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【新連載】31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用

 メトトレキサート製剤(リウマトレックスカプセルなど)による汎血球減少症やリンパ増殖性疾患、ミゾリビン(ブレディニン錠など)による高尿酸血症、アザチオプリンとキサンチンオキシダーゼ阻害薬の併用など

 リウマチの薬物治療は日進月歩で、次々と新薬が試されています。リウマチ治療で大きな転機を迎えたのは、メトトレキサート製剤(以下、MTX)の内服が、慢性関節リウマチの中心的治療薬として、日本で2011年2月に公知申請による用法用量の変更が承認され、第一選択薬として使うことができるようになったことです。ついで、ここでは触れませんが、抗体製剤の普及も大きな特徴です。これらは主として免疫を強力に抑制する薬剤ということもあり、薬物治療では感染症をはじめ、血液、リンパなどに重篤な有害事象を起こす危険が高いのが特徴です。2011年までは適応外使用ということもありMTXは10mgまでの投与に留まっていましたが、適応を得て、日本では週16mgまでの使用が認められ、MTXを服用する患者が増えただけでなく、増量という形も含め、全体として暴露量が急激に増えました。
 薬剤別に副作用件数を調べてみました。圧倒的にMTXが多く224件、次いでサラゾスルファピリジン(以下SASP)174件、ブシラミン141件と続きました。SASPの副作用詳細については[新連載20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用]において既報ですのでそちらを参照してください。https://www.min-iren.gr.jp/?p=29276

 イグラチモドも副作用の多い薬剤として注意が必要で、12件が報告されています。タクロリムスも注意が必要で、内服薬では20件の報告が寄せられています。アザチオプリンは治療抵抗性のリウマチ性疾患の治療に承認されましたが、白血球減少、肝障害、脱毛など42件報告されています。14員環マクロライド系抗生物質であるエリスロマイシン、クラリスロマイシンのグレープフルーツとの相互作用による血中濃度上昇が見逃されやすく、常に血中濃度のモニターが必要です。腎機能障害という形で症状が発現することが多いのが特徴です。キレート剤としての作用のあるD-ペニシラミンでは10件、前述のブシラミンも比較的副作用の目立つ薬剤です。オーラノフィン(販売終了)では合計13件で、間質性肺炎4件(1件はMTX併用)、尿蛋白1件、下痢5件、湿疹・痒み2件、めまい・悪心1件、金チオリンゴ酸ナトリウム注射液では2症例で、薬剤性腎障害・紅斑・ショックの1例、薬剤性肝障害・貧血・膿痂疹の1例、アクタリットでは尿蛋白、掻痒感の2件、ロベンザリット(販売終了)では6年以上の継続服用で発症した尿蛋白の1件だけでした。ミゾリビンでは5件、次に紹介する症例の高尿酸血症、高血糖、薬剤性肝障害、発疹、白血球減少各1件ずつでしたが、共通しているのは、服用直後の発現ではなく、2週間後~2年程度の長期間服用で発現していることでした。比較的副作用の被偽薬として気が付きにくい薬剤のひとつでしょう。薬理作用の延長線上にあるような副作用以外で危険性が問題となったのは、MTXとレフルノミドでは間質性肺炎が、イグラモチドでは肝機能障害及びワルファリンとの併用禁忌(肝機能低下による凝固因子の欠乏)、などが挙げられます。
 生物学的製剤「bDMARDs」の報告は改めてまとめます。今回は、MTXとミゾリビン、アザチオプリンについて、民医連新聞の副作用モニターで紹介された症例を見ていきたいと思います。

MTXの1年2ヵ月服用後に汎血球減少症を呈した事例

 症例)70歳代女性。慢性関節リウマチの治療中、痛みが悪化し、MTX6mg/週の服用を開始した。以後、定期的に血液検査を行い、順調に経過。服用開始から1年2ヵ月後に倦怠感と食思不振が出現、精査目的で入院した。入院時、血小板7.2万個/μL、白血球6500個/μL、 赤血球321万個/μL。第2病日には血小板3.4万個/μL、網状赤血球0%で骨髄抑制による汎血球減少を疑い、MTXの拮抗薬であるホリナート(葉酸誘導体)の投与を開始。第3病日には血小板1.1万個/μLとなり血小板の輸血を施行。第4病日に白血球3070個/μL (好中球629個/μL)、赤血球231万個/μLと最低値を示したが、その後改善した。

 MTXによる血液障害は、半年までの発現が多いとされますが、3年以上経過して発現した例も報告されています。また、血中濃度と骨髄抑制が相関しないともいわれ、MTXがTNF-αを介して何らか の影響を与えているとも考えられます。本症例のように、1年以上服用している例でも重篤な副作用があることを念頭に、定期的な血液検査と体調の変化に素早く対応することが必要です。
 本症例では、副作用が疑われたと同時に、ホリナート注を開始し、回復に向かいました。ホリナートは活性型の葉酸誘導体のひとつであり、MTXで抑えられた葉酸サイクルを回復させ細胞の損傷を防ぐとされています。MTXによる重篤な副作用が疑われた場合、休薬するだけでなくホリナートの投与など、早期に対処することが重篤化を防ぎます。
(民医連新聞 第1362号 2005年8月15日)

MTXによるリンパ増殖性疾患の副作用

 MTXの重篤な副作用には、肺障害、骨髄障害、肝障害、感染症増悪等がよく知られており、最近もB型/C型肝炎ウイルスキャリア患者の再活性化による重篤な肝障害に関する使用上の注意の改訂もありました。民医連の副作用モニターにも間質性肺炎や汎血球減少などの重篤な副作用報告がよせられていますが、長期投与に伴う注意すべき副作用として、MTX関連リンパ増殖性疾患が報告されたので紹介します。

 症例)60歳代前半の女性。関節リウマチで、MTX6mg/週(3ヵ月)⇒8mg/週(1年2ヵ月)⇒10.5mg/週(7ヵ月)服用中。服用開始2年後に左腋窩リンパ節腫脹あり。触知エコー検査にて左腋窩に3.8cmの腫瘤を認めた。右腋窩にも肥大したリンパ節が散在しており、同剤と併用していたアクテムラ注(トシリズマブ)を中止した。中止1ヵ月後に血液内科に入院となるが、リンパ腫の退縮がみられ、特に治療はせず、10日間で退院。中止2ヵ月後、腋窩(特に左)のリンパ腫脹は改善傾向にあり経過観察となり、アクテムラは再開となった。

 MTX関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)とは、MTX長期投与に伴い出現するリンパ腫で、WHO分類では免疫不全に伴うリンパ増殖性疾患に分類されています 比較的高齢者に多く、MTX投与後平均3年で発症しています。MTX-LPD発症例のMTX投与期間は平均30ヵ月(2~108ヵ月)、総投与量は平均1500mg(180~3600mg)といわれています。移植後リンパ増殖性疾患のような100%の関連はないのですが、60%程度はエブスタインバー(EB)ウイルスが組織に証明され、EBウイルス感染、再活性化との関連が注目されています。MTX中止により約半数例、特にEBウイルス関連では自然退縮が見られる特徴があるとされています。いずれにしても、日本リウマチ学会が2010年9月に発表した「関節リウマチ治療におけるメトトレキサート(MTX)診療ガイドライン」等を参考に、その適正使用と重篤な副作用の早期発見がもとめられる薬剤です。
(民医連新聞 第1511号 2011年11月7日)

ミゾリビン錠による高尿酸血症

 ミゾリビン(ブレディニン錠など)は、リンパ球増殖抑制作用や抗体産生抑制作用がある薬剤で、免疫抑制剤として腎移植による拒否反応の抑制、ネフローゼ症候群、ループス腎炎、関節リウマチに使われています。使用される機会が少ないがゆえに報告件数は少ないのが現状で、よくわからない部分も多い薬剤です。
 当モニターに寄せられたミゾリビンの副作用報告は5件でした。薬剤性肝障害、白血球減少、発疹、高血糖、そして次に紹介する高尿酸血症です。

症例)70歳代男性。蛋白尿(7~10g/日)で入院、膜性腎症と診断された。プレドニゾロン40mgとミゾリビン150mgの内服を開始。約2週間後、尿酸値は7.4 mg/dl→8.6 mg/dlに。寛解して外来通院していたが、治療中断。3年後、下肢浮腫が増悪、その3ヵ月後にネフローゼ症候群再発で入院。尿酸値6.5mg/dl。プレドニゾロン35mg、ミゾリビン150mg、ジピリダモール300mg、エナラプリル2.5mg、アトルバスタチン5mg、ST合剤開始。
内服開始から1週間後、尿酸値は7.6 mg/dl→8.4 mg/dlに。約2週間後、プレドニゾロン25mgへ減量。浮腫は改善傾向。尿酸値は8.4 mg/dl→10.8 mg/dlに。上昇傾向継続。さらに約10日後、フェブキソスタット10mgを開始し、退院。尿酸値は11.6 mg/dl→5.4 mg/dlに改善した。

 ミゾリビンによる尿酸値上昇は、その作用機序に関係しています。インタビューフォームには、「プリン合成阻害作用に基づく尿酸生成増加のため尿酸値の上昇があらわれることがある。ネフローゼ症候群に対する臨床試験において、尿酸値の上昇が231例中21例(9.1%)に認められ、10mg/dl以上11例、最高値13.1mg/dlであった」と記載されています。腎機能障害のある患者に使用する薬剤なのですが、主に腎臓から排泄されるため必然的に蓄積し、血中濃度は高くなります。脱水状態やNSAIDsなどの腎血流を低下させる薬剤を併用している患者、高齢者などでは排泄がいっそう遅れ、副作用が増強する可能性を潜在的に抱えています。腎機能の低下では、尿酸排泄が低下して尿酸値の上昇につながるという側面もあります。
 尿酸値の上昇の半数以上は投与開始後3ヵ月以内に発現しています。ほとんどが一過性であり、時間の経過とともに軽快するとの報告もあります。腎障害がある人、腎血流を低下させる薬剤を併用している人、高齢者などへの投与の際は、低用量からの開始や、腎機能と血清尿酸値等の検査を適時行う必要があります。
(民医連新聞 第1580号 2014年9月15日)

アザチオプリンとキサンチンオキシダーゼ阻害薬の併用

 アザチオプリンは6-メルカプトプリンのプロドラッグで、免疫抑制作用を持つ薬剤です。過度の免疫抑制作用により感染リスクの上昇、悪性リンパ腫、他の悪性腫瘍が発現する可能性があるため、有効で最低限の免疫抑制状態を維持する必要があります。
 アロプリノールはアザチオプリンの代謝酵素であるキサンチンオキシダーゼを阻害する作用を持つため、両者を併用する場合はアザチオプリンを1/3~1/4に減量することとなっています。また、同効薬のフェブキソスタット、トピロキソスタットは併用禁忌です。
 今回は、アザチオプリンとアロプリノールとの併用時に発現した副作用で、目に後遺症を残した症例を報告します。

症例)50代男性 好酸球性胃腸炎(適応外使用)にてアザチオプリン50mg服用中。尿酸値が高く、アロプリノール300mg/日が追加となった。保険薬局から用量について疑義照会をした結果、アザチオプリンは12.5mgに減量、アロプリノールは変更なく300mg/日のまま開始。
10日目:口の中と目のただれあり、眼科受診。
11日目:発熱37.5度、のどの痛み、痰(たん)の症状でクリニック受診。
12日目:目が痛くて開けられず、処方元の医療機関を受診、アロプリノールによるスティーブンス・ジョンソン症候群の診断で入院加療となる。入院中の経過は(民医連の病院でないため)詳細不明。
中止42日:視力は戻ったが、まだかすんでいる。
中止65日:目の充血、口の中のただれはよくなってきたが、目のかすみ、ドライアイは残る。
中止75日:ドライアイは改善傾向。
中止105日:目のかゆみ改善。ドライアイは残る。プレドニゾロン13mgまで漸減。

 この症例はアロプリノールの過量が原因かと思われます。アロプリノールの開始初期は1日100mgでの投与が望ましいとあり、アザチオプリンとの併用のため、慎重に開始したかった症例です。        
(民医連新聞 第1798号 2024年1月22日号)

2019年2月、日本リウマチ学会より「リウマチ性疾患に対するアザチオプリン使用に関する通知」が発出されています。 news190222.pdf (ryumachi-jp.com)

(概要)チオプリン製剤であるアザチオプリンの副作用の中で、服用開始後早期に発現する重度の急性白血球減少と全脱毛が NUDT15 遺伝子多型と関連することが明らかとされています。アザチオプリンの使用適否を確認し、初めてアザチオプリンを開始する症例においては開始前にNUDT15 遺伝子多型検査を施行した上で適応を判断してください。日本人の約 1%に存在する Cys/Cys 型の場合は、重篤な副作用(高度白血球減少、全脱毛)のリスクが非常に高いためチオプリン製剤の使用を原則として回避してください。

 検査で重篤な副作用を1つでも避けられるのであれば、安全使用のために検査の実施を考慮してください。
 リウマチの薬物治療には副作用がつきものです。常に副作用の発現に注意を払いながら治療を続けますが、医師のところだけで副作用が認識されるということではなく、全職種、とりわけ薬剤師、看護師とも副作用情報を共有して、危険ではあるけれども、適切な対処をすぐに行うことができるようにしていきましょう。

■掲載過去履歴一覧
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**【薬の副作用から見える医療課題】**

 全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。

<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>
  2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
  3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
  4.睡眠剤の注意すべき副作用
  5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
  6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
  7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
  8.抗パーキンソン薬の副作用
  9.抗精神薬などの注意すべき副作用
  10.抗うつ薬の注意すべき副作用
  11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
  12.点眼剤の副作用
  13.消化器系薬剤の様々な副作用
  14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
  15.抗不整脈薬の副作用
  16.降圧剤の副作用の注意点
  17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
  18.脂質異常症治療薬の副作用について
  19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
  20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
  21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
  22.過活動膀胱治療薬の副作用
  23.産婦人科用剤の副作用
  24.輸液の副作用
  25.鉄剤の注意すべき副作用
  26.ヘパリン起因性血小板減少症
  27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
  28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
  29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
  30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
  31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用 
 
<【薬の副作用から見える医療課題】続報〔予告〕>          
  32. ATP注の注意すべき副作用        
  33. 抗癌剤の副作用              
  34. 医薬品によるアナフィラキシー
  35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
  36.メシル酸ガベキサートの注意すべき副作用

以下、60まで連載予定です。