特集2 睡眠時無呼吸症候群 突然死につながることも 日中の眠気やいびきが気になる方は受診を
睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:以下、SAS)は、夜間の睡眠中に無呼吸と低呼吸(いびき)を繰り返す病気です。
無呼吸とは、10秒以上呼吸が停止している状態のことです。低呼吸とは、息を吸う深さが浅くなり、吸気振幅が50%以上減少する呼吸等が10秒以上続く場合です。
日本の研究では、中年男性で、AHI(睡眠時に1時間あたりに発生する無呼吸・低呼吸の回数)5以上(軽度)は24%、15以上(中等度)は6%、30以上(重症)は2%と言われています。AHI5以上で昼間眠気をともなう人は4%、中年女性では2%と言われています。SASの患者は、男性の方が女性と比べて2~3倍多いようです。
症状
この病気は、次の2つの症状をひきおこします。
(1)熟睡できないため、日中に眠気が強くなり、集中力が低下。眠気のため交通事故や労働中の事故につながる可能性が高くなる。
(2)無呼吸と低呼吸をくり返すことによって低酸素状態が起こり、心臓に負荷をかける。高血圧・糖尿病・心筋梗塞・脳卒中などの合併症を起こしやすくなる。最悪の場合は突然死につながる。
日本では、2003年2月に起きた新幹線の居眠り運転による事故が発端となり、SASが注目を浴びるようになりました。テレビでくり返し放送されたため、その翌日は当院の睡眠外来も新患でごった返したことを覚えています。最近はあまり珍しくなくなったのか、ニュースでとり上げられることは減りました。
原因
無呼吸・低呼吸は、就寝中にのど(上気道)が狭くなるために起こります。原因は2つです。
(1)肥満
肥満により、のどの周りに皮下脂肪がつきすぎると、上気道が狭くなります。舌根(舌の付け根の部分)が肥大すると、いっそう狭くなります。
(2)顎が小さい
顎が小さいと、のどの断面積も小さくなるため、上気道が狭くなります。SAS患者の3割はこのタイプです。
なぜ睡眠中に起こる?
SASは、なぜ睡眠中に起こるのでしょうか。
日中は、人間の筋肉の一つであるオトガイ舌筋が活動することにより舌根は持ち上げられています。しかし、睡眠時にはオトガイ舌筋の活動は低下するため、舌根部が上気道に落ち込んでしまうのです。元々のどが狭い人は、落ち込んだ舌根で簡単に上気道がふさがってしまいます(図1)。
また、無呼吸状態(当院で検査したなかで、無呼吸の時間は最長で2分57秒でした)になると血中の酸素も低下します。
すると脳が「このままでは酸素が不足して大変なことになる」と判断して、睡眠を浅くし、オトガイ舌筋を活動させ、舌根を持ち上げて呼吸を再開させようとします。しかし、呼吸が再開して睡眠が深くなるとオトガイ舌筋の活動が低下して舌根が下がってしまい、のどが狭くなって「いびき」が起こります。さらに睡眠が深くなると「無呼吸」となります。
SASは睡眠中に「無呼吸→呼吸が再開→いびき→無呼吸」をくり返すのです。
診断
「日中の眠気」「熟睡感がない」「集中力の欠如」「睡眠時にあえぐような呼吸」などがあり、AHI5以上で、他の病気が否定された場合、SASと診断されます。
診断には、昼間の眠気の程度を調べる問診表を使用します。ESS(Epworth sleepiness scale、エプワース眠気指数)と呼ばれる問診表(表1)で、8つの質問に0~3点までの点数をつけ、それらを合算して評価します。
10点以下は正常、12点以上は中等症程度、16点以上は高度の傾眠です。ただ、当院を受診した患者さんの36%は10点以下でした。SASであっても「眠くない」あるいは「眠気を自覚していない」という人もいるので、注意が必要です。
さらに正確に診断するためには、睡眠ポリグラフィー検査をおこないます。これは1泊入院し、睡眠中の脳波、眼電図、あごの筋電図、心電図、呼吸状態、呼吸運動、経皮的酸素飽和度、睡眠時の姿勢、いびきを連続的に観察・測定します。
診断のうえ、SAS重症度の定義(表2)にもとづき、重症度を判定します。重症の場合は、仕事上で著しい支障をきたします。
あなたは最近の生活の中で、次のような状況になると、眠ってしまうかどうかを下の数字でお答えください。
質問のような状況になったことがなくても、その状況になればどうなるかを想像してお答えください。
【質問】
1.座って読書中
2.テレビを見ているとき
3.会議、劇場などで積極的に発言などをせずに座っているとき 0=眠ってしまうことはない
4.乗客として1時間以上続けて自動車に乗っているとき 1=時に眠ってしまう(軽度)
5.午後に横になったとすれば、そのとき 2=しばしば眠ってしまう(中等度)
6.座って人と話をしているとき 3=ほとんど眠ってしまう(高度)
7.アルコールを飲まずに昼食をとった後、静かに座っているとき
8.自動車を運転中に信号や交通渋滞などにより数分間止まったとき
治療
肥満の場合は、減量が根本的治療となります。しかし、すぐに減量することはできないので、器具を使った治療を選択します。
ここではCPAPとマウスピースを使った治療を紹介します。
CPAP治療
CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)とは「持続的陽圧」のことです。装着した鼻マスクから呼吸に合わせて空気圧をあたえる装置を睡眠時に使用します。軟口蓋(のどの奥)や舌を持ち上げて上気道を開くようにはたらき、いびきや無呼吸をほぼ100%解消します(図2)。
この治療をおこなうと約半数の人が劇的によくなりますが、月1回、医療機関の診察を受ける必要があります。装置のレンタル代も必要なので、3割負担の方で月4750円の負担となります。通院のための時間確保と医療費の負担が重いことが欠点です。
スペインでは、SAS患者ではないがいびきがある人・SAS患者(軽症)・SAS患者(重症)・CPAP治療を受けている人を、10年間にわたり調査し、一般の人(健康な人)と比較しました(表3)。その結果、一般の人に対して軽症のSAS患者で2倍、重症のSAS患者で4倍以上の人が、心筋梗塞もしくは脳卒中で死亡していました。CPAP治療を受けていた人は、治療をしなかった軽症のSAS患者よりも死亡率が低く、治療効果は顕著です。
イギリス・西オンタリオ大学では、SAS患者210人に対しCPAP治療開始前と開始後の3年間の交通事故率を調査しました。開始前の事故率は一般の人の約3倍でしたが、開始後は一般の人と同程度にまで下がりました。
しかし、CPAP治療だけで交通事故が激減するわけではないでしょう。居眠りの原因はSASだけではありません。過酷な勤務実態などに対しても、合わせて対策が必要です。
マウスピース
マウスピースは、正確には口腔内装置と言います。上下の歯に装着して下顎を前方にずらすことにより、のどを拡げます。ただし、肥満の方の場合は舌根が持ち上がらず効果は得にくいという欠点があります。歯科に2~3回通院して、口の状態に合わせてつくります。
マウスピースの利点は、一度つくるとCPAP治療のように毎月受診する必要がないこと、持ち運びが便利なことです。装着することによりAHIを平均6~7割減らす効果があります。
減量、生活習慣の改善も
さきほども述べたように、肥満のSAS患者さんの場合、減量が根本的な治療になります。
効果的な減量方法は、糖質制限と運動です。肥満は、糖質(炭水化物)の取り過ぎが原因です。糖質の多い食品(米、パン、麺、芋、菓子、ジュース、くだもの)の食べる量を減らしましょう。
運動は、1日1万歩をめざして歩きましょう。少なくとも6000歩を目標に。さらに早歩き、水泳、スポーツを週2回程度とりいれることができれば、なおいいでしょう。
また、次のような生活習慣の改善もおこないましょう。
(1)横向きに寝る
仰向けではなく、横向きの姿勢で寝るようにしましょう。舌根や軟口蓋の落ち込みを軽くすることができます。
(2)禁酒もしくは節酒
深酒はのどの筋肉の緊張を低下させるので、上気道が閉塞しやすくなります。アルコールは一日の飲酒で2合以内に。
(3)可能なら睡眠薬をやめる
睡眠薬はのどの筋肉の緊張を低下させます。主治医と相談し、可能ならやめましょう。
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「日中の眠気」「熟睡感がない」「いびきがひどい」など気になる症状がある方は、SASかもしれません。ぜひお近くの医療機関にご相談ください。
イラスト・井上ひいろ
いつでも元気 2015.02 No.280