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ニュース・プレスリリース

第43期第1回評議員会方針

2018年8月19日 全日本民医連第43期第1回評議員会

はじめに

第1章 総会後の情勢の特徴
 第1節 激動の時代、人権、民主主義が輝く平和な未来を切り拓こう
 第2節 医療・介護、社会保障の解体へ向けた政府の動向
 第3節 辺野古新基地建設ストップ、平和な沖縄めざし沖縄県知事選挙勝利を
 第4節 原発ゼロ基本法案の画期的な意義と原発ゼロをめざす運動の高揚を

第2章 第43回総会方針の実践と第2回評議員会へ向けて
 第1節 総会後のとりくみの概況
 第2節 第2回評議員会までの重点

第3章 医師養成新時代、民医連の医師養成・医学生対策の前進への契機を作ろう
 第1節 今日の医療を取り巻く情勢と地域医療の現場で医師に求められるもの
 第2節 民医連の医師集団の役割
 第3節 民医連の医師集団形成にかかわる課題
 第4節 時代を切り拓く医師集団形成のために医師政策を発展させよう
 第5節 これからの半年の行動提起~民医連の医師政策を練り上げながら実践に踏み出そう

おわりに

はじめに

 6月7日、全日本民医連は創立65年を迎えました。無差別・平等、平和と人権を追求し、日本国憲法とともに歩んできた歴史を未来につなぎましょう。
 第43回総会は、被爆地で絶望的な中で苦しむ人々のいのちと人権に寄り添い、平和にこだわり続けてきた広島民医連の姿に、自らの県連、事業所の歩みも重ね、確信が広がりました。 7月末までの総会方針学習月間が、旺盛に進められました。このとりくみは、県連、法人、事業所、職員が、時代の展望と民医連の役割、日常の医療・介護実践を通じて、民医連職員であることに誇りと確信を培うことであり、幹部が責任を持ってすすめる課題です。月間は終了しますが、引き続きとりくみを進めましょう。
 7月、西日本を襲った豪雨災害は200人以上の死者、広域にわたる被害を出し、なお広がっています。長期に及ぶ復興支援が必要です。全国の連帯で被災した県連の活動を支えていきましょう。
 43期最大の課題とした安倍政権の改憲発議を許さないため、全国各地で奮闘してきました。国民の10人に1人以上が署名している「安倍9条改憲NO! 憲法を生かす全国統一署名」など市民の力で、通常国会中の改憲発議は頓挫し、疑惑と不祥事にまみれた安倍政権は、内政も外交も破たんしています。
 第2回評議員会へ向かう半年間は、安倍政権に改憲を完全にあきらめさせることができるかどうかの瀬戸際です。参議院選挙も展望し、安倍政権に退陣を迫る声をより大きく上げていく時です。社会保障を守る運動の強化、「医療・介護活動の2つの柱」(以下「2つの柱」)の実践と職員育成、経営の好循環へ向けたとりくみなど369万の共同組織とともに、総会方針の実践で、今こそ民医連を強くしていく時です。とりわけ「医師養成新時代、民医連の医師養成・医学生対策のさらなる前進をつくり出そう」の実践を飛躍させる契機となるよう重点課題として提起しました。
 評議員会には、5月26日に結成された韓国社会的医療機関連合会から代表2人が参加され、交流を深めました。
 評議員会では、①総会後の情勢の特徴を明らかにし、運動の課題を鮮明にすること、②総会方針の具体化実践、第2回評議員会までの重点課題を明確にすること、③決算の承認、④43期選挙管理委員選出の4点を決定、ならびに承認しました。
 県連、法人、事業所で評議員会方針を討議し、総会方針の実践を一層強めていくことを呼びかけます。

第1章 総会後の情勢の特徴

第1節 激動の時代、人権、民主主義が輝く平和な未来を切り拓こう

(1)広がる安倍政権の退陣を求める運動
 首相が国権の最高機関である国会で嘘をつき、それを守るために官僚組織が嘘を重ね、嘘にあわせて公文書を改ざんする、民主主義国家として許されない事実が明るみに出てきました。
 安倍政権は、改ざん、隠(いん)蔽(ぺい)、嘘と欺(ぎ)瞞(まん)で日本の民主主義を深刻な危機に陥れました。また、対話を否定し、圧力一辺倒の外交が破たんに直面しています。「働き方改革」「カジノ」など国民の支持も理解もない法案を、財界などの意向を受け、数の力で強行採決を繰り返してきました。こうした中、安倍政権の支持率は5カ月続けて30%台と半減し、不支持が上回る状況が続いています。
 この安倍政権を倒そうと市民と野党の共闘がすすんでいます。「原発ゼロ基本法案」や「子どもの生活底上げ法案」などの野党共同提出、新潟県知事選挙は県民と5野党・1会派の押す候補者が、自民党・公明党の押す候補者を僅差まで追い込みました。市民と野党の共闘が、安倍政権の前に立ちはだかっています。安倍政権を退陣させる時です。

(2)安倍9条改憲ストップ、朝鮮半島の平和への激動
 全日本民医連も参加する全国市民アクションや、9条の会などが力をあわせすすめている「安倍9条改憲NO!憲法を生かす全国統一署名」は5月3日憲法記念日に1350万筆、現在1500万筆を超える大運動に発展し、立場を超えた共同が、通常国会での改憲発議を阻んできました(全日本民医連は90万筆)。世論調査でも、安倍政権下の改憲に反対の意見が多数派となっています。
 今、平和への激動といえる変化が始まっています。朝鮮半島では、歴史的な南北首脳会談、米朝首脳会議が行われ、非核化と平和体制の構築へ大きく動き出しています。世界中の平和を求め、核兵器のない世界を求める世論を運動がつくり出した画期的な変化です。全日本民医連はこの歩みを心から歓迎し、世論を広げ運動を強めて前にすすめる決意です。
 はじまった「非核化」と「平和体制の構築」の流れを日本政府が前にすすめるよう、「圧力」でなく「平和的外交」でリードすることが重要です。

(3)核兵器禁止条約の批准を巡って
 7月7日、人類史上初めて核兵器を違法化する核兵器禁止条約が、国連会議で採択されて1年が経ちました。条約発効には50カ国の批准が必要です。現在、署名したのは60カ国、批准は14カ国です。日本国内でも署名、批准を拒む安倍政権に対して322の自治体から署名、批准を求める意見書が寄せられています。世界医師会は4月理事会で日本医師会からの提案を受け、核兵器禁止条約に署名、批准するよう各国に呼びかける決議を採択しました。決議は「医師の義務は、生命を保護し、患者の健康を守り、人類への奉仕に専念すること」「世界医師会は核兵器禁止条約を歓迎し」「医師の使命として、すべての国に対して核兵器禁止条約にただちに署名、批准または同意し、忠実に条約内容を実現すること」を呼びかけ、「自国政府に対して、核兵器の禁止、廃絶にとりくむよう強く要請する」と明記しています。
 採択から1年、世界は「核のない世界」へ向けて核にしがみつく勢力との激しいせめぎあいとなっています。アメリカなどの核保有国は、核兵器に固執し、署名・批准を妨害しています。アメリカは核体制見直し(NPR)を発表し、小型核弾頭など使える核兵器の開発を打ち出しました。それに対抗しロシアは、核弾頭搭載可能な巡航ミサイルや魚雷の開発などを表明し「核抑止力が無力化されないよう攻撃システムを向上させる」と言明しています。日本政府は、アメリカのNPRを高く評価すると表明し、被爆国の立場を投げ捨て、核兵器禁止条約に背を向け、批准国に対して敵対的な行動をとり続けています。
 この逆流をのりこえ、核なき世界を実現する力は、国の内外の運動です。原水爆禁止世界大会の成功、ヒバクシャ国際署名の飛躍で世論と運動を広げましょう。

(4)平和の流れに逆行する安倍政権の戦争する国づくり
 世界の平和を求める画期的な変化の中で、安倍政権の戦争する国づくりの異常さと執念が際立っています。
 自民党は3月の党大会で、自衛隊が無制限に海外で戦争する内容に9条を変える改憲案とし、改憲を行うことを運動方針として決定しました。8月12日、安倍首相は「自民党として次の国会へ憲法改正案を提出できるよう取りまとめを加速すべき」と明言しました。
 安倍政権は、9条改憲の策動とあわせて、2015年9月の安保法制の強行可決後、自衛隊が米軍と一体となって海外で戦闘できる体制づくりをすすめています。
 核兵器を搭載できる米軍のB52の護衛作戦への参加など「武力による威嚇又は武力の行使」を永久に放棄した9条に明確に違反する軍事威嚇行動を行うとともに、防衛予算の増額により、MV22オスプレイの購入、米国本土を攻撃するミサイルを迎撃するためのイージス・アショアの秋田、山口への配備計画など、集団的自衛権を行使し他国に出かけ、戦闘できる自衛隊に変えてきました。
 また、中国の脅威を口実に奄美、石垣、宮古へのミサイル基地を建設し、辺野古新基地は、普天間基地の移設以上の海兵隊の最新鋭の米軍基地として構想され、建設が強行されています。アメリカ軍のCV22オスプレイの首都圏配備も強行され、7月から1カ月間で120回以上飛行しています。
 安保法制のもと、アメリカ軍と一体となり、海外で戦争する能力を備えてきた自衛隊を憲法に書き込み、国民に認知されることになれば、日本は、世界中で戦争する軍事大国となり、9条の平和主義は否定され、暮らし、社会保障が圧迫される国になることは明白です。
 安倍政権の9条改憲を止める圧倒的世論をつくり、改憲を断念させることがこの半年、決定的に重要です。

第2節 医療・介護、社会保障の解体へ向けた政府の動向

(1)地域医療構想の動向
 地域医療構想の達成に向けて、2017年度は一区域(おおむね2次医療圏に準ずる形で作られた341区域)あたり平均3.1回の調整会議が開催されています。調整会議で、公立・公的病院の病床再編の議論が先行しており、対象となる1657病院のうち、調整会議で議論を開始した病院が1267病院(76%)となっています。すでに24区域で再編計画が具体化しており、このうち3区域では公立・公的病院と民間病院との統合再編が計画されています(第13、14回地域医療構想に関するWG)。
 厚労省は、都道府県知事の権限の強化に加え、新たに都道府県単位の調整会議設置を要請するなど、地域医療構想の具体化・推進に向けた対応を強めています。すでに20の都府県が設置済みです。

(2)国保の都道府県単位化の動向
 4月からスタートした国保の都道府県単位化のねらいは、医療費の給付削減にあります。運営主体を市町村から都道府県に移管し、給付が増えれば、保険料が上がるという共助=保険原理に国保制度をつくり替え、医療費の増大と住民の保険料負担の関係をストレートに結び付け、見える化することで医療費を抑制する仕組みづくりです。社会保障としての国保制度の崩壊につながる内容です。
 国保が抱える問題の根本は、国が、国保への国庫負担を削減してきたことです。制度スタート時には農林水産業、自営業が加入世帯の7割でしたが、現在は4割が年金者など無職の人、3割が非正規雇用などの被用者で、所得の少ない世帯が7割となり、加入世帯の平均所得は138万8千円(16年度)です。これまで国が増額すべき国庫負担を削減したために、所得が多い協会けんぽや組合健保の保険料より国保の保険料(税)の方が高くなっています。
 安倍政権は、都道府県の試算で国保料(税)が大幅に引き上がる結果から、今年度は市町村が独自に行っていた法定外繰り入れを認めたにもかかわらず、4割の自治体では、国保料(税)が上がりました。各都道府県は国保運営方針(6年1期)を策定し、法定外繰り入れ解消を指導しており来年度以降の国保料(税)は大幅な負担増となる見込みです。
 全国知事会では、都道府県単位化にあたり、①国保への国庫負担引き上げ、②子ども医療費無料化の国の制度の創設、③子どもの均等割りの軽減、④障害者・児、ひとり親家庭を含む自治体の医療費無料化のとりくみに対するペナルティの全面中止などを要請しています。

(3)介護分野の制度改悪
 第7期(2018~21年度)の介護保険料の平均基準額は月5869円となりました。介護保険開始時の2911円から倍額になり、中には9000円を超える自治体もあります。「自立=介護保険からの〝卒業〟」という制度理念の変質の中で、4月から「自立支援」に成果を挙げた自治体に交付金を支給する新たな制度がスタートしました。さらに8月から現役並所得者の利用料の3割引き上げ、10月からはケアプランの「適正化」による生活援助(訪問介護)の利用回数規制などの改悪が実施に移されます。総合事業は、受託事業所(多様なサービス)が少数にとどまるなど矛盾を深めています。

(4)2018年診療報酬・介護報酬改定の影響
 診療報酬改定は、本体部分は0.55%の引き上げとなったものの、材料はマイナス0.09%、特に薬価はマイナス1.65%と大幅に引き下げられ、全体でマイナス1.19%というマイナス改定となりました。このほかに大型門前薬局の調剤報酬引き下げも含めるとさらに大幅なマイナス改定です。この間社会保障費の連続削減が続いており、2018年度までの3年間の社会保障費増額も1兆5000億円に抑えられました。2018年度予算概算要求でも、社会保障費は6300億円増であり、この高齢化に伴う自然増の圧縮財源として、診療報酬改定と医療・介護の患者・利用者負担増が行われました。
 今改定のねらいは、病床の再編と削減です。入院医療から在宅への誘導、在宅での看取りの促進、かかりつけ医機能の推進、大病院外来への直接受診の選定療養費徴収範囲の拡大など、さまざまな医療費抑制の施策が実行に移されることになります。
 特に、一般病棟入院基本料(7対1、10対1)を再編・統合して新たに急性期一般入院基本料とし、重症度、医療・看護必要度の項目変更と基準の引き上げ、地域医療構想の推進とあわせて7対1病床削減の大枠が整えられました。
 介護報酬はプラス0.54%となりましたが、これまでの引き下げによる困難を打開できる水準とは到底言えません。中重度やリハビリ、連携などへの「重点化」が図られる一方で、生活援助の利用規制や通所介護の基本報酬の切り下げ、ケアマネジャーの管理・締めつけの強化をはじめとする「適正化」など、政府の「改革工程表」を土台に、利用者・事業者双方に新たな困難や制度矛盾を押しつける改定となっています。4月の請求実績では、特に訪問介護、通所介護などに厳しい影響が生じています。

(5)「骨太方針2018」のねらい
 6月15日、安倍政権は「骨太方針2018」を閣議決定し、年末の予算編成に向けた方針や今後とりくむ政策の基本方向を打ち出しました。2025年のプライマリーバランスの黒字化をめざし、2019~21年度を「財政健全化」の「基盤強化期間」に設定し、社会保障のさらなる負担増・給付減のとりくみを通じ「全世代型の社会保障制度を構築する」とし、19年10月の消費税率10%への引き上げを明言しました。消費税は社会保障の財源に最もふさわしくなく、医療機関の経営に深刻な影響を与えます。医療団体とも共同して反対の運動をすすめまし
ょう。
 来年の参議院選挙を前に、基盤強化期間の社会保障関係費自然増分抑制の数値目標は明示しませんでしたが、「実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめる」という基本方針を踏襲、「これまでの3年間と同様の歳出改革努力を継続する」とし、自然増抑制の緊縮路線の堅持とさらなる負担増・給付減を明確にしました。
 社会保障分野を「骨太方針2018」の歳出改革の重点分野と位置付け、再生計画の改革工程表のすべての項目を着実に推進し、医療・介護の無駄の排除・効率化の徹底、高齢化・人口減少を見据えた地域のサービス体制の整備等のとりくみを加速・拡大するとしています。また、給付と負担の見直し等による社会保障の持続可能性を確保しながら、健康寿命の延伸、医療・介護分野の生産性向上にとりくむとしています。
 すでに財政制度等審議会の「建議」で75歳以上の窓口負担の見直し、かかりつけ医以外の外来受診時の定額負担徴収の導入、薬剤費の自己負担引き上げが明記されました。また、医療・介護とも、自己負担3割の現役並み所得者の基準と要件の見直し対象を拡大、マイナンバーを活用し、高齢者の預貯金などの資産を把握して医療・介護の負担増に反映させるしくみの導入なども検討課題として挙げられています。骨太方針とともに閣議決定された「規制改革実施計画」では、来年度の実施をめざし条件付きでオンライン服薬指導解禁の検討が開始されています。
 奈良県では、医療費適正化の方策として高齢者医療確保法(2008年)で導入された地域別診療報酬の実施を知事が提案しています。県医師会、県内の医療団体などは強い反対を表明しています。
 介護では、ケアプランの有料化、施設多床室での室料徴収の拡大、軽度者の生活援助等のサービスの総合事業への移行などを挙げています。このうちケアプラン有料化はすでに政府内で検討が開始されたと報じられており、利用料1割負担の利用者で月1400円などの案が示されています。実施されれば、ケアプラン作成のためにサービスの利用を減らしたり、ケアプランの料金を負担できずに制度の入口で排除されてしまう「利用者になれない要介護者」を多数生み出す重大な改悪です。さらに政府は、深刻な人手不足に対して抜本的な処遇改善を講じないまま、受け入れ条件の整備が不十分な中で、新たな在留資格の創設による外国人の参入拡大を打ち出しました。
 安倍政権はこれらの制度改革の項目やすすめ方を盛り込んだ「改革工程表2018年版」を年内に示し、政府内での検討を経て、2019年、2020年の通常国会で関係する法律の「改正」案の取りまとめに入る予定です。

第3節 辺野古新基地建設ストップ、平和な沖縄めざし沖縄県知事選挙勝利を

 8月8日、翁長雄志県知事が治療の甲斐なく、67歳で急逝される残念な事態となりました。知事選挙を巡る情勢は、沖縄県民とオール沖縄の運動によって、4年前以上の新基地建設反対のうねりが起こる中でたたかわれています。
 7月23日、辺野古新基地反対の県民投票へ向けた署名活動が終了し、必要数の5倍近い10万を超す署名が集まりました。7月27日には、翁長県知事が、いのちがけで前知事による承認を撤回し、基地建設を止める展望が作り出されました。翁長県知事が亡くなられた直後の8月11日の県民大会には、台風が近づく中、7万人が参加する大規模な大会となりました。
 こうした中、政府は、8月17日以降の辺野古への土砂投入強行を実行できず、新基地建設の工事はストップしています。
 朝鮮半島を巡る安全保障環境が急速に改善方向にある中、日米両政府は、いまだ、20年以上も前に合意した普天間飛行場の唯一の解決策が辺野古移転と固執しています。その前提は、崩れているばかりか、沖縄の基地強化がアジアの緊張緩和と平和の流れに逆行していることは明白です。
 日米両政府は、沖縄県民の民意を踏みにじり、辺野古で米軍新基地建設を強引にすすめていますが、沖縄県民と全国の運動の中で、工事は建設計画から三年以上遅れ、全体の1%程度しかすすんでいません。また、専門家はこの海域に活断層の疑いがあると指摘しており、大規模な建築物を建てることは危険です。
 3月に防衛省が公表した「シュワブ地質調査報告書」で、大浦湾の地盤は物を置けば沈み込む「マヨネーズのような軟弱地盤」(日本大学鎌尾彰司准教授)が深さ40メートルにも及んでいることが明らかになりました。辺野古での新基地建設を継続するなら、大幅な設計変更が避けられず、あらためて県知事の承認が必要になります。「新基地建設は認めない」という知事が再び当選するならば、辺野古新基地建設は中止させることができます。 経済と暮らしの面でも、県民総所得に占める基地関連収入(軍用地料や基地で働く人への給与など)の割合は5%を切って2000億円ほどです。一方、観光業による収入は1兆円を超え、情報産業による収入は4000億円です。基地が返還された土地は、住宅や公園、病院や大型商業施設に生まれ変わっており、「沖縄の経済は基地でもっている」というのは事実に反しています。基地をなくしてこそ、沖縄発展の道が開けることは明確であり、基地こそが沖縄発展の最大の阻害要因です。
 翁長県知事は、「私たち沖縄県民は、自ら望んだのではない米軍基地をはさんで、互いに傷つけ合い、いがみ合ってきました。それを上から見て笑っているのが日米両政府です。県民は今こそ力を合わせてがんばりましょう」と訴えてきました。このオール沖縄の声こそ、沖縄の未来を切り開く道です。今年2月、自民党も賛成した沖縄県議会決議では、民間地の飛行中止や普天間基地の即時運用停止、米海兵隊の国外、県外移転などを求め、「沖縄は植民地ではない」と明言しています。「オール沖縄」のたたかいは、県民とともに前進しています。
 9月の県知事選挙で再び勝利し、辺野古新基地建設をストップさせる運動を大きく前進させましょう。

第4節 原発ゼロ基本法案の画期的な意義と原発ゼロをめざす運動の高揚を

 第43回総会後、原発ゼロを巡って大きな変化が起こりました。東京電力が、福島第二原発の廃炉を表明し、福島県は立地県で初の原発ゼロを実現しました。この廃炉表明は、一貫した県民世論と運動が追い詰めた結果であり、住民の帰還の大きな一歩となります。
 3月9日、国会史上初めて、原発をゼロにする法律案「原発廃止・エネルギー転換を実現するための改革基本法案」(略称‥原発ゼロ基本法案)が、立憲民主党、日本共産党、自由党、社会民主党の共同提案として衆議院に提出され、衆議院経済産業委員会で継続審議となっています。
 東京電力福島第一原発事故から7年が経過した今でも、福島県内には立ち入りができない町や地域が残され、自主避難者を除く県の発表でも約5万人が故郷を追われ、避難を続けています。過酷な避難生活の中で亡くなられた震災・原発事故関連死は2200人を超え、増え続けています。商工業、観光業、農林漁業など生業の再建も途上です。福島の事故から私たちが学んだのは、①原発の事故はあまりにも深刻で、長期にわたる被害をもたらすこと、②安全神話が崩壊し、大事故の発生を誰も否定できないこと、③原発が動かなくとも電力供給に支障がないこと、④原発は安いどころか、計り知れないコストがかかること、などです。原発は電力の問題でなく、人間のいのちの問題であり、事故を絶対に繰り返してはならないこと、そのためには、稼働する原発をゼロにするしかありません。
 原発ゼロ基本法案は、前文で、福島第一原発事故の経験によって「安全神話」は崩壊し、「原子力発電は計り知れないほど重大な危険をともなうものである」との認識が広がり「これまでの国の原子力政策が誤りであったことを認め」と明記しました。
 この前文の基本理念は、事故以来、毎週金曜日に行われている官邸前抗議行動や福島に連帯したねばり強い行動、避難を余儀なくされた人々の声に寄り添い支援を続けてきた活動など草の根の力と、1月10日に「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」の「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案」の提案が結びついたものです。法案では①運転中の原発はただちに止める、②再稼働は一切認めないという2点を明示しています。法案のもう一つの柱が、原発廃止と一体に、電気の需要量の削減と再生可能エネルギー電気の供給の増加によりエネルギーの需給構造を転換していくことです。
 「再稼働反対」の声は、事故から7年間の現実の中でどんな世論調査でも5~6割と絶対多数を占めています。福島県では75%が反対という結果です。法案には、経済界、小泉元首相をはじめとした保守の政治家も賛同しています。この世論と結びつき、政治の意思として決断すれば、原発ゼロを実現できます。その確実な道筋を明確にしたのがこの法案です。
 この原発ゼロをめざす運動を、さらに幅広いとりくみとして広げ、原発ゼロ基本法の制定を来年の統一地方選、参院選の争点として押し上げ、実現をめざしていきましょう。

第2章 第43回総会方針の実践と第2回評議員会へ向けて

 第1回評議員会から半年後に開催する第2回評議員会は43期の折り返しとなります。この半年間は、憲法を巡る緊迫した状況が続きます。共同組織とともに、安倍政権の改憲断念の展望をつくり出し、住民本位の地方自治の発展、平和を巡って重要な意義を持つ沖縄県知事選挙に全国からの力を寄せ、平和の日本へ向かいましょう。
 格差と貧困の一層の広がりの中ですすむ負担増と給付抑制の中で、総会方針が提起したアウトリーチ、地域の福祉力などまちづくりのとりくみなどを強めていきましょう。
 健康権実現をめざすとりくみが、医療界の大きな流れとなっています。また、新専門医制度の開始、初期研修見直しなど医師養成をめぐる状況が、大きく変化する中で、民医連の発展期をつくるために、私たちは、どのような医師集団へと前進していくのか、43期の重要な課題です。43期に、医師の確保と養成の飛躍を必ずつくり出すために、第1回評議員会で重点課題として提起します。経験を交流し明確な前進を開始しましょう。

第1節 総会後のとりくみの概況

(第43回総会方針学習月間)
 総会方針学習月間を最初の全国課題としてとりくんできました。7月末現在で管理者・職責者読了率は58.5%、学習会参加者は前回を上回る延べ5万973人です。栃木、宮崎100%、青森、長野、福井、京都、岡山、鹿児島で70%を超えています。学習会は、前回の月間を大きく超え、Cafeの開催、青年職員向けの独自の学習会など工夫したとりくみがひろがっています。学習を通じて総会方針への確信、実践の機会となっています。

(医療・介護活動)
 医療・介護活動では、地協での医活担当者会議や医活委員長会議の開催などが具体化され、各県連でも「2つの柱」、SDHをテーマとした学習会などが引き続き積極的にとりくまれています。
 総会以降、3事業所、1法人がJ-HPHに加入、6月には国際HPHカンファレンスがイタリアで開催され、36カ国から約670人の研究者、医療関係者、政府・自治体など行政関係者などが参加しました。民医連からは、10事業所、22人が参加、16演題を発表しました。また、「情報通信機器(ICT)を利用した死亡診断等ガイドライン」について理事会としての見解を発表しました。

(経済的事由による手遅れ死亡事例調査、『歯科酷書第3弾』の発表)
 2017年経済的事由による手遅れ死亡事例調査、『歯科酷書第3弾』の合同記者会見を4月18日に実施しました。全県連での記者会見を呼びかけ、各地で実施されています。『歯科酷書』も「歯科通信」で紹介され、地域で『歯科酷書』を活用したとりくみを大いにすすめています。

(経営活動)
 2017年度経営実態調査(速報値)では、経常利益は事業収益比0.5%にとどまり、経常利益の予算比は44.9%と大幅な予算未達成となりました。必ずしも適切に必要利益が予算化されている状況ではなく、それだけに多くの法人で必要利益が確保できていない状況は明らかです。中期要対策項目5ポイント以上に該当したのは147法人中58法人に達するなど厳しい結果となっています。
 一方、一定の安定的経営構造を確立している法人や、地協経営委員会の機能強化などを通じて、経営改善を図った法人もあります。この間、全日本民医連経営部や地協による経営検討会を受け、改善したいくつかの法人のとりくみと教訓として報告されていることは、①まず管理部が経営状況をリアルに認識し、改善に向けた意思統一を図り、職員に経営状況と予算の意義を正面から提起したこと、②収入予測速報や経営改善ニュースの発行など全職員による経営状況等の共有を徹底したこと、③経済的理由による困難事例を共有するなど、地域になくてはならない事業所であることを絶えず明らかにしたこと、④「断らない」を合い言葉に入院患者受け入れを増やし、ベッドコントロールを強化するなど職員の具体的な行動に結びつけたこと、⑤民医連の他事業所のとりくみを積極的に学び取り入れたことです。

(「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」への対応)
 2月、厚生労働省が「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」をまとめました。理事会は、実態調査等のプロジェクトを発足、全国の民医連内外の状況についての集約を開始しました。厚生労働省は、秋に、全病院のとりくみ状況についての集約を行うという報道もあり、すべての法人・事業所で現状についてあらためて点検し、対応の検討をすすめましょう。

(全日本民医連理事会の組織改編)
 総会方針の実践のため、全日本民医連の運営の改善、部の再編にとりくみました。県連・法人・事業所の困難や経営の実情を踏まえ、事業所の幹部がたたかいと事業の突破口を見つけられる提起や支援のあり方、全国方針の具体化をすすめるための情報共有、経験交流を迅速により豊かにすること、各専門部や委員会の準備する全国会議、集会の問題提起や方針が現場で消化不良とならないような工夫など理事会として問題意識を共有し、議論を重ね、方針を確立してきました。主要な点は次の通りです。①発展期にふさわしく、「2つの柱」の実践を現場ですすめるための一体的な活動方針を打ち出していくため、医療部と介護福祉部を一体化し、歯科、薬剤分野も加えて医療介護福祉部としました。②社会保障運動の強化、発展する共同のとりくみへの対応などに組織として応えていくため、国民運動部を社保運動・政策部と共同運動部に再編しました。また、民医連への期待、関心の高まりに応え、広報部の新設などを行いました。その他の部でも重点テーマによる委員会の再編、新設を行っています。四役のもとにまちづくり委員会の新設、事務育成等の重点テーマも委員会を設置しました。世代交代を見越した四役、理事会での運営について、学習と政策力の向上などを重視してすすめていきます。
 全国会議の集中を避けるため、各部が実施する全国会議の開催時期を四役会議で調整していきます。各県連・法人・事業所での活動計画に生かせるよう、43期の2年間のスケジュールを評議員会で報告しました。

(大阪北部地震、西日本豪雨災害、熊本大地震)
 総会方針は、震災、自然災害に備えたとりくみを強調しました。
 6月18日、震度6弱を記録した大阪北部地震が発生しました。都市部を直撃した今回の地震は、あらためてインフラや鉄道等の停止時の通勤手段の確保、非常食の配備など事業所の災害マニュアルの見直しにも教訓を残しました。BCP(※1)の作成・整備など点検をすすめ、とりくみを強めましょう。違法なブロック塀が身近に多数存在していることなども明らかになりました。まちづくりの課題としても地域の防災対策をすすめていきましょう。
 7月6日に発生した西日本豪雨は、11府県に大雨特別警報が出され1972年以来の大規模な水害となっています。死者220人、行方不明10人、避難者は3421人(消防庁発表8月7日現在)、被災医療機関は95、高齢者関係施設は230にのぼっています(厚生労働省7月19日現在)。全日本民医連は7月8日に全県連に「西日本豪雨対応について①」を緊急に発出し、今回の災害の特徴として各県で被害が広域であること、住宅の被害が広がっており、避難や支援の長期化が予測されることなどから、特別警戒となった県連で対策本部を設置し、県内の被害の状況を把握するよう要請しました。翌日から被害が甚大な岡山、広島民医連に事務局次長を派遣して対応を協議し、12日に全日本民医連対策本部を設置し、義捐金、水島協同病院への医師支援、広島民医連へのボランティア支援、看護支援と事務幹部支援、真備歯科診療所への歯科医師、歯科衛生士支援などをすすめてきました。
 9月末まで岡山、広島への支援を継続します。熊本地震から2年が経過し、いまだ3万2000人近くの被災者が仮設住宅などの避難生活を継続しています。震災関連死は、直接死の4倍以上(211人/7月現在)にのぼり、いまなお増え続けています。
 昨年9月、行政は多くの被災者が求めていたにもかかわらず、医療費の窓口負担等の免除措置制度を打ち切りました。熊本県民医連が免除打ち切り後に実施した仮設団地入居者を対象としたアンケート調査(479世帯が回答)では、約7割の人が医療費を負担に感じていると答え、持病を抱えながら避難生活を送っている人ほど、その負担を重く感じ、「経済的理由で病院にかかれない」と答えた人が23%いました。「目に見えない復興、自立再建できない人たちがいます。目に見える復興より人の復興が大事。どうか手を差し伸べてください。安心を与えてください。医療費免除措置の復活は被災者の切実な願いです」という仮設団地自治会長の訴えにこたえ、4月、県内の仮設団地自治会長6人を呼びかけ人とし、「医療費の窓口負担等の免除措置復活を求める会」を立ち上げ、署名活動がすすめられています。
 6月23日にMMAT研修会を実施しました。

※1 BCP(Business Continuity Plan)=災害などリスクが発生したときに重要業務が中断しないように、また万一事業活動が中断した場合でも、目標復旧時間内に重要な機能を再開させ、業務中断に伴うリスクを最低限にするために、平時から事業継続について戦略的に準備しておく計画。

(国際活動)
 5月26日、韓国社会的医療機関連合会が33施設の参加で結成されました。設立総会に全日本民医連が招待され連帯を深めました。7月には、医師、看護師、医学生を中心とした視察の受け入れを行いました。原水爆禁止世界大会には歯科医師、学生の代表が来日し、歯科部との交流を行いました。これまで長年連帯してきたグリーン病院、人道主義実践医師協議会、健康権実現のための保険医療団体連合とともに交流を深めていきます。

(郡山医療生協対策委員会の到達と課題)
 福島・郡山医療生協は、2018年度予算編成で必要利益を踏まえ前年の赤字決算から大幅に改善をはかる予算の検討を重ね、事業所別の損益予算をはじめて作成しました。全職員対象の予算説明会を行うとともに、総会方針の学習会も幹部が講師となって開催し意思統一を図りました。医師をはじめとする職員の奮闘で、7月まで連続して経常利益予算を超過達成し、前年から大きく改善を果たしました。一方事業収益は予算未達成で、資金状況は引き続き厳しい状況にあり、上半期の課題を明確にし、年度予算を必ずやりきることが求められます。最大の課題である桑野協立病院の経営改善に向け、管理運営の改善、地協による業務調査を受けて現場レベルでの業務改善などがすすめられています。地域の医療機関、介護事業所との連携、法人内の介護事業所やくわの福祉会との連携、ベッドコントロールの強化、病院の果たすべき役割と機能の転換についても責任を持って図っていくことが重要です。
 6月17日には法人の通常総代会が開催され、新しい理事会体制の確認と再建に向けた意思統一が行われ、2018年度から2022年度までの中期経営計画素案を確認しました。今後医療構想の検討とあわせて完成させていきます。医師課題については、日当直支援が北海道・東北地協、関東地協などから開始されました。病院の幹部医師配置、医師体制の強化は、県連的議論の中ですすめることが重要です。郡山医療生協の経営課題は、理事会をはじめ経営委員会の確立、医師委員会への結集と団結といった県連機能強化の課題と結びつけてすすめることが求められます。

(熊本県民医連への医師支援)
 熊本・菊陽病院から精神科医師支援の要請が出され協議し、6月から医師の診療支援を開始、8月からは後期研修医による長期支援が始まります。

(優生保護法国家賠償請求訴訟について)
 1948年、「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする(第1条)」との目的で、旧優生保護法が制定され1996年に母体保護法に改正されるまで継続しました。法改正まで、約2万5000人が病気や障害を理由に不妊手術を受け、そのうち約1万6000人は本人の同意のない強制手術と記録されています。被害者から人権救済申し立てを受けた日本弁護士連合会より2017年に国に対して補償を求める意見書が出され、意見書を受け、各地で「不妊手術の強制は、子どもを産むのかどうかの自己決定権を奪い違法である」「国や国会が救済を怠っていることは、国家賠償法上の責任がある」として現在、訴訟が起こされています。
 国の法律によって、本人の同意なく不妊手術が強制されてきたことは、深刻かつ重大な人権侵害であり、国は、謝罪と補償をただちに行うべきです。同時にこの非人間的な行為に、医師や医療関係者がかかわっていたことに対して、私たちは、二度とこのような人権侵害がおこらないようにするとともに、全容の解明、被害者救済に協力する責任があると考えます。
 全日本民医連理事会は、2001年に熊本地裁のハンセン病国家賠償請求訴訟の原告勝利を受け、理事会声明「医療従事者としてハンセン病患者への人権侵害をあらためて問い直し、人権回復のためにさらに奮闘しよう」を発表しました。その中で「医学・医療のあり方が問題となっているこの人権侵害に対して、組織的には十分なとりくみとは言えませんでした。直接診療にあたることがほとんどなかったとはいえ、強制隔離は必要ではないことを医学的に知りうる立場にありながら、このような重大な人権侵害に問題意識を持てなかった私たち、全日本民医連は、患者さんに謝罪し、率直に反省するものです」と述べ強制隔離政策に対しての見解を出しました。
 しかし「声明」では、多くのハンセン病患者の強制手術、強制堕胎など深刻な人権侵害の根拠となっていた優生保護法には言及していませんでした。これほどの人権侵害が戦後の現行憲法のもとで、なぜ長期にわたって続いたのか、世論や私たちも含めた医療関係者の意識はどうだったのか、また、国の政策の影響など専門家・研究者の協力も得て、学習と自己点検を継続していきます。

第2節 第2回評議員会までの重点

(1)発展期へ向かう、医療・介護活動、経営、職員育成の重点
(医療・介護活動)

 超高齢社会を迎え、在宅医療・在宅介護の広がりで、医療と介護の一体的提供が求められるようになる中、多様化・複雑化する地域の健康ニーズに応えるためには、総合的な視点が不可欠です。医科・歯科・介護・保険薬局などの法人内外での事業連携を強め、県連・法人・事業所のあらゆる段階で連携強化、一体的提供の視点で医療・介護活動を検討できる仕組みを構築することが必要です。全日本民医連は今期の到達目標を、①無差別・平等の地域包括ケアを実現するための政策的な発信を行う、②「2つの柱」の実践を交流し、教訓を普及する、などとし活動の推進を図ります。「2つの柱」の具体化をすすめるために地協・県連で具体的な手立てを講じましょう。
 全日本民医連とJ-HPHが合同で検討してきた経済的評価支援ツール(試行版)がまとまりました。診療の現場で生きるツールとしていきます。10月には日本HPHカンファレンスが開催されます。貧困を病因・病態の一つとして評価し、治療するという視点を持った職員養成の機会としても位置づけ、参加を広げましょう。

(憲法と民医連綱領を学び、「2つの柱」の実践で職員育成を)
 現在の民医連綱領が確定して8年が経過しました。民医連綱領を土台に団結し前進してきた8年間でした。同時に前進と奮闘をささえてきた世代の多くが交代時期に入りました。未来へ向けて民医連運動が着実に発展していくために第44回総会へ向け、民医連綱領、そして綱領発展の歴史を中心に据えた全国的な学習運動を計画します。特に次代を担う30代、40代の職員を念頭にしたとりくみを重視します。第1回評議員会では学習用資材のハンドブック(仮)骨子提案、第2回評議員会までにハンドブック(仮)を作成し、第44回総会までの1年間かけた民医連綱領と歴史の学習運動方針を提起します。
 「2つの柱」の核心は、無差別・平等と共同のいとなみなど民医連綱領そのものの実践です。民医連の医療・介護の実践の中で、民医連への確信を持つ職員の育成の経験は無数にあり、「民医連新聞」や『民医連医療』の中で多数紹介されています。これらにも学び、現場の実践をすすめ2019年2月の職場づくり・職場教育実践交流集会に多職種協働による職員育成、職場づくりの経験などとともに持ち寄りましょう。とりくみを通じた教訓を教育指針(2012年版)の改定に反映させます。11月に青年委員会責任者や青年ジャンボリー援助者などを対象に青年援助者交流集会を開催します。

(たたかいと結びつけた経営改善のとりくみを強化しよう)
 診療報酬、介護報酬改定による病院から在宅へ、医療から介護への安上がりの提供体制をつくる政策や地域医療構想による病床削減策とたたかいながら、医療と介護の質の向上という側面から収益増に結びつけるとりくみを強めましょう。民医連の強みを生かし、「2つの柱」を正面に据えた経営方針の確立と実践が重要です。病院として社会的困難を抱えた患者の受け入れを積極的に位置づけ、地域の医療介護連携のネットワーク構築に積極的にかかわることで、無差別・平等の地域包括ケアとDPC病院の経営改善を結びつけた北海道・勤医協中央病院などのとりくみは教訓的です。
 少なくない民医連法人の予算編成と予算管理のあり方については、不十分さや我流が存在し、そのことが経営改善のとりくみの不十分さにつながっています。予算は、仮の数字や試算ではなく実行計画です。具体的な医療活動、職員の行動計画と一体のものとして作成し、評価することが重要であり、この計画に対し月次、四半期など節目ごとに進捗や差異を集団的に分析、管理することを徹底し、全職員の力で予算達成にこだわりましょう。

(全国的課題)
 第14回全日本民医連共同組織活動交流集会in神奈川、第14回看護介護活動研究交流集会in宮城を成功させましょう。特養あずみの里裁判の全国支援を強めます。2018年7月西日本豪雨災害への全国支援を継続します。

(2)改憲を許さない大運動、核兵器禁止条約の批准へ向けて
①3000万人署名を中心に、運動を強め、改憲断念に追い込もう

 職員、共同組織での改憲案についての学習を引き続き重視するとともに、遅くとも年内を目途に全県連の300万目標を達成します。9月からの臨時国会で国会提出を行います。 そのために、9の日行動、地域行動を具体化し、秋の共同組織拡大強化月間で地域に入り、全戸訪問などを引き続き行いましょう。今後の改憲の動向が明らかになった段階で全日本民医連として全国会議を開催します。
 この間、広がっている地域での共闘を継続し、安倍政権退陣の運動、市民と野党の共闘へ発展させましょう。

②核兵器禁止条約の批准へ向けて
 (1)「ヒバクシャ国際署名」の飛躍、(2)日本政府への核兵器禁止条約の調印・批准を迫る運動、(3)2018年原水禁世界大会の成功、(4)被爆者援護・連帯のとりくみの4つを柱にとりくみます。全日本民医連43期平和アクションプランを決定し、平和の活動を強めていきます。
 「ヒバクシャ国際署名」を、秋の国連総会に向けて飛躍させましょう。被団協は、2020年までに人口の過半数を掲げた運動を提起しました。民医連の到達は、47万筆です。第2回評議員会までに150万筆をめざし300万筆達成へはずみをつけましょう。2018年原水爆禁止世界大会は、大きく成功しました。各地で報告会を行いヒバクシャ国際署名のとりくみを飛躍させていきましょう。

(3)社会保障解体を止める大運動と課題
①秋から来春を展望したとりくみの基本点

 憲法をまもり生かす運動と社会保障制度の拡充は当事者としての運動の中心課題です。「社会保障・社会福祉は国の責任で」「9条を守り、25条を活かす」共同を広げ、野党共闘、市民共闘とも連携し、国や自治体の政策に要求を反映させていきましょう。
 2019年の統一地方選挙と参議院選挙は、住民のいのちとくらしを守る自治体、国政へ変える絶好のチャンスです。
 秋から、来春にかけて①さらなる国民負担増計画、今後の改悪内容についての宣伝と学習をすすめ法案化させない世論づくり、病棟・外来など現場での事例把握、無料低額診療事業の事例、手遅れ死亡事例、『歯科酷書第3弾』などに基づく実態の告発と自治体、国への要請の強化、②「共同」の拡大を具体化し、全日本民医連として医療団体、労組、社会保障団体や障害者・患者団体との共同を強めます。地域、県の単位でも具体化し、③共同組織拡大強化月間を通じて全職員が共同組織とともに地域へ出て、地域の声や要望をつかみ、医療や介護につながっていない困難事例の掘り起こしにとりくむ、各事業所で日常的に地域に出る、アウトリーチのスタイルをつくり上げましょう。

②受療権を守るための重点課題
(国保制度の抜本的改善へ向けて)

 国保は国民皆保険の「土台」であり、権利としての社会保障、医療制度の根幹です。統一地方選挙も念頭におきながら、地方議会への働きかけも強めます。
 誰もが、払える保険料(税)実現のために、地方議会で、国への国庫負担引き上げの要望書の採択を求めます。
 全国知事会の要望内容も踏まえ、受診抑制につながる窓口負担の軽減のため、地方単独の医療費無料化事業などへの法定外繰り入れを実施させましょう。子どもの均等割り減免、多子世帯の国保料(税)減免などを地域の実情に合わせて要請し、自治体単独事業の拡大をめざしましょう。また、国保法44条を実効あるものにさせ、生保基準前後の境界層世帯などの恒常的な経済的困難世帯への負担軽減を要求しましょう。
 これらにとりくむため、全職員が国保問題を学習することを提起します。全日本民医連として、そのための資材を作成します。

(後期高齢者の原則2割化の中止を)
 社保協や高齢期運動連絡会などとともに、骨太方針に見直しが掲げられた後期高齢者の負担増をストップさせましょう。毎月の25条署名・宣伝行動で、改悪内容を大いに広め、負担増を許さない声を広げましょう。

(自己負担増などの影響調査と告発を強めよう)
 福岡では療養病床の居住費・食事療養費負担増影響調査を実施しています。患者アンケートや未収金調査、気になる患者訪問などにとりくみ、自己負担増などに対する声を集めて自治体キャラバンなどに反映させ、自治体から国へ改善に向けた意見書をあげるよう働きかけましょう。

(生活保護制度の改善へ向けて)
 長野では長野地区社保協が請願書を提出し、2つの町議会で生活保護基準見直し中止を求める国への意見書が採択されました。全国の地方議会に向けこうした請願運動にとりくみましょう。また、医療扶助見直しに伴い、生活保護利用者の受診への同行、薬局一元化やジェネリック使用の原則化などが具体化されます。これらに対し、当事者の声や困難事例を集約して自治体に届け、扶助基準引き下げと同様、地方議会からこうした人権侵害の見直し中止を求めるよう働きかけましょう。

(無料低額診療事業制度の普及と、改善)
 北海道、大阪、沖縄では、道府県に要請し、教育委員会を通じた無低診事業の周知が実施されています。さらに沖縄では県の教育庁から各市町村教育委員会へ、沖縄医療生協の学校懇談会の案内文書が通達され、すでに周知された無低診事業について各小中学高での説明・懇談をすすめようとしています。子どもの貧困対策のひとつとして、無低診事業の就学援助家庭への広報・周知を県教育委員会に要請しましょう。
 地域の民医連外の事業所にも無低診事業の取得を広げましょう。保険薬局を、事業の対象とするよう、国に求めるとともに、薬代の自己負担分への自治体助成について、各自治体の来年度予算、予算議会へ向けて請願をすすめていきましょう。

③地域医療構想に対してのたたかい
 地域医療構想に対して、民医連として、①各計画の内容を把握すること、②地域住民に知らせること、③地域にとって必要な医療・介護を守るため、近隣の医療機関との共同、社保協や地方議員と連携し、共同組織とともにまちづくりの視点で自治体への働きかけを強めることの3点を柱にとりくみます。第3期医療費適正化計画、第7次保健医療計画(地域医療構想)、第7期介護保険事業計画、第7次高齢者福祉計画等の内容を把握して、地域に知らせるとりくみを強めます。県社保協などとともに、都道府県の担当部局との懇談や出前講座などを通して、自治体から直接内容を聞く機会をつくりましょう。都道府県単位の地域医療構想調整会議の内容、医師確保計画の策定など、県連が責任をもって各県の動向をつかみ、ニュースなどで県連内、共同組織や地域に知らせましょう。
 公立・公的病院の病床再編等の具体化がすすんでいる地域では、地域の他の医療機関や団体等とも懇談・連携して、地域に必要な病床を守る運動が求められます。地域医療構想によって予測される患者や住民への影響について、共同組織、地域住民、医療機関、介護事業所、自治体と共同のシンポジウムの開催などを具体化しましょう。病床削減や、不十分な在宅の受け皿づくりに対する地域住民の声や疑問をアンケートなどでつかみ、共同組織とともに自治体に届け、いっしょにまちづくりを考える視点で懇談しましょう。
 あわせて、病床の再編・削減計画だけではなく、地域包括ケアの確立という視点から、在宅医療・介護の体制づくりの計画について、医療計画や介護保険事業計画を含めた総合的な分析が必要です。

④介護ウエーブのとりくみ
 介護分野では、制度改善、報酬改善、処遇改善を引き続き求めるとともに、ケアプランの有料化など新たな改悪を許さない世論と運動を広げていくことが必要です。介護ウエーブと日常の介護実践をつなげ、事例を通して実態や制度改悪の問題点を明らかにしましょう。2025年に33万7000人の介護職が不足する需要見通しが新たに示されており、実効性のある確保対策を求めます。自治体に対して、第7次介護保険事業(支援)計画を分析し、地域の実情に見合った基盤整備、介護職の確保、総合事業の改善、介護保険料の軽減策の拡充を求めます。「我が事・丸ごと地域共生社会」をめぐって高齢者・障害者・児童の相談機関を一元化(丸ごと化)し効率化を図るなどの動きも出ています。地域福祉計画を含め、各地域で具体的な状況をよくつかむことが必要です。

⑤共同行動の成功を
 中央社保協が呼び掛ける10~11月の「いのち守る月間」にとりくみます。10月11日に、「いのち守る国民集会」(日比谷野音)への全国からの参加、10月25日「憲法25条を守り、活かそう」10・25行動、全国一斉の行動(宣伝行動、集会、学習会等)にとりくみます。全日本民医連、関東、北関東・甲信越地協を中心に、全国集会(日比谷)と厚労省包囲アピール行動にとりくみます。

(4)沖縄県知事選挙、統一地方選挙、参議院選挙のとりくみ
 9月30日投開票の沖縄県知事選挙で、建白書の立場に立つ知事を継続するための全国支援を決定しました。この県知事選挙は、辺野古新基地建設を止める最大の機会となります。また戦争法の下で、全国ですすむ自衛隊基地強化や米軍との一体化など戦争する国づくりを止める課題でもあります。すべての県連が自らの課題としてとりくみを強めましょう。9月13日の告示日には、全国一斉の宣伝にとりくみ、沖縄に連帯しましょう。
 来夏の参議院選挙は、安倍政権を退陣させる決定的な機会です。平和と人権としての社会保障を求める民医連にとって重要な意義を持つ選挙となります。市民と野党の共同を強め、自民党、公明党とそれを補完する維新の会などの議席を大きく後退させ、必ず改憲勢力を3分の2以下にしましょう。新潟県知事選挙が示した市民と野党の共同したとりくみがあれば、展望は開けます。憲法を変えさせない、権利としての社会保障実現の当事者として一人ひとりの職員が、この選挙に参加しましょう。統一候補の擁立などに県連は、役割を果たしましょう。共同の要となる野党共通政策づくりへ社会保障・医療・介護の提案をすすめます。すでに共同して提案されている原発ゼロ基本法案の積極的な内容を職員、地域に広げ世論をつくりましょう。職場やゼロcafe、共同組織班会などで広げていきましょう。
 統一地方選挙の中で、医療・介護の要求、まちづくりの政策を県連・法人・事業所として掲げてとりくみましょう。

(5)安心して住み続けられるまちづくりへ向けたとりくみ
 第43回総会方針は、事業所と共同組織がこれまでのまちづくりの実践の上に立って「まちづくり運動」を位置づけ、方針化することを呼びかけました。その柱として、「地域の福祉力を高める」まちづくりを共同組織とともにすすめること、政府の「我が事・丸ごと地域共生社会」に対抗し、住民本位の自治体を求めること、共同組織を強く大きくすることを提起しました。
 地域の福祉力を高めるために、各事業所でアウトリーチの仕組みを具体的に作り上げましょう。「我が事・丸ごと地域共生社会」の理念が地域で様々に具体化されています。具体的な現状を把握し、「権利としての社会保障」の視点で運動を起こしていきましょう。統一地方選挙、参議院選挙でのまちづくりの要求としてまとめていきましょう。国保の都道府県単位化が進行するなかで、県連が県全体を視野に入れて「安心して住み続けられるまちづくり」の課題として運動を強めることが重要です。
 10月~11月の共同組織拡大強化月間を成功させましょう。共同組織は、現在369万に到達し、この間の活動の中で「たまり場」「こども食堂」「こども塾」などの活動が広がり、共感と確信が広がっています。こうした共感と確信を構成員と地域に広げ、会員の増加に結びつけていくことが何より大切です。
 月間は、職員が共同組織とともに地域に出かける絶好の機会です。徹底して地域に出る活動を軸に月間を組み立てましょう。9月の第14回全日本民医連共同組織活動交流集会で大いに学びあい、教訓的な内容の普及を行います。
 『いつでも元気』は、共同組織の活動交流に欠かせず、班や支部の活動に活用できる記事が満載です。『いつでも元気』6万部を達成して、第14回全日本民医連共同組織活動交流集会を成功させようのアピールに応え奮闘し目標を達成しましょう。

第3章 医師養成新時代、民医連の医師養成・医学生対策の前進への契機を作ろう

 総会で「2つの柱」の実践を担う医師養成、医師集団づくりが提起されました。「2つの柱」を実践するためにどのような医師、医師集団が必要なのでしょうか。医師研修必修化以降に始まり2018年からの新専門医制度でさらに加速する医師の流動化の中で、私たちはどのようにして民医連の医師集団を形成するのでしょうか。民医連の医師集団は多職種と共同組織の仲間の中で鍛えられ輝くものであり、集団づくりの課題は医師のみではなく全職員と共同組織の課題です。評議員会方針を各県連、法人、事業所での旺盛な議論と実践をよびかけます。

第1節 今日の医療を取り巻く情勢と地域医療の現場で医師に求められるもの

 今、わが国の医師たちが直面している患者や人々の状況はどうなっているでしょうか。貧困と格差が健康被害の重要な原因となっており、日本プライマリ・ケア連合学会が健康格差に対する見解と行動指針を提起するに至っています。また、超高齢社会到来に地域包括ケアという新たな枠組みが提起されましたが、公的な医療介護費用削減をすすめる政府の方針によって、地域住民は、医療からも介護からも遠ざけられる事態が広がっています。そして、医師は人員不足を放置したまま効率を求められ、過労状態が持続しています。  超高齢社会にあって、患者の多くは複数の疾患や健康問題が併存している状態にあり、貧困や社会的孤立が背景にあるほど、また認知症や精神疾患などの問題を抱えるほど、深刻な困難を伴います。現場の医療実践においては、これらに全体として対応する総合性が要求され、健康の社会的決定要因に目を配り、多職種の連携の力で問題を明らかにし解決していくことが日々求められています。それぞれの医師は、多職種協働への深い理解、SDHへの認識、臨床倫理的な視点、老年医学への理解などの基盤としての総合性を備えることと同時にヘルスアドボケイトとしての役割が求められます。診療連携では精神疾患、運動器疾患、歯科口腔問題などを含めた臓器別・領域別専門診療と総合診療の協働が重要性を増しています。さらに、医療だけでは患者の尊厳を守ることが難しく、「その人がその人らしく幸せになる」ために介護、福祉の分野との質の高い協働が多くの場面で必要です。
 個々の患者の診療から始まり、一人ひとりの人権が擁護され尊厳が保たれるまちづくりのために地域の多職種の連携の輪に主体者として参画し、さらには人権を保障する医療、介護、福祉制度を求めるというレベルでも医師の役割があります。

第2節 民医連の医師集団の役割

 民医連はその結成から今日に至る歴史の中で、患者をその生活と労働の場から全人的にとらえ多職種協働の力で、患者との共同のいとなみとしての医療と介護の実践を重ねてきました。その中で民医連の医師集団は、理念形成にも実践でも仲間を励まし、力づける大きな役割を果たしてきました。そして今、未来に向かう方針として提起された「2つの柱」を、民医連職員、共同組織の仲間といっしょに豊かに実践することが、これからの新しい型の医療を創造していくことにつながるのではないでしょうか。例えば、それぞれの専門診療領域では「2つの柱」をどう実践するのか、どのような多職種協働、地域での連携、アウトリーチを実践するのか。多職種、共同組織の人々の期待は高まっており、今こそ、構想を練り、一歩を踏み出すときです。
 貧困と格差の中でいのちと健康の格差が生じていることについて、他の医療機関で働く医師たちに声をかけ、ともに考える機会をつくるのは民医連の医師集団の役割です。SDHやHPHという視点、無料低額診療のとりくみや国保法44条適用の運動などを紹介しながら、地域ぐるみでいのちの格差を解消していくネットワークづくりが求められます。  国民健康保険の財政運営、地域医療構想、医師臨床研修など医療介護の実施における都道府県の位置づけが高められています。日本国憲法で保障された人権を掲げた民医連の医師集団が地域の実態や地域医療計画について意見を交わし、かかわれるようになるには何が必要か、それぞれの県連、地域でよく検討し、働きかけることが必要です。そのためにも医師集団はこれまでにも増して地域の連携を強めることが求められます。
 医療費と医師数を抑制しながら医師の働き方を適正化していくという政府の方針は、地域医療の継続発展とは両立できない方針です。民医連内での医師労働の効率化、軽減に向けた法人あげての努力を強めつつ、「地域医療を守りながらの医師の働き方改革」「診療報酬を改善して医師数増と医師にディーセント・ワーク」を掲げて外部の団体、有識者との交流と運動をすすめることが求められます。

第3節 民医連の医師集団形成にかかわる課題

(医師の流動化と後期研修継続数の低下)
 2004年医師研修必修化で起きた大学医局離れは、研修医の初期研修、後期研修、専門医取得といったキャリア形成とそのためのプログラム選択という意識を高め、急速な医師勤務実態の流動化が現れました。民医連でも必修化で初期研修医の受入数は増加に転じたものの「さわやかな立ち去り」という流動化に直面し、その後「オール民医連」で後期研修充実などを図ってきました。
 民医連の医師をめぐる現状について、第43回総会では「医学生の中で民医連への共感が広がっている一方、青年医師の定着が減少し、医師集団が右肩上がりには大きくなれない状況に直面、少なくない病院・診療所の維持発展に困難を抱えている状況」と分析しました。民医連の出番ともいえる情勢の中で、そのことがまだ十分に医師を引き付けることにつながっていない現状があります。特に新専門医制度が開始される中、民医連で研修する後期研修医は減少しています。2018年3月に民医連の初期研修を終了した医師157人(前年141人)の動向をみてみると、民医連を後期研修先として選択したのは53人、34%(前年688、48%)でそのうち専門医制度に参加せずいわゆる「トランジショナルイヤー(※2)」研修を選択したのは21人でした。後期研修終了後民医連へ帰任を予定している研修医は30人であり、民医連内研修にすすんだ研修医と合わせると83人(53%)となります。53%はここ数年の民医連後期研修選択率からはさほど減じていない数値で、プログラムが設定できない領域も多くある中、いったん離れても戻ってきたいという初期研修修了者を一定生み出していることは、私たちの医療活動への共感を醸成する研修が行われていることを示しています。しかしさまざまな役割で医療活動への活気を与えてくれる後期研修医の数が明確に減じていることも事実です。また民医連内にプログラムがある領域においてもそこへのエントリー参加率が従来の民医連での進路選択に比べて低下しているということは、十分な魅力あるプログラムを準備できていない、あるいは初期研修期間をともにすごしてきたけれども民医連でがんばろうという思いまでには至らない、などの可能性があります。
 初期研修を通じて民医連の医療活動への共感と主体者としての意識を醸成することと、高い力量を身に着けたいという後期研修医のニーズに応える豊かなプログラムの準備に、今一層力を入れて実行する必要があります。その結果として、民医連にプログラムがある領域ではそこへのエントリー参加率を向上させること、外部のプログラムに行かざるを得ないあるいは目的を持ってあえて行く場合においても、将来の帰任・再合流をつくり出すことを明確に目標として持つことが求められます。
 このような状況でますます医学対活動の重要性は高まっています。医学生のときからつながり、奨学生活動を通じて民医連医師としての成長や同世代のつながりの支援を行い、民医連医療とその医師集団形成を担っていく多くの医師を輩出することがきわめて重要な課題です。

※2「トランジショナルイヤー」研修 新専門医制度が始まり、初期研修を修了した医師の多くが3年目に専門分野の専門医資格取得を目的とした専門研修にすすむ。トランジショナルイヤー研修とは、3年目に必ずしも専門とする領域を決めず、さらに深めたい領域や総合的な力量を身につけることを目的とした研修を行うこと。

(新専門医制度をどうみるか)
 新専門医制度が今年度開始されました。当初のプロフェッショナルオートノミー(※3)の構えが学会主導にすりかわる中で、プログラムは学会がつくり、機構は承認する係となりました。学会・大学の意向が強く反映され、例えば内科では初期研修での経験症例を50%含んでもよいとするなど、基本領域としての修練の軽視と領域別専門医の迅速な養成への志向が強められました。基本領域重視、総合性、コアコンピテンシー重視という改革議論開始当初の方針はあいまいにされたと言わざるを得ない状況です。開始初年度の状況では、例えばそれまでの制度と比べて内科専攻医が減少した県は非常に多く、東京に集中した事態に県をあげて危機感を強めています。総合診療専門医が確立されたという積極面はありますが、専門医制度発足後の各医療団体の独自の医師養成へのとりくみが如実に示すように、総体としての新制度は、地域の医療ニーズに向き合うものになっておらず、地域医療で活躍する医師の養成の道筋はなかば置き去りにされています。
 民医連はこの制度の発足に向けて「見解」、「提案」と考え方を表明してきましたが、あらためて、基本領域では多様な地域医療の現場で総合性を獲得するように研修期間を確保し、地域の病院が基幹型施設を担えるような制度設計に見直すこと、地域医療に従事している医師がおおむねその日常の医療実践を継続する中で取得・更新できる制度であることを求めるものです。
 そのような状況の中、民医連が基幹施設や連携施設としてかかわるプログラムでの総合性を重視した研修をすすめていくことの意義が非常に大きくなっています。地域住民の医療ニーズに応えるアウトカムを明確にしたうえで、専門領域の技術修練を制度化された仕組みの中で行うことや、外部との交流で技術向上や標準化を獲得することは効果的です。制度の枠の内外にかかわらず良質な専門的技量を習得する機会を保障することは私たちにとって重要なことです。

※3 プロフェショナルオートノミー ここでは、政府などから独立して、医師自らが自律的にルールを定める、という意味。

第4節 時代を切り拓く医師集団形成のために医師政策を発展させよう

 医師の流動化の中で、医学対と医師研修を両輪とした医師政策の枠組をさらに進化させることが求められています。「流動化」は民医連の医師集団形成の入り口が多チャンネルであることを積極的にとらえられる局面でもあります。民医連の出番と言える住民の健康をめぐる状況のもとで、今まで民医連での勤務経験がない医師たちの中にも、民医連の「2つの柱」に共感する医師や、地域包括ケアの現場でヘルスプロモーションやまちづくりにもつながった医師の働き方、活躍の仕方を求める医師が現れてくる必然性があります。
 「医師養成新時代」は、民医連の医師政策の強化発展を必要としています。その要点は以下のような項目になると考えられます。
(1)民医連医師を生み出す医学対の引き続きの重視と強化
(2)多チャンネルを意識したそれぞれの場面での研修・成長支援と合流を促す環境づくり、①医学対で民医連医師を医学生から育てる、②初期研修で民医連医師を育てる、③豊かな後期研修プログラムを準備し一定規模の後期研修医を民医連に迎える、④後期研修後からその力を民医連で発揮する、⑤一定のキャリアを積んだ医師の民医連への合流を促す
(3)「2つの柱」の実践を正面から位置づけ、①~⑤すべてに通じる民医連医師養成の視点、民医連医師集団の共通項と集団のあり方を明確にする
(4)民医連の外部との交流も含めた技術習得、医療活動の質の向上にとりくみつつ、民医連医療の理論と実践の発展を追求し続ける
(5)医学対や医師研修において、民医連(運動)の価値と役割を、社会の中でとらえ、自分の生き方の問題として自覚できるような働きかけを行い、民医連を担う医師集団づくりをすすめる

第5節 これからの半年の行動提起~民医連の医師政策を練り上げながら実践に踏み出そう

 2019年2月に全国医師委員長・医局長会議を開催する予定です。そこでは42期に出された医師集団作りの問題提起への議論を踏まえて、民医連の医師政策を策定します。10年後を想像したときにどのような医師集団ができていれば、その時代の民医連の使命を果たしていく力を持てるでしょうか。大きな視点で議論が求められます。これからの半年で医師はもちろん、多職種で、どのような医師集団をどのようにして形成するのか大いに議論しましょう。

(1)医活委員会と共同して「2つの柱」の実践をすすめよう
 現時点での私たち医師集団の診療活動を「2つの柱」の視点で見つめなおし、可視化と共有化を図りましょう。格差と貧困、超高齢社会という社会的要因との関連や、共同のいとなみを通じた医療の質の改善など、さまざまな切り口での現状の分析、発展に向けたとりくみを一歩前にすすめましょう。

(2)民医連の医師養成をさらに発展させよう
 2020年の初期研修の改定には、民医連が先駆けて実践してきた外来研修なども取り入れられます。この改定での見直しを好機として、「2つの柱」を多職種協働のなかで実践する医師の養成方針を全研修施設でつくりあげましょう。質の高い技量の獲得を前提として、多職種でのカンファレンスや360度フィードバックなども力に、SDHの視点、多職種協働をはじめとした地域包括ケアに求められる力、共同のいとなみの理解と実践、まちづくりへの参画など民医連の医師養成をさらに一歩先へ発展させましょう。

(3)医学対活動2つの任務(※4)をしっかり実践し、受け入れ200―奨学生500のロードマップ達成に向けたスパートをかけよう
 この間の大運動と2回のmovementで2018年度の新卒医師マッチ数は169人、受け入れは175人とロードマップ提起後右肩上がりに増加し、ここ数年では最高の到達となっています。奨学生数は4月末の時点での比較でこれも過去最高の474人となっており、高校生、医学生の中に民医連を届けその共感を広げることに大きな前進を築いています。この秋に開催される全国医学対決起集会を力にロードマップの目標実現へのうねりをつくり出しましょう。
 昨年宮崎大学、今年弘前大学で成功を収めた全国医学生ゼミナール(医ゼミ)は全国の医学生に医学医療の学び方とらえ方を広げる源泉の役割を果たしています。医ゼミの中で深まったSDHへの関心は参加した医学生の周りの学友に広げられていきます。また、そこでの出会いが民医連の奨学生誕生にも結びついています。SDHは医学教育のコアカリキュラムにも位置づけられており、医学教育の専門家とも大いに協働しながら医学生の中でSDHを学ぶ一大movementをつくりましょう。そのことは同時に医学対活動の中に「2つの柱」を位置づけることにつながります。「2つの柱」の学習と実践に触れる中で医学生がその主体者に向かって成長するように支援しましょう。

※4 医学対活動2つの任務 ①医学生のさまざまな自主的活動を援助し医学生の民主的な成長と運動の発展を促すこと、②民医連運動の後継者を確保すること。これらを達成することが医学生対策活動の中心的な任務として認識され、運動を発展させてきた。

(4)多職種で大いに議論し民医連の医師集団形成での前進を築こう
 42期の全国医師委員長・研修委員長会議では、一人ひとりの医師が多面的で医師としてのスタイルも多様であることを前提として民医連医師集団としての共通項を引き出し、医師集団づくりをすすめていこうと議論が開始されました。
 その会議とその後の全国の議論の中で、以下のような点が医師集団づくりの課題を考える視点として浮かび上がってきています
 ①医師としての働き方・働きやすい職場づくり、②多職種協働の中での医師のコンピテンシー、③診療の質・持続成長をどうつくっていくか、④医師集団の集団としての質(民主的、互恵的、包含的など)の向上、⑤SDHへの視点といのちの格差に抵抗するヘルスアドボケートの実践、⑥後継者の確保と養成への参画などです。
 民医連の医師集団形成はどのあたりまで前進しているのか、私たちの共通項はどこにあるのか、誰のための何のための医師集団づくりなのかなど、事務、看護職含め多職種、共同組織の力も合わせて、全日本民医連の医師政策の策定につながる広い視点での議論と実践を各県連、法人、事業所で実施しましょう。

(5)「2つの柱」の実践のためにスケールメリットを活かした調査、研究、教育、発信を
 全国組織としてのメリットを活かした調査、研究、教育、エビデンスの発信を促進する仕組みづくりを全日本民医連は行う必要があります。診療委員会の新たな立ち上げや活動支援を含めて必要な手立てもとり、全国のとりくみ、研究発表を共有化したり、共同研究や教育活動などをスムーズに行えるようにとりくみます。

おわりに

 総会から半年が過ぎました。全国の仲間は、共同組織とともに総会方針を学び、日常の医療・介護の実践を強め、民医連綱領のもと憲法の理念を高く掲げ、平和と人権のために奮闘しています。
 6月23日、沖縄は、73回目の「慰霊の日」を迎えました。
 中学校3年生の詠んだ「平和の詩」は、94歳の曽祖母から、県民の4人に1人が犠牲となった沖縄戦の体験を聞き、不戦を誓い、未来の平和を築く決意を込めたものでした。戦争を憎み、平和を求める沖縄県民の強い意思のもとで、この基地は決してつくることができないことを示してくれました。一部紹介します。
 「私は手を強く握り、誓う。奪われた命に想いを馳せて、心から、誓う。私が生きている限り、こんなにもたくさんの命を犠牲にした戦争を、絶対に許さないことを。もう二度と過去を未来にしないこと。全ての人間が、国境を越え、人種を越え、宗教を超え、あらゆる利害を越えて、平和である世界を目指すこと。生きる事、命を大切にできることを、誰からも侵されない世界を創ること。平和を創造する努力を、厭(いと)わないことを」「今を一緒に、生きているのだ。だから、きっとわかるはずなんだ。戦争の無意味さを。本当の平和を。頭じゃなくて、その心で。戦力という愚かな力を持つことで、得られる平和など、本当は無いことを。平和とは、あたり前に生きること。その命を精一杯輝かせて生きることだということを。私は、今を生きている。みんなと一緒に。そして、これからも生きていく。1日1日を大切に。平和を想って。平和を祈って。なぜなら、未来は、この瞬間の延長線上にあるからだ」。
 全国の職員、共同組織のみなさんへ。第2回評議員会まで、憲法の未来、いのちと医療・介護の未来にとっても大切な半年間です。平和と人権を守り抜く当事者として、団結して総会方針の実践をすすめましょう。希望ある時代を全国で連帯してつくり出していきましょう。

以 上