守りたい9条
映画「コスタリカの奇跡」 軍隊を捨てた国
コスタリカ共和国※は、今から70年前に軍隊を廃止しました。
紛争の絶えない中南米で、武力に頼ることなく平和を維持してきた同国の歴史を描くドキュメンタリー映画「コスタリカの奇跡」が全国で自主上映中です。
ほぼ同時期に憲法で軍隊を廃止したコスタリカと日本。
なぜ、歩んだ道は違ったのでしょうか。
コスタリカは1948年に軍隊の廃止を宣言。軍事予算を福祉や教育に充て、地球幸福度指数で世界一に輝きます。教育と医療は無料。保険料を払えない人や、不法滞在者も無料で医療を受けることができます。もともと農業国でしたが、高い教育水準で最近は工業品の輸出も増えています。
軍隊を廃止したものの、決して安泰だったわけではありません。中南米は戦後、米国と旧ソ連の冷戦の舞台になりました。コスタリカは米国に近く、同国から何度も戦争協力の圧力がかかります。コスタリカはそのたび、外交努力と国際的な法の枠組みで平和を維持してきました。
1980年代にはニカラグアで内戦が勃発。反革命軍を支援する米国のレーガン大統領から、参戦を迫られたコスタリカは永世中立を宣言。当時のモンヘ大統領はヨーロッパを歴訪し支援を要請、各国から支持を得て米国を黙らせました。続いて大統領になったアリアスは対話で中米の和平成立に貢献し、1987年にノーベル平和賞を受賞します。
2003年にはイラク戦争が勃発。コスタリカ政府はいったん、米国中心の有志連合への参加を決めます。これに国民が激しく反発。法律を学ぶ学生だったロベルト・サモラが大統領を提訴。最高裁判所が戦争支援は違憲と断じ有志連合からの離脱を命じました。
今は弁護士になったサモラが映画の中で言います。「正義は戦争より強いと信じます。そして法的手段は武器よりも強いのです」。
法の力で紛争を解決
実際に侵略されたこともあります。2010年にニカラグア軍がコスタリカ領の島を占拠。慌てた政府は当初、自衛軍の必要性を訴えましたが国民が強く反対。大統領はハーグ国際司法裁判所に訴え、武力をいっさい交えることなく紛争が解決しました。
米国の圧力や緊急事態に、コスタリカといえども政府は揺れ動きます。しかし、そのたびに平和を望む国内の世論が、押し返しました。
軍隊を廃止した当時の大統領フィゲーレスが語ります。「私たちは軍に代わる“武器”に頼ってきました。それは国際的な法の枠組みです。コスタリカは国際法で国を守っています」。
国際的な世論で国を守る。そのために、コスタリカは国連にも積極的に協力してきました。フィゲーレスの娘、クリスティアーナさんは2010年から16年まで、国連の「気候変動枠組み条約」事務局長を務めました。
昨年7月に122カ国の賛成で採択された「核兵器禁止条約」の国連会議で議長を務めたのも、コスタリカ大使のエレン・ホワイトさんです。
私たち自身の課題
映画の監督は2人のアメリカ人。米国の大学で社会学を教える2人は、世界一の軍事国家である自国と比較しながら、コスタリカの国家建設プログラムを明確にします。
映画の中でコスタリカの識者が指摘します。「米国は世界中に武器を売りつけている。だから、どうしても戦争が必要なのです。政治的な問題を外交で解決されては困るのです」。
映画は劇場公開後も、全国各地で自主上映が続いています。先日、都内で行われた上映会では、コスタリカ駐日大使のラウラ・エスキベルさんが講演。「コスタリカのお母さんたちは幸せです。生んだ子が決して兵士にならないことを知っているから。コスタリカで一番強いのは、学校の制服を着た子どもたちです」と話しました。
上映運動を進める「9条地球憲章の会」の堀尾輝久さん(東大名誉教授)は「日本国憲法ができたのは、コスタリカの軍隊廃止より一年早い1947年。コスタリカより進んだ憲法を持ちながら、それを支える努力をどれほどしてきたのか。映画は私たち自身の課題を提起している」と訴えました。
映画 コスタリカの奇跡
■上映スケジュール
5月23日 東京都中野区(なかのZERO小ホール)
5月27日 東京都武蔵野市(武蔵野フォーラム)
6月10日 東京都目黒区(東京工業大学)
他に埼玉県母親大会、北海道母親大会で上映
■問い合わせ
プラ・ヴィダ!(上映サポートの会)
シネ・フロント編集部内(担当・浜田)
TEL.03-5802-3121 FAX.03-5802-3124
costarica@cine-front.co.jp
いつでも元気 2018.6 No.320