民医連新聞

2014年8月18日

相談室日誌 連載376 「人権のものさし」を日々確認して 門脇智(千葉)

 骨折後のリハビリで入院中の生活保護利用者Aさん(女性 六  四)を担当するケアマネジャーから電話が入りました。福祉事務所が「Aさんには身障手帳がある。退院後は障害者サービスを利用するように」と告げてきたのだそうです。
 生活保護は補足性の原則に基づく「他法他施策の活用」(使える制度を活用、それで足りなければ生活保護を適用)というルールがあります。退院後は障害者 総合支援法による障害福祉サービスを優先利用せよというのです。腑に落ちませんでした。Aさんは入院前、生活保護の介護扶助で介護を受けていたからです。 Aさんの夫に確認すると、入院直後に福祉事務所のすすめでAさんの障害者手帳を申請していました。つまり「身障手帳を取得したので退院後の在宅介護は障害 で」ということだったのです。
 そうなると、Aさん担当のケアマネをはじめ、サービス内容や事業所など、各種の再検討が必要です。福祉事務所は「障害者のプランを立てる事業所を探して 依頼せよ」と指示するだけ。しかも、あと数カ月で六五歳になるAさんは、プランを担当する事業所からも受け入れてもらえず、担当ケアマネは頭を抱えてしま いました。
 「利用者に不利が生じる説明もせず、障害=手帳と安直に指示したことは問題だが、そもそも既存のサービスを使わせない『他法他施策の活用』も権利侵害ではないか?」と福祉事務所の担当者に訴えました。
 その結果、「今回は今まで通りの対応とする」と最初の指示は撤回に。ケアマネの変更は不要になり、退院後は介護扶助で従来どおりの介護サービスを受けることになりました。
 でも私は「今回は」ではなく「本来あるべき形になった」と見ています。国が責任を負うべき「生存権保障」である社会保障制度が切り崩されています。「少 子高齢化への対応と制度の持続」を理由に、「人権」であるはずの医療・介護が「商品」に、「権利」であるはずの生活保護もまた「施し」にすり替えられよう としている―。正解のない選択肢を示され、それを「自己決定」や「自己責任」だと騙されていないか?自らの人権のものさしを確認する毎日です。

(民医連新聞 第1578号 2014年8月18日)

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