【新連載】25.鉄剤・亜鉛製剤等の副作用
薬には鉄や亜鉛などの金属元素を含む製剤があります。ここではそれらの薬品の副作用を紹介します。
鉄剤による過敏症、フェジン静注Ⓡによる関節痛・低リン血症、長期服用による鉄の肝臓への過剰沈着など
血液中の鉄は赤血球の中の「ヘモグロビン」という形で存在し、全身の組織に酸素を運ぶ大切な役割を果たしています。鉄が不足すると、ヘモグロビン値が低下し貧血症状を呈します。鉄剤の副作用報告は、消化器症状で内服薬に多く見られました。その他、過敏症の報告も散見されます。
副作用モニター情報〈289〉 鉄剤による過敏症
鉄剤の副作用は吐き気などの消化器症状がよく知られていますが、今回は過敏症の副作用報告を取り上げます。
2005年から3年間の間に副作用モニターに寄せられた、すべての鉄剤の副作用報告89例(うち注射剤3例)は、胸焼け、吐き気や嘔吐、胃痛、下痢、便 秘などの消化器症状が約9割を占めており、そのほかは、ふらつき、倦怠感、気分不良、ショック、肝機能障害、過敏症(発疹、かゆみ)の報告があります。
過敏症による副作用はクエン酸第一鉄によるものが3例、フマル酸第一鉄徐放錠、硫酸第一鉄徐放錠で各1例、含糖酸化鉄注射液によるショック1例が 報告されています。そのうち、発疹を起こした2症例の概略は、(1)フェロミア再投与の結果ほぼ確実に副作用と判断され、インクレミンシロップへの変更で 改善、(2)フェルムで発疹、フェロミアへ変更して再び発疹が出現、インクレミンシロップに変更して症状は消失、という内容です。クエン酸塩などの有機鉄で過敏症状が起きる可能性が高い印象を受けます。もちろん、添加物が原因で副作用を起こしたという可能性も 考慮に入れる必要はあります。注射剤による発疹の報告はありません。鉄剤では消化器症状以外の副作用発生率は小さいと思いますが、使用量が非常に多い薬剤 なので、過敏症状の副作用に遭遇する機会はいつでもあると考えて日常診療にあたって下さい。
(民医連新聞 第1429号 2008年6月2日)
2008年の副作用モニター記事です。2015年までの10年間で調査しても消化器症状が大半を占めており、過敏症状はクエン酸第一鉄での報告が多いようです。注射薬は報告数が少ないですが、消化器症状は少なくアナフィラキシーショックをはじめとする過敏症が報告されています。
含糖酸化鉄注射液(商品名 フェジン)では下記のような特徴的な副作用も報告されています。
副作用モニター情報〈413〉 フェジン静注Ⓡによる関節痛・低リン血症
全日本民医連副作用モニターにフェジン静注Ⓡ(一般名:含糖酸化鉄注射液)による関節痛・低リン血症の症例が報告されたので紹介します。
症例)30代男性。クローン病(消化管手術歴あり)。併用薬:ペンタサ錠Ⓡ、ガスコン 錠Ⓡ、ミヤBM錠Ⓡ、メチコバール錠Ⓡ、フォリアミン錠Ⓡ、オメプラゾール錠Ⓡ、アロプリノール錠Ⓡ、プレドネマ注腸Ⓡ。鉄 欠乏性貧血(Hb7.9)のため、フェジン静注Ⓡ80mgを週2回投与開始。約半年後から関節痛、背部痛、筋力低下出現。Hb10.3。開始7カ月 後、痛みが強くカロナール錠Ⓡ追加。開始1年後も痛みが続くためトラムセット配合錠Ⓡも追加。トラムセットの効果はあったが痛みは完全にとれず、 20日後には杖での歩行となる。トラムセット追加1カ月後、フェジンによる低リン血症の可能性があるためフェジン中止。血清リン値1.2mg/dl(基準 値:2.5-4.5mg/dl)、Ca8.8mg/dl。これまでのフェジン総投与量は5760mgであった。
中止5日後カルシウム、リン酸補充のためリン酸水素カルシウムⓇ3g、ディーアルファカプセルⓇ0.5μg開始。中止17日後、リン摂取目的にてエレンタールPⓇ頓用追加。中止24日後、疼痛改善、血清リン値2.1mg/dl、血清鉄26μg/dl。中止2カ月後、血清リン値3.4mg /dlまで回復。Hb10.7。鉄剤は内服へ変更となり、トラムセットも中止となる。
この症例の適正な投与鉄量を算出すると約1900mgで、実際には約3倍量の投与となっていた。
フェジンによる低リン血症及び骨軟化症の症例は、静注鉄剤の中ではフェジンに特有の副作用として知られています。作用機序 として、含糖酸化鉄の尿中排泄に伴い、競合的に近位尿細管でのリン再吸収抑制が生じ、尿中へのリン排泄が促進したためと考えられています。 1α-hydroxylase活性も障害され、活性型VDも低値となることも原因です。
近位尿細管障害は一過性のため、投与を中止すれば低リン血症、骨軟化症は自然に軽快します。必要な場合は、VD製剤を投与します。予防として、フェジン の適正な投与量を算出し、漫然と長期に投与しないように注意しながら、定期的に血清リン値をモニタリングすることが大切です
(民医連新聞 第1570号 2014年4月21日)
鉄は過剰になると、組織に沈着し様々な障害を起こします。そのため注射剤は、目標とするヘモグロビン値と現在のヘモグロビン値から総投与量を算出し過剰にならないようにし投与します。内服薬は消化管での吸収調節が働くため厳密に規定されていません。しかしながら漫然と投与し続けると重篤な肝障害を発症することもあります。
副作用モニター情報〈437〉 鉄の投与は計画的に
鉄剤は、鉄不足による貧血などに対し用います。長期服用により、鉄が肝臓へ過剰に沈着する副作用が報告されました。
症例)70歳代男性。クエン酸第一鉄製剤(鉄として50mg)を毎日、少なくとも7年以上服用していました。肝細胞癌を疑われて受診すると、MRIの画像診断では肝臓の半分が真っ黒(鉄は黒く描画される)、血液検査ではフェリチンが大幅に基準値を超えていました。鉄の過剰摂取を指摘され、鉄剤の服用を中止。幸運にも肝細胞癌は一部だけで、3カ月後に切除。その他の病変は慢性肝炎の再生結節で、肝硬変の原因特定は困難と診断されました。
消化管から吸収された鉄は、ヘモシデリンと結合して肝細胞に蓄えられます。門脈周囲で増殖した肝細胞はゆっくりと肝中心静脈に向かって移動し、その周囲で一生を終えます。その時、肝臓内のマクロファージであるクッパー(Kupffer)細胞が、肝細胞の崩壊で放出されたヘモシデリン‐鉄結合物を貪食します。そのため、鉄は肝中心静脈周囲に集中します。肝硬変やC型肝炎の場合、なぜか肝臓に鉄の過剰沈着が起き、肝機能の悪化を招きます。
注射剤では鉄の過剰投与を防ぐため、必要量を計算して投与計画を立てますが、内服の場合は総投与量が決められません。適時、フェリチンでの確認が必要です。たかが「鉄」ですが、病態を考慮し、漫然と投与しないよう、注意が必要です。
ちなみに、肝臓に良いと宣伝されているウコンには、製品による違いはありますが、100gあたり20~30mgの鉄が含有されています。摂取量と期間によっては、かえって肝臓に悪影響を与えますので、サプリメントでの鉄分摂取にも注意を払いましょう。
(民医連新聞 第1596号 2015年5月18日)
最近では鉄を含むリン吸着剤が、腎不全患者に使用されるようになりました。鉄の吸収量は少ないとされていますが長期服用となるので注意が必要です。
亜鉛を含む製剤は主に味覚障害などで使用されるケースが多く見られます。
ここでは酢酸亜鉛ノベルジンの副作用を報告します。
低亜鉛血症治療剤ノベルジン錠による胃腸障害
症例:70歳代女性
舌の痛みや味覚異常があり受診したところ、潜在性亜鉛欠乏症と診断された(血清亜鉛値76?/dl 正常値80~130?/dl)。ノベルジン錠50㎎2錠 1日2回朝夕食後で服用開始。投与開始2か月後、定期受診の際に胃にむかつきがあると訴え、ノベルジン錠は中止となる。服用中止後、4~5日後に胃の症状は改善(中止時の亜鉛値は不明)。
ノベルジンの副作用において胃部不快感や悪心・腹痛などの胃腸障害の割合は高くなっています。この消化器症状を軽減するために低亜鉛血症治療の用法は食後投与となっています。患者に対して服用のタイミングをしっかり指導する必要があります。
(民医連新聞 第1762号 2022年6月20日)
画像提供:愛知民医連 (株)ファルマネットみなみ
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**【薬の副作用から見える医療課題】**
全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や352の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。
<【薬の副作用から見える医療課題】掲載済み>
2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
4.睡眠剤の注意すべき副作用
5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
8.抗パーキンソン薬の副作用
9.抗精神薬などの注意すべき副作用
10.抗うつ薬の注意すべき副作用
11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
12.点眼剤の副作用
13.消化器系薬剤の様々な副作用
14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
15.抗不整脈薬の副作用
16.降圧剤の副作用の注意点
17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
18.脂質異常症治療薬の副作用について
19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
22.過活動膀胱治療薬の副作用
23.産婦人科用剤の副作用
24.輸液の副作用
25.鉄剤の注意すべき副作用
<【薬の副作用から見える医療課題】続報〔予告〕>
26.抗凝固剤の副作用(ワーファリン NOAC)
27.抗血小板凝固剤の副作用
28.高尿酸血症治療薬の副作用
29.糖尿病治療薬の副作用
30.抗リウマチ薬(DMARDs)の副作用
以下、60まで連載予定です。
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