いつでも元気

2003年6月1日

元気スペシャル 劣化ウラン弾の被害を、一刻も早く、広く知らせて イラクで何がおきたのか…

 この子たちをたすけて!

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サファアの写真(『湾岸戦争の子どもたち』英語版写真集)を手に、イラクの子どもたちを助けてと訴える伊藤さん(撮影・尾辻弥寿雄)

 「空襲が始まって以来、毎晩毎晩一一時から朝五時ごろまで、イラクの知りあいに電話をかけま くって、やっと三人にだけつながった。その一人がこの子、白血病のサファアです。そのとき、バグダッドでサファアは生きていた。いま、どうしているか、い てもたってもいられません」と語る伊藤政子さん(「アラブの子どもとなかよくする会」代表=左の写真)。
 湾岸戦争のあと一二年間、イラクに二〇回も通い、経済封鎖のため圧倒的にたりない医薬品などの救援物資を届けたり、日本とイラクの子どもたちの絵や手紙 を交換するなどの手助けをしてきました。

サファアの笑顔がシンボルに
 「サファアはあまり具合はよくなさそうでしたが、生きて声が聞けたのがうれしくて、サファア大好きよ、マサコ好きよ、って伝えあうだけでした。その電話 のなかから、サファアの弟や妹がおびえて泣き叫んでいるのが聞こえるし、爆音やら振動やらが伝わってくるんです」
 イラクでは、湾岸戦争のとき米軍が使った劣化ウラン弾で、白血病やがん、死産、先天性の障害児が多発しています。
 「サファアも白血病です。この、森住卓さんの写真(当時8歳)のおかげで、戦争反対、劣化ウラン弾反対のシンボルになって。いい笑顔でしょう。これは ちょうど退院のときで、薬がなくなって退院せざるをえない状況だったんだけど、サファアは久しぶりに家に帰れるのでうれしかったのね。こういう子たちを、 さらに空襲したわけでしょう。許せますか」

戦死とされない死者たちが
 「地面を三〇メートルも貫通してから爆発するバンカーバスターのような爆弾が落とされたらどのくらい被害があるか、想像できますか? 二トンの爆弾だと 周辺一キロ四方が震度7の地震に襲われます。九八年、米英軍がイラクに激しい空襲をかけたとき、私、バグダッドにいたんです。そのときはもっと小さな爆弾 でしたが、チグリス川の対岸の、遠くにある大統領宮殿への爆撃で、泊まっていた一一階建てのホテルがぐらぐら揺れました。
 翌朝病院に駆けつけると、七百人が入院していた近代的な病院が、もう壊滅状態。高速道路をへだてて離れたところに爆弾が落ち、その衝撃で病院がふわっと 浮いてドシンと落ちた。ショックで三人即死。残りの患者も病状を悪化させ、転送された病院を追ってみたら、三日以内に二五人が亡くなっていた。こんな数は 戦死者には入りませんが、この空襲がなければ絶対に死なずにすんだ人たちです。今回の爆撃はその何十倍ですか」

「劣化ウラン弾は安全だ」と
 「“戦後復興”とアメリカはいっていますが、私はいま、あの、がんや白血病におかされた子どもたちがどうなるかとすごく恐れています。イラクは経済制裁 で医療は劣悪なレベルになってしまったけれど、病院はそれでも無料でした。誰でも自由に病院にかかれました。でもアメリカは自分の国に健康保険もない、金 持ち以外は病気したってなかなか医者にかかれないような国でしょう。そういう国が乗り込んできて、この子たちに十分な治療をしてくれるとは思いません。
 もう一つ、アメリカは、劣化ウラン弾は安全だといっているんです。私は、この子たちが抹殺されてしまうのではないかと恐れています。ほんとうに、いま、 大至急、劣化ウラン弾について大きな声をあげて、この子たちを助けられるような運動をつくっておかなくては、闇に葬られてしまう危険があります」

米国防省の記者会見
 「開戦直前の三月一四日、国防省は劣化ウランに関する記者会見をしました」と劣化ウラン研究会の山崎久隆さん。「メディアに対して『まちがった報道をし ないように』と、釘をさそうとしたのでしょう。でたらめと脅迫に満ちた記者会見でした」といいます。
 
 戦車や堅固な建物・軍事施設を貫通できる「密度の高い金属」は、現在タングステンか劣化ウランしかありません。記者会見では、タングステンより劣化ウラ ンがいかに効率的に戦車を破壊するか、図を見せながら説明した後、「このような有効な兵器である劣化ウラン弾を廃絶しろなどというものは、アメリカに反対 する勢力の手先だ」といったのです。
 さらに「劣化ウランは健康被害を起こさない」として、「環境中には天然ウランも存在する」とか「土壌に残留している劣化ウランは地下水には移行しない」など説明しました。
 「まったく非科学的です。天然中のウランはppb単位、つまり一〇億分の一という濃度でしか存在しません。劣化ウランは、ウラン一〇〇%の固まりです。 また地下水については、すでにコソボで使われた劣化ウランから地下水に汚染が広がっていることがUNEP(国連環境計画)の調査でも明らかになっていま す。
 アメリカは、劣化ウラン弾反対、といっただけでテロリストだといいだしかねない状況です」と山崎さん。

米側に立たない者は敵
 「アメリカ側に立たないものはすべて敵」という姿勢は、現実に、報道陣への攻撃という卑劣な形であらわれました。
 四月八日、カタールの衛星テレビ、アルジャジーラの支局を攻撃して記者(34歳)を殺害し隣にあるアブダビテレビも砲撃。さらにパレスチナホテルを攻撃 し、ロイター通信の記者(35歳)とスペイン民営テレビの記者(37歳)を殺害。
 「多数のジャーナリストは、米軍の意図的なものだったと証言している」と、現地の森住卓さんからのメールです。「攻撃の目的は、米軍に不利な状況を隠す ことにある。爆撃によってイラク国民にもたらされた悲惨な状況を隠すため、米軍のコントロール下にいないジャーナリストを現地から追い出したかったのだ」
 今回米軍は、六百人もの記者の従軍取材を認めました。だから取材したければ米軍についてくればいい。イラク市民の側で取材するものは敵だという。これが ブッシュの「自由と民主主義」です。

イラクに必要なのは「安全」
 森住さんからの現地レポートです。
 「四月一七日。バグダッド市内は、米軍が完全に制圧したところとまったく手をつけていないところがあり、手をつけていないところでは略奪をする者と防ご うとする者との間で銃撃戦になっている。
 しかし米軍はまったく取り締まろうとしていない。とくに夜になると、至るところで銃撃戦の音がきこえる。
 病院には負傷者が毎日たくさん運び込まれているが、病院そのものが略奪の被害にあっているため機能していない。市内のキリスト教系の病院と赤十字の病院 は米軍が守っているが、ほかの病院はまったくほったらかし。医者も身が危険なため、出勤できない。
 いま、イラクに一番必要なのは薬より〈安全〉である。
 ほとんどの政府機関が略奪を受けているなか、唯一、石油省は無傷である。米軍が厳重に警備しているからだ。空爆もなかった。今回の攻撃の真の目的は何で あるか、この事実は象徴的に示している」

 伊藤さんは訴えます。「イラクの子どもたちのことを忘れないで。欧米にも劣化ウラン弾反対の運動をしている人たちはたくさんいます。日本政府が人道支援 というなら、被爆国として医療をふくめた劣化ウラン弾被害に本気でとりくんでほしい。ハゲタカのように復興のおこぼれでもうけるなんて、絶対に認めないで ください」

いつでも元気 2003.6 No.140

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