第42期第3回評議員会方針
2017年8月20日 第42期第3回評議員会
1章 情勢の特徴と民医連の構え 2章 憲法9条を守り抜く大運動をすすめよう 3章 事務職員育成の新たな前進をめざして 4章 とりくみの概要と総会までの重点 おわりに |
はじめに
かつてここまで、国民と国会が軽んじられた時代はあったでしょうか。この半年間、安倍政権は介護保険の改悪強行、2018年へ向けた医療改悪の準備をすすめながら、戦争法(安保法制)にもとづく新しい任務を自衛隊に付与し戦闘地域である南スーダンへ派遣したり、共謀罪法の強行など戦争する国づくりに奔走してきました。そして5月3日、日本国憲法施行70年の記念日に、「憲法九条に自衛隊を明記する」と発言しました。いま、戦後70年以上、平和と人権を守ってきた憲法が岐路に立っています。
一方で、国連での核兵器禁止条約を採択した巨大な変化、国内では共謀罪法の強行や国家の私物化とも言える安倍政権の腐敗した政治に対し、平和と民主主義を願う広範な国民運動が起きています。先の東京都議会議員選挙では、自民党が歴史的な大敗を喫しました。
この間、研修医155人が研修を開始、看護師は6年連続1000人受け入れを突破し、3600人の新しい職員が入職しました。昨年とりくんだ医学生の奨学生を増やし育てる大運動に続き、今年も100人の奨学生が誕生し、過去最多の450人を超える奨学生数に前進しています。新しい2つの医療・介護の柱「第1の柱‥貧困と格差、超高齢社会に立ち向かう無差別・平等の医療・介護の実践、第2の柱‥安全、倫理、共同の営みを軸とした総合的な医療・介護の質の向上」(以下「新しい2つの柱」で表記)の実践をいっそう強め、民医連の医療と介護を輝かせ、後継者養成、経営改善をすすめる好循環を創り出していきましょう。
第2回評議員会は、1年間の総括と43回総会までの重点を決めました。秋にはいくつかの全国会議を開催し、総会方針の総仕上げに向かう途上にあります。それを踏まえ、第3回評議員会は、(1)時代認識を鮮明にし、民医連の立ち位置を確認、岐路に立つ憲法九条を守り抜くための全国運動、総会まで半年間の重点を明確にすること、(2)民医連運動の発展を左右する民医連事務育成について、その責任を明確にした議論と提起を行うこと、(3)第43期役員選出方針の承認、(4)2017年上半期決算、会計監査承認を任務に開催し、全会一致で議案を採択しました。
1章 情勢の特徴と民医連の構え
第1節 希望ある時代へ、深まる安倍政権と国民との矛盾
42回総会方針は、時代認識として安倍政権の暴走の異常さを3点で提起しました。
第1に、戦争法強行など、アメリカの戦争に全面的に参加する「戦争する国づくり」、第2に、TPP、原発輸出、健康・福祉の成長産業化など企業が世界で一番活躍しやすい国づくり、新自由主義改革の推進を新たな段階に引き上げようとしている。第3に、マスコミへの異常などう喝や介入、憲法改正をすすめる国民運動の推進など、それらを国民に受け入れさせるための意識操作でした。同時にその政権基盤の脆弱さ、戦争法廃案に向けて空前の規模で国民的な運動が高揚する中で、個人が主権者として考え、行動し、政治も変える、新しい民主主義の形が生まれ発展しました。そのもとで、新たな民主主義の発揚を確信にし、希望ある時代を切り拓こう、と呼びかけてきました。
7月2日の東京都議会議員選挙では、自民党は大敗を喫しました。共謀罪を巡る独裁的な国会運営、森友・加計学園の問題での国家の私物化、「防衛省・自衛隊として自民党をお願いする」発言など大臣の資質を欠いた法律無視の暴言、安倍政治の本質に対する嫌悪感が国民に拡大し、内閣支持率が急落し、不支持率が上回る状況です。
日本の国民の1割以上が暮らす首都で、憲法を壊す政治、国家を私物化する政治、いのちを切り捨てる政治、こうした安倍政治を終わらせようという明確な都民の意思が示されました。引き続いてたたかわれた那覇の市議会議員選挙(7月9日)でも同党は14人が立候補しましたが、7人の当選に留まりました。
仙台市長選挙(7月23日)では、憲法を活かす、被災者に寄り添うなどを掲げた野党共闘の候補者が勝利しました。
大きな潮目です。全日本民医連は、平和と人権を守る運動をすすめる立場から自民党の大敗北となった今回の選挙結果を大いに歓迎し、安倍政権の退陣を求め共同を広げます。
アメリカ、北朝鮮の状態は、軍事衝突の危険性をはらむ深刻な事態です。双方が軍事的な恫喝をエスカレートさせることで、偶発的な軍事衝突にもつながります。私たちは、いのちを守る立場から、はかり知れない被害と犠牲をもたらす軍事衝突を回避するために、日本政府が双方の話し合い、対話の努力を求め、平和的解決に力を尽くすべきであることを強く要請します。
第2節 2018年医療・介護大改悪に立ち向かう民医連の構え
社会保障の「自然増削減」を掲げる自民党・公明党政権のもと、公的医療・介護制度を土台から変質させる改悪が具体化されています。
2018年度から「国保都道府県単位化」「新たな医療費適正化計画」「地域医療構想」「新しい医療計画」「介護保険事業計画」を互いに整合性を確保してスタートさせようとしています。国保の財政管理と行政指導、医療給付費の総額の抑制、基準病床数の許可と管理、病床機能の再編と淘汰、介護基盤の抑制と合理化、これらの権限を都道府県に集中させ、給付費の抑制を目的に国の指導の下、強引に推進するシステムです。こうした給付費の抑制へ向かうなか、2018年医療・介護報酬の同時改定が実施されます。来年の生活保護基準の見直しでさらなる保護費の削減も狙われています。社会福祉法改正に伴い、政府の「我が事・丸ごと地域共生社会」方針が打ち出した包括的支援体制づくりを地域福祉計画に記載することが努力義務とされました。よりいっそう地域住民を巻き込み、自助、共助をすすめ、社会保障解体の受け皿にされようとしています。成長戦略や経済財政政策のもとで憲法が保障した社会保障の理念の解体です。
5月に強行された介護保険「改正」法は、31本もの「改正」法を1本の法案に束ね、法案の詳細な内容を国民に明らかにしない乱暴な審議でした。これを許すことはできません。「改正」法には、現役並み所得者の利用料3割化や総報酬割導入、療養病床削減の新たな受け皿となる「介護医療院」の創設、市町村への財政支援を通して「自立支援」に駆り立てるしくみづくり、高齢・障害サービスの効率化を狙う「共生型サービス」の創設など、新たな負担増や従来にない給付削減策が盛り込まれています。その他にも、高額介護サービス費の負担上限額引き上げなど、法「改正」を要さずに実施する内容や、要介護1、2の全サービスの地域支援事業(総合事業)への移行を次期見直しの検討課題に掲げるなど、重大な見直しが含まれています。
社会保障費の自然増にも大幅に踏み込んで削減するために強権をもって国民を犠牲にするしくみは、国民の怒りと医療・介護の要求をさらに熾(し)烈にせざるを得ません。
「安倍政権のもとでは、平和もいのちも守れない」との声が広がっています。平和と人権にとって、まさに正念場を迎えています。私たちは、平和憲法と社会保障を守る、この2つを総がかりの運動としてすすめ、安倍政治を終わらせる時期としなければなりません。
2章 憲法9条を守り抜く大運動をすすめよう
第1節 安倍政権のすすめている9条加憲とは何をめざすのか
安倍首相は、「憲法9条の1項、2項には手をつけず、自衛隊を明記する条文を追加し、2020年を新しい憲法の施行の年としたい」と述べました。憲法「改正」でなく、「新憲法の施行」、すなわち70年続いた日本の平和主義をやめるという「本音」を吐露したのです。衆参両院に改憲を志向する議員が3分の2を占めるいま、加憲による9条破壊を決断、秋にも自民党案を確定し、年内に憲法審査会で審議を開始、2018年中に改憲発議、国民投票の実施を狙っています。この発言は、2012年12月の安倍政権発足以来行ってきた立憲主義破壊の政治の上に、仕上げとして本気で九条改憲を強行し、海外で戦争する国づくりをめざすものです(資料)。
なぜこれほどまで安倍首相は、改憲への執念を持つのでしょうか。
第1は、日米安保条約により同盟関係にあるアメリカからの「ともに血を流せ」という軍事分担の圧力です。一貫して戦争政策を続けてきたアメリカは、オバマ大統領のもとでもそれは止まらず、同盟国への軍事的な肩代わりを求めてきました。トランプ政権ではさらに同盟国に対し軍事費の負担と軍事力強化を求めてきています。第2は、安倍首相自身が日本をアジアで中国と競い合う軍事大国にしたいという野望を持っているからです。安倍首相は、世界の大国として中国やロシアと競うため、グローバル企業の要望を背景に、国益を理由に軍事力が行使できる国になる必要があると考えています。
一方、憲法に関する世論調査(NHK)では、「日本が戦後、海外での武力行使をしなかったのは、9条があったから」とした回答が80%に上り、9条が平和を守る力であると国民に広く定着しています。戦争する国づくりの暴走を押しとどめているのは、現9条を中心とした憲法の平和主義であり、それを自覚している国民が多数存在していることです。
こうした中だからこそ、安倍首相は、9条2項を削除し国防軍を持つ、とした2012年の自民党憲法改正草案の実現が困難と判断し、今回の「自衛隊加憲」という変化球により、憲法九条を壊す改憲をすすめようとしています。
第1に、現在の自衛隊は、戦争法の成立と施行で、それまでの「専守防衛」から海外で集団的自衛権を行使できる実力組織となりました。その自衛隊を憲法九条に明記することは、自衛隊の海外での武力行使の制約をすべて取り除き、制限なく武力を行使する自衛隊が合憲化されることになります。
第2に、それにより、日本国憲法が守ってきた「武力によらない平和の実現」という平和主義は壊され、戦争法も合憲化され、「武力による平和」をめざす国に転換するものです。現在の憲法と全く違う別の新しい憲法を制定することに他なりません。
自衛隊を容認する世論は80~90%といわれていますが、それは現九条の下で、無制限に戦争することが禁じられ、災害時などに活動している自衛隊の姿に対するものです。
安倍政権による今回の加憲の狙いと危険性を広く知らせ、発議させない世論をひろげ、憲法九条を守り抜いていきましょう。
第2節 民医連運動の存在意義をかけて、憲法9条を守り抜こう
戦争はいのちをもっとも粗末にする行為であり、健康を破壊する最大の社会的決定要因です。医療や介護の担い手にとって平和を守ることは責務です。
民医連綱領前文は、「日本国憲法は、国民主権と平和的生存権を謳い、基本的人権を人類の多年にわたる自由獲得の成果であり、永久に侵すことのできない普遍的権利と定めています。私たちは、この憲法の理念を高く掲げ、これまでの歩みをさらに発展させ、すべての人が等しく尊重される社会をめざします」と日本国憲法の価値を確認し、その実現へ向けて奮闘することを使命として明記しました。医療・介護の新しい2つの柱を軸とした実践として、目の前の多くの患者、利用者に寄り添い、人権と命を守り抜くことと、憲法の根幹である平和主義を壊す今回の改憲を許さず憲法九条を守り抜くことは一体です。
憲法が戦後最大の岐路に立つ中、第16回理事会で「守ろう!日本と世界の宝=憲法九条、戦争する国づくりストップ! 安倍首相の憲法9条改憲を止める! 大運動を共同組織の仲間と力を合わせ巻き起こそう」のアピールを発表、各地で積極的なとりくみが始まっています。
9条改憲を打ち破るためにはこの1年が勝負となります。国民投票の実施は、安倍政権のシナリオでは1年以内です。理事会アピールの具体化を急ぎましょう。
次の3点を重視します。第1に、今回の加憲の危険性をすべての職場・職員が、共同組織とともに学び、広げることです。第2期憲法学習大運動を、国民投票実施の情勢にふさわしく全職員の運動に広げ、共同組織とともに地域で安倍政権の九条加憲の危険性を大いに語り広げましょう。
第2に、有権者過半数の賛同をめざす「安倍政権の下での憲法改正に反対する署名運動」(仮称)など、地域で安倍政権退陣を求める運動、憲法改正を発議させない運動をすすめる総がかりの共同を広げることです。
第3に、立憲4野党(民進、共産、自由、社民)と市民の共同を広げ、安倍政権の退陣と改憲を止める最大の力である解散総選挙で改憲勢力3分の2を打破し、自民党を過半数割れに追い込むことです。
3章 事務職員育成の新たな前進をめざして
第1節 いま、なぜ事務職員育成か
今回、特に評議員会で事務職員育成を呼びかける理由は、(1)戦後最大の憲法の岐路を迎えており、社会保障の変質・解体の攻撃も続いているいま、地域から国会まで運動の広がりと深さが求められており、民医連事務集団の果たすべき役割が大きくなっていること、(2)医療・介護活動の新しい2つの柱の実践をすすめる上でも、日常実務の多様化・複雑化への対応と本気の連携をすすめる活動のバージョンアップが求められること、(3)2011年の「事務政策作成にあたっての問題提起」に応えて、全国で、相当の努力がされたにもかかわらず、若手の退職、幹部後継者不足に悩む県連・事業所が多くなっていることです。民医連が民医連らしく活動できるかどうかが問われる課題であり、いま一度振り返って抜本的な事務育成方針を確立しなければなりません。
評議員会では、第1に、今日的に重要性が増している民医連の事務集団全体の役割を全職員の認識とし、第2に、この間の事務育成にかかわる全国集会の到達を踏まえて、その確保と育成について県連・法人としての自己分析と、新たな前進のための方針確立を呼びかけます。
第2節 育成の努力と今日的な民医連事務集団の役割
戦後、劣悪な医療・社会保障制度の改善とそのための政治を求める国民の運動がありました。運動に参加した労働者・農民・地域の人々と、その要求に応えようとした医師、医療従事者の結合が民医連事業所の始まりであり、それらを組織する役割を果たしたのが事務でした。これが民医連事務の原点ですが、その後、診療所の病院化や近代化の中で集団が大きくなり、専門分化もすすみました。
全日本民医連は、1994年に「全日本民医連事務政策指針」を発表、綱領改定の翌年2011年1月、理事会として新自由主義的な構造改革による格差と貧困の急速な拡大、医療崩壊の進行など当時の情勢の変化、2010年の民医連綱領の改定、多くの団塊の世代の退職を控えて事務(経営)幹部の育成が急務となったことなどを背景に「事務政策作成にあたっての問題提起」を発表、その後、総会方針において民医連事務の育成を待ったなしの課題として位置づけてきました。
「事務政策作成にあたっての問題提起」(2011年)の民医連事務集団の役割を今日的に整理すれば、以下のようになります。
第1に、正確な実務と統計・情報管理を担い、それを通して全職員参加の医療・介護事業と経営の前進に貢献すること
第2に、無差別平等の医療と介護の深化・発展のために、民主的な多職種協働と人づくりをささえること
第3に、日本国憲法の立場から平和と社会保障拡充の運動を積極的にすすめ、共同組織とともに安心して住み続けられるまちづくりの活動の推進者となること
民医連の事務が集団として3つの役割を果たすためには、一人ひとりが担当する分野に必要な知識を身につけることはもちろん、憲法と綱領、情勢や総会方針を絶えず学び、地域にとってかけがえのない民医連の医療・介護活動や事業所の存在意義への確信を深める必要があります。そして、日常的に担当している事務労働が、根本的な3つの役割に通じていることを集団として確認していくことが大切です。
少なくない県連・事業所が、事務育成の努力を払い、活発な活動がすすんでいます。特徴は、(1)戦争法反対など憲法を守るとりくみで事務集団が先頭に立ち、地域全体の運動に貢献、(2)SDHの視点での事例検討や自主的な学習会、事務集会など育ちあいの事務職場(事務集団)づくりで重要な経験が作り出されている、(3)県連・法人で、事務養成方針(研修要綱や人事政策)を確立し、事務委員会を中心に意識的な育成の活動が行われたり、地協での交流も行われてきた、(4)採用と就職前教育を重視し、民医連の理念をアピールした県連統一説明会、内定者のつどいや研修、大学教員の協力を得た事務学対の追求、(5)ほとんどの地協やいくつかの県連で、次世代の事務幹部養成学校を開始し、幹部として必要な知識の獲得と事務幹部の集団化がはかられてきた、などです。
しかし、このとりくみにはほとんど手のついていない県連、法人、事業所もあり、大きな格差があります。事務育成の困難の背景には、経営困難による採用の手控え、育成の予算や体制の不足、激しい医療制度の変化の中、事務分野の業務が多様化・細分化し、集団化も困難になっていることがあります。いまこそ、トップ幹部集団がこの問題の重要性をあらためて自覚し、責任をもって事務育成のとりくみを前進させなければなりません。
第3節 事務職員育成の具体的な着手を
(1)県連・法人のトップ幹部集団が責任を持つ方針と推進体制を
「事務政策作成にあたっての問題提起」(2011年)を土台に、採用においては就職前教育の重視、理念学習をはじめとする研修、事務の専門性を高めるスキル・知識の獲得、他職種がかかわる多彩な体験の重視、人事交流、職場づくりと集団化など、事務の確保と育成の一貫した、総合的な方針を確立し、執行する体制をトップ幹部集団が責任を持ち、つくりましょう。
県連・法人で、医師や看護師養成に学び、指導者や担当者の配置、大学の研究者と相談し、学生対策のとりくみにも踏み出しましょう。
育成をすすめる上で、憲法を守る大運動、新しい医療・介護活動の2つの柱の実践の中で事務職員が輝けるよう援助を強めましょう。栃木・宇都宮協立診療所の医療事務がとりくんでいる気になる患者カンファレンス、医師、看護師などとチームを組み子どもの貧困の調査や支援活動など、多彩な実践の事務局を担うことなどを通じ「育成の場」を広げましょう。
また、育ちあいの職場づくりなしに職員育成はすすみません。学習も重視し職場の運営改善をすすめましょう。社会保障、平和、憲法を守る運動を通じて、民医連運動の存在意義を深め、主権者としての「当事者性」を育むことが重要です。そのために、民医連綱領や憲法などの学習、他職種や共同組織班会の学習会講師などをすべての事務職員が引き受けるなど、意識的にすすめていきましょう。
業務が細分化する中、職場によっては「患者との接点がない」「他職種との交流がない」「組織全体のことが見えず自分の位置がわからない」という悩みもあります。それを乗りこえるための具体的な手立ても取り、すすめていきましよう。
(2)事務幹部養成と全日本民医連のとりくみ
事務幹部養成のためには、事務集団全体の育成をレベルアップするとともに、幹部養成のための独自の追求が必要です。地協などでの事務幹部養成学校のひきつづく重視と内容の充実をはかります。全日本民医連としての事務育成を軌道に乗せるため、四役直轄のプロジェクトを確立するなど、事務育成を把握する部署や事務委員会の構成などの検討をすすめ、43期の方針に生かします。全日本民医連事務局での経験は全国の貴重な経験に触れ、民医連事務として成長する重要な機会です。毎年の人事計画に位置づけを明確にして派遣している県連・法人もあります。すべての県連が積極的に育成の一環として位置づけることを呼びかけます。
4章 とりくみの概要と総会までの重点
第1節 平和といのち、人権を守る大運動を
財政制度等審議会の改革工程表にもとづく改悪の進行をこのまま許せば、さらに困難な患者・利用者が生まれます。共同組織とともに社会保障解体の内容をしっかりと学び、医療・介護から追い出される人を1人も出さない構えでたたかいを作りましょう。
(1)社会保障解体を許さない大運動を
①地域医療構想へのたたかい
県を単位に「地域医療構想調整会議」の内容や病床転換のための経済誘導を把握し、病床再編などによって病院から地域に押し出されるのはどのような人たちか、必要な高齢者救急や在宅医療、介護は確保されるのか明らかにしましょう。
具体的事例や予測される困難などにもとづいて地域医療構想をリアルに「見える化」して、地域の住民や患者・利用者、医療機関や介護事業所などと連携し、市町村とも懇談し、共同して住民のいのちと暮らしをささえるとりくみをすすめましょう。実態を広く知らせるシンポジウムの開催などにとりくみましょう。
②社会保障としての国保を守るたたかい
国保の財政運営責任は都道府県に移管されます。すでにいくつかの府県が2018年以降の保険料試算を公表しましたが、保険料が2倍になる町村があるなど高騰が予測されます。自治体キャラバンなどにとりくみ、各都道府県に対し試算を速やかに公表させ、市町村の裁量による国保会計への法定外一般会計繰入を認めさせることや、国庫補助負担増額を国に対して要望するよう働きかけます。受療権を守る上で、国保法44条を実効あるものにしていくことを重視しとりくみを強めます。
③受療権を守るたたかい
「受療権を守る討論集会2017」をふまえ、第2回評議員会が提起した大運動にとりくみます。教育委員会から就学援助世帯に無料低額診療事業について周知するよう求め、実現した北海道の経験、制度を知らせるパンフレットを独自に作成した東京民医連の経験などを参考に、自治体へも働きかけて制度を周知しましょう。
保険薬局の無料低額診療事業適用へ向けた政府への交渉をすすめます。あわせて自治体に来年度の予算で助成を求める要望書をすべての県連で議会に提出し、交渉をすすめましょう
④介護ウエーブ
介護保険「改正」法案が国会に上程されて以降、廃案を求めて国会行動、要請行動にとりくんできました。「軽度」の切り捨てが実施された場合の影響や前回の2014年改悪で生じている困難について、事例を通して明らかにし発信してきました。
「改正」法成立を受けて、「介護ウエーブ2017」は新たなステージに入りました。利用料3割化など今回の制度見直しを実施に移さないこと、前回改悪の検証と介護困難への対策を講じること、また、「軽度」の切り捨てをはじめとする新たな制度改悪の検討中止を政府に求めます。2018年介護報酬改定の審議も本格化しています。報酬の大幅な引き上げ・改善、抜本的な処遇改善を政府に強く要請します。ひきつづき利用者・家族の実態、介護現場の現状や要求をまとめ、制度・報酬・処遇改善を求める働きかけを強めていきましょう。
今年4月から全市町村で総合事業が開始されています。事業の実態を把握し、サービスの打ち切りや受給権の侵害が生じない内容で実施させることが必要です。各自治体で第7期介護保険事業計画策定に向けた作業が開始されており、病床再編(削減)に対応する在宅での受け皿整備も大きな焦点のひとつになります。入院医療や在宅医療・介護のあり方について、地域医療構想を含めた計画の分析や都道府県・市町村に対する具体的な提案など、総合的なとりくみが必要です。
(2)核兵器禁止条約の実現、ヒバクシャ国際署名100万筆を必ず達成しよう
核兵器の保有、使用、実験など幅広く禁じる「核兵器禁止条約」が国連の交渉会議で採択されました。9月20日から国連で各国の署名が始まり、50カ国の批准で発行されます。交渉で「核の使用をちらつかせる脅し」が禁止対象に加わり「核の傘に入ることも禁止」となります。核保有国や、アメリカの核の傘に入っている日本などは「署名しない」と断言していますが、条約は国際的な規範であり、発行すれば核抑止力に頼った安全保障政策は国際法上、正当化できません。「核兵器は違法」との規範が確立することで、核に固執する国々に政策転換を迫る力はさらに強いものとなります。核兵器の廃絶へ向けて大きな一歩です。
条約を採択に導いた力は、核兵器の非人道性が共有されたことです。条約前文には、核兵器使用の犠牲者(ヒバクシャ)や核実験被害者の「受け入れ難い苦痛と被害」に触れ、二度と繰り返してはならないと決意を述べています。
被爆者に学び、被爆者とともに被爆者医療、原水爆禁止運動をすすめてきたことが私たちの原点です。この立場から今回の核兵器の非人道性による核兵器禁止を広範に求めた採択を心から歓迎し、必ず実現させるために奮闘します。
実現には世論が決定的です。現在23万筆のヒバクシャ国際署名を、9月20日までに80万筆、43回総会までに100万筆の目標を達成します。8月に開かれる原水禁世界大会の民医連交流会を全国の決起集会として成功させます。
自治体首長のヒバクシャ国際署名への賛同要請(7月14日現在、15県知事・720市町村長が署名)や、政府が核兵器禁止条約実現に努力するよう求める地方議会の決議要請にもとりくみましょう。
(3)辺野古新基地建設中止、高江ヘリパッド工事中止へ向けて
安倍政権は民意を無視し、沖縄の名護市・辺野古新基地建設に向け、県から岩礁破砕許可を受けずに違法工事を続けています。翁長雄志知事が提起した工事差し止め訴訟を行う議案が7月14日の県議会で承認され裁判が開始されます。新基地建設を許さない沖縄のたたかいに連帯し、裁判支援、現地支援行動を続けていきます。また、2018年1月の名護市長選挙では、新基地建設を許さない市長の勝利で、断固とした民意を日米両政府に突き付けましょう。全日本民医連として秋から全国支援を開始します。7月から開始した座り込み行動への医療支援は現地から歓迎されています。全国の力を合わせて成功させましょう。
高江のヘリパッド工事が7月から再開されました。6基の建設は予算の6億円を15倍も超過し90億円に上りましたが、その3分の2が住民を弾圧した警備費用です。住民の声を圧殺してすすめられる工事の中止、オスプレイの使用中止を求め支援を続けます。
(4)原発再稼働、福島の切り捨ては許さない
福島第一原発事故から6年3カ月が経ちました。現在約7万人を超える県民が県内外に避難を強いられ、震災関連死は5月1日現在で2140人(直接死の1.3倍)、震災関連の自殺者も87人(2016年12月)と被害は引き続き拡大しています。しかし3月11日の慰霊式で安倍首相は「原発事故」の言葉さえ使わず、福島の切り捨てをすすめています。
帰還困難区域(337?琵琶湖の約半分の広さ)を除く避難区域(飯館・浪江・川俣・富岡の4町村)が、3月31日と4月1日に指定解除されました。対象の住民3万2000人のうち帰還者数は5月1日現在で約700人(2%)、特に富岡町では1.3%です。また、帰還困難区域は、大熊町と双葉町を中心とした7市町村で、5年以内に復興拠点だけを除染をすすめるとされています。2万4000人の避難住民で故郷に戻れるのは少数です。避難指示区域外からの避難者(いわゆる自主避難者)2万6000人への住宅支援が3月末で打ち切られましたが、多くの人々が避難先で生活を続けています。福島の原発事故による被害者は、放射能汚染によって甚大な被害を被っているのであり、その責任はすべて国と東電が持つべきです。さらに、帰還するかどうかは被害者自身の判断に任せるべきです。
原発ゼロを望む声は、ひきつづき6割を超えています。また、原発事故の被害者が各地で起こしている裁判で、前橋地裁は国と東電の責任を明確に認めました。福島の復興と原発ゼロをめざして運動を強めていきましょう。廃炉作業に従事する労働者の深刻な現実も明らかになりました。全日本民医連も作業員の相談会を始めました。相談、支援活動とあわせ、異常な働かせ方をやめさせる運動を強めていきましょう。
第2節 共同組織月間の成功と組織的前進へ
2月のまちづくり共同組織委員長会議では、共同組織活動の中心課題として位置づけてきた安心して住み続けられるまちづくりのとりくみを、無差別・平等の地域包括ケアの実践としてつなげていくこと、福祉や教育、保育・子育てをはじめとした社会保障を守る運動、住民自治の主体者としてとりくむことが深められました。また、共同組織担当者の研修会をとりくみました。
今年の共同組織拡大強化月間(10~11月)は、これらの到達を踏まえ、安倍改憲を許さない憲法九条をまもる運動を軸に、地域から平和とくらしを守るまちづくりをすすめます。
(1)地域の状況と共同組織の役割
新しい総合事業がはじまり、いくつかの共同組織がこれまでの経験を活かし、事業主体としてとりくみをはじめています。地域ケア会議や関係者による協議会などで困難を共有し、もっとも困難な人びとに寄りそう実践を地域全体ですすめるなど、民医連事業所と共同組織の役割はますます重要になっています。一方で国の方針に従い、介護サービス「卒業」に安易に誘導したり、介護保険を利用させない動きもあり、それらを許さない住民当事者としての運動をすすめる必要があります。
格差と貧困の広がり、自己責任にもとづく社会保障の切り捨てに抗して、安心して住み続けられるまちづくりを掲げ、実践する共同組織の活動が輝いています。担い手と、職員の活動参加を抜本的に増やしていきましょう。
(2)あらためて370万共同組織と『元気』7万部の達成に向けて
共同組織構成員は、いったんは369万に達したものの、総会や総代会を前にいくつかの共同組織で脱退や死亡などで減少しています。あらためて次期総会までに370万目標を達成しましょう。
『いつでも元気』は3月のまちづくり・共同組織委員会アピール「いつでも元気を読もう 広げよう~43回総会までに7万部を達成しよう~」を受けて、各県・事業所で積極的な動きが出ています。埼玉では全新入職員に働きかけ、ほとんどの新入職員が購読、東京では法人別の職員購読率を県連理事会、専務会議で議論し、幹部が職責者中心に購読をすすめ、6~8月にかけて職員全体の購読率を50%以上に引き上げることを確認するなどの変化が生まれています。千葉では県連理事会でアピールを出し、全職員に購読を訴えることを確認、さらに職場や職責者会議等で『元気』の活用を提起しました。43回総会までに7万部達成に向け、職員購読率50%をめざします。『いつでも元気』販売所交流会を9月に開催します。
(3)第14回全日本民医連共同組織活動交流集会(神奈川)の成功へ向けて
1年後に迫った(2018年9月)共同組織活動交流集会の成功へ向けて全国連絡会、神奈川、関東地協で準備がすすんでいます。全県から全国連絡会に結集することをあらためて呼びかけます。
第3節 「新しい2 つの柱」の実践探究で民医連らしい医療・介護活動の追求を
(1)県連医活委員会の体制強化と活発な議論・学習
「新しい2つの柱」(第42回総会で提起)や県連医活委員会の確立は、各県連で積極的に受け止められています。2016年拡大医活委員長会議以降、県連医活委員会などを確立した県連が、29から39カ所に増え、多くの県連理事会や医活部・委員会では、具体化の議論とともに委員会の体制や機能の整備に力を入れています。県連総会・幹部研修会・学運交などで「新しい2つの柱」や「SDH(健康の社会的決定要因)」、「HPH」、「QI活動」などの学習会が従来になく活発に行われ、J-HPHへの加盟やSDH、QI推進事業の広がりが始まっています。
各県連では、「タイムリーであり、1つの柱ではダメということがわかった」「日常の医療・介護はすべてSDHの視点に根ざしている」「HPHを共同組織との運動の要に据えることに意味がある」「4課題(医療・介護、医師養成、経営基盤、社保運動)の好循環を生み出すのは、『新しい2つの柱』の実践、具体化から始まる」など、前向きで確信になる議論がされています。
また、「新しい2つの柱」の視点で県連の医療・介護活動などを「見える化」し、職場で実践するための方針や提案の具体化がすすみ始めています。奈良民医連では、「県連医活キックオフ集会」を開催し、「SDHに着目したHPH活動を通じて社会保障拡充の運動を奈良ですすめよう」と職場、事業所、県連での具体的提案(「気になるカンファレンス週1回30分」、気づきのカルテ記載やSDHのサマリー記載など)を開始しています。
(2)2017年拡大医活委員長会議に向け「新しい2つの柱」の実践を広げよう
「新しい2つの柱」は、民医連の日常の医療・介護の基軸であり、SDHを重視したヘルスプロモーション(HPHを含む)を前進させながら、「無差別平等の地域包括ケア」と「住み続けられるまちづくり」を具体化してゆくことが求められています。
全日本民医連は、「新しい2つの柱」の具体化としてカナダのギャリー・ブロック医師による日本版「医師のための貧困治療ワークショップ」を開催し、「貧困を病態・病因(危険因子)と捉え、貧困を治療する」という実践を学びました。
今後、各県連では、すべての職種に「新しい2つの柱」の意義と重要性を広めていくことが共通した課題になっています。特に医師集団には深い論議と理解、実践のための研究やシステムづくりに力を発揮してもらうことが重要です。日常診療で患者を「生物・心理・社会的(Bio-Psycho-Social)」に全面的にとらえ、チームとして対応できるようになるためには、仕組みや「貧困評価介入ツール」などが必要で、SDHの視点を持ち継続的に行動するアドボカシーを持った医師、職員集団づくりにつなげましょう。
2017年拡大医活委員長会議(12月)は、医師委員長も対象に、「新しい2つの柱」の実践例とそのツールなどの見える化、「新しい2つの柱」に至る民医連医療論を深め、「新しい2つの柱」を担う職員・医師養成をメーンに開催します。
(3)介護・福祉分野
医療・介護安全交流集会ならびに顧問弁護士交流集会を受けて、各地で介護安全のとりくみの強化が図られています。県連、法人として、介護安全の課題を扱う委員会を設置したり、活動を強化するなど組織的な対応が必要です。県連として統一したマニュアル・報告書を作成し、経験の共有を図っているとりくみなども報告されています。事故の分析やインシデント、アクシデントレポートの集約・分析と対策、必要なマニュアルの作成・整備や学習など、法人、事業所での日常的なリスクマネジメントを強めます。職能団体などが養成しているリスクマネジャーの養成・配置をすすめ、とりくみ全体の水準を引き上げていきましょう。重大事故が起こった場合の初期対応について、医療の経験に学び介護分野の特徴をふまえながら、対応上のポイントを全日本民医連として整理します。
利用者負担の引き上げや特養入所対象の見直しなど、この間の制度改悪で介護・生活の困難を抱える利用者・家族への対応を強めましょう。病床再編のもとで在宅の重度化が加速しており、また、総合事業の実施などに伴って要支援者など軽度の利用者に困難が生じています。医療・介護の連携、多職種協働、共同組織との連携を強め、住み慣れた地域で暮らし続けることができるよう対応をすすめましょう。
経営改善に向けたとりくみを強めます。現状を分析し改善に向けた方針をつくる上で、個々の事業(所)の経営の実態(損益)を正確に把握することが必要です。介護報酬2018年改定の動向をつかみ、必要な準備をすすめます。職員の確保・養成に向けたとりくみをひきつづき強めます。
第4節 民医連運動を担う人づくりを事業と運動の中で旺盛にすすめよう
2月に開催した職場づくり・職場教育実践交流集会では「職場管理者の5つの大切」にそって全国で職場教育・職場づくりの実践がすすんでいること、日常の医療・介護の実践と運動を通して職員の成長につながること、職場づくりは事業所の管理運営の基本であり、職場教育を前進させる上でも重要であることが明らかになりました。今後、憲法、綱領の理解を基礎に、医療介護の「新しい2つの柱」の実践と職員育成を一体にすすめていくこと、組織的に職場教育・職場づくりをすすめていくために、トップ管理者が職責者の育成、援助を強めていきましょう。
医療提供体制の効率化、縮小の流れと一体に、在宅看取りの規制緩和として実施される「在宅での看取りにおける医師による死亡診断に必要な情報を報告する看護師を対象とした法医学などに関する研修」や、働き方ビジョン検討会報告書が示した看護師・准看護師の基礎教育カリキュラムの見直し、看護師の特定行為研修制度の再構築(養成数の増加・医行為の拡大、認定看護師制度の組み込み)、新たにナースプラクティショナーやフィジシャン・アシスタントの創設など、看護のあり方の根幹にかかわる検討が行われています。動向を注視し、民医連としてどのように考えるか、検討を開始します。
民医連の看護を継承、発展させるためブックレット『民医連のめざす看護とその基本となるもの』の普及と学習を重視します。各地で、学習を通じ、歴史を振り返り民医連のめざす看護を理解すること、基本となるもの(患者の見方・とらえ方、看護の視点・優点、社会の見方・とらえ方)で事例をとらえるプロセスが、民医連の看護の継承・発展につながることが、実感されています。また、活用の経験交流などをすすめていきます。いまの看護学生の置かれている状況に即した看対マニュアルの改訂を開始します。
第5節 民医連運動を担う医師の確保と養成の前進へ向けて
(1)「新しい2つの柱」を実践する医師集団づくりを
42回総会で提起した医療・介護活動の「新しい2つの柱」を実践する医師集団づくりという重要な課題をすすめるために、6月に「全国医師委員長医師研修委員長会議」が開催されました。その問題提起案は、民医連で働くすべての医師に向けて発信され、「新しい2つの柱」をその医療理論の歴史的形成も含めて大いに学び、どのような民医連医師集団をどう形成していくのか議論しよう、と呼びかけました。情勢と歴史を科学的にとらえ、問題提起案をたたき台に率直な議論を行い、「新しい2つの柱」を実践する民医連の医師集団づくりをすすめましょう。今後、この全国会議を出発点に、地協、県連、法人、事業所と議論をひろげ、医局や管理部をはじめ全職員の意見や知恵を大いに出し合い、民医連医師集団への提言文書を作成していく方針です。
(2)医学対活動での前進をつづけよう
2015~16年の活動で「500人の奨学生集団、200人の受け入れ」目標達成に向けてその展望が見えてきています。医学対Movementの提起に応えた全国の活動は、中低学年の奨学生を前年度の大運動と同じく100人を超えて誕生させることに成功し、また育てるMovementなど、奨学生集団の成長へのとりくみも飛躍的に強化されつつあります。全国医学生ゼミナールや医学連の活動など、医学生の自主的活動も大きく前進しているのも今日の特徴です。医学対活動の2つの任務を徹底してとりくむことの重要性があらためて明確になっています。活動の重点としては、(1)18卒受け入れで前進をつくりだす、(2)中低学年での奨学生誕生に力を入れ、また民医連の奨学生としての成長の援助を強化する、(3)継続的に高校生・予備校生へのとりくみを行い、新入生歓迎での奨学生誕生を飛躍させる、(4)医師や幹部のとりくみ参加を強めつつ、ひきつづき医学対担当者の育成と集団化の強化をすすめること、が挙げられます。2019年4月末には「500人奨学生集団」を達成していく節目として、2018年6月に全国の医師・事務幹部、医学対担当者などによる「全国決起集会」(仮称)を開催します。
(3)医師研修担当者の育成をすすめよう
医師研修事務担当者の役割は重要性を増しています。担当者は受け入れ数が増加した初期研修および後期研修を実務的にささえながら、研修医が民医連の医師へと成長していく研修を実現するための重要な役割を担っています。各事業所の担当者が研修制度に精通するように支援することと同時に、担当者が研修医の相談相手になりながら、民医連医師への成長を後押しできる力量を身に付けるための支援と育成の実践が求められます。全日本民医連としては、今年度中に研修担当事務交流会を開催し全国的な研修担当者育成のための活動をすすめていきます。
(4)新専門医制度実施~あらためて地域医療を担う医師養成と医師増員を
新専門医制度のスタートは来年度からと決定されました。地域医療への影響に配慮し、1年間延期されていましたが、基本領域であってもやはり指導医や症例などの施設要件の高いハードルから、基幹型病院は大学病院が中心となる領域が多く、内科専門医や総合診療専門医を除くといったんは大学のプログラムに登録せざるを得ない状況が大勢であることに大きな変更はありません。初期研修を終えた医師が地域医療の現場で学び働き、そこでの医療に貢献しながら、個々のライフプランに合わせて専門医資格を得る修練をしていくことが可能になるように、カリキュラム制の導入が基本領域にも求められます。
また、日本専門医機構が、専門医取得は「義務ではない」と180度の方針転換を行ったことは、地域医療の現場での医師体制の確保と、大学・研究機関での診療、学術研究、そして専門医の教育を同時に実践していくだけの医師数が充足されていない実態のあらわれといえます。この実態と大学・学会主導の専門医制度に任せるだけでは、地域の中小病院をささえる医師の専門医としての修練は置き去りにされる可能性が高いと指摘せざるを得ません。地域医療の現場を守り発展させるために、ひきつづき医師の増員を求める運動を続けながら、同時に地域の中小病院の勤務医の養成方針を国民的議論にしていく必要があります。そして地域住民の人権の担い手として奮闘する民医連の医師養成の前進がますます切実に求められます。
全日本民医連では、民医連の病院が基幹型や連携施設となっている専門医プログラムを可視化するとりくみを行いました。内科、総合診療科でのプログラムの準備をぬかりなく行い、着実な実績を積み重ねることが求められます。また他の基本領域におけるプログラムの基幹病院や、連携病院でも大学医局非入局など身分的な縛りが少ないところは、全国の民医連にとって貴重な修練施設としての役割が期待されます。医学生、初期研修医に民医連での後期研修の意義と魅力を伝え、地域における民医連事業所の存在意義を語りあい、ひきつづき民医連医療に参加していくことを訴えましょう。
第6節 経営改善の速度を上げ、必要利益の確保をはかろう
現在集約中の2016年度経営実態調査では、今回から予算を合わせて集約することにしました。集計途上ですが、多くの法人で利益予算に対し到達できず、事業収益が伸び悩み、費用の伸びが収益の伸びを上回る傾向となっています。経常利益率は前年の0.4%をさらに下回り0.3%と最も低い状態となりました。中期指標該当5ポイント以上の法人が59法人とこれまでで最も多くなっています。厳しい経営の状態は深刻さを増しており、経営困難が民医連運動の存続を危ういものにしているともいえます。
事業キャッシュで借入金返済が賄えない状態が続く法人もあります。必要な利益が確保できているか、という視点から正しく、具体的に経営の状態を認識できるようにすることが大切です。「必要利益」とは、中長期的に見て必要な投資や借入金の返済、退職金の支払いなどをふまえ、資金を確保・維持していくために必要な利益です。必要利益に基づく予算が作成されていることが重要です。
今日の経営の困難を打開する上で、社会保障の自然増削減をはじめとした社会保障解体攻撃をたたかいの力で打ち破ることが必要です。2018年同時改定での大幅な引き上げをはじめ、全職員と共同組織、民医連外の事業所と連帯した運動を作るための経営幹部のイニシアチブと実践を強めましょう。
2018年同時改定に立ち向かう経営管理の課題として、あらためて(1)トップマネジメント集団の機能を強化すること、(2)必要利益を基準にした経営の評価(必要利益に基づく予算管理)と改善すべき課題の明確化、(3)全職員参加の経営を実現するため、組織改革、職場運営の改善、基礎的な実務やスキルを高めること、(4)全国の法人・事業所のとりくみに学び、自らの課題を明確にして、変化をつくるとりくみを重視しましょう。
また、第1四半期をふりかえり、具体的な経営改善策を明確にすることが必要です。増収策だけに頼った改善策では今日の状況を乗り越えることは困難です。経営の状態をリアルに把握し、断固たる決意を持って、経営幹部が語り、全職員で共有し、改善策をみんなで検討し、実行し、変化をつくる経営改善にとりくみましょう。
第7節 歯科分野
格差と貧困を可視化し、歯科分野での「新しい2つの柱」の活動を強める『歯科酷書第3弾』を、全歯科事業所から事例を集約して発表していきます。
2018年診療報酬改定に向けて、「保険で良い歯科医療を」署名は、5月時点で2万5000筆を超え、歯科事業所のない県連からも集まっています。学習を通して、署名の目標数を設定し、目標達成のために全職員でとりくみましょう。
奨学生は、42期に6人増え15人の奨学生を迎えています。8月の青年歯科医師・奨学生会議を成功させましょう。
8月の医活調査、9月の国会署名提出行動、10月の全国中堅歯科医師会議、11月の各地協所長事務長会議などを節に活動を強めます。12月に歯科衛生士の全国交流集会を初めて開催します。2018年診療報酬改定に向け、地域医療構想と地域包括ケアについて歯科としても深め、民医連の医科歯科介護の連携をすすめていきます。
第8節 災害対策をすべての県連、事業所ですすめよう
全日本民医連として初めて「被災地県連懇談会」を開催し、復興を住民本位にすすめる運動を他団体、個人と共同してとりくむ重要性を確認しました。今後、(1)震災被災地において、医療・介護活動の「新しい2つの柱」を支援活動の柱に据え、(2)すべての県連、法人・事業所で、事業継続計画(BCP)や職員の健康を守る活動を踏まえた災害対策指針の作成と訓練を行い、(3)被災者の医療費免除の継続・拡大など被災者の生活支援策の充実を求める運動を強めることを全国に呼びかけます。
2回目のMMAT研修交流会は1月に開催し140人が参加。各地で災害が起きる中で“明日は我が身”として災害訓練を各地ですすめていく研修を行いました。基礎講座と規模別のグループで机上訓練を行い、今回は介護事業所からも多く参加しました。今後の研修交流会では、未参加の県連をなくすとともに、マニュアルにもとづいた訓練を普及し、各事業所のマニュアルなども交流できる場としてとりくみをすすめます。全日本民医連ホームページの「災害関連情報」の中に研修交流会資料を掲載しました。今後も災害に関する資料をホームページで共有します。
原発事故対応マニュアルの改訂を行いました。各県連で活用をすすめましょう。
第9節 全国課題
42期のトップ研修会にとりくみます。今期、看護、事務、リハビリテーション部門で独自の養成講座がすすみました。トップ研修については、県連会長、理事長、院長など医師を中心に次世代のトップ集団作りも視野に入れてとりくみをすすめていきます。
2017年の第6回キューバ医療視察は、医師9人、歯科医師2人、医学生6人、歯学生1人を含む25人が参加し、医学生、医療系学生との交流を行いました。
8月には、韓国の人道主義実践医師協議会などがとりくむ「医学生キャンプ」の医師、医学生が2017年原水爆禁止世界大会に参加し交流します。
11月には韓国の人道主義実践医師協議会30周年への招待、フランスで行われる国際シンポジウム「全ての国民のための社会保障制度」の準備をすすめています。
民医連共済が呼びかけた「民医連の共済2017年版テキスト」の学習運動を地協、県連でとりくみましょう。
おわりに
民医連創設65年、民医連綱領改定10年、広島総会の成功へ向けて
2017年6月7日、全日本民医連は結成64年を迎えました。2010年の民医連綱領改定から8年目に入りました。43期は、民医連結成65年、民医連綱領改定から10年目を迎えます。
民医連綱領改定に至った当時の全国討議の論点は、(1)私たちは、今日、「だれのために」「なんのために」「だれと」「どのような」民医連運動を作り上げるのかを問い直し、「チェンジ」ではなく「バージョンアップ」させること、(2)日本国憲法の理念を正面に掲げ、生かすことを民医連の社会的使命として、綱領に明記し、内外に宣言すること、(3)「働くひとびと」の立場に立つことの今日的発展として「いのちの平等」「無差別・平等」の医療・福祉を受け継ぎ、差別や人権侵害を受けている多くの国民の立場に立つ表明を行うこと、(4)「非営利・協同」の組織の一員と規定し、営利化に抗し、権利としての社会保障を守ること、医療・福祉を受ける権利を守ることを社会的使命・目標としている組織であること、(5)民医連の運動は職員の主体的な運動であるが、共同組織は民医連運動の最大の優点であり、不可欠の構成要素であり、綱領上に積極的かつ明確に位置づけることでした。民医連運動の発展にとって今日でも重要な視点です。
民医連綱領確定後、全国の現場で私たちは、(1)価値判断・行動基準として「いのち・憲法・綱領」をモノサシに、(2)あらゆる運動の“かけはしになろう”の呼びかけからはじまり、一点共闘、総がかり行動へ、(3)「憲法理念を高く掲げる」医療・福祉団体としての自覚をもとに、(4)日本社会、国際社会に積極的に問題提起し行動を起こす、(5)共同組織の役割のさらなる発揮を一貫してめざし、(6)人間の全面発達を促す組織づくりへの挑戦、そして42回総会で、63年間の実践で到達した「無差別・平等の医療と福祉の実現」をめざす組織として、医療・介護活動の「新しい2つの柱」を軸とした実践を提起し、人権に根ざした医療・介護を発展させてきました。これらは、日本国憲法の実現をめざした実践の一つでもありました。
安倍政権がこの国を憲法の平和的生存権・健康権を否定する国として作りかえようとする中で、民医連の役割はますます重要になっています。その役割に応え、いのちの平等を掲げ、新しい希望を開く広島総会(第43回)の成功へ向け、共同組織の仲間とともに奮闘していくことを呼びかけます。
以上