【新連載】3.味覚異常・聴覚異常・視力障害に注意すべき薬剤
一般名アスピリン・ダイアルミネート(商品名バッサミン錠、バファリン錠など)による味覚異常、一般名ベンプロペリン(商品名フラベリック錠) 音が半音下がって聞こえる副作用、一般名カルバマゼピン(商品名テグレトール錠)による聴覚異常、一般名フロセミド(商品名ラシックス)と聴力障害、一般名プレガバリン(商品名リリカ)の非可逆性の視力障害など
1)味覚異常
味覚異常の原因は、薬剤の副作用によるものが全体のおよそ四分の一といわれ、大きな割合を占めています。添付文書に味覚障害・味覚異常の記載がある薬剤は数多く存在します。薬を飲んだことによって起こる薬剤性味覚障害では、全体的に味を感じなくなる、あるいは一部の味が低下する症状がよく見られます。要因となる薬剤には降圧薬、消化性潰瘍治療薬、抗うつ薬、抗菌薬、抗がん剤などがあり、なかでも血清亜鉛値の低下を示す症例は多く、亜鉛とキレートを作る構造を持っている薬剤では亜鉛欠乏を起こしやすいといわれています。
当副作用モニターによせられた症例は以下になります。
ワクシニアウィルス接種家兎炎症皮膚抽出液(商品名ノイロトロピン錠)による舌の痺れ、味覚低下を起こした症例
84歳女性。服用開始2ヶ月後に舌のしびれが発現し、食べ物の味がわからなくなった。服用中止二週間後に回復。
一般名アスピリン・ダイアルミネート(商品名バッサミン錠、バファリン錠など)による味覚異常、舌の荒れを起こした症例
75歳女性。服用2週間後に舌の赤みが出現。その後白くなり、味覚も低下。中止後徐々に回復。どちらも薬剤による舌の荒れやしびれなど、口腔内の変化が味覚異常の原因となったと推察されます。さらにバッサミンは亜鉛とキレートを作る構造を持つことから、亜鉛が欠乏していた可能性もあります。
症状はその多くが自覚症状であり、患者自身の訴えによるところが大きいことや様々な薬剤を服用している高齢者も少なくなく、初期の症状を捉えることが困難であり、当副作用モニターに報告された症例は少ないのではないでしょうか。味覚異常は軽視されがちな症状ですが、食欲不振や栄養障害、ストレスなどの精神変調を起こすこともあるため、原因の究明と治療は重要です。添付文書に味覚異常の記載がない場合は、原因の追及から薬剤がもれる事がしばしばです。添付文書の記載の有無にかかわらず、一度は薬剤を疑ってみることをお勧めします。また、薬剤以外の原因として、亜鉛欠乏、肝、腎、胃腸、甲状腺の疾患や糖尿病などの全身疾患、口腔疾患、唾液分泌の低下、臭覚異常、加齢などがあります。しかし、これらの原因の陰に薬剤が関与している場合があり注意が必要です。
2)聴覚異常
聴覚異常ですが、特にアミノグリコシド系抗菌薬(以下、一般名 ストレプトマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、アルベカシンなど)、白金製剤(一般名シスプラチン)、サリチル酸剤(一般名アスピリン)、ループ利尿剤などは難聴としてよく取り上げられる副作用です。当副作用モニターによせられた報告の中には、聴覚障害の症状まで具体的な特徴まで詳細に挙げられている症例があります。
一般名ベンプロペリン(商品名フラベリック錠) 音が半音下がって聞こえる副作用について
咳止め薬として使用されるベンプロペリンによる聴覚障害が、当モニターに4件報告されています。2006年に、「民医連新聞」で一般名 カルバマゼピンについて同様の報告をしましたが、以降、も2例報告されています。添付文書に記載されている副作用ですが、「聴覚障害」としか書かれていないため、どのような障害なのか具体的な症状がわかりません。今回の症例からは、その特徴が見えてきます。
いずれの場合も、「半音下がって聞こえる」と、音程の低下の程度が揃っています。服用中止後、すぐに改善する傾向がありますが、長い人は2週間程度かかるとの報告もあります。この副作用は絶対音感を持つ人だけでなく、日常生活の中でも電話の音や呼び鈴の音など、すべてが半音下がって聞こえるという状態になるため、比較的はっきりわかるといえます。音に関係する仕事をしている人がこの副作用に遭遇すると非常に困ります。
ベンプロペリンは感冒による咳症状の緩和に用いられるため、おおむね短期間で服用が終わってしまいます。「風邪のせいで音が変に聞こえるようになった」とか「気のせい」「思い過ごし」などと済ませてしまって、見逃されている疑いもあります。
同様の報告があったカルバマゼピンは、注意力を低下させる、周囲への関心を減らす、という作用から、「気がつかないし気にしない」という状態になっていて、訴えにつながらない可能性もあります。
にわかに信じがたい内容ですが、このような訴えにも耳を傾け、先入観を捨てて副作用を疑ってみてください。
一般名カルバマゼピン(商品名テグレトール錠)による聴覚異常
【症例1】20代女性。三叉神経痛にてテグレトール錠150mg/日を処方される。服用開始4日目にピアノの音が半音下がって聞こえることに気づく。一時的に服用をやめると、1/2下がって聞こえていた音が1/4音に軽減した。その後、神経痛が増強したため、テグレトール錠300mg/日に増量。半音下がって聞こえる症状は持続していたが、服用開始1カ月後には症状が気にならなくなった。
【症例2】20代女性。テグレトール錠100mg/日が処方される。服用開始2日後、音が低く聞こえるようになり服用中止。中止後に症状は改善される。
カルバマゼピン服用で、ピアノのキーや音階を間違ったり、知覚音の半音低下を認めた症例が文献でも報告されています。
症状が発現した後、減量、中止、同量継続いずれの症例でも聴覚異常は消失しています(中止者は翌日より、同量継続者は数週間後に消失)。カルバマゼピンによる聴覚異常は、血中濃度との相関がなく、一過性の症状、服用初期にみられる不耐症と考えられています。
このような聴覚障害は、【症例1】のような音楽に接する機会の多い人は気づく症状ですが、そのような機会が少ない人には気づきにくい副作用です。
本剤服用初期には、患者様に「耳の聞こえで気になることがないか」など、具体的に質問して確認しましょう。
一般名フロセミド(商品名ラシックス)と聴力障害
フロセミドの聴力障害は、古くから報告されていました。聴力障害発症の機序は、聴覚系末梢である内耳のラセン器外有毛細胞の細胞膜にあるATPaseがフロセミドで阻害され、ナトリウムや水が細胞内に流れ込み、細胞が膨隆するためとされています(注)。
注射で短時間に大量投与した場合は聴覚末梢で高濃度になるため、発症しやすく、静注後10~20分で一過性に発症することが多いとされています。
しかし今回は内服で報告がありました。透析患者の例で、経過はフロセミド40mg1錠を12日間服用後、2錠(非透析日)、1錠(透析日)に増量した18日後、急激に右耳の聴力が低下、中止後約8~9日で回復した、というものです。
フロセミドは、成人男性で血中半減期が、0.35時間と非常に短く、5日以内にほぼ全量が尿や糞中に排泄され、蓄積性は低いと考えられます。
今回の症例は、60代女性で高度の腎不全のため透析していました。フロセミドは腎不全があると排泄されにくく、透析でもほとんど除去されませんが、糞中に排泄されるため用量調節の必要はないとされています。薬剤蓄積による副作用の発現は考えにくく、脱水などにより一過性に薬物濃度が上昇し、聴力障害が引き起こされた可能性があります。
当会の副作用モニターでは、2007年以降、フロセミドの副作用は17例報告されていますが、聴力障害は注射も含め今回が初めてです。
なお、アミノグリコシド系抗生物質やシスプラチンなど聴覚毒性のある薬剤と併用すると、これらの薬剤の濃度を高め、外有毛細胞が壊死し、不可逆的な難聴を引き起こす可能性があるので注意が必要です。
(注)ラシックスインタビューフォームから(サノフィアベンティス社)
http://www.nichiiko.co.jp/data2/55640/04_interview/lasix_i100-if06.pdf
アミノグリコシド系薬剤の難聴の副作用について
【症例】肺非定型抗酸菌症のため70代女性に硫酸カナマイシン1gを週3回、半年間投与。耳が聞こえにくくなった、注射部位が硬結した、という訴えがありました。
アミノグリコシド系薬剤の第8脳神経障害は有名な副作用です。
被疑薬である硫酸カナマイシン注では、副作用発現のリスク要因の高い高齢者(60歳以上)・腎機能低下した患者への投与量は1回0.5~0.75gとするよう記載されています。高齢者への投与量は個別性があるため、ともすれば成人量投与で医療がされやすいので注意が必要です。
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産科・小児科などを除いた病棟では、高齢者が多く、そのリスクを抱えています。
たとえば、塩酸バンコマイシン・ループ利尿剤・白金含有抗がん剤等も、高齢者には副作用が強まる可能性があり、注意が必要です。
医薬品の供給と調剤という薬剤師の仕事のうち、調剤の概念は処方監査と医薬品の調整に留まらず服薬指導へと拡大し、さらに医薬品の適正使用推進と医薬品を使用した患者の安全管理(副作用・相互作用回避)へと発展してきています。投与量や投与間隔、医薬品の選択などに薬剤師がかかわれるシステムも必要です。
一般名バンコマイシンによる聴力障害
【症例】86歳女性…他の抗生物質製剤を投与したが、発熱・白血球数増加が改善せず、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌・多剤耐性菌)を疑い、バンコマイシン0.5g×2を5日間、その後0.5g×4で14日間投与。投与15日目に聴力障害を認め、副作用を疑い投与中止。が、難聴は1週間後も改善せず。
ペプチド系・アミノグリコシド系抗生剤の投与上の注意には「難聴」が繰り返し記載されています。非可逆的な障害になることがあり、要注意です。また、適応患者の選択(小児・高齢者・腎機能障害患者)や血中濃度のモニタリングも重要です。
バンコマイシンの血中濃度で望ましいのは、最高25~40μg/ml、最低(谷間値・次回投与直前値)は10μg/mlを超えないことです。点滴終了後1~2時間の血中濃度が60~80μg/ml以上、最低血中濃度30μg/ml以上が続くと、聴覚障害や腎障害など副作用の恐れがあります。
これら副作用の発現と血中濃度の相関性が高いため、投与量を増やす際、血中濃度の最高値と最低値を確認すれば、防止策がとれます。また、高齢者のバンコマイシンの半減期は、成人の3倍以上。1日の投与量が同じなら、投与間隔をあけて最低血中濃度を下げることが必要です。
最近は投与量のモノグラムやTDM(治療薬物モニタリング)ソフトなどもインターネット上で入手できます。クレアチニン値・体重などから血中濃度の推測も可能。これらを投与計画に役立て、副作用防止に努めましょう。
3)視力障害
一般名プレガバリン(商品名リリカ)の非可逆性の視力障害 早期発見を
プレガバリンによる視覚障害に関しては、重大な基本的注意に「弱視、視覚異常、霧視、複視等の眼障害が生じる可能性があるので、診察時に、眼障害について問診を行う等注意し、異常が認められた場合には適切な処置を行うこと」と記載されています。
当会副作用モニターでも、この1年間に視覚障害に関する副作用報告は霧視2件、視力低下、飛蚊症、各1件の計4件ありました。
【症例1】30代女性 疼痛に対してリリカ(75)1Cp分1開始。開始1ヶ月後リリカ(75)2Cp分2に増量、開始2ヶ月後にリリカ(75)4Cp分2に増量。服用開始19ヶ月後 両目視力0.6→0.1、片目0.05まで低下。視力矯正で0.7以上改善しないため(通常1.0までは改善)眼科医より薬剤性の可能性指摘
【症例2】70代男性 椎間板ヘルニアによる腰痛にてリリカ(25)2Cp分2開始。開始5日後、飛蚊症様の症状あり眼科受診するも、加齢によるものとの診断。開始7日後リリカ(25)4Cp分2へ増量。増量後症状悪化し自己中止。中止1週間にて症状改善
承認試験時の視覚障害は497例中42例(8.45%)、うち半数が中等度・重度、そのうち、回復は12例、未回復9例、その中には失明に至った例もあります。機序としては眼球運動の低下・鎮静による可能性が考えられるようです。当モニターでの報告例では、霧視や飛蚊症は比較的短期間で発現していますが、視力低下例では、1年半以上服用後に気付き、視力矯正も十分には行えなくなってしまいましたので、服用後すぐだけでなく長期間にわたる注意が必要です。定期的な視力検査や視力に関する問診を行い、また、患者にも視力障害の可能性について指導し、早期発見することによって重篤化を防ぎましょう。
※医薬品副作用被害救済制度活用の手引きもご一読下さい↓
https://www.min-iren.gr.jp/ikei-gakusei/yakugaku/zy1/data/110225_01.pdf
**新連載ご案内【薬の副作用から見える医療課題】**
全日本民医連では、加盟する約650の医療機関や350の保険薬局からのデータ提供等を背景に、医薬品の副作用モニターや新薬評価を行い、およそ40年前から「民医連新聞」紙上(毎月2回)などで内外に情報発信を行ってきました(下記、全日本民医連ホームページでご覧になれます)。
今般、【薬の副作用から見える医療課題】として疾患ごと主な副作用・副反応の症状ごとに過去のトピックスを整理・精査し直してまとめ連載していきます。
https://www.min-iren.gr.jp/?cat=28
<【薬の副作用から見える医療課題】当面連載予告>
2.アルツハイマー治療薬の注意すべき副作用
3.味覚異常・聴覚異常に注意すべき薬剤
4.睡眠剤の注意すべき副作用
5.抗けいれん薬の注意すべき副作用
6.非ステロイド鎮痛消炎剤の注意すべき副作用
7.疼痛管理に使用する薬剤の注意点
8.抗けいれん薬の副作用
9.抗精神薬などの注意すべき副作用
10.抗うつ薬の注意すべき副作用
以下、57まで連載予定です。
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