MIN-IRENトピックス

2018年1月31日

安心して住み続けられるまちづくり・奈良 
社会とつながるパン屋

文・井口誠二(編集部)  写真・若橋一三

 昨年2月、奈良市にパン屋「EDDY」がオープン。
 開店当初から「無添加でおいしい」と評判です。
 店内では、精神障害のある人たちが生き生きと働いています。

 EDDYが開店する午前10時、早速1人の女性が店のドアを開けました。焼き立てのパンを見渡しながら、食パンコーナーの「予約済」の札に目を留めます。
 「あら、食パンはもうないの?」。
 「申し訳ございません。本日は予約で完売です」。
 食パンはEDDYの1番人気。おいしさもさることながら、1斤200円という手頃な価格なので、ほぼ毎日予約完売です。
 キッチンでは、パン職人の南田早苗さん(29)が次々とパンを焼き上げていました。横では、サンドイッチの具材を切る人や袋に入れる人、焼き上げたパンを並べる人などスタッフ6人が忙しく動き回っています。

地域の中で人と接して

 人気店のEDDYですが、パン職人は最年少の南田さん1人だけ。スタッフの多くは精神障害を抱えながら働いている人たちです。
 EDDYは、奈良民医連の障害福祉サービス事業所リベルテが運営する「生活介護事業」の施設。スタッフ16人のうち、南田さんと精神保健福祉士の角谷淳吾さん、パート1人を除く13人が精神障害者です。
 「生きていく上で、働くことは単純にお金を得るだけではなく、社会と接する機会を得ることでもあるんです」と角谷さん。福祉の目線を持つ仲間として、EDDYを支えています。
 障害を持つ人の仕事というと、作業所で工芸品やクッキーを作る“内向きの仕事”がよくあります。しかしリベルテでは社会との接点を重視し、地域の中で働く場所を作ろうと、パン屋を開くことにしました。
 「精神障害のある人が、人と接する仕事をするのは大変なのでは」と、オープン当初から働いている斎藤健さん(39)に聞いてみると、「確かに人と話すレジの仕事なんかは大変ですし疲れます。けれど、仕事ができるという自信にもなるし、充実感があるんですよ」と笑顔で教えてくれました。
 斎藤さんは25歳で統合失調症と双極性障害が分かりましたが、病気を隠して一般企業に就職。しかし、次第に働くのが難しくなり退職し、リベルテに出会いました。その後、パン屋開設の話を聞き「パン作りを覚えたいな」と、オープニングスタッフに名乗りを挙げたそうです。

認められるパン屋に

 EDDYのオープン時、「パン屋の働き方」を知っているのは南田さんだけ。「あの頃はめっちゃ大変でした」と笑います。そんな南田さんも店を切り盛りするのは初めて。何もかも手探りでドタバタの毎日でした。
 そんな日々を乗り切れたのは、研修でのスタッフのレベルアップ。定休日の火曜日に、パン作りの練習をする研修と、勉強会や企画会議をするミーティングを交互に行い、できることを少しずつ増やしてきました。
 南田さんは「今はまだ私しかパンが作れないけど、皆にも自分の作ったパンが売れる喜びを知ってほしい。そのためには、まず“一人前”のパン屋として認められること。それが私のできることですし、夢でもあり目標ですね」と力強く話します。
 EDDYは開設1周年に向けて、なんと1品100円の記念セールを準備中。地域で認められるパン屋を目指して、挑戦と成長の日々は続きます。

いつでも元気 2018.2 No.316

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