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2014年9月1日

特集1/明るい展望を示す力に/人権としての医療・介護保障めざす民医連の提言

 全日本民医連は昨年末「人権としての医療・介護保障めざす民医連の提言」(以下、提言)をまとめ、定期総会(二月末)で“提言を もとに対話・シンポジウムをおこない、生存権・健康権保障を実現する共同を広げよう”と方針に掲げました。二〇〇八年に発表した「医療・介護制度再生プラ ン」以来となる民医連の提言。ポイントを藤末衛・全日本民医連会長に聞きました。(編集部)

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藤末会長(写真=酒井猛)

 社会保障「改革」の骨格と工程を決めた「社会保障プログラム法」(二〇一三年成立)に象徴されるように、政府は社会保障の理念を変質させ、「自助・自立」を基本とする社会保障制度の大改悪をすすめています。
 このような暴走に対抗し、“すべての国民に人権としての医療・介護を保障することは可能だ”という日本国憲法にもとづいた対案を、民医連として示したいと考えました。それがこの提言です。

すべての人に医療・介護を

 提言には、主に三つの視点が貫かれています。
 第一に、社会的経済的に困難を抱える人々の医療・介護を受ける権利が阻害されてはならないという視点です。
 民医連は「国保など経済的事由による手遅れ死亡事例調査」「『介護保険一〇年』検証事例調査」など、国民皆保険制度が崩壊の危機に直面していることや、 すべての人が必要な介護を受けられる制度になっていない現実を現場から告発してきました。これらの実態を踏まえて、医療では高すぎる国民健康保険料の引き 下げ、短期保険証・資格証明書の発行中止、無料・低額診療事業の全公的医療機関での実施などを掲げました。多くの国で無料または低額になっている窓口負担 を当面「現役世代二割・六五歳以上一割・高校卒業までの子どもは無料」にしようと提言しています。
 介護では、介護保険制度の要介護認定と支給限度額を廃止し、必要なサービス内容を専門的に判断・決定して、すべて現物給付(現金ではなく、介護・介護用 品そのものを給付)とするシステムへと再構築することなどを提案しています。

営利化・市場化をストップ

 第二に、政府がすすめている公的給付の削減と、医療・介護の営利化・市場化の流れにストップをかける視点です。医療・介護が「商品」として提供される社 会になれば、お金のある・なしで受けられる医療・介護の質に格差が生じ、それを許す文化が広がってしまいます。
 医療の市場開放につながるTPP(環太平洋連携協定)には断固反対です。民間医療保険の規制も必要でしょう。
 介護も、営利企業によるサービスの質などが問題となっています。公的保険制度にふさわしく、サービス提供事業所の非営利法人化も提言に盛り込みました。
 必要十分な医療・介護を適切な費用で提供するには、公的な保険制度を持続的に発展させることこそ唯一の道です。

住民参加の健康づくり

 第三に、WHO(世界保健機関)が掲げる「Health for All(すべての人に健康 を)」の実現には、地域住民が主体となったとりくみが不可欠との視点です。政府や医療機関・介護施設ががんばるだけでは、地域住民の健康は守れない。「予 防に勝る治療」はありません。
 提言では、自治体ごとに具体的な「健康指標」の目標を持ち、地域住民の主体的参加のもと、医療機関や保健所・学校などが協力・連携する体制を確立するこ とを掲げています。健康増進(ヘルス・プロモーション)の主人公は住民だとの観点から、保健医療分野の専門家の支援を強化することも提案しています。

税制改革・内需拡大で財源確保

 これらの医療・介護制度を実現するには、二七〇兆円にも膨らんだ大企業の内部留保をはき出させ、“生きたお金”として社会に還元させることが必要です。 不公正税制をただし、減税されてきた大企業や富裕層に応分の負担を求める税制改革が求められます。
 同時に、安定した雇用の拡大や賃金・年金の引き上げなども重要です。内需拡大や日本経済の活性化につながり、結果として税収が増え、社会保障財源も生ま れます。医療・介護など社会保障の拡充による雇用拡大は、大型公共事業などより大きな経済波及効果が見込めることもわかっています。

地域住民とともに

 今年六月には医療・介護総合法が成立しました。入院急性期ベッド削減や、特別養護老人ホーム入所者を原則要介護3以上に限定すること、「要支援」の訪問 介護・通所介護を自治体に移行させてサービス提供者はボランティアでもよい、などとする内容です。今後、地域住民の間に痛みや矛盾が広がるでしょう。
 民医連は、“必要な医療・介護が受けられない”という具体的な困難をもとに、「なぜこうなるのか」「どうすれば解決できるのか」ということを地域住民と いっしょに考えたい。そのような対話を広げるなかで、私たちの提言が明るい展望を示す一筋の光明になればうれしい。
 多くのみなさんと提言を学んで語りあうことを通じて、明るい未来への確信を深め、運動を進める力にしたい。共同組織・民医連職員のみなさんにも、地域や 職場で大いに活用してほしいと思います。

「提言」携え、全国に広げよう

 全日本民医連は6月21日、提言をもとにしたシンポジウム「いのちの格差を是正し、人権としての医療・介護をいかに実現するか」を都内で開きました。3人のシンポジストの発言を紹介します。

勝田登志子氏(認知症の人と家族の会副代表)

 1980年に結成された私たちの団体は、「認知症があっても安心して暮らせる社会」をめざし、1万1000人の会員が励ましあって活動しています。
 「医療・介護総合法(案)に盛り込まれた、さらなる負担増・給付抑制は許せない」と、結成以来初めての署名活動にとりくみました。
 目標の5万人をはるかに超える8万7000人分の署名が集まりました。これは862万人と言われる認知症および軽度認知障害の方々のねがいを代弁するも のです。署名活動をきっかけに「人生が変わった」と言う会員もいます。そして各地で民医連の協力も得ることができ、多くの人たちと連帯することの大切さを 学びました。
 要介護4の妻と暮らしていたAさんががんになり、2週間の入院・手術を余儀なくされました。その間、ようやく見つけたロングステイ先で、妻の状態が急激 に悪化。妻はいったんAさんと自宅に戻ったものの、今は精神科の閉鎖病棟におられます。
 医療・介護総合法は、「特養ホームの入所は要介護3以上に限定する」と言いますが、Aさん夫妻のようなケースがあとを絶たず、状況は悪化する一方です。 さらに「(年収280万円以上の世帯に導入される)利用料の2割負担」がAさんを苦しめることになります。
 法律は成立してしまいましたが、地域でのたたかいはこれからです。提言を広く深く学びながら、民医連のみなさんといっしょに、「安心を保障する介護保険 制度」のために運動を強めたいと思います。

近藤克則氏(千葉大学予防医学センター教授)

 65歳以上の高齢者のうち、等価所得()が低くなるにつれて、うつ状態の方の割合が高くなるというデータがあります()。教育を受けた年数が少ないほど、高齢期の咀嚼力が弱くなる傾向も明らかになっています。
 このような健康格差は、出生・小児期の環境にはじまり、教育や職業・所得、心理・社会的ストレス、医療へのアクセスの難易など、さまざまな要因がからん で生まれます。厚労省の「健康日本21」(第2次)には、「健康格差の縮小」「社会環境の質の向上」が国の政策として盛り込まれ、研究されています。ス ポーツ・ボランティア・趣味関係のグループなどに参加する割合が高い地域ほど、転倒や認知症・うつ状態になるリスクが低い。週1回未満の運動であっても、 グループに参加している人のほうが、週1回以上ひとりで運動する人より要介護状態になるリスクが低い。
 また、非専門職のサポートのほうが専門職のサポートよりも効果を発揮する場合もあることがわかっています。「同じ体験をした」人の言葉のほうが、援助さ れる人の心にすんなり届く場合があるのです。これらは民医連の共同組織と職員のみなさんが、サークルや患者会などの活動を通じて実践してきたことではない でしょうか。「民医連の共同組織の活動に参加すれば、健康で長生きできる」──データを蓄積していけば、そんな効用を明らかにすることも可能かもしれませ ん。
 地域で健康を推進していく新しいモデルが、民医連から出なくてどこから出るというのでしょう。民医連の共同組織と職員のみなさんの奮闘に期待しています。

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)世帯の所得を世帯人数の平方根で割ったもの。1人あたりの実質的な生活水準を算出するために用いられる

小栗崇資氏(駒澤大学経済学部教授)

 上場企業(約3500社)の内部留保が219兆円に膨らんだという事実には、日本経済のゆがみが集中的にあらわれています。
 人件費抑制と法人税減税を原資として、それらの企業の総資産に占める利益剰余金の割合は、1980年代から好不況にかかわらず上昇を続けています。その 行き先は、株式投資などのマネーゲームと、ケイマン諸島などのタックスヘイブン(租税回避地)で、国内の設備投資や賃金などにまわっていないことは明らか です(表)。
 大企業の内部留保を国内投資や雇用・賃金に還元させるためには、社会的関心・圧力を強める必要があります。台湾のように内部留保への課税も検討すべきでしょう。
 雇用拡大や下請け企業への支援を税制優遇で促進する政策もありえます。さらに、タックスヘイブンや国家間の法人税引き下げ競争の問題などに対しては、グローバル(世界的)な視点での税制論議・国際協調が必要です。
 フランス革命やアメリカ独立戦争など、民主主義の歴史は「租税の民主主義」を求めるたたかいの歴史でもありました。国民の連帯した運動がもっとも重要だと強調しておきます。

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