民医連新聞

2014年8月18日

無低診を通して見えるもの《国保法44条》 名ばかりの減免制度を使えるものに 一歩前進 福岡・大手町病院

 シリーズ四回目は窓口負担を軽減する国保法四四条に着目し、「もっと使える制度に」と適用条件を改善した経験です。福岡・大手町病院(北九州市、五二七床)では一九八八年から無料低額診療事業(無低診)を開始しています。どう動いたか、取材しました。 (田口大喜記者)

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 北九州市は一〇〇万人の政令市です。経済成長期には北九州工業地帯に多くの人が集まりましたが、最近は若者を中心に人口が流出し、急速に高齢化しています。市民所得は一人あたり平均二六五万円、生活が困難な人も少なくありません。

無低診の限界

 二〇一二年度、大手町病院で無低診を利用した患者さんは、実数で一五四人、減免金額は一〇 〇〇万円になりました。しかし、これでも経済的困難な患者さん全てを救うことにはなっていません。同院ではできない検査や治療を、他院に紹介する場合、同 院で無低診を利用している患者さんにも自己負担が発生します。
 同院のSWたちは無低診の利用者を分析しました。約四割が二〇~五〇歳の稼働年齢層でした。保険種別では国保が七割で、そのうち三分の一が短期証でした (円グラフ)。「この結果は健保に入れない非正規労働者の多さや、国保料が高すぎて払えていないことを示しています。糖尿病やがんなど中断させられない疾 患も多い一方で、治療さえできればやがて働けるようになる患者さんも多かった」と森川尚子医療社会科科長。社会資源にどうつないだのかをみると、国保法四 四条の利用が格段に少ないことも分かりました(下)。

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国保法44条の活用に向けて

 四四条の運用ルールは市町村が定めます。北九州市の基準を調べてみると、使いにくいもので した。国保料を滞納していると、完納するか完納の「確約」がないと利用できません。保険料が払えず短期証になり、窓口負担の支払いに困っている人に、完納 や確約は困難です。このため、四四条を使おうと考える医療機関は皆無に近く、大手町病院でも申請は年に一ケタ。市民にも知らされず、国保課の職員でも制度 を知らない人がいるというありさまでした。
 制度を行政に認識させることもねらって、森川さんたちは無低診の対象になる患者さんを、まず四四条で申請することに。やはり、保険料の滞納が原因で大多 数が却下されました。却下された事例は、福岡県に審査請求を行いました。森川さんは「難しいと思いながら申請しました。しかし意図的に申請しないことに は、四四条は埋もれたままだったでしょう」と振り返ります。

市議会でのたたかい

 こうして集めた情報をもとに、北九州市に制度改善を求めました。市議会保健病院委員会の市議らとの懇談をはじめ、二〇一二年秋には市議会でSWが口頭陳情も。
 陳情は森川さんが行いました。国保が自営業者や高齢者など、生活の苦しい市民が多く加入する医療保険であり、社会保障の機能を果たすために不可欠な仕組 みとして、窓口負担を減額・免除できる四四条があると語り「北九州市の適用基準が厳し過ぎるため、必要な人たちが利用できていません」と、事例を報告しま した(下)。また、厚労省の基準では、滞納の有無が問われないことも紹介し、改善を訴えました。

制度改善とこれから

 そして、二〇一三年度から四四条の適用条件が見直されました。いまのところ入院の場合に 限っていますが、保険料完納要件は撤廃、生活保護の受給が確実な患者さんについては、減免申請から保護開始までの自己負担も免除されることになりました。 一三年一〇月時点で申請件数三八件、承認は二二件と急増。「助かった」との声が相次いでいるそうです。また市内の二二カ所の医療機関が四四条を申請、民医 連外にも嬉しい飛び火が起きています。
 「地域社保協(社会保障推進協議会)をはじめ多くの団体と協力して改善運動をした結果、多くの人が安心して医療を受けられるようになりました。行動を起 こし、発信することが重要です」とSWの毛利愛さん(大手町リハビリテーション病院)。
 「無低診は患者さんを手軽に救える手段ですが、誰でも使える窓口負担減免制度を整備し、運用させることはさらに重要です」と北九州市社保協の山下宏道事 務局長(健和会、事務)。「積極的な運用を行っている自治体に比べれば、件数も減免額もまだまだ劣ります。今後も市民に制度を知らせ、行政への働きかけを 強め、もっと使える制度にしていきたいです」。


【市議会でSWが報告した事例】

□乳がんの女性…病気のため失業、社会保険から国保に。傷病手当終了後は親の年金で生活。外来での高額な抗がん剤治療の支払いが困難。国保法44条を使い、大手町病院の治療だけでなく他機関でのPET検査も受けることができた
■子宮がんの女性…夫と子ども3人と同居。夫の収入だけでは生活できず、子育てしながらパートを掛け持ちして働いていた。病気で仕事ができなくなり、医療費の支払い困難に。44条を申請するも、保険料滞納から却下

(民医連新聞 第1578号 2014年8月18日)

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