民医連新聞

2014年7月7日

集団的自衛権 リアルに捉えて イラク支援ボランティア 髙遠菜穂子さんにきく 海外で活動する「お守り」は平和憲法

 安倍首相は、集団的自衛権の行使※容認をめざし、憲法解釈の変更を閣議決定しました。国民の命を守り、海外の日本人を紛争や武装 集団から守るため、との説明です。「それはかえって海外で活動する日本人の危険を高める」とイラク支援ボランティアの髙遠菜穂子さんは訴えています。(木 下直子記者)

「対テロ」の名で泥沼化

 日本でも最近報道されていますが、イラクはいま最悪の状況に陥っています。
 とくに戦闘が激しいのは私がさまざまなプロジェクトを行ってきた地域です。現地からは、足がちぎれたり、頭が割れた人、血まみれで叫ぶ子どもの映像が送 られてきます。ファルージャ総合病院にもミサイルが撃ち込まれ、看護師一人の死亡を含む被害が出ました。
 報道ではテロの被害が流れていますが、政府が「対テロ」として行う無差別攻撃の被害は流れていません。実際には「対テロ法」を使って罪状も分からない市 民が処刑されています。また数千人の女性が不当逮捕され、刑務所で性的暴行を受けていることも国際人権団体が明らかにしました。
 搬送される死傷者数を毎日発表しているファルージャ総合病院の医師に対して政府は「嘘を発表するな。イラクにいられると思うな」と公共放送を通じて名指しで脅しをかけています。

*  *

 イラクはシーア派とスンニ派の結婚も多く、宗教対立は起きないとされた国でした。しかし二〇〇五年にシーア派のマリキ政権ができた直後、スンニ派が次々 と殺される事件が起きました。当初これに納得しない国民も多かったのですが、宗派対立はこの一〇年で市民にまで広がり、ヘイトスピーチが横行しています。
 「宗派主義的な憲法の改正」「対テロ法の撤廃」を求めて、毎週金曜に行われている市民デモにもイラク軍は攻撃を行っています。
 政府の後ろ盾はアメリカで、今年も一月から半年足らずで、攻撃ヘリや無人機など一〇億ドル以上の武器の支援を受けています。

事実から考えよう

 「政府軍の軍事行動は虐殺だ」「国連もNGOもなぜ発信しないのか」「避難民は五カ月ホームレス状態」などと現地の友人も訴えています。国際社会は「テロリスト掃討なら仕方ない」という姿勢です。
 ですが「対テロ」としてアメリカやイラク政府が行う攻撃の結果は、テロと何ひとつ変わりません。しかも対テロでテロは減るのかというと、やればやるほど増えていく悪循環です。
 イラク国民の四分の一が一日二ドル以下の生活をしています。水や電力、食料不足、「中東一の教育国」の看板も地に落ちました。子どもたちには戦争のPTSDが出ています。
 このような事態を引きおこしたイラク戦争は「冤(えん)罪」のようなものでした。アメリカがイラク攻撃の根拠にした大量破壊兵器は存在せず、多くの人が 殺された後で「間違った戦争だった」とアメリカやイギリスが認めました。集団的自衛権の問題は、こうした事実とともに考えるべきです。しかも日本はイラク 戦争の誤りを認めていません。

「邦人守る」は本当か

 日本が集団的自衛権の行使に踏み切るかもしれないと各国でも報じられています。ニュース映像で流れるのはパラシュートで降下する自衛隊員や日章旗です。
 安倍首相は、集団的自衛権の行使は「海外にいる日本人の安全のため」と語りますが、それは逆効果です。
 日本政府がイラク爆撃を支持し、自衛隊派遣を決めた時「日本がアメリカ側についた」と、中東の人々は衝撃を受けました。武力行使しなくても軍服で来ただ けで、日本のNGOは危険を避けるため「日本」の国名を出せなくなりました。一〇年前の人質事件もまさにそれで、拉致される前に国籍を確認されました。し かもあの時、政府は私たちに「自己責任」と言いました。ですから「邦人を守る」との言葉も信じがたい。
 「訓練された自衛隊員の方が民間人より役立つ」という人もいますが違います。非武装ならば「何をしている?」と聞いてもらえますが、武装していてはお互い撃たれる前に撃つしかないのです。
 海外にいる企業やNGO、エイドワーカーとして活動する私たちの「お守り」は平和憲法であり、「平和の国」という日本のイメージなのです。

※集団的自衛権の行使…自国が攻撃されなくても他国の戦争に参加すること。歴代政府の見解は憲法九条に照らし「行使できない」としてきた

(民医連新聞 第1575号 2014年7月7日)

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