学ぼう!総会方針 (7)医師 対談 新専門医制度開始に向けて“激変”の中で大切なことは―
医 師の確保と養成は「大きな『飛躍』が求められる課題」のひとつで、「41期の民医連運動の最大の課題として位置づける」と、総会方針は提起しました。地域 包括ケアに向けた医療提供体制とともに、大きく変わるのが専門医制度です。新専門医制度とは? この激変にどう立ち向かうか―。全日本民医連の医師部を担 当する山田秀樹理事と眞木高之理事が話し合いました。(木下直子記者)
■新制度について
眞木 二〇一七年三月に初期研修を終える医師たちから新制度(資料)の対象になりますね。
山田 これまでは「称号」のような位置づけだった専門医が、すべての医師に必須になる激変です。
眞木 専門医制度の検討会報告書には、気になる点が多いです。たとえば「医師の偏在を是正」という記述があります。でも、日本の医師不足は地域や専門領域に医師が偏在しているためではなく、絶対数の不足が根源なのだから解決にはならないと思います。
山田 診療科の自由標榜制を無くしたり、患者が受診先を 選ぶフリーアクセスを制限するなど、専門医制度を医療費抑制の手段にしようという政府の思惑が透けて見えます。いまでも肝臓の専門医でないと使えない薬剤 があるように、専門医と診療報酬をリンクさせれば、政府が医療提供体制をコントロールすることは可能ですから。
また、養成のしくみも気がかりです。初期研修のように国の制度であれば、パブコメなどで制度改善の声を届けられるのですが、新専門医制度は第三者機関で 行うので協議も密室、意見する手段もない。たたかい方にも工夫が必要です。
新専門医制度…各学会ごとに構築してきた専門医制度を第 三者機関で認定。大学や市中病院などの医師養成施設は3年間を基本とした養成プログラムを提出し、第三者機関は関連学会とも相談しつつプログラムや施設の 基準を設定/日本専門医制評価・認定機構が認定している18領域に、総合的な診療能力を有する「総合診療医」を加える/基本領域の専門医を取得した上でサ ブスペシャリティー領域の専門医を取得する
■総合診療医の位置づけ
眞木 新制度では認定機構が認めていた一八領域に、総合診療医が加わりました。これは「患者を総合的に診る能力をもった医師が必要」と、言い続けてきた民医連からは評価できる点ですよね。
山田 そこは評価できます。ただ厚労省がイメージする総 合医は「在宅で看取りをするだけ」といった、安上がりな医療に貢献する存在としていることが問題。住み続けられる地域をめざし「あるべき地域包括ケアを担 おう」という民医連の総合医とはかけ離れています。医療費抑制目的で総合医を入れようという議論は八〇年代からあり、当時の厚生省と医師会が大バトルに なって、厚生省が提案をとり下げた経緯もあります。
■政府の構想と現場の乖離
眞木 厚労省の地域包括ケアの文書にも「高齢者の急変は 総合診療医が診る」といったイメージ図があります。国がいうように、総合医と専門医の仕事を分けてしまうと地域医療は成り立ちません。うちの循環器内科で ポジショニングを話し合うために振り返りをすると、一位の病名は狭心症でしたが、二位は肺炎。分けてカウントしていた誤嚥性肺炎と合わせると肺炎が一位タ イ、三位にやっと心不全が入りました。
もともと日本の医療は、領域別専門医が専門外の患者さんも総合医的に診ながらささえてきた。一〇年前に始まった臨床研修義務化も、領域別医療が分化し、 失われつつあった総合性をどこで獲得するか、という課題とつながっていたと思うのですが。
山田 「総合医は診療所、専門医は大病院」というのが新 制度の下で国が描くイメージです。GIS(地理情報システム)で専門医マップを作り、たとえば「救急車で一時間圏内の場所に心臓カテーテルができるDPC 病院が一つあればいい」という風に考えている。これは専門医の集約化で、地域包括ケアが掲げる「切れ目ない医療・介護」の逆を向いています。
眞木 私は「偏在を是正する」として専門医の数が制約されないかと懸念しています。医療アクセスの阻害につながるからです。新制度に関しては、患者さんのためにも発言していかなければと。
山田 国のイメージに中小病院の存在が抜け落ちている問 題も。民医連は中小病院の集まりですが、果たしている役割は小さくないですよね。患者さんが大病院に行き「専門外です」と帰されることがありますが、我々 はそんなことはしない。ここが中小病院の強みであり、医療の真髄だと思います。
また、こうした医療活動に医師の成長が絡んできます。うちの循環器の医師が三年間で受け持った症例を分析すると、循環器以外の患者さんが三割もいまし た。専門外でもコンサルトを受けて担当の患者を治療する―。こんな学び方が大切です。しかし新制度にはその視点がなく、循環器に入れば「循環器症例をいく つ診るか」です。僕らが地域で続けねばならない医療や学びとは乖離しています。
■地域が求めているのは―
眞木 いま、地域包括ケア時代に向けた「激変」が始まっています。政府の医療費抑制策に注意しつつ、「これから来る社会に、どんな医師が必要か」を話し合う好機でもありますね。事業所のポジショニングを考える中で、こだわってきた専門を見直す必要もあるかもしれません。
山田 総合的力量の上に一定の専門性があらためて求めら れます。「ジェネラルの上にサブスペシャル」というのが、民医連の医師養成の伝統的表現です。濃淡はあれ、民医連医師はいまもその姿勢で働いているわけ で、新制度に乗って理念を変える必要はなく、さらに深めていきたいですね。
眞木 私は専門医の養成の大切さをあらためて感じています。
心不全で入退院を繰り返すようになった九三歳で独居の患者さんにペースメーカーを入れ、心房細動のアブレーションを行いました。これまでの症例で最高齢 でしたが、治療によって一人で通院できるようになり、従来の生活にも戻れました。大腿骨頸部骨折の患者が来ると、翌日にはオペを行います。そういう時はイ レギュラーに術前評価の依頼も入りますが対応しています。ADL維持は過疎の地域に住み続けるために欠かせないことで、こういうところにも専門医の役割が あるんです。
山田 専門医は地域に求められている限り、維持・発展すべきです。「自分たちの病院が地域でがんばっていくための技の伝承」、その継続が一番の悩みですけれど。
それに、専門医も総合医もいることで、互いに力が出せます。これは事業所のポジショニングを考える際に持っていたい視点です。
■医学生・医師養成にとって
眞木 地域のニーズをしっかり議論することは、医学生に民医連を語る力にもなりますね。
山田 私は初期研修医に「やりたいこととやるべきこと、できることは違うよ」とよく言います。結局「医療は誰のため、何のためなのか」をつかむことが大事。これは、医学生への働きかけや医師養成で大切にしたい視点です。
眞木 大学側が医学生に「初期研修から大学でやらないと専門医の研修が大変」と働きかけている、と聞きますが。
山田 学生たちは研修制度についての理解も浅く、漠然と した不安の中にいます。私たちからは、大学でなくても専門医資格はきちんと取れると伝え、「初期研修の目的である『総合性』は病棟から外来、地域まで継続 して患者さんを診ていける中小病院でこそ身につく。これが『主治医能力』だよ」と語ることを呼びかけたい。同時に専門医養成に必要な制度対応もすすめなけ ればなりません。
ポジショニングと医師養成については、一一月に開く全国会議で大いに議論を深めたいですね。
(民医連新聞 第1578号 2014年8月18日)