民医連新聞

2014年7月21日

学ぼう!総会方針 (6)医療活動 “生活と労働の視点”を日常活動の中心にすえよう -馬渡医療部長に聞く

 総会方針を学ぶシリーズ。今回は医療活動の課題について。「無差別・平等」の医療と介護の実践は、患者・利用者から切実に求められています。民医連がめざす医療活動について、全日本民医連の馬渡(まわたり)耕史医療部長に聞きました。(丸山聡子記者)

 私たちは貧困と格差に立ち向かう医療活動の前進をめざし、健康権・生存権の実現を医療活動の中心に据え、「総合的な医療の質の向上」と「医療活動の八つの重点課題」()にとりくんできました。

■“種まいた”40期

 三年前に始めたQI(Quality IndicatorおよびImprovement= 医療の質の向上・公開)推進事業は、民医連の一四二病院中八五病院が参加し、厚労省からもわが国の中小病院のQIとして高く評価されています。年数を重ね ることで、経年比較ができるようになり、昨年は「職業歴の記載率」が一八病院で改善するなど一定の成果が出ています。
 医療安全・倫理の分野では、チームステップスのとりくみが各法人や県連・地協まで広がり、安全の文化が浸透しつつあります。医療・介護共同の倫理委員会をつくる事業所も増えています。
 昨年六月に開催した在宅医療・介護交流集会には七五〇人もの職員が参加、「地域包括ケア時代」を前に悩みも期待も大きいことを痛感しました。初めて開催 したチーム医療研修・実践交流集会では、民医連のチーム医療の特徴が検証され、私たちがめざすチーム医療の考え方が提起され継続的な開催の要望が多く聞か れました。
 ヘルスプロモーション活動の分野も保健予防活動にとどまらず、まちづくりや職員の健康問題に広がっています。今年四月にスペインで行われたHPH国際カ ンファレンスには、民医連から一一病院二九人が参加、民医連の活動が世界の健康運動の潮流と方向性を同じくしていることへの確信が深まりました。現在一七 事業所が国際HPHネットワークに登録しており、今年は民医連外の医療機関とともに同ネットワーク日本支部の結成をめざします。
 SDH(健康の社会的決定要因)の課題では、昨年から四〇歳以下のII型糖尿病患者に着目した「暮らし・仕事と糖尿病についての研究」を七八二人の患者 さんを対象にとりくみ、若年糖尿病患者と社会的経済的な背景との関連を明らかにしてきています。
 以上のように、四〇期は多くの医療介護分野で、民医連綱領の実践の“種をまく”ことができました。

■民医連の枠を超えて

 四一期総会方針は「私たちがめざす『地域包括ケア』は、お金のあるなしに関わらず、必要な医療・介護が連携して同時にかつ切れ目なく保障される無差別・平等の『地域包括ケア』です」と述べています。
 今後は「無差別・平等の医療と福祉」という山頂に向かって、全国の実践を「見える化」し、民医連全体で共有していきたいと思います。
 私が勤務する鹿児島医療生協では、六カ所の訪問看護ステーションで約三九〇人の訪問看護を行っています。うち四割は民医連以外からの紹介患者です。
 民医連内だけの連携では、在宅の患者さんをささえきれません。医療や介護だけでなく住まいの問題も重要です。あるべき地域包括ケアの実現には、民医連の 枠を超えた地域丸ごとのとりくみが必要です。従来の地域連携にとどまらず、共同組織の皆さんと地域包括ケアをつくる実践の積み重ねが求められています。
 「病院・施設から在宅へ」を掲げた今年度の診療報酬改定で、七対一看護の急性期病院にも在宅復帰機能が持ち込まれ、これまで連携していた病院・診療所・ 施設間の良好な関係が分断されようとしています。このままでは患者さんが行き場を失い、地域に放り出されかねません。
 国は介護保険を改悪し、要支援者を介護保険サービスから外すなど、社会保障のあらゆる分野で責任を放棄しようとしています。病床削減をおしすすめ、今後 は約七〇万人が病院以外の場所で亡くなると試算。国がめざす地域包括ケアは、言い換えれば「自宅において自己責任で最期を迎えてください」ということで す。在宅医療を商品化し、人の一生の閉じ方にさえも、格差を当然視する人権無視の政策です。
 民医連はこれまでも、十分な医療や介護を受けられなかったり、住み慣れた地域で住み続けるのが難しい人たちを地域でささえてきました。こうした実践の蓄積を全国で共有し、発展させましょう。
 この点で克服しないといけないのは、地域包括ケアの課題を介護分野や診療所の問題だと捉える傾向があることです。民医連の病院は地域住民の生活をささ え、在宅医療の守り手にならなくてはなりません。「病棟から見た地域包括ケア」を病院自らの課題として考えてもらいたいと思います。

■医師養成の課題と結んで

 国の政策に抗し、地域をまるごとささえる医師の養成が急務です。「病棟をみる医師でさえ不 足しているのに」という声もあるでしょう。しかし、このまま二〇二五年を迎えることはできません。病棟・外来・在宅を切れ目なくつなげるためにも、地域包 括ケア時代をささえる総合力をもった医師の養成が必要です。
 このことは、民医連の職員育成全般に共通することです。そのためにも、民医連の柱である「生活と労働の視点」を日常の医療活動に活かすことを強調したいと思います。
 民医連の病院の救急窓口には、保険証がなくて受診できなかった人、路上生活者、虐待が疑われる子どもなどが来ます。いずれも貧困と健康格差の表れです。 救急医療研究会では、こうした格差の原因にも目を向けています。
 民医連には呼吸器、循環器、振動病、認知症など一〇を超す自主研究会があります。「専門領域における貧困と健康格差」についても、学術研究分野として重 視し、民医連らしい医療活動や医師養成に活かしていきたいと思います。

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(民医連新聞 第1576号 2014年7月21日)

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