評議員会の学習講演から 大きな岐路にたつ世界 日本は何を学ぶべきか 新自由主義の現段階と世界の政治的な変化
評議員会では、琉球大学の二宮元准教授が「新自由主義の現段階と世界の政治的な変化」と題し講演しました。要旨を紹介します。(丸山いぶき記者)
イギリスの国民投票でEU離脱が決まり、アメリカでトランプ大統領が誕生するなど、二〇一六~一七年は政治学者の常識を覆す変化が起きました。特徴は、(1)排外主義的極右勢力の台頭、(2)新しい左翼の伸長、(3)既成政党の没落。今年四月のフランス大統領選では、既存の二大政党が決選投票に残れない異例の事態も。これらの変化は新自由主義政治の行き詰まりの表れです。新自由主義を三期に区分して見ていきます。
■80~90年代前半
第一期は、英・サッチャー、米・レーガン政権の急進的新自由主義です。それまでの福祉国家を解体するための税制改革がされ、所得再配分や平等が後退しました。炭鉱労働者の抵抗運動が有名ですが、敗北し労働組合が弱体化、雇用破壊、失業、貧困や経済格差の拡大が起きます。経済も国内市場中心からグローバル資本主義へ転換しました。
■90年代後半~08年
第二期は、英・ブレア政権に代表される社会民主主義政権による「第三の道」型新自由主義の時代です。第一期の急進的改革で社会的矛盾が大きくなったため、経済的効率と社会的公正の両立を謳(うた)う修正路線がとられました。一時的な経済の安定期であり、新自由主義型二大政党制のもとで改革が続きました。
一方、既存政党がともに新自由主義化したことで、新自由主義への不満は行き場を失い、政治への不信や幻滅感が広がることになります。
経済面では、グローバル資本主義のもと格差化と金融化が関連し合って進行。富裕層が金融投資へ走る一方、貧困層が賃金低下や社会保障削減を補うために借金を増やし、民間保険や教育ローンに頼る構造ができあがりました。この新自由主義型経済循環(図)は一時的には安定しますが、いつかは破綻せざるをえません。それが〇八年でした。
■08年以降
第三期は、金融危機以後の新自由主義的緊縮の局面です。リーマンショック後の世界同時不況を受けて、当初は新自由主義の権威は失墜しましたが、〇九年のギリシャ金融危機を機に、世界はむき出しの新自由主義とも言える緊縮策へと向かいます。各国で公共サービスが削減され、労働法制の解体がすすめられます。
しかし、緊縮策では経済が低迷し、税収が減少し、結果的にさらなる債務の増大を招くだけです。にもかかわらず緊縮策が強行されている。結局のところ、緊縮策とは、金融危機の責任をグローバル資本や富裕層にとらせるのではなく、国民に負担を押しつけるための政策にほかなりません。実は、階級的な意味を持つ政策なのです。
現在、緊縮策がすすめられるなかで、新自由主義型の二大政党制が崩壊しています。特に社会民主主義政党は、かつての「第三の道」路線がとれなくなり、緊縮路線に転じるなかで、支持率を軒並み低下させています。その隙間を埋めるように支持を伸ばしているのが、排外主義的極右勢力と新しい左翼勢力なのです。
■新しい勢力
「反緊縮」を掲げる新左翼勢力は、「アラブの春」を発端に二〇一一年「広場の運動」として広がりました。エジプト、スペイン、ギリシャの「広場」を人々が占拠、それが米国に波及し「ウォール街占拠」に。当初の運動は、政治とのつながりが弱かったのですが、一五年以降、緊縮策を止める政党が必要だと自覚され始め、反緊縮を掲げる新しい左派政党が伸びまし
た(ギリシャ・シリザ政権、英・スコットランド国民党、英・労働党コービン党首、スペイン・ポデモス党、米・民主党サンダース、仏・左翼党メランションなど)。
新しい左翼は、緊縮策のもとですすむ雇用・生活破壊に対抗して、二大政党への批判を強める一方で、「民主主義の再建」という課題も掲げています。
実は、新自由主義は政治腐敗の温床です。公共サービスを民営化して営利性を持ち込めば、政治腐敗を招きます。日本の「モリ・カケ」問題もこの典型で、「特区」と結びついて起きました。
一方、新自由主義への不満は、反緊縮左翼だけでなく排外主義的極右勢力への支持にも結びついています。極右政党は、九〇年代頃から労働者層から支持を得るために、新自由主義とは距離を置き、雇用や福祉で移民を差別し、自国民を優先する福祉排外主義を打ち出しています。これに対しては、人種差別に抗する本来の普遍主義的な福祉国家の構想を対置していくことが必要です。
■歴史的岐路から学ぶ
世界は、新自由主義の継続・深化か、脱却・転換かの歴史的岐路にあります。この変化から何を学ぶかが日本にも問われています。
三・一一以降の金曜官邸前抗議や戦争法反対など近年の日本の社会運動も、世界的な流れと連動しています。しかし、反新自由主義(反緊縮)という点がまだ弱い。福祉国家を経験し、「社会保障は国の責任」という感覚が常識化した欧州諸国と違い、企業社会型の福祉しかなかった日本では、福祉国家を「守る」のではなく「つくる」運動が必要です。平和主義で立ち上がった運動を社会保障や生活に関わる運動とどうつなげていくか、そこに日本の課題があります。
安倍政権がすすめる税と社会保障の一体改革こそが、実は「日本版緊縮策」とも言えます。それに対するたたかいにとりくむことが、日本の反緊縮運動になると思います。
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講演内容は『民医連医療』にも掲載予定。さらに学びたい人は『いのちとくらし研究所報』第五七号(二〇一七年一月)も参考になります。
(民医連新聞 第1651号 2017年9月4日)