民医連新聞

2014年9月15日

相談室日誌 連載378 《侵食される生存権》生活保護申請をあきらめる 久我麻里子(山口)

 私たちが関わる患者様の中にも生活保護制度に対する誤解や偏見から親族の理解が得られなかったり、「親戚に知られたら恥ずかしい」という意識が拭えず、申請にあたっての扶養調査が原因で生活保護申請を躊躇される方は少なくありません。
 無料低額診療事業を利用されている四〇代男性は、トラック運転手をしていたが二〇一二年秋に退職。妻、中・高生の娘と四人暮らしでしたが、退職と同時に離婚。寂しさから飲酒量が増しました。
 昨年八月、腹部膨満、下肢腫脹著明、全身の黄染を認め、体動困難状態で救急搬入、アルコール性肝硬変の診断で約二カ月入院しました。退院後は「体力に自 信がない。しばらく自宅療養してから仕事を探す」と、入院中の生命保険の給付金で生計をたてていたのもつかの間、生活は厳しくなりました。早く就職して安 定した生活を取り戻したいと焦っても、仕事は見つからず、一日一食の生活が続いています。
 本人は、体調が良くなって仕事が見つかるまでの間だけでも生活保護の利用を希望したのですが、父親に相談すると「身内に迷惑をかける」と猛反対され、申 請に踏み切れずにいます。本人は親子関係が崩れないかが心配なのです。
 生活を安定させるために親族の反対を押し切り申請をすすめるべきか、それとも仕事が見つかるまで今の状況を見守っていくしかないのか、最善の解決策を導 き出すためにMSWとしてどう支援していけば良いのか悩んでいます。
 七月から改正生活保護法が施行され、そのことで扶養に関する調査が強化されれば、生活保護が必要な人たちの「親族に迷惑をかけたくない」という意識はさ らに広がり、申請をあきらめてしまうケースが一層多くなることは容易に考えられます。しかし、扶養は生活保護の要件ではありません。
 生活保護制度は、社会保障制度の一つで、なんら特別な制度ではありません。困窮し、生活保護を必要とされている人が、人目をはばかることなく、権利として利用できる制度でなくてはなりません。

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