【新連載改訂2023.11.30】9.抗精神病薬などの注意すべき副作用
アリピプラゾール(エビリファイ)、ハロペリドール(セレネースなど)、リスペリドン(リスパダールなど)、オランザピン(ジプレキサなど)、クエチアピン(セロクエルなど)、ペロスピロン(ルーランなど)、ブロナンセリン(ロナセン)、ベゲタミンB、炭酸リチウム(リーマスなど)、メチルフェニデート塩酸塩(コンサータなど)、アトモキセチン(ストラテラなど)、グアンファシン(インチュニブ)
抗精神病薬の分野では、この10年あまりの間に、それまで主流であった定型抗精神病薬から、非定型抗精神病薬を用いた治療へと大きく変化しました。「民医連新聞」では使用量が増加しているアリピプラゾール(商品名エビリファイ)の副作用や、フェノバルビタール含有製剤での薬剤性過敏症症候群、また炭酸リチウムによる中毒症状などを報告してきました。
この度(2019年2月21日)、全報告症例の再調査を行い、非定型抗精神病薬の副作用傾向と、定型・非定型を問わない悪性症候群、またAD/HD治療薬の副作用についても記載を加えました。
■非定型抗精神病薬による副作用の軽減
抗精神病薬の副作用として、パーキンソニズム、遅発性ジストニア(dyskinesia)、横紋筋融解症、乳汁分泌などが報告されています。中でもパーキンソニズム、ジストニア、アカシジア(akathisia)は、錐体外路症状の初期症状として最も頻度の高い副作用です。そのため従来は、抗精神病薬を処方する場合、予防的に抗パーキンソン薬が投与されていました。
上記の副作用は、幻覚・妄想の原因となるのは中脳辺縁系のドパミン系ですが、それ以外の部位のドパミン系も抑制することによって上記の副作用が起こると考えられています。近年、セロトニンなどドパミン以外の神経伝達物質遮断作用を持つ非定型抗精神病薬の登場で、ドパミンD2受容体を”適度に”遮断し、錐体外路症状などが軽減できるようになりました。
遅発性ジストニア、遅発性ジスキネジアは、錐体外路障害の遅発症状で、抗精神病薬の長期投与により出現する非可逆性の副作用です。そのため抗精神病薬を漫然と継続するのではなく、臨床症状と「クロルプロマジン換算」を用いて抗精神病薬の量を把握し、精神症状の変化に合わせて細やかに投与量を調整する必要があります。なお、遅発性ジスキネジアは、抗パーキンソン薬を投与すると症状が悪化するので注意が必要です。
(民医連新聞 2004年7月2日より一部改変)
https://www.min-iren.gr.jp/?p=6047
それぞれの薬剤によって、阻害する受容体が異なるように、副作用も、ドパミンD2受容体ブロックがメインである、ハロペリドールは錐体外路症状の割合が多く、SDA(セロトニンドパミンアンタゴニスト)であるリスペリドンは、乳汁分泌・月経異常などの内分泌系の副作用の割合がハロペリドールと比し多い傾向でした。多くの受容体を阻害するオランザピンは、体重増加や食欲亢進、血糖異常が他の薬剤に比べて目立ちました。また、錐体外路症状が少なく認知症の周辺症状に使用されることも増えてきたクエチアピンですが、錐体外路症状も一定報告されています。
■リスペリドンの乳汁分泌症例
眠れないことがあり、グッドミンにリスパダールOD錠1mg半錠眠前に追加。
投与7日目 まあまあ眠れている。処方継続。
投与2年7ヶ月リスペリドン錠に変更になる。(後発品に変更。)
投与2年9ヶ月「変わりない」との聞き取り。グッドミン、リスペリドン継続。
投与2年10ヶ月母親来局。乳汁が出る。リスペリドンによる高プロラクチン血症が疑われるため、医師に相談するようにお伝え。処方30日分。
その後しばらく来局なし。
投与3年 母親来局。茶色い乳汁が出るので、検査してもらったが、乳がんでは無かった。リスペリドン中止。グッドミン錠のみの処方。
投与3年1ヶ月 乳汁は薬を中止してから治まっている。眠れている。
アリピプラゾールは、ドパミンD2受容体パーシャルアゴニスト(部分作動薬)として登場し、副作用軽減、陰性症状への有効性などを謳い、うつ病や双極性障害にも適応を広げ多用されるようになってきました。当モニター記事では発売早期より取り上げてきました。
■非定型抗精神病薬 アリピプラゾール(商品名エビリファイ )の副作用 第1報
本剤は、ドパミンが過剰な状態ではドパミンD2受容体の拮抗薬として働き、ドパミンが減少すると逆に作用することから、世界初のDSS(Dopamine System Stabilizer)と呼ばれています。2006年1月に3mg錠と6mg錠が、07年4月に12mg錠が製造販売承認を受けました。
アリピプラゾールの安全性に関しては、「警告」として、(1)糖尿病性ケトアシドーシス、糖尿病性昏睡などで死亡に至ることがある、(2)口渇、多尿、頻尿、多食、脱力感などの異常(高血糖症状)が掲載されています。また、国内臨床試験での副作用発現率は743例中452例(60.8%)で、主な症状は不眠(27.1%)、神経過敏(14.8%)、アカシジア(11.7%)などです。
当副作用モニターには不眠、悪心、左乳房下しこり、食欲増進などが報告されています。乳房のしこりについては添付文書の記載はありませんが、プロラクチン(黄体刺激ホルモン)の上昇が国内臨床試験、市販後調査で1%未満の頻度で報告されており、因果関係が疑われます。今回の症例はプロラクチン上昇によって乳汁分泌が刺激され、乳管拡張から起きた乳腺腫瘤と考えられます。本剤の継続中、副作用症状は消失しませんでした。
また、食欲増進を起こした症例については、血糖値が不明ですが、高血糖状態が疑われました。この症例では、本剤の中止で回復しています。正確なリスク評価は得られていませんが、ほかの向精神薬と併用する場合が多いと思われるので、相互作用に注意し、十分に観察するとともに、血糖値の測定も行い、慎重に投与すべきです。
(民医連新聞 2010年11月25日)
https://www.min-iren.gr.jp/?p=14545
■非定型抗精神病薬 アリピプラゾールの副作用 第2報(作用機序から考察)
非定型抗精神病薬のアリピプラゾールは、2006年に日本で販売が始まり、その後、次第に使用量が増加しています。当モニターに寄せられた副作用症例の内訳は、脚がむずむずするなどのアカシジア症状4例、以下、舌のもつれ、ろれつが回らない、手、足、首の震え、CK(Creatine kinase:クレアチンキナーゼ)上昇が各1例ずつで、ドパミン2(D2)受容体阻害関連の症状が多い傾向でした。一方で、吐き気、夢遊病、羞明(しゅうめい、強い光を受けたときに不快感、眼の痛みなどを感じること)のようなセロトニン(5-HT)作用(いずれも1例)が疑われる症状もありました。発現時期は、3日以内が5例、1ヶ月以内が2例、数ヶ月が2例、1年以上が1例、不明が2例で、服用初期の発現が目立ちました。
アリピプラゾールの構造はトラゾドン塩酸塩(抗うつ剤レスリン)類似であり、その一部をキノリノン基に入れ替えた骨格です。ですから、トラゾドン塩酸塩のようにセロトニン受容体5-HT1Aの部分作動薬、5-HT2Aの拮抗薬としての側面を持っているかもしれません。5-HT作用はD2刺激剤の吐き気などと共通した作用があるので、D2刺激作用と区別がつかないケースもあります。
「新規の作用」とされるドパミン部分作動作用については、「D2受容体を強力に阻害しつつ弱く刺激する」と、もっともらしく解説されていますが、実は5-HT作用を併せ持っている、ということなのかもしれません。 今回の副作用報告を見ると、D2受容体阻害作用の方が5-HT作用より強く現れる傾向にあります。これはドパミン部分作動作用が、D2受容体阻害による作用と、その反対の5-HT作動性の作用の、どちらが出るか予測がつかないことを暗示しているようです。
不都合な作用がどのような形で現れるのか、期待した効果の反対の結果で現れるのであれば困ったものです。ですから服用開始初期に注意を払い、どちらの作用が発現するのかを見極めながら使う薬と考えたほうが良いでしょう。
(民医連新聞 2012年10月3日)
https://www.min-iren.gr.jp/?p=16118
アリピプラゾールに関する全報告症例を再調査したところ、他の薬剤に比べて、アカシジアが多い傾向にあり、アリピプラゾールの副作用報告件数の3割を占めていました。
また、羞明(目のチカチカ)が多い傾向にありました。
症例) 30第女性。統合失調症。イライラのためエビリファイ内用液24ml分2で追加 (クエチアピン、スルピリド、ハロペリドール等併用)。約2ヶ月後、目のチカチカ感と、まぶしさがあり、自己判断で中止し数日後には回復した。
近年、持効性を目的とした、抗精神病薬の注射製剤が発売されています。
■非定型抗精神病薬持効性注射製剤について
2009年リスペリドンの持効性注射剤である、リスパダールコンスタが発売されコンプライアンス不良などによる病態の悪化が懸念される場合などに使用されてきました。
2013年には4週間効果が持続するゼプリオン(パリペリドンパルミチン酸エステル)が発売されました。これらは筋肉内に薬剤を注入し徐々に血中に放出させる仕組みです。そのため副作用(重篤なものも含む)が出ても薬剤を体内から除去するのに時間がかかってしまうというリスクがあります。
ゼプリオンは発売後約5ヶ月で21名の死亡(推定使用症例10,900名)が報告され、ブルーレター(厚生労働省安全性速報)が発出されました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000043861.html
イエローレター(緊急安全性情報)が出てもおかしくない死亡頻度です。発売後短期間でブルーレターが発出されたため1年ルール(発売後1年間の新薬は原則採用しない)のある民医連事業所での使用が少なかったためか、当モニターには副作用報告はありませんでした。
その後、2015年にエビリファイ持続性水懸筋注用注射が発売され、当モニターにもアカシジアの副作用報告が寄せられています。
■副作用モニター情報〈506〉 アリピプラゾールとアカシジア(静座不能)
アリピプラゾールは、非定型の抗精神病薬で、2006年に販売が開始されました。その後、12年に双極性障害における躁(そう)症状の改善、13年にうつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)、 16年に小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性と効能が拡大し、処方患者も増えています。
当初は、ドパミンD2受容体の部分作動薬というふれこみで、錐体外路症状をはじめとする副作用が出にくい、とされていました。しかしながら、アカシジア(静座不能)は、11.9%で報告され、リスペリドンの倍の割合となっています(承認時の国内臨床試験)。民医連の副作用モニターに報告されたアリピプラゾールの副作用35件中10件がアカシジアでした。
アカシジアとは、静座不能症とも呼ばれ、強い不安焦燥感や内的不隠を伴う「じっとしていられない、じっと座っていられない」状態を示します。17年にエビリファイ持続性水懸筋注用製剤が発売され、当モニターにも注射によるアカシジアの報告が寄せられました。
症例)40代、女性。統合失調症
投与開始21日前 エビリファイ12mg分1で開始、24mg/日まで漸増。
投与開始日 エビリファイ筋注400mgを上腕投与で開始。内服のエビリファイは、12mg/日へ半減し14日間服用。
投与12日目 退院。
投与28日目 エビリファイ筋注400mgを上腕投与で2回目投与。
投与56日目・中止日 診察中に立ち上がって歩いたり、座ったりを繰り返している。エビリファイ筋注400mg中止。内服でクエチアピン75mg分3開始。
中止16日後 診察中に突然立ち上がるが、ソワソワは少し落ち着いてきた。
* * *
この症例では、内服から注射に剤型変更し、症状が発現しました。アリピプラゾールは非常に半減期が長く(内服で61時間)、体内に蓄積し、注射剤と重なり血中濃度が上昇した可能性があります。中止後の症状の改善に時間がかかるのも、半減期の長さと関連していると考えられます。アリピプラゾールが他の非定型抗精神病薬に比べてアカシジアの発現率が高いのは、ドパミン受容体への結合力の強さが関連していると考えられます。服用中や他剤からの変更時にはアカシジアの発現に注意しましょう。
(民医連新聞 第1679号 2018年11月5日)
https://www.min-iren.gr.jp/?p=36479
■抗精神病薬による悪性症候群
悪性症候群の副作用は2022年までに50件(年間1~2例)報告されており、いわゆる定型抗精神病薬は12件ですが、非定型抗精神病薬、抗パーキンソン剤、抗うつ薬、抗認知症薬でも起きています。死亡例もありました。
症例1) 80代女性。せん妄・興奮に対し、リスペリドン錠開始、その後セレネース注追加となる。2日後より体温上昇、四肢の拘縮、CK618、意識レベル低下など見られ、ダントリウム注開始。11日後回復。
症例2)80代男性。〈併用薬:チラーヂン、トラゾドン〉せん妄のため、リスペリドン内用液0.1%0.5mL(0.5mg)を連日服用後、19日目頻脈出現、20日目CK上昇3,516IU/L(男性基準値59~248)、白血球12,430/μL(基準値3,300~8,600)、意識障害、肝機能悪化、急性腎障害あり。悪性症候群を疑い、リスペリドン中止。中止翌日、頻脈、意識レベル改善傾向(CK3,728IU/L、白血球13,010/μL)。中止10日後回復(CK93IU/L、白血球4,680/μL)。
悪性症候群は高熱、発汗、筋強剛、CK上昇、振戦、血圧上昇などが特徴的に見られますが、症状発現には薬剤の開始や増量、また中止がきっかけとなるケースも多くあります。脱水、低栄養、脳器質性疾患がリスク因子となるとの報告もあり、注意が必要です。定型・非定型を問わず注意しましょう。
■炭酸リチウム製剤による中毒症状
炭酸リチウム製剤は、治療域が狭いため、血中濃度測定により、中毒症状を回避することが必要です。さらに、血中濃度が明らかな高値でなくとも、リチウム中毒になることがあるので、注意が必要とされる薬剤です。
リチウム製剤は、一般に1.5 mEq/Lを超えると中毒域とされ、嘔気、嘔吐、下痢、食欲不振、嚥下困難、粗大振戦、言語障害などが起き、さらに2.0 mEq/l 以上では、せん妄、痙攣、不整脈、昏睡などが加わってきます。
この間、当副作用モニターに寄せられた報告で血中濃度値が付記されていたものは、手指しびれ(血中濃度0.75 mEq/l:以下単位省略)、嘔気・足のふるえ(0.43)、手指振(1.15)、振戦(1.19)、振戦(2.08)、下痢・嘔吐(2.6)、歩行困難・せん妄状態(2.75)、甲状腺機能低下(0.8)、横紋筋融解(0.54)でした。血中濃度値が正常域内であっても、中毒症状が起きています。
高齢者や、長期に服用している場合には、血清リチウム濃度が治療濃度域内で推移していても、中毒症状が発現する場合があります。これは、リチウム排泄能が低下し、高濃度・持続的に脳および各組織の細胞内に蓄積し、中毒症状が発現するためと考えられています。従って、定期的に血中濃度を測定するとともに、測定値が治療域内であっても中毒症状の発現に注意することが重要です。
また炭酸リチウム製剤とハロペリドール併用例で、悪性症候群(高熱、発汗、振戦、頻脈等の症状を特徴とし、向精神薬を使用する際には常に考慮すべき重大な副作用)が起きたとの報告がありました。両剤を併用すると、リチウムの血清中濃度が治療域であっても、悪性症候群や横紋筋融解症、その他の中毒症状を引き起こす危険性が高くなることが知られており、併用時には注意が必要です。
(民医連新聞 2007年12月21日)
https://www.min-iren.gr.jp/?p=15494
■注意欠陥/多動性障害(AD/HD)治療薬の副作用
現在この薬効群では、メチルフェニデート徐放錠(コンサータ錠)、アトモキセチン(ストラテラカプセル)、グアンファシン塩酸塩(インチュニブ錠)が用いられています。
コンサータ錠については、添付文書の記載どおり食欲不振関連の副作用報告が最も多く、全27件中、10件を占めています。1日用量18mgから27mgへの増量による発現が特徴的であり、多くは、中止、減薬で改善されています。
ストラテラでは、10例16件の報告があり、倦怠感、脱力感、睡眠への影響など精神神経系の副作用が10件を占めています。
インチュニブ錠は、元々本態性高血圧治療薬として使用されていたことから、血圧低下や徐脈には特に注意が必要です。インチュニブ錠について「民医連新聞」より以下抜粋します。
当モニターにこれまで7~12歳の小児で5例6件の副作用報告があり、眠気3件、頭痛1件、下痢1件、血圧低下1件でした。いずれも投与量は1mgでした。市販直後調査においても傾眠767件、血圧低下174件、頭痛103件とこれらの副作用が多く報告されています。
本剤のAD/HDに対する作用機序は明らかではありませんが、シナプス後アドレナリンαA2受容体に作用し、ノルアドレナリンの調節不全を改善すると考えられています。中枢刺激作用はなく、既存薬でみられた食欲不振や体重減少、血圧上昇の発現は低いと言えますが、本剤は元々本態性高血圧治療薬(グアナベンズ類似)として販売されていた経緯があり、血圧低下や徐脈には特に注意が必要です。当モニターに報告があった血圧低下症例では、投与開始11日目で収縮期血圧が80mmHgまで低下していました。頭痛で報告されている症例も12日目で86mmHgに低下しており、報告者は頭痛との関連を考察しています。
用量設定において、欧州、米国では、重大な副作用である失神、低血圧、徐脈、傾眠及び鎮静のリスクが、曝露量依存的に認められたことから、開始用量は体重によらず1mgに統一されていますが、国内では、短期間で維持用量まで到達させるために、体重50kg以上の小児では開始用量を2mgとしています。投与開始初期のバイタル変動には十分注意が必要ですし、中止する場合も血圧上昇、頻脈に注意しながら減薬が必要です。また本剤は徐放製剤であることから、噛んだり、割ったりせずに服用するよう指導も必要です。
(民医連新聞 2019年2月18日)
https://www.min-iren.gr.jp/?p=37104
副作用モニター情報〈586〉 アセナピンによる薬剤性ジスキネジア
抗精神病剤アセナピンマレイン酸塩(シクレスト舌下錠R:以下ASE)による薬剤性ジスキネジアが報告されたので、紹介します。ASEは2016年に販売が開始され、既存の非定型抗精神病薬とは異なる特有の受容体結合プロファイルを持っています。添付文書では、セロトニン、ドパミン、アドレナリンの各受容体の幅ひろいサブタイプ、ヒスタミン受容体に拮抗作用があるとしています。
症例)30代男性
不眠がありシクレスト舌下錠R開始。
服用1日目:1錠(5mg)服用し、特に問題なし。
服用2日目:1錠服用、2時間後に1錠追加服用。その約10時間経過した頃に、頸部、舌の不随意運動が出現。
救急車で来院し、ソルラクト輸液投与。心電図は洞性徐脈。来院後、舌の動きは徐々に改善が見られてきた。
搬送時、医師から薬剤師にASEの拮抗薬について問い合わせがあり、特異的解毒剤はないと回答していたが、医師は薬剤性ジスキネジアと考え、アキネトン注射液を1アンプル筋注。速やかに改善し、帰宅した。
* * *
ASEの副作用は、口の感覚鈍麻、アカシジア、傾眠が10%以上であるとされています。アカシジアは、静座不能(座ったままでいられない、じっとしていられない、下肢のむずむず感)と言われる副作用で、錐体外路障害の1つです。
ジスキネジアは、自分の意思とは関係なく、体の一部が勝手に不規則で異様な動きをする現象(不随意運動の一種)で、踊るような動作、くり返し口をすぼめる、舌を左右に動かす、口をもぐもぐさせる、口や舌を突き出す、歯を食いしばる、などが代表的な症状です。アカシジアと同様に錐体外路への影響で発生する副作用で、ドパミン過剰によって起こるとされていますが、この症例のように、急激なドパミン遮断で代償的にドパミン過剰となり起きるとも考えられます。洞性徐脈もASEによる副作用だったと考えられます。
(全日本民医連医薬品評価作業委員会)
(民医連新聞 第1773号 2022年12月5日・19日合併号)
画像 東京民医連 外苑企画商事 わかば薬局
http://www.gaiki-saiyo.net/interview/index.html
**【薬の副作用から見える医療課題】**
全日本民医連では、加盟する約640の医療機関や354の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行っております。
<【薬の副作用から見える医療課題】バックナンバ->
1.民医連の副作用モニターとは~患者に二度と同じ副作用を起こさないために~
2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
4.睡眠剤の注意すべき副作用
5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
8.抗パーキンソン薬の副作用
9.抗精神薬などの注意すべき副作用
10.抗うつ薬の注意すべき副作用
11.コリン作動性薬剤(副交感神経興奮薬)の副作用
12.点眼剤の副作用
13.消化器系薬剤の様々な副作用
14.ジゴキシン(強心剤)の注意すべき副作用
15.抗不整脈薬の副作用
16.降圧剤の副作用の注意点
17.トリプタン系薬剤(片頭痛治療薬)の副作用について
18.脂質異常症治療薬の副作用について
19.喘息及び慢性閉塞性肺疾患治療薬の副作用
20.潰瘍性大腸炎治療薬の副作用
21.抗甲状腺ホルモン剤チアマゾールによる顆粒球減少症の重症例
22.過活動膀胱治療薬の副作用
23.産婦人科用剤の副作用
24.輸液の副作用
25.鉄剤の注意すべき副作用
26.ヘパリン起因性血小板減少症
27.高尿酸血症治療薬の注意すべき副作用
28.糖尿病用薬剤の副作用 その1
29.糖尿病用薬剤の副作用 その2
30.糖尿病用薬剤の副作用 その3
31.抗リウマチ薬「DMARDs」の副作用
32. ATP注の注意すべき副作用
33. 抗がん剤の副作用
34. アナフィラキシーと薬剤
35.重篤な皮膚症状を引き起こす薬剤
36.投注射部位の炎症等を引き起こす医薬品について
37.間質性肺炎を引き起こす薬剤(漢方薬を除く)
38.漢方薬の副作用
39.抗生物質による副作用のまとめ
40.抗結核治療剤の副作用
41.抗インフルエンザ薬の副作用
42.ニューキノロン系抗菌薬の副作用
43.水痘ヘルペスウイルス・帯状疱疹ウイルス治療剤の副作用
44.薬剤性肝障害の鑑別
45.ST合剤の使用をめぐる問題点
46.抗真菌剤の副作用
47.メトロニダゾールの副作用
48.イベルメクチン(疥癬を治療するお薬)の副作用
49.鎮咳去痰剤による注意すべき副作用
50.総合感冒剤による副作用
51.市販薬(一般用医薬品)の副作用
52.健康食品・サプリメントによる副作用
53.禁煙補助薬(チャンピックスⓇ、ニコチネルⓇ)の副作用
54.ワクチンの副作用
55.骨粗しょう症治療薬による副作用
56.口腔内崩壊錠[Orally disintegrating tablet]による副作用
57.その他の中枢神経症状をおこす薬剤
58.抗凝固薬の副作用(ワルファリン、DOAC)
59.抗血小板薬の副作用
60.過量による副作用
61.新薬評価について
62.添付文書記載のすみやかな更新が必要な薬剤
■掲載過去履歴一覧
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