いつでも元気

2018年1月31日

まちのチカラ・和歌山県みなべ町 
日本一の梅と紀州備長炭の歴史

文・写真 牧野佳奈子(フォトライター)

「一目百万、香り十里」と称される南部梅林(みなべ町提供)

「一目百万、香り十里」と称される南部梅林(みなべ町提供)

 梅栽培400年の歴史を誇るみなべ町は、「南高梅」誕生の地で、日本一の梅の産地です。
 2月には辺り一面に白い梅の花が咲き誇ります。
 梅林の奥に広がる雑木林では、はるか平安時代から炭づくりが盛ん。
 時を超えて輝く紀州の宝を探しに行きました。

ブランド「南高梅」誕生の地

 海沿いを走る国道42号線から内陸部へ車で10分。みなべ町の顔ともいえる「南部梅林」は、梅で覆われた山を背に太平洋を望む、まさに“梅の里山”です。
 山の斜面にびっしり植えられた梅の木の根元には、受粉時に活躍するミツバチの巣箱が。1月下旬から蕾が膨らみ、2月初旬にはほのかに甘い香りが漂う中、可憐な梅の花が一斉に咲き誇ります。
 地域で梅栽培が盛んになったのは江戸時代初め。稲作が振るわず生活に苦しんでいた農民たちに、地元の藩主が以前からあった「やぶ梅」の栽培を奨励しました。もともと梅は、戦の常備食「梅干丸」として武士に親しまれていたほか、薬や茶菓子としても大切な果実でした。次第に江戸でも人気となり、「紀伊田辺産」の焼き印が押された梅樽が広く流通します。
 地元の人たちが品種選抜に取り組み、1965年に「南高」と命名されたブランド梅が誕生。今では全国で生産される梅の約3割がみなべ町産で、日本一となっています。
 役場に行くと1階フロア正面に「うめ課」の文字が。1973年から町の梅産業を振興しているそうです。近年は大学と連携した効能研究や特許申請、梅おにぎりづくりを奨励する「梅干しでおにぎり条例」、全国の高校生が梅レシピを開発し競い合う「UME―1(ウメワン)グルメ甲子園」など、若者の梅離れ対策にも余念がありません。
 「道の駅みなべうめ振興館」では梅の歴史と効能を学び、町のあちこちにある販売店でさまざまな味付けの梅干しを試食するのも楽しいひと時。梅の奥深さを体感できること、間違いなしです!

午前3時 真っ赤に燃える炭

 紀州は炭焼きも盛ん。かつて空海が中国から持ち帰ったといわれる炭焼き技術は、森林資源が豊富で高野山にも近い南紀地方で定着し、「熊野炭」として珍重されました。江戸時代には備長炭と名を変え、江戸でも引っ張りだこの人気商品に。特にウバメガシという樫類の木で作られた備長炭は最高品質で、職人はウバメガシを求めて山を移動しながら炭焼きをしたそう。
 その歴史と技術は、みなべICから車で約20分の山間にある「紀州備長炭振興館」で詳しく学べます。原木の伐採から出荷まで12工程のうち、窯出しをする職人さんがいると聞き案内してもらいました。窯出しとは、原木を窯に入れ火を付けてから約1週間後、炭化した炭材に少しずつ空気を送って1日燃やした後に窯から取り出す作業です。
 取材したのは、7年前に“脱サラ”して修行を始めた岡崎光男さん。「炭焼きは一生涯修行です。特に難しいのは窯付け。窯を閉めて炭化させるタイミングを、煙の匂いと色で判断します」。それは窯の古さや癖によっても変わり、「早すぎたら点火し直し、遅すぎたら炭の質が悪くなる」とのこと。炭焼きは「腕半分、窯半分」と言われるほど窯の調子にも左右されるそうです。
 午前3時過ぎ、窯出しが始まる頃に再び訪問。窯の中で真っ赤に燃え盛る炭を、エブリという長さ約3mのステンレス棒で掻き出す岡崎さん。窯の入り口からは紫色の炎がゴーっと音を立てて吹き上がっていました。
 「炭はすぐに出さないで、表面がケバケバになって光るまで待つんです」。窯の中をよく見ると、確かに奥の方の炭はうすら白いだけで光っていません。こうして完全燃焼した炭を1本1本取り出し、灰を被せて冷やす作業は朝10時頃までかかるそうです。

午前3時過ぎ、窯出し作業をする岡崎光男さん

午前3時過ぎ、窯出し作業をする岡崎光男さん

クエにウツボ 海の幸800種

 空が白みかけた頃、堺地区にある港には数十種の魚が並べられていました。黒潮に乗って紀伊半島沖にやってくる魚は、年間1000種以上。そのうち約800種がみなべ町で水揚げされるというから驚きです。
 紀州日高漁協の古川達也さんに理由を尋ねると、「いろんな漁法ができるから」とのこと。特に多いのは、海の中に壁を作るように網を張って伊勢海老などを獲る刺網漁。他にも高級魚のクエを狙う延縄漁や、一本釣り、曳き縄釣り、漁火漁など魚によって漁法はさまざま。紀州日高漁協では獲れた魚をほぼ全て買い取っているのも特徴です。
 この日は約100種類の魚がずらり。見たこともない魚に目を丸くしていると、「これが幻の魚と言われるクエや。でもほんまはこっちの方が旨いんやで」と漁師さん。指差したのは、黄色い迷彩模様がいかにもグロテスクなウツボ。
 さっそく「和風レストランくーる」で、ウツボのたたき定食をいただきました。皮と身の間にコラーゲンがたっぷりあるウツボは、どんな料理でも皮ごと食べるのが常です。
 少し勇気を出して、肉厚ぷりぷりの白身をパクリ。その瞬間、口の中で踊るような弾力の強さに絶句しました。舌触りは上品で女性的なのに、噛むと男性的な逞しさを感じる不思議な食材…。皆さんも是非ご自身の舌で確かめてみてください。

堺地区の港には新鮮な魚を求めて仲買人が町内外から集まる

堺地区の港には新鮮な魚を求めて仲買人が町内外から集まる

ウミガメにやさしい熊野古道

 レストランからほど近い「千里の浜」には、数ある熊野参詣道の中で唯一、砂浜を通る紀伊路があります。案内してくれたのは、みなべ観光ガイドの松本美小夜さん。
 伝説の人物、小栗判官が作ったとされる馬頭観音を通って浜辺に下り、熊野九十九王子の一つ「千里王子」へ。「ここは別名“貝の王子”と呼ばれています。貝は身が滅びても美しい姿を残すことから、延命長寿を願って貝殻をお供えする風習があるんですよ」と松本さん。
 全長1・3kmの砂浜はアカウミガメの産卵地としても知られます。毎年5月下旬から8月にかけて、多い年には300回以上の上陸が確認されているとのこと。
 「なぜこの浜がウミガメに選ばれるか分かりますか? 近くに磯場が多く食料が豊富なことに加え、夜間に人工的な光が漏れないよう、近くに住む人たちが昔から自然保護に努めてきたお陰です」と熱く語る松本さんの姿に、紀州人の温かさを感じました。

千里の浜に通じる参道にある33体の石像

千里の浜に通じる参道にある33体の石像

■次回は佐賀県太良町です。


まちのデータ
人口
1万3076人
(2017年10月末現在)
おすすめの特産品
南高梅、紀州備長炭、海産物、かまぼこなど
アクセス
南紀白浜空港から車で約40分
JR和歌山駅から車で約1時間
最寄駅はJR南部駅
問い合わせ先
みなべ観光協会 0739-74-8787

いつでも元気 2018.2 No.316

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