いつでも元気

2005年12月1日

元気スペシャル 白血病が急増、昨年の2倍 イラク アル・アリ医師が民医連で報告

 イラクのバスラにあるバスラがん治療センターのジャワッド・アル・アリ医師(62)とジナン・トーマ医師(53)が来日。イラクの戦争被害と国民の健康被害について報告しました。全日本民医連が第七回学術・運動交流集会(九月二二~二三日・神戸市)に招いたものです。
原和人(全日本民医連副会長)

またも大量に劣化ウラン弾が使われ…

がん死亡、15年で19倍に

 アル・アリ医師の来日は四回目です。
 イラク戦争(〇三年)が始まる前の来日では、「九〇年代後半から、がんや子どもの白血病、先天性奇形児が急激に増えた。九一年の湾岸戦争で大量に使われ た劣化ウラン弾の影響ではないか」と、たくさんの映像や資料をもとに報告をされ、私たちは大きな衝撃を受けました。
 バスラにおけるがんの死亡者数はその後も増え続け、八八年には三四人だったのが、〇三年には六五〇人を超えています(図1)。〇三年末、日本平和大会に 来ていただいたとき、アル・アリ医師は「がんの死亡数が減ることを期待したいが、イラク戦争で劣化ウラン弾が再び使われた。またがんが増加するのではない かと心配です」と語っていました。
 今回、心配したとおりの結果になっていることがわかりました。図2は、今年六月までの白血病に関する最新のデータです。〇四年には患者は少し減っていた のに、〇五年は一~六月までの半年間で急激に増加。前年の二倍の勢いです。

7歳の子に卵巣がんが

 がんや小児の白血病が増えているだけではなく、今まで経験しなかったような不思議な現象が起きています。アル・アリ医師は映像を示しながら語りました。
 「通常はおとなにしかみられないがんが、子どもにも発生しています。写真(1)は卵巣がんの七歳の女児です。すでに再発して腹水がたまっているのがわか ります。また、一人の患者にいくつものがんができる多重複がんや、家族内にがんが多発するのも、まれではありません。写真(2)は元兵士の兄弟で、左の男 性は腎細胞がん、右の男性は非ホジキン性リンパ腫におかされています」

 さまざまな先天性奇形をもって生まれてくる赤ちゃんも増えています(図3)。頭が異常に大きい死産の赤ちゃん、サリドマイド薬害に似たアザラシ様の手を もった四肢欠損の赤ちゃん…、目を背けたくなるような写真が、次から次へと映し出されます。写真家の森住卓さんの「この子たちは、このような姿で生まれて きたことを世界に訴えるためにだけ生まれてきた」という言葉が思い出されます。

放射能レベル、200倍に

 がんや先天性奇形の増加のはっきりした原因はまだわかりません。化学兵器による汚染や、破壊された工場か ら出た化学物質などに加え、放射能による複合汚染が原因ではないかとみられています。放射能汚染は、イラン・イラク戦争のとき原子力発電所が爆破されたこ と、イラク戦争後に核施設から放射能汚染物質が持ち出されたことなどもありますが、大量に使われた劣化ウラン弾の影響は大きいと考えられます。

 歴史上初めて劣化ウラン弾が使われた湾岸戦争。三〇〇禔以上の劣化ウラン弾が、バスラ西部の一八〇〇平方 礰神に落とされました(次ページ図4の●)。イラク戦争では、一〇〇〇~二〇〇〇トンの劣化ウラン弾が市の中心部で使われました(図4の●)。バスラの放 射能レベルは、イラク戦争の後には約二〇〇倍、場所によっては六〇〇倍以上になっています。

調査と治療に国際的支援が

 このような放射能汚染が健康に及ぼしている影響を証明するためには、科学的な疫学調査が必要です。困難ななか、アル・アリ医師らを中心に、この調査が国際的な協力によって始まっています。
 しかし治療が必要な患者が急増しているにもかかわらず、イラク戦争終結後も、薬や器具がほとんど手に入りません。抗生物質や抗がん剤はもちろんのこと、 輸液やアミノ酸や脂肪製剤などの栄養剤も不足しているようです。医療機器も、部品や技術がないために使えない状態が続いています。
 アル・アリ医師は、全日本民医連がおこなったイラク人道支援に感謝の意を表明し、これからも、医薬品や医療機器、専門的な技術援助、イラク人スタッフの 教育に対して支援を要請しました。

自衛隊より医薬品を

 現在、日本国際ボランティアセンターと「アラブの子どもとなかよくする会」などが中心となり、JIM│NET(日本イラク医療支援ネットワーク)というNGO(非政府組織)を立ち上げ、イラクへの医療支援をおこなっています。
 「なかよくする会」の西村陽子さんにも、今回、活動を紹介してもらいました。西村さんは、イラクで人質事件(〇四年四月)が起きるまでは、自らヨルダン のアンマンで必要な薬を買いつけ、イラクの病院に運んでいました。今はイラクに入ることができないので、現地の人々に依頼して薬を運んでいます。
 このような日本のNGOが、イラクの人々の命を支えています。自衛隊より医療品を、と改めて強く思いました。
写真・豆塚猛

JIM│NETへの募金は、
郵便振替口座:00540│2│94945
(日本イラク医療ネット)

いつでも元気 2005.12 No.170

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