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副作用モニター情報(薬・医薬品の情報)

【新連載】61.新薬評価について

■副作用モニターに加え、新薬評価も行っています

 全日本民医連では、1980年代から取り組んできた副作用モニターに加え、2010年からは新薬評価の活動も開始しました。活動の内容は、各県連や事業所単位で行われた新薬の評価を収集し、その情報を全国規模で共有することです。新薬を使い始めるときには、学習会や製薬企業の医薬情報担当者(medical representative=MR)から、そして仲間の医師や薬剤師から情報を集めていることでしょう。他にどのようなことが判っているのか、判らないことがあるのか、はたまた私たちには知らされていない情報があるのか、そして、調査の結果、どのように評価されているのかという情報が増えることで、より効果的で安全で、金銭的にもリーズナブルな薬物療法に寄与することを目的としています。
 国が承認しているのに、なぜ改めて評価をしないといけないのか、という疑問が湧くかもしれません。しかし、これまでの薬害の歴史を振り返れば、それでは済まされないことに思い至るでしょう。警戒が必要なのです。ひとたび薬害が起きれば、被害を受けた患者さんはもちろん、私たち医療従事者もつらい思いをしなければいけません。ですから、少なくとも、私たちの手で調査し、情報を共有することが必要なのです。
 では、製薬企業が提供する医薬品情報とはどのようなものなのでしょうか。実は、厚生労働省はMRの活動を「広告」と位置付け、医薬品の性能を正しく伝えていない、誤解を与えるような説明が行われている実態について「誇大広告」(注意するだけでペナルティはない)であると問題視しています。厚生労働省が三菱UFJリサーチ&コンサルティングに委託して行っている医療用医薬品の広告活動監視モニター事業の報告書を見ると、「誇大広告」の実態が明確に指摘されています。例えば、グラフの目盛りを操作して、本来乏しい効果を誇張して見せる、動物とヒトのデータを混在させて、動物実験で得られた効果をヒトでも効果が確認されたかのように説明する、臨床試験の主目的ではない「サブ解析」の結果を、あたかも臨床試験の成績と主張する、などは「誇大広告」に当たるとしています。まさに、これは医薬品の販売促進「宣伝」であり、決して患者のための情報提供ではないという一面を表しています。
 とかく新薬と聞けば、「効く」「新しい効果」という先入観を持って期待してしまいますが、効果の「誇大広告」に騙されてはいけませんし、危険が隠れていることを見落としてはいけません。新薬を自動車の運転に例えると、初心者マークをつけて恐る恐る道路を走っているのと同じ状況です。新しさだけに目を奪われていると、思わぬ事故に遭遇する危険が高いのです。「新しさ」に目を向けてみても、実は、1950年代に既に合成されていた古い薬が装いを新たにしただけの「偽物新薬」もあるのが実態です。過去10年の間に登場した「新薬」のなかで、実際に評価が高く、歴史的な標石となる製品は僅かでしょう。

■「つくられる」病気

 Evidence Based Medicine (EBM)が叫ばれ始めた2000年頃から、「病気づくり」という言葉が取り上げられるようになりました。「うつ病は心の風邪」をキャッチフレーズに販売攻勢をかけた選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)や過活動膀胱(OBA)治療剤がそれに当たります。製薬企業が「化学物質」を合成したが、これに見合う「新たな疾病」を作り出すことで「化学物質」を「薬」として売ってしまおう、という動きへの警告です。先に開発された化合物に合わせて適応症が名づけられた典型例が「機能性ディスペプシア[検査しても異常はないのに、胃の痛みや不快感が続くこと]」を唯一適応症に持つアコチアミド(アコファイド)です。過活動膀胱治療剤のフェソテロジン(ベシケア)は、抗コリン作用があまりにも弱いため医薬品としては使うことができずにお蔵入りしていたのに、過活動膀胱という「病気」を作ったことで「医薬品」としてよみがえりました。
 新薬評価は、①効果と安全性(すなわち危険性のこと)、②そして費用対効果、③患者負担を考慮した経済的な側面、これら3つの調査内容について④薬剤師を中心とした集団で検討を加えた結果の総合評価、という4分類で構成されています。この評価を行うためには、可能な限り信頼のおけるデータを用いて調査しておく必要があります。現状で私たちが入手できる信頼性が高い情報は、PMDA(医薬品医療機器総合機構)が公開している臨床試験の詳細と審査内容を記した「審査報告書」、及び「申請資料概要」です。加えて、海外での使用状況や添付文書情報、有害作用の報告も該当します。
 必須資料として審査報告書を掲げていますが、審査報告書だけを見ていればよいというわけでもありません。薬の本質的な部分を見落とさないようにすることも必要です。例えば、便秘型過敏性腸症候群の適応症を持つリナクロチド(リンゼス)は、実は食中毒の毒素エンテロトキシン[黄色ブドウ球菌が産生する毒素]であり、効果をいくら強調しても毒という本質を取り除くことはできない、という効果と害の両側面を持っています。
 ※副作用モニター情報〈498〉リナクロチド(リンゼス錠R)による下痢
https://www.min-iren.gr.jp/?p=35507

■臨床試験と実際の医療現場(リアル・ワールド)との違い

 このように審査報告書には薬の本質までは書かれていません。細かいことに気を取られ、「木を見て森を見ず」とならないような意識が求められます。また、薬だけでなく、治療全体の位置も含め見ておく必要がありますし、臨床試験と実際の医療現場での違いがあることも忘れてはいけません。臨床試験は「厳密に管理された限られた条件」で行われるものであり、医療現場では臨床試験の場では考えられないような出来事が発生するからです。常に危険と隣り合わせですので、それを理解した上で、薬は上手く使わなければ危険なだけ、ということなのです。

■新薬評価の活用を呼びかけます

 新薬評価の活用は民医連各県連や加盟事業所の、薬事委員会における新規医薬品の採用時の議論に、できるだけ時間をかけずに資料として使えるものをと考えています。副作用モニターは、「同じ医薬品による健康被害を繰り返さない」ということを主眼に置いていますが、新薬評価は「患者を助けるために必要な情報を収集し、公開する」ことで医薬品による健康被害を未然に防ぐ取り組みです。新薬評価は副作用モニターと両輪をなす重要な、かつ一定の速度を求められる難易度の高い取り組みです。審査報告書を読みこなすという大変な作業を、チームで分担し、相互に確認しあい、その結果を副作用モニターと同じように全日本民医連に集中してもらっています。結果については、評価母体については伏せた上で、会員専用のホームページ上に公開しています。パスワードは副作用モニターと同じです。臨床の場で直接、患者さんに説明をするときのツールとして積極的に使ってください。新薬評価を行う際に最低限調査すべき情報整理をするために、新薬ドリルも会員専用ホームページに公開しています。
 私たちは、医薬品評価委員として、3ヶ月に1回の会議の場で、新薬評価をしていただいた結果の公開の可否を判断しています。定期的に新薬評価を報告していただいている県連、各担当者の方々に敬意を表します。評価に必要な事項がきちんと書かれていれば、評価の内容が評価委員の意見と異なっていたとしても、それも評価の一つとして尊重する立場でチェックしています。今後も新薬開発のスピードと引き換えに、安全性が軽視される風潮に立ち向かうべく活動していきますので、副作用モニターと併せ、活用してください。

■追記 全日本民医連副作用モニターを「民医連新聞」紙上でおよそ毎月2回のペースで発信をはじめて500号を迎えました。これを機会に「新薬評価」に関しても2ヶ月に一回程度の頻度で外部にも発信していきます。
副作用モニター情報〈500〉 新薬モニター 帯状疱疹用剤アメナリーフ錠
https://www.min-iren.gr.jp/?p=35699

画像提供 千葉民医連・船橋二和病院 薬剤科
http://www.min-iren-c-y.jp/yakuzaisi/job01.html

■副作用モニター情報履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/k02_fukusayou/

■「いつでも元気」くすりの話し一覧
http://www.min-iren.gr.jp/?cat=26

■薬学生の部屋
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/index.html

**【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約640の医療機関や354の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

<【薬の副作用から見える医療課題】バックナンバ->
  1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
  21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
  22.過活動膀胱治療薬の副作用
  23.産婦人科用剤の副作用
  24.輸液の副作用
  25.鉄剤の注意すべき副作用
  26.ヘパリン起因性血小板減少症
  27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
  28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
  29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
  30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
  31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
  32. ATP注の注意すべき副作用
  33. 抗がん剤の副作用
  34. アナフィラキシーと薬剤
  35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
  36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
  37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
  38.漢方薬の副作用
  39.抗生物質による副作用のまとめ
  40.抗結核治療剤の副作用
  41.抗インフルエンザ薬の副作用
  42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
  43.水痘ヘルペスウイルス・帯状疱疹ウイルス治療剤の副作用
  44.薬剤性肝障害の鑑別
  45.ST合剤の使用をめぐる問題点
  46.抗真菌剤の副作用
  47.メトロニダゾールの副作用
  48.イベルメクチン(疥癬を治療するお薬)の副作用
  49.鎮咳去痰剤による注意すべき副作用
  50.総合感冒剤による副作用
  51.市販薬(一般用医薬品)の副作用
  52.健康食品・サプリメントによる副作用
  53.禁煙補助薬(チャンピックスⓇ、ニコチネルⓇ)の副作用
  54.ワクチンの副作用
  55.骨粗しょう症治療薬による副作用
  56.口腔内崩壊錠[Orally disintegrating tablet]による副作用
  57.その他の中枢神経症状をおこす薬剤
  58.抗凝固薬の副作用(ワルファリン、DOAC)
  59.抗血小板薬の副作用
  60.過量による副作用

■掲載過去履歴一覧
http://www.min-iren.gr.jp/?cat=28