民医連新聞

2014年8月4日

相談室日誌 連載375 「特養の重点化」という名の入所締め出し 北山さやか(奈良)

 こがねの里には入所を申し込んで待っている高齢者・いわゆる待機者が約五〇〇人います。
 Aさんは要介護2の女性です。認知症のため排泄や入浴介助が必要で、娘一家と同居でしたが、娘婿が脳出血後遺症により要介護状態となり、娘さんは二人の介護を担ってきました。
 Bさんは要介護1の八八歳の女性です。二人で暮らす九〇歳の夫が介護者。介護サービスを利用したことはありますが、Bさんの拒否が強く、すぐ中止に。認 知症がすすみ、夫の留守に川に落ちる事故を起こしたこともあります。
 Cさんは要介護2の独居女性。在宅サービスを利用中ですが、認知症の進行やADL低下で、自宅での生活が難しくなってきています。子どもは遠方で就労中のため引き取れず、都合のつく時に様子を見に来ています。
 入所を申し込んでからAさんは四年、Bさんは三年待機して入所に。申し込んでほどないCさんは、入所のめどが立っていません。待機期間はおよそ数年。待 機者の四割を占める要介護1および2では自宅で待機している方が多いですが、要介護3以上ではその割合が逆転し、入所施設での待機が多くなっています。
 特養は、要介護1~5の方が入所対象ですが、来年度の介護保険改定で「原則要介護3以上を対象とする」とされました。入所の対象外になれば、入所の申し 込み自体もできません。申し込んでもすぐに入所できない現状であるにも関わらず、今度は「入所を申し込む」という選択からも排除されるのです。
 入所判定会議では、介護度だけでなく本人の状態や生活背景、家族や経済状況等、本人を取り巻く様々な状況を検討します。介護度が軽くても入所が必要な事 例も多く、また様々な高齢者入所施設がありますが、高齢者自身の経済的課題から選択できる施設は限られています。
 待機者数が全国五二万人というデータに表れている通り、特養は全く足りていません。待機者問題の解消に、特養を増やすのではなく、入所対象者を減らすと いう今回の改定内容は、高齢者の実態を見ず、憲法二五条が保障する生存権を侵害していると思います。

(民医連新聞 第1577号 2014年8月4日)

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