けんこう教室
お口の若さを保つには
皆さんは「フレイル」という言葉を聞いたことがありますか?
フレイルとは加齢に伴って筋力や心身の活力が低下した状態のことで、日常生活にサポートが必要な“要介護”に至る手前と位置づけられます。
フレイルにはさまざまな原因が考えられますが、その1つに「オーラルフレイル」があります。オーラルは“口腔の”という意味です。
口は「食べる」「話す」「呼吸する」など、さまざまな働きをしています。口の機能が低下すると、栄養が十分に取れなかったり、外食や人と会う機会が減少したりして、身体活動が低下してしまいます。
例えば噛む力や飲み込む力が弱くなると、硬いものを食べられなくなり、食事のバリエーションが減って栄養バランスが崩れてしまいます。また舌や唇を動かす力が弱くなると、発音や滑舌が悪くなって会話や人との交流、外出がおっくうになってしまいます。
口の健康を保つことは、精神的な部分も含めた全身の健康を保つことに直結しているのです。
ささいな徴候を見逃さない
オーラルフレイルは「老化現象なので仕方ない」と感じる方もいるかもしれません。しかし、日頃から口の健康に意識して取り組むことで、機能低下をくい止めることができます。ささいな徴候を見逃さず、早期に発見して手を打つことが何より重要です。
食事の時にむせたり、食べこぼしが多くなったりしていませんか? 以前よりやわらかい食べ物を選ぶことが多かったり、ここ半年で体重が激減したりしていませんか?
上欄にオーラルフレイルの徴候を発見するチェック表を紹介します。ご自身や家族に当てはまる項目があるか、参考にしてみてください。
また昨年4月から、歯科医院で65歳以上の方を対象にオーラルフレイル(病名:口腔機能低下症)の検査を行い、結果に応じて保健指導を受けられるようになりました。保険診療の対象ですので、気になる方は歯科医院に一度ご相談することをお勧めします。
手軽にできる予防法
今回は手軽にできるオーラルフレイル予防法を紹介します。
◇随意的嚥下法
飲み込みは普通、特に意識することなく反射反応として行っています。しかし筋力や知覚機能が衰えてくると、飲み込みのタイミングがずれてむせる頻度が多くなってしまいます。「随意的嚥下法」は、あえて意識して飲み込む方法です。食べ物を15~30回ほどよく噛んで飲み込みやすくし、意識を集中して飲み込むことでむせるのを防ぎます。
◇唾液腺マッサージ
老化により唾液の分泌量が減ってくると、食べ物が喉を通りにくくむせやすくなります。食事前に唾液腺をやさしくマッサージすることで、唾液の分泌を促します。また、マッサージによって筋肉の緊張もほぐれて口が開きやすくなるため、食事をしやすくなります。
イラストを参考にして、耳下腺、顎下腺、舌下腺を一通りやさしくマッサージしましょう。
◇パタカラ体操
「パタカラ体操」は「パ」「タ」「カ」「ラ」の4文字を大きくはっきり発声することで、口の周りの筋肉や舌の動きの衰えを予防します。前ページのイラストを参考に「パパパパパ」「タタタタタ」「カカカカカ」「ラララララ」をそれぞれ3回繰り返して発声します。大きな声で滑舌良くはっきりと、慣れてきたらできるだけ速く発声します。
◇藤島式嚥下体操
食前に首周りの筋肉などを動かすことで、頸部の緊張をとって飲み込みやすくする準備体操があります。一例として「藤島式嚥下体操」の一部を紹介します(イラストを参照)。
症状の程度に応じてですが、可能な方は毎食前に行ってください。
食事を楽しむ
口の機能を維持して何でもおいしく食べられるのが理想ですが、若い頃のようにはいかないという方もいるかもしれません。
食が細くなって低栄養になり、行動力がなくなる。食欲もなくなり、さらに食が細る―このような悪循環を避けるためにも、低栄養にならない食事の仕方や食べ物を取り入れやすくする調理の工夫を知っておいたほうが良いでしょう。
フレイル予防には、筋肉やエネルギーの素になる良質なたんぱく質の摂取が欠かせません。ごはんよりおかずを多めにして、たんぱく質の摂取を心がけるのも一案です。
調理の際、根菜類の繊維を断ったり、肉の場合は筋を断って叩くなどすれば、噛み切りやすくなります。また食材を十分に煮込んでやわらかくしたり、裏ごしやミキサーでなめらかにする、片栗粉でとろみをつけるなど、飲み込みやすくする工夫も時には必要です。
電子レンジを活用して手軽に蒸し料理を楽しんだり、缶詰や冷凍食品を上手に使って、食事のバリエーションを減らさないように心がけましょう。
食事は栄養を取るだけでなく、家族や友人とのコミュニケーションを楽しむ時間でもあります。調理から食事まで全体を楽しむことが、一番効果的なオーラルフレイル予防かもしれません。
いつでも元気 2019.4 No.330