特集2 痛風(高尿酸血症) 患者の98%が男性、30歳代で増加 肥満や飲酒、ストレスが発症の誘因 痛みがなくても尿酸値に注意して
一般に「痛風」といわれている病気は正確には、「高尿酸血症」といいます。血液中の尿酸が過剰になり、尿酸の結晶が関節にたまって強い炎症がおき、激しい痛みの発作がおきる病気です。
激しい痛みと腫れ、熱が
最初の発作は、足の親指のつけ根を中心とした部分におこることがもっとも多く、くるぶし、かかと、足の甲を含めると9割以上が足におきます。これは、足の先まで血流が十分行き届かないこと、足が冷えやすいこととも関係があるようです。
発作時は、激しい痛みに加えて関節が赤く腫れ、熱をもちます。症状は24時間以内にピークに達し、放っておいても1~2週間ほどでおさまるのが特徴です。
季節的には、7月ごろの暑い時期に患者が増えます。暑さで体内の水分が汗になって出てしまうのに、汗からは尿酸はほとんど排泄されず、血中の尿酸の濃度が高まるためと考えられています。
男女差がはっきりしている
血中の尿酸値(血清尿酸値)が7mg/dlをこすと「高尿酸血症」と診断します。
しかし尿酸値が7をこえた人すべてが「痛風」を発症するわけではありません。尿酸値が8・0~8・9の方 の場合、5年間に発症する人の合計が4・1%、同じく9・0~9・9の場合は19・8%、10以上では30%という統計があります。尿酸値が8以上を治療 開始の基準としています。
また痛風によく似た症状があらわれる病気として、外反母趾、変形性関節炎、慢性関節リウマチなどがあります。痛風を疑ったときは自分で判断せず、まず受診してください。自治体健診、会社での健康診断などを定期的に受けて、尿酸値を調べておくのもよいでしょう。
尿酸値は、年齢と性別によって異なります。10歳以下では男女差はありませんが、10歳以上になると男性は高くなりはじめ、20歳代で最高となり、その後一定になります。女性は10歳代で軽く上昇したあと一定となり、閉経後に高くなって男女差がなくなります。
しかし、「痛風」という病気があらわれるのは、圧倒的に男性に多く、患者の約98%が男性で、これほど男女差のはっきりした病気も少ないといわれています。
女性はもともと血中の尿酸濃度が男性に比べて低く、痛風になりにくいのです。女性ホルモンのエストロゲン に、尿酸の排泄を促進する働きがあるためです。ですから閉経後には、エストロゲンの分泌が減り、尿酸値が上昇して、痛風の患者さんの男女差は50歳ぐらい から小さくなります。
生活習慣の変化で年々増加
プリン環 |
プリン体にはさまざまな種類がありますが、この構造(プリン環)は共通です。窒素(N)、炭素(C)、水素(H)からなり、これに酸素(O)や水素がついたものが尿酸です |
潜在患者600万人といわれている痛風ですが、実際に治療をうけている人はその1割程度とみられています。男女ともに増加傾向にあり、男性では30歳代、女性では60歳以降が多くなっています。
1965年ごろの日本では50歳代で痛風になる人が多かったのですが、その後、生活習慣の変化にともなって、痛風患者の増加と若年化がすすみ、現在では30歳代の男性が患者としては多くなっています。
痛風の歴史は古く、西洋には昔からあった病気ですが、日本では明治以前にはないとされていました。「痛 風」は「ぜいたく病」とか「帝王病」といわれるように、かつては一部の豊かな階層の病気だったのです。しかし「飽食の時代」の現代では、一般的な病気に なったといえます。生活習慣病のひとつです。
尿酸のもと「プリン体」
人間の体を構成している細胞は、常に新しく生まれ変わり(新陳代謝)、活動のエネルギーをうみだしています。細胞の核の主要な成分が、DNAやRNAとよばれる核酸で、プリン体に糖とリン酸が結合した高分子化合物です。
このプリン体が分解してできるのが尿酸です。また細胞の活動に必要なエネルギーを供給するATP(アデノシン三リン酸)とよばれる高エネルギー物質もプリン体です。
体のなかでは、常に核酸が分解し、エネルギーをうみだしながら、尿酸がつくり続けられているわけです。
大部分のほ乳類は尿酸を分解するウリカーゼという酵素をもっているのですが、ヒトを含む霊長類や鳥類、は虫類の一部は尿酸分解酵素をもたないため、尿酸のまま、老廃物として体外に排出します。
体内のプリン体の総量は、成人男性で約1200mgす。1日にその半量が生産され、生産された量とほぼ同量が、主として腎臓から、尿酸として排出されます。
そのため高尿酸血症のタイプを大きく分けると、「生産過剰型」と「排泄低下型」になります。
尿酸の結晶 稲垣勇夫:アトラス尿沈の実際 結晶.Medical Technology別冊 カラーアトラス尿検査:P82-87 1995年 |
代謝でできる尿酸が多い
注意しなければならないのは、健常者でも、食べものとして体内に入るプリン体からできる尿酸よりも、細胞の代謝によってできる尿酸の方が圧倒的に多いということです。
遺伝性の高尿酸血症の方は、若いころから症状があらわれ、腎不全になって透析療法を受けている方もあります。これは「生産過剰型」といえます。
また、肥満や飲酒、ストレスは痛風発症の誘因となります。プリン体を多く含む食品には表のように、レバーなどの動物の内臓や、カツオ、白子などがありますが、たまに食べたからといって尿酸値が急激に上がるというものではありません。
それよりも最近注目されているのが、肥満や高血圧、中性脂肪が高い人ほど、痛風の発生率が高いということです。腎臓の尿酸排泄能力が低い人、インスリンの効き方が悪い(インスリン抵抗性がある)人に、痛風の発生率が高いということです。これは「排泄低下型」です。
アルコールと痛風の関係については、アルコール自身はそれほどプリン体を含まないのですが、アルコールに は尿酸値を上げる作用があること、さらにアルコールを飲むときには、つまみとしてプリン体含量の多いものを食べることが多いのも尿酸値を上げる原因でしょ う。アルコール類のなかではビールがプリン体含量が多い飲み物です。
また、体に無理がかかるほど激しく運動し、大量のエネルギーを使ったときにも、プリン体から尿酸が急激に生成されます。
これらの尿酸生成、排泄のメカニズムを理解しておくことが、高尿酸血症、痛風の予防、また治療に重要なことです。
プリン体の高い食品・低い食品 | ||||||||||||||||||||||||||||
|
症状なくても着々進行
たとえば、10年前に1度だけ痛風の発作がおきてそれ以後なんともない人は、自分が病気であるという自覚 はありません。しかし、最初にいいましたように高尿酸血症の人のすべてが痛風を発症するのではありません。尿酸値が高くても症状がない「無症候性高尿酸血 症期」が2~3年あったあと、間隔をあけて痛風発作がおきる「急性痛風発作期」が5~10年続き、ついに常に痛みがあり、結節のできる「慢性結節性痛風」 になります。
症状がなくとも合併症は着々と進行しています。とくに注意しなければいけないのは腎障害です。適切な治療をしないでいると、体内の老廃物を排泄できず「尿毒症」をおこし、生命にかかわります。
また最近では血中の尿酸そのものが、心臓や脳の血管障害をおこす原因であるとも指摘されています。
治療と予防の方法は?
痛風発作時には、まず急性関節炎の治療として、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)を用います。特効薬とされてきたコルヒチンは、発作後の投与での有効性が低く、最近では使用されることは少なくなっています。
発作時には尿酸降下薬は使用しません。これは、発作の再発や痛みの増強をもたらすとされているためです。尿酸降下薬は、関節炎が十分治ってから、少量から使い始め、徐々に増量し、尿酸のコントロールに必要な量を見つけていきます。
痛む関節に対しては、一般の急性炎症と同じように、温めるより冷やした方が症状は軽くなります。
ステロイド剤の内服や外科的治療もありますが、なにより正確な診断が必要です。必ず医療機関を受診し医師と相談してください。
痛風は一般的には生活習慣病ですから、まず第一に生活の乱れを防ぐことです。
一番は食生活です。肉類や脂肪の多い食事、甘いものを控え、アルコールを飲み過ぎないことが大事です。と くにすでに高尿酸血症となっている方は飲み過ぎないこと。アルコール摂取量としてはウイスキーならダブル1杯(60ml)、日本酒1合、ビール500ml が許容量とされていますが、一応の目安に過ぎません。
運動不足や食べ過ぎ、肥満は、インスリンの効き方を悪くし、腎臓の働きを弱めます。体の負担にならない程度の適度な運動をして、肥満を防ぎストレスをためないことです。
最後に食事療法について。
尿酸は酸ですからアルカリに溶けます。尿をアルカリ化する食品として牛乳、野菜、海草、果物を積極的にとりましょう。こうすることで尿酸を体外に排出しやすくすることができます。水分を多くとることも重要です。
外来に通院している患者さんで以前から尿酸が高く、内服薬を使うといずれの薬も肝機能障害をおこすため治療に困っておられた方がいました。このような症例ではこうした食事療法をおすすめしています。
(参考文献 高尿酸血症・低尿酸血症-痛風の治療新ガイドライン-日本臨増刊号二〇〇三年)
いつでも元気 2004.9 No.155