民医連新聞

2003年1月1日

肥田泰会長 新春対談

山本友子さん(共同組織活動交流全国連絡会)

“地域”は

肥田 「職員の成長の場」
山本 「何でも話せる関係づくり」

山本 あけましておめでとうございます。
肥田 おめでとうございます。
山本 今年も、患者や庶民にとっては大変な年になりそうですね。
肥田 ええ。高齢者の医療費が、医療依存度が高い人になるほど特に重くのしかかっています。在宅酸素療 法をしていた人が酸素をはずしてしまうとか、在宅自己注射の患者が中断するなど問題が起きています。これに国がまったく手を打とうとしない。負担増は「金 のない人は早く死になさい」という政治姿勢のあらわれとしか思えません。地方自治体に支援制度を充実させる運動が重要です。今年は統一地方選挙の年です し。
山本 私の住んでいる町では、在宅酸素療法中の方が、家を売って県営住宅に入られた。国民年金で生活している方です。
肥田 国民年金だとたいへんでしょうね。
山本 先ごろ、病院の支払いで事情を聞いても「誰それがお金を持ってくる」と言い続けて亡くなってしまい、結局「お金がなかった」ことがわかった男性がいました。早く相談してくれたら、対応のし方もあったのに、と残念で…。
 私たちが地域の総訪問をするとき、その話が出まして「私たち組合員は、何でも安心して話せる関係をつくりたいね」と話しあったんですよ。独居の男性が特に心配です。男性は「困っているんだ」なんて素直に言えないじゃないですか。
肥田 そうですね。昨年秋の月間のなかでは、多くの職員が共同組織のみなさんといっしょに地域訪問をし ました。中断していた人がまた治療を始めるとか、さまざまなドラマがあったのですが、まず地域に出ていくと「こうして来てくれるなんて」と親しみを持って くれる。だんだん本音も言ってくれます。
 地域の人たちとコミュニケーションは大切で、そのなかで職員も元気になりますね。
山本 仲間づくりでは、加入してもらってその後どう積極的に活動に参加してもらうかも大事です。運営委員になって、組合員や住民と結びついて、地域でおきていることがわかると、とても成長するんですよ。
肥田 地域は職員が成長する場のひとつです。そこでの患者さんとのふれあいが、「自分が何のために仕事をしているのか」を問い直す場になるのです。
 昨年の「地域に出よう」という月間スローガンは、月間だけではなくて、意識し続けたい課題だと思います。
 医療・福祉宣言も、地域の人たちに「自分の院所や職場がどういう医療をめざしているのか」常に発信しようとつくられたものです。
山本 うちの診療所の所長は胃カメラが得意で、「先生のはちっとも怖くない、スムーズにいく」と、とて も評判です。もともと優しくて器用なのかと思っていたら「私なりに努力しました」と話してくれたことがあります。初めは、患者さんから不満がでると、くや しく思ったんだそうです。でも「その声ももっともだな」と反省して、努力したそうです。
 「患者さんと、言って言われての関係があるのは良いことです」と言うのを聞いて、ますます尊敬しまして、あちこちの集まりに引っぱりまわしているのですよ。
 所長は、同級会だとか医者の集まりに行くと、かつては「変ったところへ行ったな」とか「そんなところに就職しなくても」と言われたそうです。ところが、 最近は逆で「君は幸せだな」とか「うらやましいな」と言われると。こんな言い方をしたら生意気ですが、やはり人間として成長されたのでしょうね。

「川崎」の教訓

肥田 「民主的管理運営に熟達しよう」

山本 川崎協同病院の問題は、医療生協の理事に知り合いもいるので、どうしてあんな問題がでたのだろうと思いました。医局の問題というのは、一般の非常勤理事ではチェックしようと思ってもムリな部分があったのかなと、残念です。
 でも、考えてみると私たちも日ごろ、医局や医師に対しては、やはり一歩ひくんです。私たちのところでも考えなくてはいけないなと感じました。
肥田 川崎では、協同病院のことについては「病院にお任せ」で、医療生協の理事会のレベルではほとんど論議されなかったということです。
 地域住民の気持ちや、病院のなかで起きていることが法人の理事会に伝わっているかどうかをしっかりつかむことも、私たちの教訓です。
山本 亡くなった浜田先生に「お節介おばさんになってください」と言われたことがあるのです。「それが 医療生協の活動家だ」と。「ちょっとしたことでも助言してあげるとか、ちょっとしたことでも見逃さない、そんなおばさんたちが地域に多ければ多いほど、地 域は活気づく」というふうに。
 私のところは小さいだけに、病院のこともまともに理事会で話しあいます。職員にとっては「たまらない」でしょうが。
肥田 そういうふうでないと自己点検がされないものです。まわりの目からどう評価されているのか、医者とか、医療の中心的メンバーにもなかなか見えない。川崎の問題は、お互いの点検ということも問われていたと思いますよ。
山本 理事が問題をあいまいにすればそれだけ、組織としてはよくない状況が引き延ばされ、蓄積されてしまうのですね。理事会や常務理事会での議論では、みんなが納得するまで論議しないといけないですね。こう言うと自分に跳ね返ってきますけれど。
肥田 あいまいにするとあとになって響く。
山本 ええ。「いま問題にしないと、どこかでこれは噴出してくるな」と感じることはあります。地域で組合員さんを相手に運動していると、常務理事会で言わなければいけないことがいっぱい出てくるのです。
 言って、議論が整理できなければ、時としては深夜になったりもします。でも「言うべきことは言っておかないといけないな」と思うのです。うちの常務理事 はそれぞれ能力のある人ですが、声を聞かないで地域や仲間のことを知ることはできません。私が日常的に地域を歩いて知った情報は、知らせなければと思っ て。
肥田 問題が発生する前に、なにかその芽というか、改善するきっかけが出るものですよね。それが適切に提起されているのかどうかでしょうね。
山本 医療生協の場合は必ず理事会に、経営や活動内容を報告して論議します。それでも経営の中身は、素 人ではわかりにくい部分がある。でも素人だから、「わかろうとしない」「わからせない」では済まないのですね。担当者でなくとも「経営はうまくいっている のかな」くらいは考える力が必要です。共同組織と職員がお互いの立場から、きちっと相手にわからせる努力がいるのですね。
肥田 私たちが信条にしている「民主的管理運営」についても、もう一度ふり返ってみることだと考えています。一人ひとりが自分の責任を果たし、集団的にも責任が果たせるように高め合う、お互いを育てる。そのような管理運営の方法に熟達することが必要だと思います。

肥田 仕事の中に
「誤りを防止するしくみ」つくろう

肥田 川崎の事件は「特異な医師だから起こった」と考えることはできません。私たちの普段の仕事のし方の中で、なぜ防止できなかったのか、真剣に考えないといけない。民医連に限らず、どこの医療機関でも同じことが起こる素因を抱えていると思いますよ。
 従来から日本の医療機関では「間違いは犯さない」という前提で仕事が組み立てられがちでした。だから事が起きると、「間違った人が悪い」とされる傾向が あります。そうでなく「人は間違いをするから、間違いを防止するしくみ」が仕事のなかに組みいれられる必要があるのです。
 さらに、ある仕事のレベルが、この職員は高いがあの職員は低いというような、ばらつきの問題があります。それを誰がやっても高いレベルにするという視点で、仕事のしくみ、手順、基準を組み立てる必要があります。
山本 患者の側としては、そういうのは当然のこととして、期待をしています。
肥田 第三者評価などを積極的に受けることも、こうした仕事の質の見直し・転換をすすめることに役立つと思います。
 埼玉協同病院は医療機能評価機構の審査・認証を受けました。そのあとISO9001という品質管理のシステムを導入しました。これは職場のいろいろな基 準や手順が、求められる医療レベルに適合しているか、仕事がそれらに忠実か、点検をするシステムなのです。
 最初のレベルはそんなに高くなくても、きちんと実行されれば、仕事の仕組みが次つぎと改善され、仕事の質が上がることを保障するシステムに、形としては なっています。成果が上がるかどうかは職員の運用にかかっていますが。組織が大きくなれば、こういうしくみも必要だろうと思います。
 大前提は、みんなで決めたことの一つひとつが実行されているかを、いい加減にしないことですけれど。
山本 医療がこれだけ厳密で組織的になってくると、たいへんですね。
肥田 一般の企業でいう「トップ・ダウン方式とか、締め付け」を「管理」と思いがちです。そうでなくて 職員の自主性や民主性を重視して、みんながやる気をだしてがんばれるようにするのが「管理」の本来のあり方です。民医連は組織が大きくなった中で、本来の 管理運営にもっと習熟する必要もあるのです。
山本 歴史の中では、いろいろなことが起きても、昔むかしの小石川療養所のように、庶民のなかで、みんなの支持、信頼を得て歴史を経て生き続けるものが民医連だと思います。「あの先生はよかったね」とか「あの病院はよかったね」という庶民のささえでありつづけてほしいのです。

“私たちの医療”に確信もとう

肥田 「前向きな組織」
山本 「頼れる、意義ある存在」

肥田 民医連は、無産者診療所の時代からいままで、一人ひとりの医師の優れた資質で信頼されてきました。すばらしい人たちが輩出されています。
 それが病院など大きな集団になって、いつでもどんな場面でもムラなく優れているという状態には到達していない。まだ過渡期で、発展の過程だと思っています。「集団的に担う力」が課題でしょうね。
山本 うちには歯科診療所もあるのですが歯科衛生士さんたちがすごく元気です。生きいきしているので す。まだ就職して2、3年で、私からいうと孫みたいな茶髪の若い子が、班会に出てきて「歯のことについては私に聞いて」みたいな、きちっとした講師をやる のです。そういうのを見て「何が違うのかな」と思ったら、やっぱり集団論議をしているというのです。
 うちは「健康家族宣言」に決められた7つの宣言項目に、歯科検診をプラスして、8つにしました。集団で論議をした結果、「地域の健康づくりのために、 8020運動をどう広げていくか」では、歯科衛生士の出番だというわけです。うちの歯科衛生士は優秀だと思います。もちろん他の職員も職場の持ち場、持ち 場でがんばっています。
肥田 集団でものごとを論議するというのは、人の意見を受け止めるという力を育てることでもありますね。嫌なことを言われたり、褒めあうこともあるでしょうが。自分がちゃんと考え、お互いに知恵も出し、点検もしあう。
 民医連や医療生協で、職員としての成長がはかられていく基礎になるのは、コミュニケーション能力です。これは最近言われるような「対患者の技術的な問題」でなくて、人間の本来的なものとして深めていくもの、と私には思えます。
山本 私は民医連の職員は、すばらしい職業に就いていると思います。ただ生活費を稼ぐために働くのとは、違う次元でものごとが考えられますもの。
 世の中には、意にそわなくても生活のために働いている人はいるじゃないですか。その点、民医連で働く人は、仕事を地域に還元できたり、地域の人を助けた り、地域の喜びと一体になれると思います。自分一人ではできないけれど、人と人との関わりのなかで豊かになれると思うのです。
 私はこれまで、職業をもたず子育てしてきた普通の主婦です。それが社会に関わるなかで、いろいろなことを学び、視野が広がってきました。民医連に出会えたのは、自分の人生にとって幸せだなと感じますよ。
肥田 民医連はこうした前向きなことが常にできる組織です。最近では、転倒・転落の事故について全国の ケースを集めて分析し防止策を検討しました。注射ミスについては、ある病院の一病棟をモデルに分析し、防止するための提言を出しています。感染症のガイド ラインもそうです。これらの結果は一般にも公表したので、他の医療機関にもきっと役に立つはずです。
 職員や共同組織のみなさんには、「私たちの医療に確信をもって次の発展に向かおう」、と言いたい。
 地域の人たちにも、これを理解して職員を励ましてもらえればありがたい。間違ったことは「間違っている」ときちっと指摘し、なおかつ厳しい状況のなかでも「いっしょにがんばろう」と声援してください。
山本 「困っていたらあそこの診療所で話をするといいよ」って、地域の人は民医連という名前を知らなく ても、存在は知ってます。行政に対してものが言えるし、地域の人たちといっしょにできる、行動ができる、そういう立場にいるのです。「私たちにとって、あ なたがたはとても頼れる、意義ある存在なんだよ」。これを職員の皆さんへの新年の贈りものにしたいです。

(民医連新聞 第1297号 2003年1月1日)

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