民医連新聞

2014年7月7日

民医連が“提言”シンポ 「人権としての医療・介護」実現さぐる “いのちの格差なくしたい”

 全日本民医連は昨年12月、医療と介護の改革提言を発表しました。この提言について、民医連内外の人たちと広く議論しようと6月 21日、東京都内で「いのちの格差を是正する 人権としての医療・介護シンポジウム」を開催しました。民医連職員や共同組織、医学生、弁護士など約300 人が参加しました。
 岸本啓介事務局長が「人権の立場から、医療・介護のあり方を議論する場に」と開会あいさつ。藤末衛会長が提言のポイントについて基調報告をしました(別項)。
 「健康格差」「財源論」「患者・家族」の分野から民医連外の三人のシンポジストを招き、医療と介護、財源のあり方について議論しました。

健康格差を生むものは

 千葉大学予防医学センター教授の近藤克則さんは、「十分教育が受けられなかった人は健康状 態が悪い上に、健診も受けられない」など、所得や教育、社会的サポートの有無が健康格差を生んでいると、具体的なデータを元に紹介しました。また、対策と して、スポーツや趣味、ボランティアへの参加者が多い地域ほど、高齢者の転倒や認知症、うつのリスクが低いとの結果を紹介し、民医連や共同組織の活動に期 待を寄せました。
 駒澤大学経済学部教授の小栗崇資(たかし)さんは上場企業三五〇〇社の内部留保は二一九・二兆円と紹介。「人件費抑制と消費増税の裏で法人税率を引き下 げてきた結果。富と利益の格差が命の格差につながる」と指摘しました。
 「認知症の人と家族の会」副代表の勝田登志子さんは、医療・介護総合法案に危機感を抱き、初めての署名活動を決意、目標を上回る八万七〇〇〇筆超を集め た経験を紹介。「署名をきっかけに人生が変わった会員もいた。各地で民医連の協力も得た。多くの人たちと活動することの大切さを学んだ」と語りました。

格差是正へ可能性を作る

 「地域は高齢化していて、ささえ手がいない」「在宅より施設入所の希望者が多い。どんな形 態の施設をめざすのがいいのか?」など、フロアから一〇人が発言。「公衆衛生に関心がある」という医学生は、「環境要因として、大阪・西成区に酒の自販機 が多いとの話だったが、どうアプローチできるのか」と質問しました。
 最後に、「民医連の『提言』に点数をつけるとしたら?」という質問への答えも交えながら、シンポジスト三人が発言しました。
 勝田さんは「公的な介護保険制度に国の負担分を増やすべきという点は大いに賛同でき、八〇点以上。点数をつけるからには、活動も一緒に」と呼びかけました。
 民医連での講師は初、という小栗さんは「日本経済の歪みの原因を大企業の内部留保にあると明言している点で合格点」と発言。「医療・福祉分野は、日本の経済再生のポイント」と語りました。
 近藤さんは医学生からの質問にもこたえ、「命の格差の是正は“可能だが難しいから無理だ”という人もいる。しかし民医連は、“難しい課題だが可能性を 作っていく”と提言した。公衆衛生の課題は困難ですが、どうしたら可能かと考えて」と励ましました。
 質問した医学生の村上圭秀さんは、「実際に公衆衛生にとりくむ近藤先生の話を聞けて良かった。困難をどう解決するか考えることが大事、という宿題に刺激を受けた」と話していました。

私たちが示す「道」

藤末会長の基調報告

 医療・介護総合法が与党単独で強行成立しました。総合法が患者、利用者、高齢者、医療介護の労働者の希望を奪うものであり、私たちは、それに対抗して人権としての医療・介護を実現するもう一つの道があると示したい。
 提言のポイントは、(1)医療介護は人権、(2)市場原理主義の否定、(3)医療介護は共同の営み、です。
 日本の出生率は世界で二番目に低く、自殺死亡率、相対的貧困率は世界で二番目の高さ。生まれづらく生きづらい国です。
 生活保護の開始理由の八割が病気で、保護開始前は半数の人が無保険状態です。介護難民が多発し、介護労働者は疲弊しています。賃下げ、非正規労働者の増 大で、医療保険財政も危機的です。震災と原発事故からの復旧、復興は先が見えません。一方で、大企業は内部留保を増やしています。
 提言では、公的医療制度の堅持と介護保険の抜本改革を強調しています。応能負担と、必要十分な現物給付の原則を確認したい。住民参加のネットワークの構 築も不可欠です。「健康の社会的決定要因」(SDH)の克服をめざす行動計画と国民会議を提案します。
 財源では、所得の再分配を強める税制改革と応能負担原則に基づく社会保険料の確保が必要です。
 ともに学び、深めて、地域での実践に踏み出しましょう。

(民医連新聞 第1575号 2014年7月7日)

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