【新連載改訂】55.骨粗しょう症治療薬による副作用
骨粗しょう症治療薬は、以前は活性型ビタミンD製剤とカルシウム剤が一般的でしたが、現在は、さまざまな作用機序の薬剤が登場しています。今回は、骨粗しょう症治療薬について報告された副作用症例について、作用機序ごとに特集します。
骨粗鬆症に使用する薬剤は、ここ数年で様変わりしています。ビスフォスフォネート製剤、テリパラチド製剤、モノクローナル抗体製剤を中心に、当モニターに寄せられた副作用を追加しました(2024年4月27日更新)。
ビスフォスフォネート関連顎骨壊死などの副作用
現在、最も多く使われている骨粗しょう症治療薬が、ビスフォスフォネート系薬剤です。この系統の薬剤は、骨が溶出するのを防ぎ、弱っていくことを防止します。骨は、毎日作られたり溶けたりしていますが、骨粗しょう症の患者では、溶ける量が相対的に多くなるため、骨が弱っていきます。この系統の薬剤は、それを防止するのですが、弱点も存在します。「骨回転」時には、骨の硬さを保つカルシウム部分が作られますが、同時にそれ以外の部分(軟骨など)も作られています。この「骨回転」を止めてしまうので、ビスフォスフォネート関連顎骨壊死などの副作用が発現すると言われています。
近年、1日1回製剤の使用は減少し、週に1回、年に1回など長期間効果の持続する製剤が増えてきました。特に、年に1回製剤(注射剤、超長期製剤)は、投与初期の血中濃度の上昇により、急性腎不全、間質性腎炎などの副作用発現が報告されています。添付文書の警告欄に記載されており、骨粗しょう症の治療薬として得られるものと副作用の対比に十分な注意が必要と考えられます。
以下は何度か特集されたビスフォスフォネート系薬剤の記事の内容です。
★副作用モニター情報〈250〉 ビスフォスフォネート製剤(骨粗しょう症治療剤)の副作用について
2005年度にビスフォスフォネート製剤による副作用の報告が13件ありました(ボナロン7症例、ベネット3症例、フォサマック2症例、アクトネル1症例)。胃部不快感が4症例、腹部膨満感、胃痛が各2症例など、消化器症状の副作用が13症例(1件で複数症状含む)ありました。また、精神神経系の副作用 (めまい、ふらつき)が3症例、ほかに血痰、血圧低下が各1症例ありました。13症例のうち12症例は、中止後に回復しています。(1例は不明)。
発現までの期間は、1カ月以内が9症例(うち3日以内が5症例)、1カ月以上が4症例です。
〔症例1〕ボナロン錠を服用後、13日目で口内炎ができた。舌が白くなり痛みもあり、胃部に不快感。ボナロンを中止すると症状は軽減。この症例では正しく服用されていた(*注)。
〔症例2〕ベネット錠を服用開始して、1カ月後より血痰。継続服用中は血痰が続いた。胸部レントゲンでは陰影なし。中止後、血痰はなくなった。服用法は守られていた(血痰の副作用は添付文書記載なし)。
〔症例3〕ベネット錠を服用開始してから、ふらつきが起き、夕方まで続いた。翌日に再服用すると同じ症状が出現。中止すると軽快し、その後ふらつきの訴えはなし。
ビスフォスフォネート製剤は、服用方法が煩雑です。用法を守った場合でも、消化器症状、精神神経系の副作用が高い頻度で出現します。服薬指導と服薬後の症状観察が必要です。来院、来局時に疑わしい症状がないかを必ず確認してください。
副作用は服用開始後、早期に出現する場合が多いですが、1カ月後でも発症した例があり、服用期間中は常に注意が必要です。
(*注)口内炎・食道炎・胃炎をさけるため、起床してすぐコップ1杯の水で服用する。噛んだり、口の中で溶かしたりせず、すぐに飲み込む。寝た姿勢で飲んではならず、服用後30分は横にならず、食事もさける。
(民医連新聞 第1385号 2006年8月7日)
★副作用モニター情報〈263〉 ビスフォスフォネート製剤の副作用 第2報
2005年1月から2007年1月までにビスフォスフォネート製剤による副作用が98件報告されました。アレンドロ酸ナトリウム水和物(ボナロン・フォサマック)によるものが83件、リセドロン酸ナトリウム水和物(アクトネル・ベネット)によるものが15件で、その内、消化器系の副作用が74件で、全体 の76%を占めています。
〔症例1〕ボナロン服用21日目までは、胃痛などの症状はなかった(服用方法は遵守)。26日目ごろから胃部不快感があり、32日目に自己判断で中止。その後、症状は少しずつよくなった。
〔症例2〕ボナロンとアスパラCaを服用していた。13日目に口内炎ができ、胃腸の調子も悪化(服用方法は遵守)。服用20日目、口内炎は治らず、舌も白くなり痛み始める。ボナロン中止後、症状は次第に軽減した。
上記の2例とも「起床後、すぐコップ1杯の水で、噛まず、溶かさず、すぐに飲み込む。服用後30分は横にならず、食事もさける」という服用方法を守っていても副作用が発現しました。メーカーによると、消化器系の副作用発現までの期間は「1週間以内」がもっとも多いといいますが、100日以上経過して発現した症例も報告されています。副作用のチェックは継続することが必要です。
2006年11月にビスフォスフォネート製剤の重大な副作用として「顎骨壊死・顎骨骨髄炎」が追記されました。その症例のほとんどが抜歯などの歯科処置や局所感染に関連して発現しています。
また、多発性骨髄腫や乳癌・前立腺癌の骨転移などによる高カルシウム血症に対して、静脈内投与された症例がほとんどです。
しかし一方、骨粗鬆症に対する内服治療でも報告があります。骨粗鬆症治療の母集団から考えるときわめて稀な発症(国内では4例)ですが、重篤な副作用です。使用中に口腔内の異常(歯のゆるみ、歯が浮いた感じ、顎のしびれ・痛みなど)が現れた場合は、ただちに歯科、または口腔外科の受診をすすめることが重要です。
(民医連新聞 第1399号 2007年3月5日)
★副作用モニター情報〈290〉 ビスフォスフォネート系薬剤 長期投与の副作用(顎骨壊死など)にあらためて注意を
ビスフォスフォネート系薬剤の内服による顎骨壊死の副作用が報告されました。
〔症例〕80代女性。服用から症状発現までの期間は3年8カ月、合併症は高脂血症。
2003年2月より、ダイドロネル錠(R)200mgを1錠(1回/日)、2週間の処方を3カ月ごとに継続服用。06年10月に歯科受診し、顎骨壊死疑いで口腔外科での検査をすすめられる。11月に口腔外科受診。右下6部歯肉歯槽粘膜に腫脹があり、その頭頂部に「ろう孔」があり排膿がみられ、X線写真で 同部の顎骨壊死と考えられる像がみられた。義歯は入れておらず外傷もないため、原因は明らかでない。ダイドロネルの休薬が可能か処方医に照会があり、整形 外科で同薬の処方が中止となる。その後、3カ月ごとに口腔外科で定期検査しているが未回復。
ビスフォスフォネート系薬剤については、過去にも消化器症状や顎骨壊死に関する情報を発信してきました。
顎骨壊死の副作用については、今年1月に日本口腔外科学会の監修で『ビスフォスフォネート系薬剤と顎骨壊死~理解を深めていただくために~』のパンフレットが作成され、各製造販売企業から現場に再度注意喚起が行われています。
本症例は、極めてまれといわれる内服薬で起きていること。また、侵襲的歯科措置などのリスク因子もない症例であることに注意が必要です。
あらためて、本剤の使用中は口腔内の異常(歯のゆるみ、浮いた感じ、顎のしびれ・痛み)をモニターすること、症状が現れた場合は、ただちに歯科または口腔外科の受診をすすめることが重要です。
また顎骨壊死のほか、本剤を使用して数カ月から数年後に、投与の一時中断や中止を必要とする重度の筋骨格痛が出現する可能性があるとの警告が、1月に米国FDA[アメリカ食品医薬品局、Food and Drug Administration]より出されています。
日本でも広く臨床に使用されるようになって数年が経過し、長期に服用している患者数も増えています。長期投与に関連する副作用の発現に注意が必要です。
(民医連新聞 第1430号 2008年6月16日)
★副作用モニター情報〈419〉 ミノドロン酸50mg錠による痛みについて
骨粗しょう症治療に用いられるビスフォスフォネート製剤である、ミノドロン酸50mg錠(monthly製剤=製品名:ボノテオ錠、リカルボン錠)による痛みの副作用報告が、過去1年間に3例ありました。
症例)70歳前半、女性 ミノドロン酸50mg錠を初回服用。翌日から倦怠感があり右肩が上がらず、2日後から全身の痛みが出現し、眠れなくなった。症状は少しずつ軽減し約20日後に回復した。
経口ビスフォスフォネート製剤は服用方法が煩雑であることから、毎日服用のdaily製剤からweekly製剤(週に1回服薬)、あるいはmonthly製剤(月に1回服薬)へと、用量を増やし投与間隔を空ける工夫がされてきました。
今回の症例のような全身倦怠感、関節痛、筋肉痛、発熱、骨痛などのインフルエンザ様症状は、窒素を含有する第2世代以降のビスフォスフォネート製剤で多くみられます。毎日服用する低用量製剤に比べ、高用量製剤では特に服用後3日以内の急性期症状が報告されています。
ミノドロン酸については、市販後に「筋・骨格痛」が発現するケースが集積され、2012年6月には添付文書へ追記となりました。原因は未解明ですが、窒素含有のビスフォスフォネート製剤の作用の過程で、集積されるイソペンテニルピロリン酸という物質が、炎症性サイトカインの合成を促進し、筋・骨格系副作用に つながるのではないかとみられています。
症状の多くは軽微で、2週間以内に回復することが多いようです。「2週間程度はdaily製剤を服用、その後weekly製剤かmonthly製剤へ変更することで防止できる」という報告もあります。
しかし、今回のような一過性の急性期症状とは異なる重度の筋骨格系疼痛の症例も報告されており、昨年発売されたmonthlyの注射製剤であるイバンドロン酸ナトリウム(ボンビバ静注)では、承認時に製造販売後調査の必要性が指摘されています。
(民医連新聞 第1576号 2014年7月21日)
★副作用モニター情報〈428〉 ビスフォスフォネート系骨粗しょう症治療薬のインフルエンザ様症状・関節痛
ビスフォスフォネート系骨粗しょう症治療薬について、インフルエンザ様症状、関節痛の副作用報告があったので紹介します。
症例)70代女性。ボナロン初回35mg。服薬翌日から発熱、腰痛が出現。ボナロン5mg連日投与に変更し、その後症状は改善したが、服用2カ月後に関節痛が出現。
インフルエンザ様症状は急性期反応で、一過性の発熱、背部痛、倦怠感、関節痛などの症状が見られます。ほとんどは軽症で、継続して使用していても、症状はやがて消失します。発生頻度は月1回製剤>週1回>毎日投与、の順に多いと報告されています。破骨細胞内でメバロン酸代謝経路のイソペンテニル酸からファルネシルピロリン酸への合成経路を阻害し、イソペンテニルピロリン酸が増加することで急性期反応を引き起こすと考えられています。
関節痛に関しては、2008年にFDA(アメリカ食品医薬品局)の通知「ビスフォスフォネート系薬剤:重度の筋骨格筋痛発現の可能性」で、ビスフォスフォネート 系薬剤を使用した後、場合によっては動作不能となる骨痛、関節痛や筋痛が生じる可能性がある、と指摘されています。重度の筋骨格痛は、ビスフォスフォネート系 薬剤の使用開始から数日、数カ月または数年以内に生じる可能性があり、薬剤の中止後、完全に消失した報告もあるが、不完全との報告もある、とされています。
インフルエンザ様症状は、使用を継続した場合でも、数日以内に消失する傾向にあります。一方、筋骨格痛は疼痛や機能障害が持続し、鎮痛剤を必要とする ケースもあります。そのため、ビスフォスフォネート薬剤が原因の可能性がある場合は、一時的または完全な使用中止を検討すべきです。
(民医連新聞 第1585号 2014年12月1日)
★副作用モニター情報〈481〉 年1回投与 骨粗しょう症治療剤ゾレドロン酸注射液による急性期反応
ゾレドロン酸(商品名:リクラスト注)は、2016年に発売されたビスホスホネート製剤(BP製剤)で、骨を壊す破骨細胞の働きを抑える骨粗しょう症治療薬です。
本剤による急性期反応の報告がありました。急性期反応とは、発熱や筋肉痛、インフルエンザ様疾患を指します。BP製剤の場合、骨組織に沈着する前の血中で炎症反応が誘発されて起きます。
症例)70代、女性。発症前日、外来でリクラスト点滴。翌朝、39.2℃の発熱で入院。インフルエンザ迅速検査は陰性。夜、めまいで転倒、嘔吐あり。頭部CT異常なし。発症2日目、38.7℃、めまいあり、嘔気なし、インフルエンザ迅速検査は陰性。3日目、37.9℃、めまいあり。4日目で解熱、めまいなし。5日目までカロナール服用。12日目に退院。
* *
ゾレドロン酸注射液は、もともと悪性腫瘍による高カルシウム血症、多発性骨髄腫や各種固形がんの骨転移に処方されていました(商品名:ゾメタ、1回量4mg)。骨粗しょう症には、5mg/100mlを15分以上かけて点滴静注、年1回の用法用量です。1回量が悪性腫瘍より多いのは、海外承認量を導入したためです。
発熱の発現率は、リクラスト注5mg39.3%、ボンビバ注1mg(月1回投与)0.6%、ボナロン注900μg(4週に1回)0.9%、ボナロン錠35mg(週1回1錠)0.1%未満です。急性期反応の発症が血中濃度に比例すると推測した場合、投与間隔が空くほどリスクも高まると考えられます。
本剤は年1回製剤ですが、腎機能障害発現有無の確認や低カルシウム血症の検査が必要です。ねたきりや認知症、独居高齢者など通院困難な患者が投与対象とされますが、高熱が出た時に介護者がいなければ重大な事態を招く恐れがあります。血中濃度が下がるまで消炎鎮痛剤(NSAIDs)の服用が推奨されますが、併用で腎障害のリスクが指摘されています。
特に高齢者に投与する場合は、十分な説明と患者・家族の理解が必要です。
(民医連新聞 第1647号 2017年7月3日)
「リクラスト(一般名:ゾレドロン酸水和物)については、上記症例に続き、重篤な腎障害の報告がありましたので、緊急に追加記事を掲載しました。
★副作用モニター情報〈484〉 年1回投与 骨粗しょう治療剤リクラストの使用にふたたび警鐘!
症例)骨折で入退院を繰り返す70代女性。週1回内服していたアレンドロン酸ナトリウム35mgを注射剤へ変更。リクラスト注を15分かけて点滴静注。投与6日後、発熱などの急性反応がないことを確認。投与10日後、血清クレアチニンが上昇し3.42mg/dlに。投与12日後に訪問、元気で尿も出ていたが腎不全の可能性あり入院。容態悪化し、腎不全は改善していない。
2011年に米国食品医薬品局(FDA)が出した本剤の安全性情報には、腎不全の死者が3年で16人、透析導入も9人と報告されたことから、「クレアチニンクリアランス35ml/分以下は使用すべきでない」とされました。これを受け添付文書も改訂されました(https://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm270199.htm)。
日本の適正使用手引は「BP製剤は尿細管への毒性を有し、毒性の強さは持続時間よりも最高血中濃度に依存」としています。
有効成分のゾレドロン酸の強さはミノドロン酸(商品名:ボノテオ)に匹敵します。ミノドロン酸の消化管吸収率をみると1日常用量1mg中0.012mgが体内に吸収されます。これを参考にすると本剤を5mg静注した場合、1日推定必要量の約400倍が血中に入ります。当然、他のBP製剤より腎毒性が現れやすいことが考えられます。
今回の症例は、利尿剤、ACE阻害剤、NSAIDsを併用しており、腎への「3段攻撃」状態でした(副作用モニター396号、2013年6月17日付参照)。
本剤の安易な投与は危険です。年1回の利便性だけでなく、リスクをしっかり把握しましょう。投与前の腎機能評価と投与後少なくとも1カ月は腎機能のモニター等が必要ですが、このような管理が出来る患者は限られています。
(民医連新聞 第1650号 2017年8月21日)
ビスフォスフォネート系薬剤と違う作用機序で働く骨粗しょう症治療薬に、ラロキシフェン錠があります。この薬剤は女性ホルモンの卵胞ホルモン(エストロゲン)と同様に作用して、骨のカルシウム分が血液に溶け出すのを防ぎます(骨吸収抑制作用)。女性の閉経後骨粗しょう症に第一選択されることが多くなりました。元々、エストロゲン製剤が骨粗しょう症に使われることが多かったのですが、血栓症という重大な副作用があるため、この薬剤が開発されました。
使われることが多くなると、エストロゲン製剤とは違う副作用が目立つようになってきました。何回か特集をしていますので、ご覧ください。
★副作用モニター情報〈246〉 塩酸ラロキシフェン錠(エビスタ®錠)による霧視
〔症例1〕エストリオール(エストリール錠)1㎎から本剤に変更。開始1カ月後に「目のかすみ」を訴える。エビスタ錠を中止し、眼科受診をすすめる。2カ月たっても目のかすみが続くと訴えあり。
〔症例2〕エビスタ錠を開始。1カ月後の受診時に「目のかすみ」を訴える。エビスタ錠を中止し、眼科受診を勧める。2カ月後も訴え続く。
〔症例3〕エビスタ錠を開始して1カ月後、調剤薬局に電話があり「目のかすみ」を訴える。医師に確認し、中止とする。その後訴えなし。
〔症例4〕エビスタ錠を投与開始後、1日で足にピリピリとした痛みと「目のかすみ」を訴え、中止となる。1カ月後の受診は、特に訴えなし。
2004年4月に発売された本剤は、骨形成を阻害することなく骨吸収を抑制し、強力な骨量増加作用を有するとされています。さらにビスフォスフォネート系薬剤とは異なり、1日1回、いつ服用しても良いため、閉経後の女性の骨粗しょう症に投与されるケースが増加しています。
一事業所から報告があったこれらの症例は、いずれも70代から80代の高齢者です。目のかすみなどは、薬剤によるものとは気づきにくい副作用だと思われます。急性視力障害は静脈血栓症の前駆症状としても注意が必要であり、迅速な対応が必要です。メーカー報告によれば、視力低下・霧視などの視力障害は、いずれも1カ月以内の早期に出現し、投与を中止すべきとされています。本剤が開始となった患者様には、「目のかすみ」の症状に注意し、出現したらすぐ連絡する よう伝えるとともに、開始から少なくとも2カ月間は、受診時には毎回、「目のかすみ」について、必ず問いかけることが大事です。
(民医連新聞 第1381号 2006年6月5日)
★副作用モニター情報〈283〉 骨粗しょう症治療剤(エビスタ錠)の副作用
骨粗しょう症治療剤ラロキシフェン(エビスタ錠®)は、抗乳がん剤タモキシフェンや排卵誘発剤クロミフェンに類似した薬物群に属します。
その副作用報告が多数寄せられています。骨粗しょう症に対するホルモン補充療法が血栓症の危険を高めるという理由で、積極的に行われなくなったことを背景に、ラロキシフェンの使用量が増加していることと関係しているようです。
副作用モニターに寄せられた報告は、2005年から合計で33件になりました。
前回の報告には、視力低下や霧視などの視覚障害があったので、注意を喚起しました。
今回の報告では、それらに加え、肺塞栓、浮腫や体重増加、動悸などの循環器系症状、胃痛や吐き気などの消化器症状、頭痛、手足のしびれなどの神経系、発疹が見られました。
このように、ラロキシフェンの副作用報告は多様です。
メイラーの副作用大事典には「タモキシフェンの急性の副作用はエストロゲンに伴う副作用で(中略)反射性混濁を伴う網膜症、嚢胞様黄斑浮腫、角膜症などを含む、いくつかの目の合併症、両視神経炎の報告がある」と記載されています。
ラロキシフェンは、タモキシフェンに比べ、血栓症のリスクは低いとされていますが、報告の中に肺塞栓症の報告が見られるように、血栓症の副作用の危険は 存在します。そのほかの副作用も類似していると予測できます。
婦人科や整形外科で処方される機会が多いと思いますが、内科や眼科領域のフォローも忘れないようにしましょう。間違っても男性に処方しないよう注意を願います。
(民医連新聞 第1422号 2008年2月18日)
次に、6ヶ月に1回注射を行うことで骨粗しょう症を治療するデノスマブ(商品名:プラリア)についてです。この薬剤が作用する標的は骨が溶け出す過程に関与するRANKリガンド(RANKL)であり、この物質を阻害することによって骨粗しょう症を治療します。
低カルシウム血症の副作用が多いため、それを防止するために、沈降炭酸カルシウム/コレカルシフェロール(天然型ビタミンD)/炭酸マグネシウム配合錠が同じ製薬会社から発売されました。
★副作用モニター情報〈453〉 骨粗しょう症治療薬デノスマブ(遺伝子組み換え)による顎骨壊死
2013年、骨粗しょう症治療薬のヒト型抗RANKLモノクローナル抗体製剤デノスマブ(商品名:プラリア皮下注60mgシリンジ)が発売されました。成人の用法・用量は「6カ月に1回、60mgを皮下注射」です。
人間の骨は、壊されたり、新しく作られたりを毎日繰り返しながら、最終的に必要な骨量を保っています(骨回転)。しかし、加齢によって作られる骨の量が減っていくと、壊される骨の量の方が相対的に多くなるため、骨はいわばスカスカの状態になっていきます。これが骨粗しょう症です。
デノスマブは、骨を壊す細胞(破骨細胞)の働きを弱め、骨粗しょう症を改善します。今回、この薬剤による副作用で顎骨壊死の症例が報告されました。
症例)60代女性。デノスマブ投与11カ月後に、歯茎の腫れが気になり始めた。口腔外科を受診したところ、顎骨骨髄炎による顎骨壊死と診断。その後、口腔外科で外科手術を行い、抗生剤投与などをされた。その後、デノスマブの投与は中止し、他剤に変更。
これまで、当モニターでビスフォスフォネート系薬剤による顎骨壊死は何度かとりあげてきました。デノスマブは、ビスフォスフォネート系薬剤とは違う働きをしますが、結果的には骨を壊す働きを弱めるため、骨回転に影響し、副作用が出るとみられています。そのため、顎骨壊死には十分な注意が必要です。
また、顎骨壊死は、悪性腫瘍、化学療法、コルチコステロイド治療、放射線療法、歯科処置の既往、口腔状態が不衛生であるなどの要因で発症頻度が高くなると言われています。顎骨壊死を防ぐためには、デノスマブの投与前に患者に適切な歯科検査を受けてもらい、抜歯など侵襲的な歯科処置は済ませておくことが大切です。
(民医連新聞 第1614号 2016年2月15日)
★副作用モニター情報〈487〉 骨粗しょう症治療剤プラリア(デノスマブ)の低カルシウム血症
プラリア(一般名:デノスマブ)は骨粗しょう症治療剤で、RANKL(破骨細胞の形成・機能・生存に重要な役割を果たすタンパク質)の働きを阻害して破骨細胞の活性化を抑制し骨吸収を抑えます。
同成分製剤のランマーク(デノスマブ120mg、適応:多発性骨髄腫による骨病変等)では、低Ca(カルシウム)血症による死亡例があります。当モニターには3年間でデノスマブの副作用が5件報告され、ランマークは2件(低Ca血症)、プラリアは3件(腎不全・うっ血性心不全・深部静脈血栓症、顎骨骨髄炎、低Ca血症)でした。
症例)80代後半、女性。プラリア投与前3カ月のCa値は8.5mg/dl。投与翌日に7.9mg/dl、9日目には6.3mg/dlと低下し、10日目に骨折で入院。11日目5.3mg/dlとさらに低下。Ca剤内服増量、ビタミンD製剤追加し、グルコン酸Caを注射。Ca値をモニタリングしつつ補充量を調節し、8.2mg/dlで安定するまで59日を要した。
同剤は、「成人には6カ月に1回、60mgを皮下注射」と投与頻度が少ないため、長期間の治療継続が期待されました。しかし、定期的なCa値のモニタリングや腎機能チェックなど、リスク管理を見落とす危険性もあります。
低Ca血症のリスクは腎機能障害の程度に従って高くなるので、高齢者では特に注意が必要です。発現は投与開始から数週間以内が多いものの、それ以降にも起こり得ます。Ca値の定期的なモニタリングと患者への説明が不可欠です。Ca値のモニタリングは、(1)毎投与前、(2)低Ca血症のリスク因子がある患者(重度の腎機能障害、クレアチニン・クリアランス30ml/分未満など)では初回投与後2週間以内、(3)低Ca血症が疑われる症状(筋のけい縮、ピクピクした動き、けいれん、あるいは手指・足指・口囲のしびれ感、ピリピリ感など)が現れた時に推奨されています。
今年4月には、重大な副作用に「治療中止後の多発性椎体骨折」が追記されましたが、7月には「関節リウマチに伴う骨びらんの進行抑制」の効能・効果が追加承認され、今後使用量が増える可能性もあります。プラリアはランマークに比べて用量は少ないものの、重篤な低Ca血症が起きないよう安全面を十分にフォローできる患者選定も重要です。
(民医連新聞 第1653号 2017年10月2日)
複数回のプラリア皮下注使用歴がある患者に、難治性低Ca血症が発症した症例が報告されましたので紹介します。
症例)70代女性。体重27kg(BMI:12.0)、血清Cre値:0.87。他院でプラリア皮下注を6ヶ月毎に使用していた(デノタス錠併用)。往診管理へ変更となったが、9回目のプラリア皮下注実施後に癌治療目的で入院し、小腸切除術を行った。これにより残存する腸管は2cm程度となっている。退院6ヶ月後に10回目のプラリア皮下注を実施し、投与15日目の採血にて、血清Ca値:5.9(補正後)と低Ca血症が発覚。デノタス配合錠増量(2T→4T)するも改善せず投与21日目に入院。血清Ca値:5.7(補正後)、低Mg血症も出現。カルチコール注、マグネゾール注を開始。血清Ca値、Mg値ともに一定の改善見られたが、低値が持続した。最終的に投与50日目に低Ca血症は改善した。
患者は低体重があり、潜在的に腎機能が低下していた可能性があります。また、副作用発現前の血清Ca値は不明ですが、術後短腸状態でプラリア皮下注投与を行ったことと、今回の副作用発現には因果関係があると思われます。
一旦低Ca血症に陥ると、作用時間の長いプラリア皮下注の効果により血清Ca値はなかなか改善せず、今回の症例も回復まで約2ヶ月の治療期間を要しました。
(民連新聞 第1800号 2024年2月19日号)
★副作用モニター情報〈398〉 エルデカルシトールによる高カルシウム血症
エルデカルシトール(商品名:エディロールカプセル)は、活性型ビタミンD3誘導体です。ビタミンD3は、腸管でのカルシウムやリンの吸収を促進 させる作用があり、カルシウム代謝調節作用、骨代謝調節作用、副甲状腺ホルモン分泌抑制作用及び細胞分化誘導作用などの生理作用を有しています。骨粗しょう症の薬物治療ガイドラインでは、活性型ビタミンD3製剤の中でも本薬のみが、骨密度増加、椎体骨折予防の点から強く推奨されています。しかし、本薬は日本のみの限定販売で、いわゆるローカルドラッグです。
臨床試験においては、既存の活性型ビタミンD3製剤(アルファカルシドール)と比較して、骨密度の優位な増加、骨折率の低下が特徴とされています。本薬の治療用量の0.75μgは、アルファカルシドール1μgに相当します。半減期の長さ約49時間(アルファカルシドールは約17時間)による、血中カルシウムの持続的な上昇が影響していると考えられます。他にも要因はあるとは思われますが、このことは高カルシウム血症のリスクのひとつと考えていいでしょ う。さらに、カルシウム値が高値になった場合は、本薬を減量することとされていますが、0.5μgでの有用性のエビデンスはありません。
過去1年間で、民医連副作用モニターに寄せられた本薬による高カルシウム血症は3件。そのうち2件は、他の活性型ビタミンD3製剤からの切り替えによる症例です。
この1年間の高カルシウム血症の報告数は少ないですが、切り替えの際にも、やはり軽視できません。初期投与に対しては言うまでもありませんが、投与中は 血清カルシウム値を定期的(3~6カ月に1回程度)に測定すること。特に、処方対象者が多い高齢者では腎機能が低下している場合も多いため、高カルシウム 血症の発現リスクも高いと考えられます。高カルシウム血症に関連する症状(倦怠感、いらいら感、嘔気、口渇感等)の発現に注意してください。
(民医連新聞 第1552号 2013年7月15日)
骨粗鬆症に使用する薬剤は、ここ数年で、ビスホスホネート系の注射剤、RANKL (receptor activator of nuclear factor-κβ ligand)阻害剤、そしてカルシウム(Ca)の挙動をコント ロールする副甲状腺ホルモン(パラソルモン・PTH)類似の注射剤などが次々と登場し、様変わりしています。今回はそのうち、PTHに関連する2製品について、当モニターに寄せられた副作用を紹介します。
★副作用モニター情報〈426〉 PTH類似骨粗鬆症用注射剤
・フォルテオ
(一般名:テリパラチド)
腎・泌尿器関連の症状では、腎障害、頻尿、尿酸値上昇が各2例、腎結石、むくみが各1例。循環器系では、血圧が高い、胸の苦しさ、動悸が各1例。消化器 系では、悪心、吐き気が各2例、下痢、食欲低下が各1例。精神神経系では、頭痛3例、脱力感(倦怠感)2例、めまい、見づらい、舌のしびれ、憂鬱が各1 例。その他、胸腹部痛が1例。また、腎機能が徐々に低下していく傾向が24週の投与を終了した症例で出現していました。
・テリボン皮下注用
(一般名:テリパラチド酢酸塩)
循環器系では頻脈2例、血圧低下1例。消化器系では嘔吐、吐き気、食欲低下が各1例。その他、倦怠感2例、発熱1例。
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一部の症状について考察を試みました。
PTHは、血液中のCa濃度を高めるために、まず腎臓でCaの再吸収を促進し、それでも足りない時には骨からCaを動員します。PTHの反復投与を行う と、PTHの消失が速いため骨からはCaが動員されない一方で、腎臓は繰り返しCa再吸収の負荷を強いられて徐々に機能が低下、その上、内部のCa濃度が 高まって、Caが溶解しきれずに結石する、と説明が可能です。心筋においてはPTHは陽変力作用(収縮力の増強)を誘導するため、当然、酸素需要が増加し ます。結果、狭心症症状が出ても不思議ではありません。頻脈の出現も理解できます。
まだ使用経験の浅い薬剤ですので、注意深く観察を行い、治験データの基準となっている24週投与終了時に症例をまとめるなど、薬剤の正体を見極められるよう、使用後評価にとりくんでみませんか?
(民医連新聞 第1583号 2014年11月3日)
★副作用モニター情報〈514〉 テリパラチド(フォルテオ皮下注)による外耳道壊死
骨粗しょう症治療薬のフォルテオ皮下注によると考えられる外耳道壊死の報告がありました。
症例)90代後半女性、体重37kg。併用薬:ドパコール、ゾニサミド、ドネペジルなど。
骨盤骨折で入院後、フォルテオ皮下注開始。同月内に本人の希望で耳鼻科を受診したところ、右外耳道耳漏あり。翌月には、外耳道後壁、下壁に骨露出がみられた。
骨粗しょう症薬との関連について薬局で調査し、フォルテオによる副作用が疑われたため中止し、経過フォロー中。ビスフォスフォネート系薬剤の使用歴はありませんでした。
これまでも顎骨壊死など骨壊死の副作用として、骨粗しょう症治療薬のなかでも骨吸収抑制作用の強いビスフォスフォネート系薬剤や、デノスマブ(プラリア皮下注)について報告してきました。フォルテオ皮下注は副甲状腺ホルモン製剤であり、相対的に骨形成を高める意味で、ビスフォスフォネート系薬剤とは作用機序が異なります。当副作用モニターには悪心、嘔気などの消化器系障害や、めまい、ふらつき、筋けいれんなどが主に報告されていましたが、今回、初めての外耳道壊死の報告でした。
PMDAへの集約では、2010年の発売から14年までは全く報告がありませんが、15年以降は、顎骨壊死が6例、骨壊死で6例の報告があります。メーカーへの問い合わせでも、顎骨壊死とともに本症例同様の外耳道壊死の報告がありました。
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骨壊死の発生機序の一つとして感染の関与が指摘されています。フォルテオでは、発生頻度はまれですが、外耳道炎の既往がある場合や、使用後に耳のかゆみ、熱っぽさなどの違和感がないかも注意しておくべきと思われます。
(民医連新聞 第1689号 2019年4月1日)
**【薬の副作用から見える医療課題】**
全日本民医連では、加盟する約640の医療機関や354の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。
<【薬の副作用から見える医療課題】INDEX>
1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
4.睡眠剤の注意すべき副作用
5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
8.抗パーキンソン薬の副作用
9.抗精神薬などの注意すべき副作用
10.抗うつ薬の注意すべき副作用
11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
12.点眼剤の副作用
13.消化器系薬剤の様々な副作用
14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
15.抗不整脈薬の副作用
16.降圧剤の副作用の注意点
17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
18.脂質異常症治療薬の副作用について
19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
22.過活動膀胱治療薬の副作用
23.産婦人科用剤の副作用
24.輸液の副作用
25.鉄剤の注意すべき副作用
26.ヘパリン起因性血小板減少症
27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
32. ATP注の注意すべき副作用
33. 抗がん剤の副作用
34. アナフィラキシーと薬剤
35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
38.漢方薬の副作用
39.抗生物質による副作用のまとめ
40.抗結核治療剤の副作用
41.抗インフルエンザ薬の副作用
42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
43.水痘ヘルペスウイルス・帯状疱疹ウイルス治療剤の副作用
44.薬剤性肝障害の鑑別
45.ST合剤の使用をめぐる問題点
46.抗真菌剤の副作用
47.メトロニダゾールの副作用
48.イベルメクチン(疥癬を治療するお薬)の副作用
49.鎮咳去痰剤による注意すべき副作用
50.総合感冒剤による副作用
51.市販薬(一般用医薬品)の副作用
52.健康食品・サプリメントによる副作用
53.禁煙補助薬(チャンピックスⓇ、ニコチネルⓇ)の副作用
54.ワクチンの副作用
55.骨粗しょう症治療薬による副作用
56.口腔内崩壊錠[Orally disintegrating tablet]による副作用
57.その他の中枢神経症状をおこす薬剤
58.抗凝固薬の副作用(ワルファリン、DOAC)
59.抗血小板薬の副作用
60.過量による副作用
61.新薬評価について
62.添付文書記載のすみやかな更新が必要な薬剤
■掲載過去履歴一覧
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