。

③特別養護老人ホームあずみの里業務上過失致死事件裁判への全国支援
 3月25日、長野地方裁判所の一審判決は、死因について客観的事実の裏付けがない推論で「窒息」と認定し、当初起訴した「注視義務違反はない」としながらも、訴因変更によって追加されたおやつ形態確認義務を認め、不当にも罰金20万円の刑事罰を科す有罪判決を言い渡しました。
 判決に対しては、「これがなぜ刑事罰なのか」「この判決が確定すれば、日本の介護がさらに萎縮、介護の担い手もいなくなる」「特別養護老人ホームや終末期医療のあり方が大きく変わってしまう」など社会的反響が広がっています。弁護活動と45万筆を超える署名の力がマスコミを動かし、世論を動かしています。
 8月末から始まる東京高裁の裁判をささえるため、日本医労連、保団連、国民救援会、全日本民医連で連絡会を結成しました。「無罪を勝ち取る会」と連携して運動を強めています。新しいパンフレットを学習に活用し、地裁の運動を上回る署名を8月下旬までに集める運動を開始しました。

④県連会長研修会、事務局長研修会の実施
 6月に全日本民医連として初めて全国県連会長研修会を沖縄で実施し、米軍基地見学、辺野古新基地建設反対行動への参加などのフィールドワーク、「沖縄と沖縄民医連の歴史」や「オール沖縄と民医連の役割」などの学習、交流を深めました。また5月に事務局長研修会を北海道で実施し、自衛隊基地の見学、県連機能の学習と指定報告などを行い、深めました。

第2章 情勢の特徴

(1)参議院選挙の結果と憲法を守り生かす運動の展望
 第2回評議員会は、7月の参議院選挙を今の異常な政治を変えていくチャンスとして、憲法、平和、人権を守り抜こうと提起しました。
 全日本民医連は43期の最大の運動課題として「憲法を守り抜く」ことを位置づけてきました。そして、この選挙で市民と野党の共同をさらにすすめ、自民党、公明党、日本維新の会など改憲をすすめようとしている政党の議席を、参議院で改憲発議が不可能となる3分の2を下回るものにしようと呼びかけてきました。
 参議院選挙の結果、改憲をすすめている政党の議席は、改憲発議に必要な3分の2の議席を割り込み、改憲勢力の中心である自民党が過半数を割りました。民医連も一員である「市民と野党の共闘」の力で、1人区で10議席の獲得、複数区での憲法を守る野党が議席を獲得した結果です。
 選挙後に安倍首相が、「少なくとも改憲を議論すべきだと国民からの力強い信任をいだいた」と発言し、引き続き改憲をすすめようとしていますが、世論調査では、安倍政権による改憲に47・5%が反対、賛成は34・2%に留まっています。与党の公明党に投票した人の中でも63・6%が反対です。また、政府にのぞむ政策の優先課題では、年金・医療・介護がトップで48・5%、景気・雇用など経済政策が38・5%、憲法改正は最下位の6・9%であり、安倍内閣を支持する人の中でもわずか8・4%です。安倍改憲をめぐる国民の声は、与野党の支持の区別なく支持されておらず、優先政策でもないということが参議院選挙の結論です。安倍政権が改憲を完全に断念させるまで、運動を強めていきます。多くの県連理事会でも、1人区での共同の候補者との政策協定も含めて、参議院選挙で、改憲発議を止めるために、民医連としても大いにとりくみをすすめよう、と呼びかけととりくみがすすみました。
 今日の市民と野党の共同は、13項目の政策協定に合意するとともに、32の全ての1人区で野党が統一候補を実現する大きな運動に発展しています。
 「共通政策」は、日本を戦争する国にする憲法9条改憲にも、改憲発議そのものについても反対し、2017年の総選挙では入っていなかった辺野古新基地建設中止、普天間基地の撤去、日米地位協定の見直しなど平和を守る重要な問題が新たに加わりました。
 また、消費税10%への引き上げ中止にとどまらず、格差と貧困の解消に向けて最低賃金1500円をめざすことや国民の暮らしを応援する社会保障をすすめるため、財源として所得税や法人税、資産に対する課税などを見直していくことなどを明記しました。憲法9条に違反する護衛艦いずもの空母化、イージス・アショアの配備、F35戦闘機など他国への侵略を可能とする兵器の“爆買い”などの防衛予算、装備を、憲法9条に照らして見直し、国民生活の安全という観点から他の予算に振り向けること、また朝鮮半島の平和へ向かう変化をすすめることなどを明確にしました。これらの政策は、安倍政権がすすめてきた軍事大国化や格差と貧困のいっそうの拡大、社会保障解体など新自由主義的「改革」に代わるもうひとつの日本の姿、希望を示しています。そして、いのち、憲法、民医連綱領の視点から民医連が政治に求めてきた政策と一致します。参議院選挙が切り開いた展望の上に、運動を強め共通政策を実現していけるようさらに運動を強めていきます。
 アジアへの加害と謝罪を一切口にしない安倍政権のもとで、政府間の日韓の関係が緊張した関係となっています。
 韓国社会的医療機関連合会、グリーン病院など韓国の平和と人権を求める仲間と長年、交流し連帯してきた民医連として、平和と人権が守られる北東アジアのためにさらに連帯を強め、団結していきます。また、戦争と加害の歴史についてさらに職員の学習をすすめていきます。

(2)格差と貧困の一層の広がりと社会保障解体
①貧困の広がりと自己責任の強制・金融庁報告書の示すもの

 6月3日に出された金融庁の金融審議会報告書は、2004年の年金制度改革で導入したマクロ経済スライドにもとづいて試算すると、高齢夫婦の年金を中心とした平均収入と支出の差額は月5万5000円となり、老後30年間で2000万円の不足になると示しました。そして要介護状態であれば、かかる介護費用はさらに1000万円とも紹介されています。これらは、現在の年金受給者での試算であり、同様の計算で現在41歳以下の人の年金額はさらに減り、夫婦で不足額は約3600万円となります。現役世代、青年を含めた全世代の未来にかかわる問題です。厚労省の18年国民生活基礎調査では、65歳以上の高齢世帯のうち総所得が公的年金と恩給のみの世帯は約半数に上り、「生活が苦しい」と答えた世帯の割合は55・1%です。こうした事態に対して、報告書は減らない公的年金制度を検討するのではなく、2000万円の貯蓄を可能にする投資を推奨するなど、社会保障の充実でなく、自己責任を押し付ける内容となっています。
 また、この試算は、厚生年金の受給者での試算であり、国民年金の場合は平均5万~6万円の給付金額で、月々の不足額は20万円近くとなります。非正規雇用の多くは、この国民年金の対象となります。2018年末、非正規社員は2152万人に到達し、働き手に占める比率は38%と過去最高の水準となりました。12年の安倍政権の発足時の1846万人から306万人の増加で、女性が約200万人、65歳以上の男性が約90万人です。総務省調査では非正規社員の75%が年収200万円以下です。その間、正規労働者の増加は161万人でした。非正規雇用を正規雇用に変え、低賃金を改善していくことが、低すぎる年金問題の解決につながります。

②消費税10%、暮らしと社会保障の解体と産業化を加速する骨太方針2019
 安倍内閣は6月21日、「経済財政運営の改革の基本方針2019(骨太の方針)」を閣議決定しました。昨年の骨太方針で19~21年を財政の基盤強化期間として「社会保障の自然増抑制」を掲げ、10月からの消費税8%から10%への引き上げ、「持続可能な社会保障制度」を名目に、都道府県知事の権限を強化して病床を削減すること、国保料(税)の高騰を抑えるために市町村が公費を繰り入れてきた「法定外繰り入れ」について早期の解消を促すとし、負担増と社会保障解体をさらにすすめ、国民への自助の強要、目標に満たない場合にはペナルティーを課す内容となっています。報道では、すでに19年度の国保料(税)は、この安倍政権の圧力により、大阪府をはじめ、全国で3割以上の市町村が値上げをしています。また骨太方針は、原発の再稼働の推進、軍備の大幅な強化を盛り込んでいます。
 参議院選挙への影響から、具体的な負担増については、来年の骨太方針でまとめるとしています。しかし、負担増につながる制度改悪メニューを並べた昨年末の閣議決定の「新経済・財政再生計画」の「改革工程表」を、着実に推進するとしました。6月19日に決定した財政制度審議会(財務大臣の諮問機関)建議では、75歳以上の医療費窓口一部負担の原則2割化、介護保険利用料負担の原則2割化、などを明記し、「負担増・給付減」の具体化を見込んでいます。
 国民の過半数が反対している10月からの消費税10%への引き上げを中止することは、当面の負担増に反対する運動とともに重要な課題です。この引き上げは、現在、社会保障を解体へとすすめている元凶である「社会保障と税の一体改革」で決められた最後の課題です。政府は、この達成を前提に2040年へ向かう諸政策を次々と提示していますが、10%引き上げを中止し、所得税、法人税や資産への課税など公正な税制による財源を実現できれば、人権としての社会保障の実現へ向け大きな前進となります。総会へ向けてより大きな共同を社会保障制度、財源論の分野でもつくり出せるよう運動を強めましょう。
 認知症大綱が出されました。自己責任としての対策ではなく、国民にとって安心して暮らし、人権の立場から認知症対策が前進するよう運動をすすめていきます。

③介護保険制度をめぐる情勢
 介護保険制度は、今年の4月で、施行20年目に入りました。法「改正」にもとづく政府や自治体の対応が本格化する一方で、利用料3割負担化にともなう利用抑制など、介護をめぐる新たな困難や制度矛盾が利用者、事業所にさまざまな形で現れています。政府はこうした現状を放置したまま、次期制度見直しの審議をスタートさせました。ケアプラン(ケアマネジメント)の有料化、要介護1、2の生活援助サービスの保険給付外し(総合事業への移行)、多床室室料徴収の拡大(老健施設や介護医療院など)、施設入所費軽減制度(補足給付)の見直し(資産要件の拡大)など、いっそうの困難を利用者・家族に押しつける改悪案が準備されており、政府は年内に結論を出し2020年通常国会で法律を「改正」、21年度(第8期)から実施に移すとしています。

(3)核兵器禁止条約の発効へ広がる世界と日本の運動
 被爆から74年の8月を迎えました。第44回総会を開く2020年は被爆75年の節目となります。核保有国と日本政府を含めた核の傘に頼る一部の国々の妨害の中でも、被爆者や市民の声を力に生まれた核兵器禁止条約は、70カ国が調印、25カ国が批准、発効に必要な50カ国の半数に達しました。
 核保有国や「核の傘」の国々の中でも、禁止条約への支持が広がっています。世界最大の核兵器保有国であるアメリカの地方議会で、条約を支持し、署名・批准を求める決議が続き、大統領に核兵器禁止条約の受け入れを求める決議案が連邦議会に提出されました。
 国内でも、「ヒロシマ・ナガサキのヒバクシャが訴える核兵器廃絶国際署名」は941万筆(民医連50万筆)に到達し、賛同した首長は、1135の市町村長、20府県知事にのぼります。条約参加を求める意見書は全自治体の約23%、405自治体に広がり、核兵器廃絶へ向けた世論と支持が広がっています。
 来年4月の第10回NPT再検討会議へ向かう運動が重要となります。同時期にアメリカの市民団体が呼びかけた原水爆禁止世界大会inニューヨークも具体化が始まっています。

(4)東京電力福島第一原発事故から丸9年、10年目へ向けて
 2020年3月、東京電力福島第一原発事故から10年目に入ります。いまだ誰も帰還することができない帰還困難区域は7市町村、名古屋市全域に匹敵する337平方キロメートルにもおよび、帰還宣言が出された区域でも原発労働者を含めても居住率は25・3%しかありません(19年4月23日、福島県避難地域復興課発表)。事故前の家に戻れていない県民は、約9万5000人です。長期の避難生活を強いられた人びとはさまざまな苦悩や不安の中に置かれ、震災関連死は直接死1605人を大きく超え、2275人、孤独死約70人、自死103人となっています。県内の生業(なりわい)は10年と比較し、農業で88・8%、林業80・6%、漁業は43・6%とその基盤は回復には程遠い状況にあります。
 こうした現実に、国と東京電力の被害者切り捨てが、さらに追い打ちをかけています。避難指示区域内では、2017年3月に無償住宅支援、7月には営業損害賠償、18年3月に精神的賠償が打ち切られました。県は、移住先がなく転居できない住民に対し、立ち退きと家賃の支払いを求める裁判を起こしています。
 また、東京電力は、裁判外紛争解決手続き(ADR)で、和解案を拒否し、浪江町1万5700人をはじめとした2万2400人の和解手続きを打ち切りました。東京電力は、被害者に対して約束した「3つの誓い」(最後の1人まで賠償を貫く、迅速かつきめ細かな賠償、和解仲介案を尊重する)を自ら破っています。
 国と東京電力の責任と賠償をめぐる集団訴訟は、10件で判決が出され、全て東京電力の責任を認めました。国の責任を求めた8件では千葉地方裁判所の2件を除き6件が認めました。
 事故収束作業は、メルトダウンして溶け落ちた核燃料の取り出しのめどはなく、汚染水を貯めるタンクが満杯となる時期が近づいているものの、原子炉建屋内への地下水流入を防ぐ手立ては見いだせていません。廃炉作業に従事する労働者の身分保障と安全の確保は、いまだ不十分なまま推移しています。
 こうした福島の現実と、原発輸出、新増設、再稼働、核燃料サイクルが八方ふさがりとなっている中、安倍政権は、原発を重要なベースロード電源と位置づけた「エネルギー基本計画」を決定しました。この道は、再び日本で原発大事故を招くものです。

第3章 第44回総会へ向かう方針

 「民医連の綱領と歴史を学ぶ大運動」が折り返しを迎えます。全職員、事業所が参加する学習運動は、民医連の次の発展へ向けて、確信をもって前進する土台になります。幹部が大運動の中で生まれている職員の確信や共感をつかみ、語り広げながら、全ての事業所と職場のとりくみにできるよう援助することが鍵です。第44回総会に向けて文字通り全事業所・職員が参加する運動としていきましょう。第3回評議員会を受け、各県連の到達点にたって、総会までの方針を確立しましょう。

(1)民医連綱領改定から10年、全国で次期総会に向けて振り返りをすすめよう
 民医連総会では、ほぼ10年の節目で全般的な活動を振り返り、時代認識にもとづいて中心課題を明確にしてきました。2000年の第34回総会では、21世紀初頭の課題を考える上でのキーワードとして、「人権と非営利をめざして」「より開かれた民医連へ」「民医連組織の使命と職員の主体性、民主性」「幅広い連帯と共同」をあげ、「全日本民医連の医療・福祉宣言」を次期総会に提案することとしました。10年の第39回総会では、新自由主義的「構造改革」のもたらしたものと民医連の10年のたたかいを総括し、「権利としての社会保障」「健康権実現」を太く打ち出し、49年ぶりに民医連綱領を改定しました。
 2010年代の政治動向は、まさに激動でした。「構造改革」路線をとめてほしいという国民的な期待が09年9月の政権交代を実現しました。しかし、11年3月の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故という、まさに激震の中で「構造改革」路線に回帰した民主党政権は12年12月に行われた衆議院選挙で敗北、自民党・安倍政権の再来となりました。安倍政権は、日本の軍事化と憲法9条改憲に固執し、新自由主義的な社会経済政策、社会保障の給付削減と市場化を推しすすめたため、平和と民主主義を求める市民運動が高揚して政治を動かす、市民と立憲野党の共同が国政選挙まで広がるという画期が生まれました。
 第44回総会(熊本)では、2020年代の民医連の運動と事業の課題は何か、中長期のスパンで議論し方針化することが求められます。そのためにも、民医連綱領実践10年という視点で各県連、法人、事業所の活動を振り返り、到達点を確認していくことを提案します。振り返りの視点として、以下のことを重視しましょう。
(1)「無差別・平等の医療と福祉」の今日的な探求として、健康権、人権を守る日常の医療・介護活動を共同組織とともにいかに発展させてきたか。
(2)「開かれた民医連」として、「架け橋」から「総がかり」へ、事業の連携としても、運動としても、まちづくりとしても、いかに共同と連帯を広げてきたか。
(3)非営利の医療・介護複合事業体としての事業展開、健全な経営活動実践がどこまですすんだか。
(4)「組織の使命と個人のやりがい」を一致させるとりくみ、民医連運動を次世代につなぐ育成活動はどこまですすんだか。

(2)「2つの柱」を総合的にすすめる体制の整備とまちづくりへ向けて
 私たちの活動は、医療・介護・福祉の現場だけでなく、「まちづくり」につながる総合的なものになっています。そのためには、さまざまな住民運動、行政、教育分野、企業や商業施設などとの広範な連携が必要です。こうした活動をすすめる上で、県連や法人に医療・介護活動を統括的に把握し、必要な調整をふくむ医療・介護の一体的提供を促進するしくみが必要です。県連や法人での医療・介護活動を統括する組織機構、実際の医療・介護の提供場面での切れ目のない医療と介護を提供するための組織のあり方や、カンファレンスの持ち方の工夫など、さまざまな段階で検討する必要があります。県連では、この間確立してきた医療活動委員会との関連で介護活動を統括する組織を介護活動委員会(仮称)として新たに組織をつくった県連、医療と介護を統括し医療・介護活動委員会として一本化した県連など、実情に応じて検討されています。あらためて全県連で医療活動と介護活動を統括し、「2つの柱」の実現に向けた総合的な視点をもって臨める体制を確立しましょう。
 また、無差別・平等の地域包括ケアの実現に向けて、医療・介護事業にとりくむ私たちが、共同組織や地域住民といっしょになってソーシャルキャピタルの一部として機能するという視点から、まちづくりへのかかわりを考える必要があります。すでに、サロンやカフェなど居場所づくりや子ども食堂などさまざまなとりくみが各地で行われています。県連、法人・事業所、共同組織が、地域の状況を把握し、その特性やどのようなニーズがあるかを明らかにする地域分析と自らの主体的力量から、どのように地域づくりにかかわるのか、地域に貢献できるのか、方針を持ちましょう。
 9月に拡大県連医活委員長・介護委員長会議を開催し、この間の「2つの柱」にかかわるとりくみの到達を共有し、今後の課題を明らかにします。

(3)人権としての社会保障と平和を守る課題
①人権としての社会保障運動の重点

 第一に、引き続き国民皆保険制度を守り、社会保障としての国民健康保険制度を守る活動を重視します。
 国保アンケートで国保加入者の声や事例を集めて実態を明らかにし、払える国保料(税)への改善を求めて自治体への要請行動にとりくみます。全国知事会が要求しているように約1兆円の国庫負担を投入すれば、国保料(税)を協会けんぽ並みに引き下げられます。国への国庫負担を求めるとともに、国保の法定外繰り入れ解消、都道府県内保険料水準の統一などの国保料(税)の高騰を招く動きに反対し、中央社会保障推進協議会や全国商工団体連合会などとともに国会要請を行います。
 国保44条、77条の制度適用をはじめ、医療費の窓口負担・自己負担の減免を拡大し、お金の心配なく受診できるようにして医療へのアクセス権の保障を求めていきます。2019年経済的事由による手遅れ死亡事例調査にとりくみます。
 第二に、後期高齢者の医療費窓口負担原則2割化反対、真に安心して暮らせる年金の実現などの運動を、社保協や全日本年金者組合、日本高齢期運動連絡会などと共同してとりくみます。
 第三に、生活保護制度の改善・拡充のとりくみをすすめます。全国生活と健康を守る会連合会や「いのちのとりでアクション」などと共同し、生活保護引き下げに対する不服審査請求を支援していきます。
 全事業所が無料低額診療事業に挑戦し、必要な人に無料低額診療事業の情報が届くよう自治体からの周知を要請しましょう。保険薬局を事業対象とするよう、引き続き国と懇談をすすめていきます。保険薬局の薬代の補助請願を各自治体の予算議会に行いましょう。地域の医療機関にも制度を知らせていきましょう。外国人労働者への適用事例に対して、医療機関の補助などについて国に向けた運動を行います。また医療保障を求める運動を労働組合などと相談に入ります。
 第四に、地域医療構想による医療機能再編と病床削減の動きに対抗し、地域に必要な医療を守るために、自治体や地域の医療機関や介護事業所、さまざまな団体・個人とともにシンポジウムや学習会・懇談会などを計画し、幅広く住民に地域医療の実態を知らせる運動に、全ての県連でとりくみます。
 第五に、県連・法人で「介護ウエーブ2019方針」を具体化し、共同組織や地域社保協と連携しながら、改悪法案の国会への上程措置、制度の抜本改善、大幅な処遇改善を求める声を広げ、地域でのさまざまな共同を追求しましょう。
 特に11月の「介護アクション月間」では、宣伝・署名行動、介護相談、地域学習会、自治体との懇談など多彩なとりくみを集中させましょう。国会要請行動、新たな請願署名、具体的事例にもとづく実態調査などにとりくみます。
 これらの運動の跳躍台として、9月に人権としての社保運動交流集会を行います。全ての県連から参加しましょう。10月17日に開催される「2019年秋の国民集会」(東京・日比谷野外音楽堂)を大きく成功させ運動を飛躍させましょう。

②核兵器廃絶へ向けて
 被爆者から直接体験を聞ける最後の世代が現在の私たちです。体験を聞き、伝え継いでいくことは今に生きる私たちの使命です。核兵器禁止条約の発効をめざして力を合わせましょう。第44回総会へ向け、100万筆を目標にヒバクシャ国際署名のとりくみを強め、2019原水爆禁止世界大会を成功させ、第10回NPT再検討会議、原水爆禁止世界大会inニューヨークへ向けて全ての県連から代表を派遣する運動をスタートさせましょう。

③辺野古新基地建設中止・日米地位協定見直し、基地強化に反対するとりくみ
 辺野古新基地建設は、世論の上でも、大浦湾の軟弱地盤の上には建設できない技術的な問題でも、また明らかとなった活断層の存在からも不可能です。各県で、辺野古新基地建設反対の学習・宣伝に大いにとりくみ、世論を大きくし建設断念に追い込みましょう。47次、48次の辺野古支援・連帯行動のとりくみ、新基地建設反対運動への医療支援を継続します。
 各地でのオスプレイ訓練の拡大、基地強化に反対する運動とつながりましょう。全職員が日米地位協定の学習を位置づけることを提起します。学び、地域の諸団体とともに見直しを求める自治体請願にとりくみましょう

④原発ゼロ、東京電力福島第一原発事故被害者に寄り添って
 東京電力福島第一原発事故から丸9年、10年目へ向けて、福島の現実に寄り添い、県民の健康や生活不安に応えた継続的な相談・検診活動や医療体制の充実をはじめとした支援を続けること、原発ゼロへ向けて、より大きな運動と声にして、国会に提出されている原発ゼロ基本法の早期の審議入り、成立を求め、運動を強めます。

(4)憲法9条改憲反対の全国的な運動について
 改憲をめぐって、安倍改憲NO! 3000万署名など、市民の運動の力で6割を超える反対の世論をつくってきた中、安倍政権は改憲案の提示すらできませんでした。しかし、参議院選挙も含めてさまざまな機会に「憲法9条に自衛隊を書き込む」などの改憲案を広げており、改憲をあきらめてはいません。
 全日本民医連として、参議院選挙の結果を受けた今後の憲法を守る運動について、秋に全国会議を開催し、方針を意思統一します。

(5)共同組織拡大・強化のとりくみ
①輝く共同組織の役割と今後の発展へ向けて討議をすすめよう

 第43回総会は、「まちづくり運動」は民医連と共同組織の重要課題であるとし、住民本位の地方自治の発展と安心して住みつづけられるまちづくりをすすめること、それを方針化することを呼びかけました。
 地域の中で、健康づくり・健康増進活動、困難を抱えた人たちとつながる(地域でのネットワークづくり)、居場所づくり、住みやすい地域に変える(連携の広がり、自治体への働きかけ)、憲法を守る(環境・平和を守る)、民医連の後継者を育てる(民医連事業所の発展)などにとりくみながら、「地域の福祉力」を高めるまちづくり運動への工夫と探究をすすめていきましょう。
 地域の課題は、まちづくりの当事者である地域住民の参加なしに解決することはできません。誰もが安心して住みつづけられるまちづくりの運動は、「無差別・平等の地域包括ケア」の実現を含めた、医療・介護の専門職集団である民医連の事業所と、住民自治の当事者である共同組織、地域住民との「共同のいとなみ」であると言えます。
 まちづくりの運動を、「住民本位の地方自治の発展」(第43回総会運動方針)という視点で位置付けて、具体化する必要があります。運動を通して、職員も地域住民も、住民自治の当事者、担い手として育ち合うことを重視しましょう。
 現在、共同組織は、構成員371万749人(2019年3月末現在)、前年同期と比べて1万8862人増えました。『いつでも元気』は、19年7月号が5万5326部で前年同期と比べて507部減っています。
 活動の前進、今日的な役割の中で、第43回総会では、中学校区や小学校区を基本にどういった共同組織をどのくらいの規模でめざすのか、400万の共同組織、10万の『いつでも元気』読者の目標を踏まえてあらためて検討します、と提起してきました。事業所とともに地域を安心して住みつづけられるまちに変えていくために、どのくらいの規模の共同組織が地域に必要とされるのか、という視点で、第44回総会に向け論議していきましょう。

②共同組織拡大強化月間に向けて
 10、11月の共同組織拡大強化月間にあたって、「安心して住み続けられるまちづくり」を前進させる中で共同組織の強化・発展をめざします。とりわけ職員が共同組織と力を合わせて、さまざまなまちづくりの課題にとりくむことを意識して月間方針を立てましょう。外来や健康まつり、地域訪問などでの共同組織と『いつでも元気』の拡大をすすめるとともに、共同組織が行っている地域に開かれた健康づくり、たまり場を使ってのサークル、ささえ合いの活動、地域訪問、こうしたとりくみに、月間中に全ての役職員が参加する、参加できるための手立てを具体化しましょう。『いつでも元気』は月間で6万部の峰をめざします。好評の『いつでも元気』別冊「レッツ体操」を使って読者を増やしましょう。

③第15回共同組織活動交流集会の成功にむけて
 来年9月に山梨で開催する第15回共同組織活動交流集会に向けて、テーマやプログラムの検討が始まり、準備がすすんでいます。山梨では現地実行委員会が結成され、集会の成功と共同組織活動の前進を一体のものとしてとりくんでいます。共同組織活動交流集会の成功に向け、各地でのとりくみをすすめましょう。
 第2回評議員会で共同組織連絡会への参加が呼びかけられ、新たに4県連から連絡委員が選出され、41県連から参加しています。引き続き全県からの参加を呼びかけます。

(6)医師の確保と養成のとりくみ
 「未来に向かって民医連の医師と医師集団は何を大切にするのか」をテコにしながら全日本民医連としての意見交換、紙上討論、具体的整備を行いながら、各県連、事業所での医師集団づくりの議論と実践を呼びかけます。
 後期研修では、民医連事業所が基幹施設あるいは連携施設であるプログラムへの専攻医のエントリー毎年100人を目標として掲げ、数年内での達成をめざしてとりくみを強めます。
 2012年に民医連の医師数が減少に転じたことを直接の契機として、医学対活動の強化へ向けた方針が出され、現実化するために200人の研修受け入れと500人の奨学生の確立が提起され、今年度500人を達成し、200人を展望する段階にきました。こうした中で、専攻医100人の受け入れを目標として掲げてとりくむことには以下のような意義があります。
 第一に、民医連を選ぶ後期研修医を増やすということは、民医連を担っていく医師集団を維持、発展させていく上で、要となる重要な課題であるということです。
 第二に、「未来に向かって民医連の医師と医師集団は何を大切にするのか」が提起した内容での医師集団形成がすすんでこそ実現に結びつくものであるという意義です。
 第三に具体的な目標を掲げる意義です。初期研修医だけでなく、後期研修医の確保と養成にオール民医連の課題として自覚的に取り組むことの決意であり、それが大きな力を発揮することは200-500のとりくみで試されずみです。
 第四に、「専攻医シーリング」によって、専門プログラムの定員が、地域や領域により不当に絞られようとしている医師養成をめぐる情勢の中、私たちの専攻医の獲得は医療提供体制の縮小をねらう政府の方針へのたたかいでもあり、民医連の将来がかかったたたかいでもあるということです。
 事業所・法人、県連、地協でのとりくみはもとより、各領域別の大胆なとりくみも起こしながらオール民医連で目標に向かって奮闘することを呼びかけます。
 奨学生500人を着実に達成・維持できるように組織的な努力を今後も続ける必要があります。特に、医学生委員長の活動保障、医学生委員会担当者の配置と育成、集団形成は引き続きトップの課題として位置づけましょう。200―500のロードマップで、200人の受け入れは、500人の奨学生獲得とは別の意味で、包括的な前進が必要です。民医連で初期研修をする意義を深めて医学生に伝える、研修内容と環境を常に発展させていく、選ばれる医師集団・職員集団形成をすすめるなど、医師委員会を軸にしながらも県連・事業所全体で大いに議論してとりくみ、200人受け入れに向かいましょう。
 研修担当者と医学生対策担当者の合同スクールの開催、民医連の研修方針に沿った研修病院における初期研修の充実への支援、特に政策的課題として後期研修の整備と新専門医制度の諸問題についての民医連からの提言と、運動の提起を行います。
 医師の働き方改革に関連して、国に対し絶対的な医師不足の解消と、改革への対応のための財源措置並びに診療報酬の引き上げを求め、民医連外の医療機関や医療団体とともに引き続き運動を強めます。「医師の研鑽にかかる労働時間に関する考え方」や「宿日直許可基準」について、7月、厚労省が都道府県労働局長宛に通達を出しました。法人・事業所では、医師の健康を守るためにも内部的対応を推進する体制を確立し、検討すべき課題を明確にして、総合的に、経営的な観点を踏まえて整備をすすめましょう。
 日本専門医機構のシーリングに対し、医師の働き方をさらに悪化させ、地域医療の崩壊につながりかねない危険をはらんでいることなどから、再検討を求める要望を出します。日本医師会等とも共同して運動にとりくみます。

(7)経営分野のとりくみ
 困難な人びとに寄り添い、地域の医療・介護の要求や期待に真(しん)摯(し)に向き合い、民医連綱領の理念の実践を追求する限り、浮き沈みはあっても経営的な展望はあります。組織の理念や目標が看板に掲げられたものだけになっていないか、職員集団での共有、認識と理解はどこまですすんでいるか、経営課題と一体となって前進のための手立てや努力は行われているか、いま一度確認しましょう。
 2018年11月に開催した地協・県連経営委員長・経営幹部会議では、①民医連綱領の示す目標の中に経営改善、経営戦略の基本がある、②民医連経営の到達点を学び、管理会計制度、予算管理などの見直しを、③今こそ民医連の連帯の力を発揮し、地協・県連の機能を引き上げよう、④経営課題の視点からも本格的たたかいの前進を、⑤医師労働改善、人材確保と養成の課題に正面から向き合おう、⑥管理運営の強化と民医連幹部の役割発揮を、など問題提起しました。あらためて振り返り、自らに引き寄せて経営困難突破に向けた方針確立と実践をすすめましょう。
 2002年から継続している民医連病院における部門別損益計算書の集約は、この5年間は増加傾向で、17年度調査では53病院と過去最高となっています。経営環境の悪化の中で、医療の「質」と「効率性」の要求の高まりが背景にあり、部門別損益の実践で部門独自の改善がすすむなど成果が生まれています。部門別損益管理を前進させることと合わせて、民医連統一会計基準や事業所独立会計制度など、民医連経営の到達点にあらためて学び、生かしていきましょう。
 経営困難を突破し展望を開くために、大局的な視点に立った、全国、地協、県連レベルでの議論をすべき時期に来ています。困難を抱える法人の実態を把握し、経営を守り、民医連綱領の実現をめざす組織をいかに発展させていくのか、民医連の連帯の力を生かしつつ、法人間連携のあり方や仕組みなど、これまでの延長線上ではない検討をすすめていくことが重要です。

(8)職員育成
 教育指針2019年版を策定します。12年版以来の7年間の情勢の変化、「2つの柱」や「職場管理者の5つの大切」など、職員育成にかかわる民医連の方針の発展を踏まえて改定します。
 この教育指針2019年版の討議、民医連の歴史と綱領の学習をやり切るために、11月に職員育成推進交流集会を開催します。県連法人の教育委員長、教育担当者とともに、法人事業所の管理者も対象とします。
 事務育成委員会が開催した事務育成責任者・事務委員長会議の成果を各県連で共有し、県連・法人の育成指針の見直しと実効あるものへの改善、多職種協働、日常の医療・介護活動の中での事務の育成を具体的に追求することなど、着実な前進をはかりましょう。
 職場におけるハラスメントは現在深刻な問題となっており、不十分ながら日本でも対策の法整備がすすみつつあります。2019年ILO総会で「仕事の世界における暴力とハラスメントの除去に関する条約」が成立しました。対策は医療・福祉・介護の機関でも重要であり、民医連でも例外ではありません。健康で働き続けられる職場つくりを土台に、各県連・法人・事業所で対策をすすめましょう。とりわけ深刻な実態が明らかになっているのが在宅分野です。
 在宅におけるハラスメント対策については、東京民医連で県連としてのガイドラインを策定し、各法人・事業所のマニュアルや対策方針の策定を促しています。各県連でも学び、具体化しましょう。複数訪問への診療報酬、介護報酬の設定などを国へ求めていきます。厚労省のマニュアルによる自己点検、具体化をはかりましょう。

おわりに

 人間裁判をたたかい抜いた故朝日茂さんの養子で、それを引き継いだ故朝日健二さん(2017年10月17日没、享年80歳)は、東京の北多摩クリニックの訪問診療を受けながらたたかい続け、「権利はたたかう者の手にある」と訴え続けました。
 『学習ブックレット』を読んだある医師は、「民医連の魅力を語る時に民医連らしさという言葉を自然に使っているが、『民医連らしさ』って何だろう。親切で、接遇も申し分のないよい医療を行う医療機関はたくさんある。それらとの違いは、民医連の基本姿勢が、全ての人の人権を尊重して、困っている人に対して、それをアンテナ高くキャッチし『まず診る』『何とかする』ということだと思う。そのためには病気を治すということだけでなく、疾病に影響を与えている社会的要因にも対処し『たたかって』いくこともあるわけだ。初めて綱領に書かれた『たたかう』という言葉を目にした時は、医療機関の理念としてはそぐわないような印象を受けたが、その言葉にこめられた思いが理解できると、ほかの言葉には代えられない重みがあると感じた」と感想を述べました。
 民医連綱領10年、第44回総会の成功へ向け全ての事業所と共同組織の仲間が力を寄せ合い、奮闘していきましょう。平和と人権、いのちが真に大切にされる新しい日本へ向けてチェンジをはかる時代をつくり上げていきましょう。理事会は、その先頭に立ち奮闘していきます。

以上