いつでも元気

2003年9月1日

特集1 劣化ウラン兵器(DU)は国際法違反 米科学者ローレン・モレさんにきく

放射能によるガンの増加はアメリカでも恐ろしいほどです

 劣化ウラン(DU)と低レベル放射能の危険性を訴え続けているアメリカの科学者ローレン・モレさん(58歳)。専門は地質学で、2つの米国立核兵器研究 所で火山と高レベル核廃棄物を研究中に、放射能の危険な実態に気づいて退職、内部告発者に。「アフガニスタン国際戦犯民衆法廷」で証言するために来日しま した。

―今回の来日では、アフガニスタンで使われたDUについて証言しましたね。
 米政府はアフガニスタンでもDUを使用したことを認めました。カナダのウラン医療研究センターによれば、戦闘地域の住民の尿サンプルは、通常値の400 倍の高濃度ウランで汚染されています。
 DUは、ハーグ条約やジュネーブ条約などの国際法で使用が禁止されている兵器です。兵器が合法であるには、次の4つの試験をパスしなくてはなりません。
 まず時間。戦争終了後も被害を与えてはいけない。第2が環境。ひどく汚染してはいけない。第3が領域。戦地をこえて被害を与えてはいけない。そして人道 性。非人間的に殺傷する武器はいけない。
 DUは、このどれにも違反しています。96年に国連の人権小委員会も「無差別殺戮の大量破壊兵器だ」と述べています。

―アメリカ人はDUについて知っているのでしょうか?
 知らない人が多いです。湾岸戦争はもちろん、アフガニスタンや今回のイラク戦争に従軍した兵士にも、すでにひどい健康障害がおきています。政府が医療保 障を拒否したので、彼らは議会やメディアへ働きかけました。また森住卓氏の写真展「湾岸戦争の子どもたち」(写真下)が米国各地で開催され、関心をもつ人 も増えています。しかし、まだ少数派です。
 政府はDUと健康被害の相関関係を否定していますが、広島・長崎に原爆を落とす前からDUの影響についてよく知っていました。この文書を見てください。

―機密扱いだった文書ですね。1943年10月30日付のL・R・グローブ大将へのメモとあります。これは?
 グローブ大将は広島と長崎に原爆を落としたマンハッタン計画の責任者です。このメモが、彼らがこのときからDUの人体への影響を熟知し、兵器とする計画 だったことを証明しています(注)。

―それなのにどうして、米政府は否定するのでしょうか?
 もちろんDU兵器を使いたいからですよ。DUを使うことで、世界人口を半分にしたいというペンタゴン(米国防総省)の野望を助けることにもなります。

―世界人口を半分に? ペンタゴンがそんなことを言ったのですか?
 つい3カ月ほど前にも米国紙に掲載されました。彼らの一部は10年ほど前からたびたびこういう暴言を吐いています。
 いま世界中でがんが増えていますね。WHO(世界保健機関)がこの春発表した報告書には、今後20年間でがんが50%増えるとあります。DUを使い続け れば、被曝者は地球全体に広がります。

―でもがんの原因は放射能だけではないですよね。化学物質やストレスとか。
 確かに。でも、放射能の影響はとびぬけています。それに放射能が原因の病気はがんにとどまりません。死産、流産、先天性障害、低体重児、心臓病、神経 症、神経系疾患、知能低下、白血病、自閉症児、免疫不全性疾患、糖尿病など、いろいろです。アメリカではがんが急増しており、一生の間に5人のうち2~3 人はがんになります。アメリカは原発と核兵器工場だらけですからね。みんながんを恐れて、がんのことを「ビッグC」と呼んでいます。Cancerという言 葉をいいたくないのです。

―日本が自衛隊をイラクへ派遣することはどう思われますか?
 自衛隊員に死刑宣告するようなものですね。彼らはDUの影響を免れることはないでしょう。米政府がミシシッピー州で行なった湾岸戦争従軍兵251人の調 査では、戦争後に生まれた赤ん坊のうち67%が、無脳症や、目や足や手や内臓がないなど深刻な奇形がありました。そして、精液の中に劣化ウランが入ってい るために、彼らの妻も内部被曝して、病気になりました。ひどい話です。これが自衛隊員にもおこると思います。日本政府は、その責任をどうとるのでしょう?
 アメリカはアフガニスタンとイラクで戦争犯罪を犯しました。日本がイラク、あるいは国連の要請なしに自衛隊を送れば、日本も戦争犯罪者に名を連ねること になります。この派兵で儲ける人たちがいるでしょう。しかし本当の長期的コストは、いったい誰が支払うのでしょうか。みなさんが支払うことになるのです。
 中東諸国からの信頼も失うでしょう。自衛隊のイラク派兵は、アメリカのイラク侵略と同様、ばかげた計画です。ほんの一部の集団を利して、私たちすべてを 破滅へと追いやる計画です。

 バークレイ研究所時代の上司のつてでローレンス・リバモア核兵器研究所で、「ヤッカ・マウンテン高レベル核廃棄物貯蔵所プロジェクト」の担当になりまし た。しかしプロジェクトをはじめて半年ほどで、ヤッカマウンテン・プロジェクトそのものが、科学的な詐欺であることに気がつきはじめたのです。

―科学的詐欺というのは?
 結論がはじめから決まっていて、それに見合うような証拠を集め、それに合わないデータは無視する。つまり、データのねつ造です。3カ月に1度、米国エネ ルギー省にレポートを提出するのですが、上司は「適当に数字を合わせて書きなさい」という。びっくりしました。
 高レベル核廃棄物を安全に捨てられるような場所なんて実際にはない。地下処分すれば地下水を汚染し、致命的です。
 しかしそれで研究資金が来るのです。待遇はよく、民間より給料も3~4割高く、有給休暇は年に2カ月もありました。

―シングルマザーで高給取りとして働き、十分な休暇ももらっていたあなたが、どうして研究所をやめたのですか?
 私の調査していた土壌と水のサンプルが放射能汚染されていることを知ったからです。研究所はそのことを知っていたのに、私には教えませんでした。ですか ら何の防護もせずに、1カ月に3000サンプルも採取していました。私は知らないうちに被曝していたのです。
 そのことを知った日に、自分の研究書類を含めすべての荷物をまとめて車に積み、研究所の身分証明書とポケベルと鍵をおいて研究所の扉を後にしました。 91年です。そして内部告発者となりました。

 私の人生が決定づけられたのは、2000年に広島・長崎を訪れたときです。一番衝撃を受けたのは、若い母親が死にそうな赤ん坊にお乳を含ませている写真 です。一生忘れられません。
 核兵器研究所に勤めていながら、私は核兵器について何も知りませんでした。キノコ雲の写真は見たことがありましたが、その下の現実がこんなに恐ろしいも のだとは、想像すらしなかったのです。展示を見終え、見上げると「リトルボーイ(広島に落とされた原子爆弾)」の模型がありました。私はそれまで抑えてい た感情をどうすることもできず、泣きだしました。これを作ったのは、アメリカの科学者でした。私はその科学者の1人として責任を感じ、愕然としました。あ の写真の若い母親は私だ、と感じました。

―帰国後は、何をされたのですか?
 乳歯の中の放射能を計る研究です。アメリカの原発周辺やイギリスなど世界各地の子どもの歯のサンプルを集め、放射能のレベルと種類について調べていま す。

―私たちに何ができるのでしょうか?
 DUや放射能について、市民と医療関係者が正確な情報を持つことが大切です。田城明著『知られざるヒバクシャ 劣化ウラン弾の実態』(岩波書店)は必読 書です。鎌仲ひとみ監督の映画「HIBAKUSYA」(24ページ参照)も必ず見てください。DUはすでに国際法上違法な兵器ですから、世界中の市民が連 帯して、使用と製造と販売と貯蔵を禁止するよう政府への圧力を強める必要があります。情報は力です。政府は何もしません。でも私たちが国境を越えてつなが り、この非人道的な兵器を止めるのです。

―日本人に一番伝えたいことは?
 その国の民主主義の度合いは、エネルギーの選択に現われます。健全な環境を保てるかどうかは、どのエネルギーを選択するかにかかっています。日本は原発 に頼っていますが、地震国で原発を運転し続けることは自殺行為だと思います。
 日本は科学的能力、技術的な産業基盤、文化的創造力があるのですから、クリーンなエネルギーに変えていくことができるでしょう。私たちが今世紀にどのエ ネルギーを選択するかが、人類が生き残れるかどうかを決定すると思います。

(注)文書の実物は次のサイトで見られます。
http://www.mindfully.org/Nucs/2003/Leuren-Moret-Gen-Groves21feb03.htm

いつでも元気 2003.9 No.143

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